銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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オカマにだって色々あるんだよ

この日も志乃は、平和なかぶき町をのんびり散歩していた。

ここかぶき町は、浄も不浄も混ざり合ったとてもメチャクチャな町だ。

こんな所は、この国の中でかぶき町を除いて他にないだろう。

それでも志乃は、ここが好きだった。

自分の良き理解者がいるし、良き友がいるし、何より大好きな兄貴分がいる。こんなに幸せなことはない。

今日も志乃は、その友の一人に会いに行った。

 

********

 

「よーっす。遊びに来たよ〜」

 

「あら〜、志乃ちゃん!いらっしゃ〜い!!」

 

志乃は『かまっ娘倶楽部』と書かれた看板を掲げた扉を開け、いつものように軽く挨拶をした。

入店した志乃をすぐに迎え入れたのは、ゴツい顎が特徴的なオカマーーアゴ美……いや違う、アゴ代だった。

 

「って、違ーよ!!両方違ーよ!!あずみだわボケェェェ!!」

 

あっ、スンマセン!

ついうっかり間違えました。スンマセン!

 

「しっかりしてよ駄作者。原作を忠実に再現することくらいしかアンタには能がないんだから」

 

いや、そこまで言わなくてもいいでしょ志乃さん!

泣きます!泣きますよ私!!

 

「勝手に泣いとけ駄作者」

 

あぅ……ひ、酷い……。

 

「いーからとっとと話を続けな」

 

はい。大変申し訳ありませんでした。

志乃はあずみの案内で店内に入り、通された座敷に座る。

しばらくして、この店のママのこれまたゴツいオカマーーマドマーゼル西郷がやってくる。

 

「あら、また来たの志乃ちゃん。いらっしゃい」

 

「どーもお姉さん。ご無沙汰してます」

 

「もー、お姉さんだなんて照れちゃうわ〜!」

 

バシッと強く背中を叩かれ、体勢を崩す志乃。

照れられてもキモいだけだわ化け物。

志乃は心の中で毒を吐いた。ただし、決して口には出さなかった。

出されたサービスの団子をもくもくと食べながら、志乃はふと溜息を吐く。

それを見た西郷は、志乃の顔を覗き込んだ。

 

「あら、どーしたの志乃ちゃん」

 

「いや……悩み事。ねェ、聞いてくれる?」

 

「もちろんよォ!志乃ちゃんにはよくしてもらってるもの。いっぱいサービスするわよ♡」

 

うふん♡とウインクする西郷に、志乃は若干吐き気を覚えた。

だからやめてよ!!キモいんだってば!!

そう言いかけるのを何とか呑み込み、志乃は西郷に相談した。

相談したのは、最近姿を全く見なくなった杉浦のことだ。

前から怪しい男だとは思っていた。

しっかり鍵をかけた店の扉をあっさり開けるし、気配を消してよく自分の背後をとる。

これでも志乃は一応、侍の血を引いていると自覚していた。

金属バットは自分が物心つく前から持っていたし、誰に稽古をつけられたわけでもないのに、剣の腕はやたら強いと自分でも思う。

最初は、本当にただのストーカーだと思っていた。

しかし彼は、そんな彼女の反応を愉しんでいるかのようだった。

出会った最初から、剣を交えた最後まで。

それが気味悪くて仕方なかった。

 

「……どう思う?」

 

一連を話した志乃は、西郷に問うてみる。

 

「確かに、不思議な子ね〜。志乃ちゃんのことをずっと好きだったとも言い難いし……何か目的があったのかしらね?」

 

「目的……か……」

 

「あら。何か心当たりでも?」

 

「……いや、ないね。なさすぎて怖いくらい」

 

志乃は取り敢えず、西郷に嘘を吐いておいた。

目的。西郷の言葉通り何か目的があったとすれば、彼は一体何のために自分に近付いたのか。

 

