ついに近藤まで
一方志乃は畳の上で寝る準備をしていた。
「オイちょっと待て。テメー、何一人で勝手に寝ようとしてんだ」
「眠いから。それ以外に理由なんている?」
「知るか!ここは宿屋じゃねーんだよ!!とっとと帰れガキ!」
「多分帰ってもまた追い出されるから、今日も泊めさせて」
若干うとうとしていた志乃は、ついに眠くなり体を横たえた。
眠りにつこうとする志乃に、新八が問う。
「志乃ちゃん大丈夫なの?ここ幽霊出るかもしれないんだよ?」
「昨日も泊まったけど幽霊に襲われなかったから大丈夫」
「何言ってんだお前ら。幽霊なんているわけねーだろ」
志乃と新八の会話に、銀時が鼻をほじりながら入ってくる。
その手で、神楽の頭を撫でた。うわ、汚っ。
「俺ァなァ、幽霊なんて非科学的なものは断固信じねェ。ムー大陸はあると信じてるがな。アホらしくて付き合いきれねーや。オイてめーら、帰るぞ」
「銀さん……何ですかコレ?」
銀時は、両手で新八と神楽の手をしっかり握っていた。
「何だコラ。てめーらが恐いだろーと思って気ィ使ってやってんだろーが」
「銀ちゃん、手ェ汗ばんでて気持ち悪いアル」
この銀時の謎の行動に、もしかしてと思った志乃は、試しに叫んでみた。
「あっ!赤い着物の女!!」
すると、銀時は襖を壊して一目散に押し入れの中に隠れていった。
それを、新八と神楽が冷たく見下ろす。
「……何やってんスか銀さん?」
「いやあの、ムー大陸の入口が……」
苦しい言い訳をする銀時に沖田がトドメの一言を刺そうとする。
「旦那、アンタもしかして幽霊が……」
「なんだよ」
ここまでくると、もう結論が出てしまう。
銀時は幽霊が恐いのだと。
沖田は、土方を振り返った。
「土方さん、コイツは……アレ?」
沖田が振り返ると、土方は壺の中に隠れようとしていた。
しかし、頭だけしか隠れていない。頭隠して尻隠さずとはまさにこのことだろう。
「土方さん、何をやってるんですかィ」
「いやあの、マヨネーズ王国の入口が……」
あ、この人も同じだ。
そう察した新八、神楽、沖田、志乃達10代メンバーは、呆れた顔をして踵を返した。
「待て待て待て!違う!コイツはそうかもしれんが俺は違うぞ」
「びびってんのはオメーだろ!俺はお前、ただ胎内回帰願望があるだけだ!!」
言い訳をする2人に、志乃が冷たい視線を向ける。
「ハイハイわかったよ。ムー大陸でもマヨネーズ王国でもどこへでも行けばいーだろクソ共が」
「「なんだその蔑んだ目はァァ!!」」
「ん?」
ふと志乃が銀時と土方の後ろに気配を感じた。
そして、思わず目を見開く。神楽、新八、沖田も同じだった。
「?なんだよオイ」
「驚かそうたってムダだぜ。同じ手は食うかよ」
しかし、四人の表情は変わらない。
そして次の瞬間、四人は叫んで逃げ出した。
「「「「ぎゃあああああ!!」」」」
「オッ……オイ!!」
しかし、彼らの嫌がらせだと思い込んでいる銀時と土方は逃げなかった。
「ったく、手の込んだ嫌がらせを」
「これだからガキは……」
「「引っかかるかってんだよ」」
2人同時に振り向いた瞬間、そこには逆さまになった例の赤い着物の女がいた。
「「こっ……こんばんは〜」」
********
遠くで、銀時と土方の悲鳴が聞こえてきた。
志乃たちと同じく先程の女を見たのだろう。
逃げながら、新八が振り返る。
「みっみっみっ見ちゃった!ホントにいた!ホントにいた!」
「銀ちゃああん!!」
「奴らのことは忘れろィ、もうダメだ」
すると、先程の部屋から大きな音がして、そこから怒号を上げ、2人がこちらへ走ってきた。
「きっ……切り抜けてきた」
「いや、違う!よく見ろ新八!」
志乃の声に新八が2人をもう一度よく見てみると、背中に女がいた。
「背負ってる!?女背負ってるよオイ!!」
「わあああああ!!こっち来るなァァァ!!」
志乃が思わず叫ぶと、四人はさらにスピードを上げ、一目散に逃げ出す。
