銀狼 銀魂版   作:支倉貢

28 / 205
お前ら恋に恋する自分に酔ってんだろ

恐らく彼女を見下ろして笑っているだろう高杉に、志乃は小さく舌打ちした。

 

「何だ、昔のように『お兄ちゃん』と呼んでくれないのか?」

 

「誰が呼ぶか。てか何であんたがこんなとこに居るの?」

 

志乃は憎まれ口を叩きながらも、決して後ろを振り返らぬよう努めていた。

対面すれば、奴の手に乗せられたも同然。

それだけは避けねばならないと、懸命に前を見つめ続けた。

不意に、志乃の頭に高杉の手が置かれ、優しく髪を撫でられる。

それに思わず、ゾッとした。

 

「まあ見てろよ志乃。今から(すこぶ)る面白い見せ物が始まるぜ……。息子を幕府に殺された親父が、カラクリと一緒に敵討ちだ」

 

「え……?…………!!」

 

志乃は高杉の言葉を反芻していたが、ステージに立つ平賀を見て、ハッとした。

平賀が隣に立ついつぞやのカラクリーー確か名を三郎と言ったかーーに命じ、花火を打っていた大砲をこちらに向ける。

その後ろには確か、将軍の櫓がーー。

 

ーーまさか、将ちゃんを狙って……!?

 

「オイオイマジかよッ……!!」

 

今すぐ櫓に向かおうとした志乃は、バッと後ろを振り返る。

しかしそこにはもちろん、高杉が立っていた。

すぐに、高杉と目が合ってしまう。

 

ーーしまった……!

 

高杉はくつくつと笑って、志乃を見下ろしていた。

 

「よお。やっとちゃんと顔を合わせられたな……」

 

2人の視線が交わされた瞬間、櫓付近で大きな爆発音が鳴り響いた。

早く行かなくては。

焦る気持ちが、志乃を突き動かした。

 

「ッッ……!」

 

「おっと」

 

傍を通り過ぎて逃げようとした志乃だが、彼女の長いポニーテールを高杉が掴み、引っ張られる。

 

「くっ……!!放せ、このッ!!」

 

「せっかくの再会なのに逃げてんじゃねェよ。それとも、こうしてほしかったのか?」

 

「ハッ、バッカじゃないの?」

 

何とか言葉を返せている志乃だが、どうにか脱出する方法を探していた。

このままでは、将軍の首が危ない。

何とかして高杉から逃れ、将軍を護らねば。

意識を目の前の男から逸らしていると、不意に高杉がこんなことを言ってきた。

 

「志乃。俺と共に来てくれるか?」

 

「は?」

 

意図の見えない提案に、志乃は顔をしかめる。

高杉は彼女を見ながら続けた。

 

「なぁに、心配はいらねェよ。お前の力を買ってのことだ。お前は兄と似て、剣術に優れている。それに、お前も兄を殺したこの国が憎いだろ?俺の妻になって、一緒にこの腐った国を叩き潰してやろうぜ?」

 

「は?」

 

志乃は思いっきり眉をひそめた。

わけがわからない。

再会した頭にさらりとした流れでプロポーズ。

志乃の脳は完全に現実逃避を行っていた。

今日どれだけお金使ったっけとか、生活費に支障があったら全員から怒られるなとか、そんな事をツラツラと考えていた。

高杉は掴んだままの志乃の髪を引っ張り、顔を寄せる。

 

「いっつ……」

 

「ククッ、その顔も可愛いな……」

 

「ぐっ!」

 

引っ張る力を強くする高杉。

痛みに顔を歪める志乃を見て、愛おしそうに笑う。

……何とか、高杉の手を振り払わねば。

このままでは、Yes or Noを答える前に、連れ去られる可能性だってある。

考えを巡らす志乃の視界に、高杉が抜刀する光景が広がる。

一瞬、志乃の思考が停止した。

 

ーーザシュッ!!

 

目の前に、赤が飛び散る。

しかし、彼女が斬られたのではない。

思わぬ光景に、高杉は眼を見張る。

 

「!」

 

「なっ……!!あ……」

 

志乃は思わず、言葉を失ってしまう。

高杉の刀を、第三者の手が止めていたのだ。

その手の持ち主は、志乃と同じ銀髪を自由にはねさせ、高杉を鋭く見据えている。

 

「オイオイ変態さんよォ。こいつ俺の妹でさ、手ェ出さないでもらいたいんだが」

 

「あ……ぎ……、

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー銀ッッ!!」

 

「志乃よォ。おめーストーカーだったりロリコンヤンデレだったり……ホント男運ねぇな」

 

「うる、さいっ……」

 

高杉の刀を受け止めながら笑う銀時に、志乃はホッとして思わず涙を流した。

怖かった。

本当に不安で不安で仕方なくて、去勢を張り続けていた。

銀時が来てくれただけで、こんなにもホッとできるなんて。

邪魔された高杉は、銀時を睨み据える。

 