一応、自分が狙われる心当たりはあった。

宇宙海賊"春雨"か、高杉晋助か。

"春雨"は以前誘拐・捕縛されて以来、今のところ接点はほとんどない。

彼らは何故か自分の力を欲しがっていたが、一介の少女をそこまで欲しがる理由がわからない。

そういえば奴らが、「獣衆」だのそこの棟梁だの"銀狼"だの言ってたのは覚えているが、本人には全く身に覚えがない。

高杉の方も同じだ。久々に会えたと思えば、彼は以前とすっかり変わってしまっていた。

あんなたくさん厨二発言はしなかったし、雰囲気も……。

あれでも、昔は本当にいい兄だったのだ。

何をするにも隣にくっついては心配してくれて、志乃をめぐっては銀時と二人、喧嘩したものだ。それを止めるのが他ならぬ桂や坂本の役目だったのだが。

とにかく、彼がどちらかについていたにしても、今となってはそんなこともわからない。

無理もない。その本人がいなくなったのだから。

 

「…………まぁいいや。お姉さん、ありがとう。ちょっと気が楽になったよ」

 

「そう?志乃ちゃんの役に立てて嬉しいわ♡」

 

「ハハハ……」

 

んふ♡と迫ってくるゴツい顔に、志乃はもう乾いた笑い声しか出ない。

志乃の目は確実に明後日の方向を向いていた。

その時、舞台の方で何やらもめている声が聞こえた。

それに気付いた西郷がすぐに立ち上がって舞台に向かうのを見て、志乃も彼……いや、彼女?の後を追った。

 

********

 

舞台では、踊りを見ていた客が酒に酔って喚いていた。

 

「オイオイ何やってんだよ!グダグダじゃねーかよ!こっちはオメーてめーらみてーなゲテモノわざわざ笑いに来てやってんだからよォ、もっとバカなことやってみろよ化け物共よォ!!」

 

「何だとこのすだれジジイ。てめェ、その残り少ねェ希望を全て引き抜いてやろーか!?」

 

「止せ、パー子」

 

踊り子の一人が怒り手を上げようとするが、その前に西郷がすだれジジイの頭をガッと掴んでいた。

 

「お客様。舞台上の踊り子に触れたり汚いヤジを飛ばすのは禁止と言いましたよね?オカマなめんじゃねェェェ!!」

 

西郷はそのまま客を別の座敷にぶん投げた。

誰か他の客が被害を被っていたような気がするが、この際どーでもいいことにする。

志乃は巻き込まれた客に手を合わせた。

 

「志乃?」

 

聞き慣れた声に、思わず振り返る。

そこには、踊り子の銀髪の女と黒髪の女がいた。

いや、ちょっと待て。志乃は一度思い直す。

おかしい。こんなところに美女がいるのはおかしい。

だってここはかまっ娘倶楽部。

従業員はオカマしかいないはずじゃん。

そう思って、志乃はもう一度2人を見た。

 

「……もしかして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀と、ヅラ兄ィ?」

 

「銀じゃねーよパー子だ」

 

「ヅラじゃないヅラ子だ」

 

あまりの衝撃に、志乃は2人を指差しながら固まってしまった。

 

********

 

銀時と桂からそれぞれ事情を聞いた後、志乃は気まぐれで店の手伝いをすることになった。

志乃はたまに、「気まぐれだ」と言って友人の仕事を手伝うことがある。好意でやってるため、金はもちろん受け取らない。

それが彼女が多くの友人から慕われる理由となっているわけだが。

銀時、桂、あずみと並んで買い物袋を下げ、志乃はあずみの話を聞いていた。

 

「女より気高く男より逞しく。それがママの口癖。私達みたいな中途半端な存在は、それぐらいの気位がないと世の中渡っていけない。オカマは誰よりも何よりも強くなきゃいけないの」

 

「それじゃあアゴ美も強いの?アゴ美の顎は何でも砕けるの?」

 

「何で顎の強さ限定?」

 

銀時の顎をいじった発言に、志乃がツッコむ。

志乃はむしゃむしゃとみたらし団子を食べながら、ふと呟く。

 

「それにしても、西郷お姉さんって強いよね〜。ヅラ兄ィぶっ飛ばしたり客ぶん投げたり」

 

「ヅラじゃない桂だ。……確かに、西郷殿の強さは常軌を逸しているな。アレはただ者ではあるまい」

 

「ええ、昔はスゴかったらしいわよ。なんだっけな、えーと。白フンの西郷だとか呼ばれてて、なんかよくわかんないけど、白い(ふんどし)一丁で暴れまわった豪傑らしいわ」

 

「いや、それだけの情報じゃただの変態じゃねーか」

 

「でもそこらのなよっとした男よりかは、そーいう力強い男の方が私好みだな〜」

 

「やめとけ志乃。天国で父ちゃんが泣くぜ」

 