一方、銀時と土方は、逃げる四人を追いかけていた。
「オイぃぃぃ!何で逃げんだお前らァァ!!」
「アレ?ちょっと待てオイ、なんか後ろ重くねーか?オイぃ、コレ絶対なんか背中乗ってるってオイ!ちょっと見てくれオイ、なんか乗ってるだろ!」
「知らん!俺は知らん!」
「いや、乗ってるって!だって重いんだもんコレ」
「うるせーな、自分で確認すればいいだろーが!」
「お前ちょっとくらい見てくれてもいいんじゃねーの⁉︎ちょっと待て、こうしよう。せーので2人同時に振り向く」
「お前絶対見ろよ!裏切るなよ!絶対見ろよ」
「「ハイ、せーの……」」
2人同時に振り向くと、そこにはあの女がニヤリと笑っていた。
「「……こ、こんばんは〜」」
********
デジャヴな悲鳴が聞こえたその時、四人は倉庫の中に隠れていた。
「あーあ、あいつらついにやられたかぁ……ザマァ」
「しめたぜ。これで副長の座は俺のもんだィ」
「言ってる場合か!」
志乃と沖田の全く2人を心配しない発言に、新八はこのヤバい状況下でもツッコむ。
「オイ、誰か明かり持ってねーかィ?あっ!蚊取り線香あった」
「何だよアレ〜。何であんなんいんだよ〜」
「新八、銀ちゃん死んじゃったアルか?ねェ死んじゃったアルか」
「実は前に、土方さんを亡き者にするため外法で妖魔を呼び出そうとしたことがあったんでィ。ありゃあもしかしたらそん時の……」
「えー、そんなん出来るの!?外法って意外とイケるんだね。ねぇ、今度やり方教えてよ!」
「アンタどれだけ腹の中真っ黒なんですか!?志乃ちゃんもそんなのに乗らないでよ!!」
「元凶はお前アルか!おのれ、銀ちゃんの
「あーもう!狭いんだから暴れんなっつーの!」
神楽が沖田に飛びかかり、そのまま殴り合いや引っ張り合いの喧嘩に発展する。
志乃は2人をなんとか宥めようとするが、一向に止まる気配はない。
新八がふと倉庫の扉を見ると、隙間からあの赤い着物の女が覗いていた。
「ぎゃああああああああああ!!でっ……でっでで出すぺらァどォォォ!スンマッセン!取り敢えずスンマッセン!マジスンマッセン!」
新八が恐怖のあまり何度も土下座して謝る。
地面に頭を強く打ち付ける音がした。
さらに、新八は神楽と沖田の頭を掴んで、地面に叩きつける。
「てめーらも謝れバカヤロー!人間心から頭下げればどんな奴にも心通じんだよバカヤロー!!」
叩きつけられた衝撃で、あの最強ドSコンビが気絶している。
コイツ最強か。志乃は幽霊よりも新八の方が恐ろしく感じた。
新八は大声でずっと謝り続けるが、相変わらずシーンとしている。
ていうか、気配が感じられなくなった。
それを察した志乃は、新八の頭をベシッと軽く叩いた。
「あでっ」
「いつまでやってんの。あいつもう居ないよ」
「え……?アレ?ホントだ……いない。な……何で」
「………………ふーん、なるほどね」
幽霊に襲われた近藤についていたあの赤い痕。
それを思い出した志乃は、沖田の手から落ちた蚊取り線香を拾い上げた。
今、彼女の中で全てが繋がった。
「新八、幽霊退治に行くよ」
「え、ちょ、志乃ちゃん?」
「ようやくわかったよ。アレは幽霊なんかじゃない。そうとわかれば、もう怖くないもんね」
新八を振り返った志乃は、ニヤッと口角を上げた。
********
一方その頃。銀時たちはというと。
「「うるせーって言ってんだよプンプンよォォ!!」」
蚊の飛ぶ音に、2人揃って一喝する。
銀時は茂みの中に、土方は池の中に隠れていた。
同時に出てきた2人は、視線を交わす。
「…………てめェ生きてやがったのか」
「お前こそ悪運の強い野郎だ」
「……ア……アレはどこいった?」
「知らん。他の連中の方に向かったんだろ」
「逃げやがったか。実はよォ、さっき追いかけられてる時、俺ずーっとアイツにメンチきってたんだ。アレ効いたな〜」