「銀時ィ……てめェどーいうつもりだ」

 

「てめーこそどういうつもりだ。志乃を放せ」

 

「志乃は元々俺達のものだったろ。それがテメェから俺の元に来るだけの話だ」

 

「悪ィが、てめーみてーな打算丸出しの野郎に大切な妹を渡せるか。どうせ部屋に連れ込んで◯◯◯(ピー)でもするつもりなんだろ」

 

「???」

 

銀時の発言に志乃は一人首を傾げていた。

更に強く引き抜こうとする高杉は、刀に力を込める。

それを咎める銀時も、更に強い力で刀を握り締めた。

銀時の手から、血が止めどなく溢れ出る。

このまま銀時に迷惑ばかりかけるわけにはいかない。

志乃は右手の中指にはめていた水風船の紐を外した。

 

「高杉!私からのプレゼントだ……よッ!!」

 

ぶんっと勢いよく、水風船を高杉に投げつける。

高杉が水風船に気を取られている隙に、銀時は高杉から志乃を引き剥がした。

 

「っ、志乃!!」

 

「待てよ、高杉。昔馴染の再会だ。ゆっくり話そうぜ」

 

志乃を追いかける高杉を遮り、銀時が立つ。

志乃は銀時の背中を見つめながらも、やっと高杉から逃げ出して櫓に向かった。

高杉は苦々しく志乃を見つめながら、彼女が投げつけた水風船を拾い、中指にはめる。

 

「……まあいい。志乃からのプレゼントを貰えたからな」

 

「だからオメー、そーいうとこが嫌われんだよ。キモいぞ」

 

恍惚とした表情で水風船を眺める高杉に、銀時がボソッと言った。

 

********

 

櫓では、真選組と平賀のカラクリ兵団が戦闘を繰り広げていた。

志乃もその中に飛び込み、金属バットでカラクリらを薙ぎ払っていく。

ふと前を見てみると、将軍がいる櫓に向かって、三郎が大砲を向けているのが見えた。

 

「んにゃろ、させるかっ……」

 

バットを構えて走り出した志乃のポニーテールを、後ろからぐいっと掴まれる。

振り返ると、カラクリが髪を引っ張って志乃を持ち上げていた。

 

「あだだだだ!!痛えっつの!!何コレデジャヴ!?放しやがれこのっ……がはっ!?」

 

足が宙に浮き、無防備な志乃の腹に、カラクリの金属で出来た拳が打ち据えられた。

思わず唾を吐いた志乃の視界が、痛みでボヤける。

役に立たない視界が、カラクリがもう一度腕を振りかぶるのを捉えた。

 

ーーやばっ、これ……。私、死ぬ……?

 

死を覚悟した志乃が、ギュッと目を瞑る。

次の瞬間、

 

ズバッ!

 

何かが斬られた音と共に、頭が軽くなる。

それを感じた瞬間、体がクンと引っ張られ、カラクリと引き離された。

 

「ったく、手間がかかるぜ」

 

「チ、チンピラお兄さん……!?」

 

「いい加減チンピラ言うな。何度言えばわかる。俺は土方十四郎だ」

 

土方は捕まっていた志乃の髪を切り、志乃を抱えてカラクリと距離を取っていたのだ。

カラクリの手から、切られた銀髪がハラハラと零れ落ちる。

土方は志乃を降ろすと、カラクリと対峙した。

 

「ガキ、てめーも早く逃げろ」

 

「やだ」

 

「あぁ?」

 

志乃はバットを両手で構えて、土方と肩を並べる。

痛みを訴える腹を無視して、スゥッと一度、深呼吸をした。

 

「これ以上、誰かに護られてばっかはゴメンだね」

 

カラクリが志乃に向かって、腕を振るう。

それと同時に、志乃は走り出し、まるで刀で斬るようにバットを振るった。

バットはカラクリの首を捉え、胴から離す。

冷たい目で倒れたカラクリを見下ろすと、志乃はそれを次の標的(カラクリ)に向けた。

そして、土方に目もくれず話す。

 

「土方ってったね。アンタこそガキ呼ばわりはやめてよ。私はガキなんて名前じゃない。私の名前はーー」

 

ジャンプしながら、志乃はバットを振りかぶり、カラクリを叩く。

カラクリの脳天はひしゃげ、真っ二つに割れていった。

 

「霧島志乃だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少女、銀髪を靡かせ戦場を駆け巡り、血の色に染まるその目は敵の死に顔のみを映す。

 

その姿、まさしく狼。

 

彼女の名は、霧島志乃。

 

 

殺すことだけを生き甲斐とする最恐先頭集団・獣衆の棟梁"銀狼"の末裔であるーー。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。