銀時に冷たく好みに口出しされた志乃は、ムカついて銀時に殴りかかる。

あずみはそれを何とか止めようとするが、2人の喧嘩に巻き込まれてしまった。

一人被害を受けていなかった桂は、西郷の名をどこかで聞いたことがあると、ずっと考え込んでいた。

ふと、下から声が聞こえてきた。

どうやらガキが、イジメをしているらしい。

志乃はそれを認めると、バッと飛び降り、襟足の長い子供にドロップキックを食らわせた。

 

「ギャアアアアア!!」

 

「て、てめーは確かドッキリマンの時の!」

 

「あ、お久〜。誰だか知らんが」

 

志乃はそう言いながら、金属バットを抜いた。

 

「くだらねーマネしやがってクソガキ共。てめーら全員成敗してやるよォォ!!」

 

「うわああああ!!逃げろォォォォ!!」

 

「待てコラァ!!」

 

クソガキ共は志乃が追いかけようとすると、一目散に逃げていった。

それを見届けてから、いじめられていた子供を振り返る。

 

「大丈夫?」

 

「う、うん……ありがとう」

 

「ボク、大丈夫?」

 

こちらへ降りてきたあずみが、少年の元へ近寄る。

あずみは少年の顔を見ると、驚愕の表情を浮かべた。

 

「てっ……てる君!!」

 

********

 

「てる彦ォォ!!何があったの〜、こんな大怪我して!病院よ!早く病院に行かなきゃ。赤ひげよ!赤ひげを呼んでェェ!!」

 

「青ひげなら一杯いますけどね」

 

「てめーらなんてお呼びじゃねーんだよ!消えろ!」

 

「大丈夫だよ父ちゃん。擦り傷……ぐほっ」

 

「父ちゃんじゃねェ母ちゃんと呼べェェ!!」

 

先程助けた少年・てる彦はなんと、西郷の息子だった。

父ちゃん呼ばわりするてる彦の胸倉を掴み、西郷が怒る。

志乃はオカマが子持ちだったことにめちゃくちゃ驚いていた。

えっ、この場合どっちなんだ?あの人が産んだのか?それとも奥さんが産んだのか?

志乃の混乱はさておき、話は続く。

 

「てる彦、アンタ最近いつも怪我して帰ってくるじゃない。一体塾で何やってるの?何か隠してるだろ」

 

「しっ、心配しないでよ母ちゃん。帰りに友達とチャンバラごっこしてるだけだから。じゃ、僕遊びに行ってくる」

 

「ちょっ、待ちなさい!てる彦ォォ!」

 

「てる君!!」

 

オカマたちがてる彦の背中を見送る中、桂と志乃はふと落ちている紙を見つけた。

志乃がそれを拾ってみると、そこには「授業参観のお知らせ」と書いてあった。

志乃と桂はお互いを見ると、てる彦の後を追った。

 

********

 

店の屋上で、てる彦は黄昏ていた。

 

「おーい、てる〜。忘れもんだよ」

 

彼の後ろから声をかけた志乃は、先程の手紙をてる彦に渡す。

 

「大丈夫、西郷さんには見せてないから。見せた方が良かった?」

 

「……いや……ありがとう」

 

てる彦を挟むように、桂と志乃も彼の隣に立つ。

桂が、てる彦を見つめず尋ねた。

 

「いいのか?親父殿に来てもらわなくて」

 

「…………来てほしいけど……」

 

「またバカにされるのが嫌か?」

 

「僕は別にいいよ。もう慣れっこだから。でも、父ちゃんが笑われて傷付くところは見たくないんだ。僕、父ちゃんが好きだよ。面白くて優しくて、時々ちょっと恐いけど。でもたまに、父ちゃんが普通の人だったらって思うこともある」

 

「……てる」

 

志乃はてる彦の父を憂う横顔を見つめながら、少し羨ましく感じた。

父と母は、自分が物心つく前に死んだ。

父は処刑され、母は自分を産んですぐ亡くなった。

兄が逮捕されて手放されてからは、とある警察組織に身柄を預かられ、その後は主に小春たちが彼女の世話を焼いていた。

彼女は、本当の家族の温もりを知らない。それ故、道行く親子にも嫉妬したことがある。

一度でいい。一度でいいから、本当の家族の温かさを味わってみたかった。

志乃はその思いを噛み締めながら、下へ降りた。

 