「ほざけよテメー。俺なんて追いかけられてる時、ずーっと奴を抓ってた」
「ちっせーんだよ、俺なんてお前……」
お互い強がりを言い合っていたその時、ガサッと木々が揺れる音がした。
その瞬間、2人は同時に池に入る。
音の正体はカエルだった。
「さ〜て、水も浴びてスッキリしたし。そろそろ反撃といくかな」
「無理すんなよ、声が震えてるぜ。奴は俺が仕留める。ヘタレは家で屁たれてろ!」
再び言い争いをする2人の耳に、蚊の羽音が聞こえてくる。
「「なんだうるせーな!!」」
2人同時に叫んで音のする方向を見ると、例の赤い着物の女が飛んでいた。
そして、2人に襲いかかる。
銀時と土方はそれを姿勢を低くしてかわしたとカッコよく言ってみるが、実際はビビって腰を抜かしただけである。
「オオオオオイ、あんなんありか!ととと飛んでんじゃねーか!」
「ななな何おおおお前ひょっとしてびびってんの?」
「バババ馬鹿言うなおおお俺を誰だと思ってんだテメェ」
女は空中で旋回して、再び銀時たちに向かって飛んでくる。
しかし、その間2人は未だ言い争いをしていた。
「ったく、ギャーギャーギャーギャーやかましいよ。カラスですかコノヤロー」
トンッと地面を軽く蹴る音と共に、呆れた声が降ってくる。
聞き覚えのある声に、銀時と土方が振り仰いだ瞬間、声の主は2人の顔を足蹴にした。
「「だぱァ!!」」
声の主は男2人を倒したことすら気に留めず、赤い着物の女に向けて金属バットを構える。
首に狙いを定め、横に薙いだ。
「せいやぁぁぁぁぁぁ!!」
女はそのまま地面に叩きつけられ、声の主はその隣に着地し、女が気絶したのを見た。
体を起こした銀時が、声の主を睨む。
「て、てんめっ…………何しやがんだ志乃」
「アンタらが情けないから助けてやったんでしょーが。ありがとうと言ってもらいたいね」
金属バットを肩に置いて、志乃は顔を押さえる情けない男たちに呆れて溜息を吐いた。
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結局、今回の騒動を起こした女は蚊のような天人で、子供を産むためのエネルギーを集めようと、この真選組屯所を襲ったということが発覚した。
事件の翌朝。再び真選組屯所で寝泊まりした志乃は、襖の開いた部屋でぐーすか寝ていた。
部屋の前の縁側では、銀時が横になり、土方が座っていた。
「……んん〜〜…………ふぁあ」
欠伸をしながら志乃が起き上がる。
目を擦った志乃は、銀時と土方の気配を感じた。
「おはよ……」
「あ?やっと起きたか志乃」
「遅ーぞクソガキ。今何時だと思ってやがる」
「えーと……6時くらい……」
「12時だよ!!もう昼だぞ昼!!」
土方は未だ寝ぼける志乃の頭をベシッと叩く。
その勢いで膝をついた志乃は、そのまま座った。
「そーなの?そーいや腹減ったわ……。ねー、なんかご飯ないの?」
「マヨネーズ食うか?」
「誰が食うかボケ」
若干寝ぼけながらしっかりと毒を吐いた志乃。
通常運転になったらしく、一度ぐーっと伸びをした。
「じゃあさ、団子奢ってよ2人共」
「「は?」」
「え?何でダメなの?アンタらがびびってたおかげで、私が最終的にアイツぶっ飛ばすハメになったんだから。当然の権利だよね?ていうか報酬貰うって言わないあたり、ありがたく思ってよね」
「ざけんなよガキ。俺はアレだろ……ここで泊まらせてやっただろーが。それでチャラだ」
「俺もアレよ……お前の保護者やってやってるじゃねーか。それでチャラだ」
そんなんでチャラになるわけねーだろ。
そう言いかけた次の瞬間、後ろの襖が開いた。
「銀ちゃん、そろそろ帰……何やってるアルか二人共」
「「いや、コンタクト落としちゃって」」
神楽がしゃがみ込んで敷居の下に隠れる2人を見る。
その隣で、志乃は大人の男2人の情けない姿に、必死に爆笑を堪えていた。
次回、オカマ登場です。