********

 

その後、志乃は銀時に頼まれて、店からの脱出ルートを案内していた。

しかし。

 

「銀時、志乃。やはり俺は戻る」

 

「え?」

 

「何寝ぼけたこと言ってんだオメー」

 

路地裏で突如、桂が店に戻ると言い出したのだ。

どうやら、西郷親子が気になるらしい。

 

「……どうにもあの親子の事が気になってな」

 

「お前これ以上オカマシンクロ率が上昇したら本物になっちまうぞ」

 

「銀もいっそのこと戻ったら?似合うよ〜、女装!」

 

「テメーそれ褒めてんのか?だとしたらぶっ飛ばすぞ」

 

志乃が転職を勧めるも、銀時に一蹴される。

志乃がむくれていると、銀時は塀を登り始めた。

 

「化け物は酔っ払って寝てるし、今しかチャンスはねーんだって」

 

「逃げるならいつでも出来る。だが、今しかやれんこともある」

 

「頑張ってヅラ子。私陰から応援してるわ」

 

「待てパー子」

 

塀の上に跨った銀時の足を、桂が掴む。

銀時は痛がっていたが、お構いなしだ。

 

「んだよ、テメーは一人で好きにやりゃいいだろーが!!」

 

「何言ってんのよパー子。私達二人ツートップで今まで頑張ってきたじゃない」

 

「だってさ」

 

「知るかァァ!!」

 

桂は銀時の後を追い、塀によじ登ってそこから飛び降り着地する。

志乃と銀時も後に続いた。

 

「不味い飯ではあるが、西郷殿にはしばらく食わせてもらった身だろ。恩を返すのは武士として当然の道ではないか」

 

「武士がガキの喧嘩に首突っ込むってのか?」

 

銀時が着地した瞬間、向かいの壁から子供二人が走るのを見た。

彼らは、てる彦をいじめていたクソガキ共だった。

 

********

 

「んだよ、放せよォ!オカマがうつるだろ!キショいんだよてめーら!」

 

ガキ共を捕まえ、事情を聞くと共に道案内をさせていた銀時たちは、めちゃくちゃに罵倒されていた。

 

「ヅラ子、キショいって!」

 

「何言ってんだ。貴様のことだぞパー子」

 

「アンタら二人のことだよオカマ共」

 

「んだとォォ!てめーオカマ馬鹿にしてんだろ!」

 

「アンタもバカにしてただろーがァ!!」

 

仲間割れをする銀時と志乃。

ガキ共が、ちらりとこちらを見ながら言い訳をする。

 

「言っとくけど俺達悪くねーからな」

 

「俺達は止めたのにアイツ勝手に……」

 

「言い訳は聞いてない。要領を得ないからハッキリ言って。何?スポーツ刈りか角刈りかもしくは両方にしてほしい?」

 

志乃のわけのわからない脅しに若干引きながらも、ガキはようやく口を割った。

なんでも、彼らの間で流行っている度胸試しがあるらしく、てる彦がそれをしに行ったらしい。

ガキ共が案内したのは、ある塀の前だった。銀時が思わず呟く。

 

「……空き家?」

 

「空き家なんかじゃねーよ。ここにはいるんだ。こないだも得体の知れねー獣みたいな鳴き声聞いたし、なんか絶対いんだって」

 

「ふーん、化け物屋敷っつーわけね」

 

桂と志乃が塀の下の方にある小さな穴を潜って、中に入る。

中には森が広がっており、まるでジャングルだった。

銀時も彼らに続き、中に入ろうとする。

 

「オイヅラ、おめースゲーな。よくこんな狭いトコ……」

 

しかし、体が大きいせいで穴に嵌って動けなくなってしまう。

 

「アレ?ウソアレ?マジでか?マジでか?」

 

「何やってんの銀……」

 

「いや、前にも後ろにも動かなくなっちゃった」

 

「え?何?嵌ったの?」

 

「……パー子、だからお前はパー子なんだ」

 

「なんだコノヤロー、パー子のパーは頭パーのパーじゃねーからな!」

 

「頭がパーだからそんな歪んだ毛が生えてくるんだ。ホラ、力を抜け」

 

「いででででで!ダメだ!もうほっといてくれ!俺もうここで暮らすわ!」

 

「バカ言わないでよ。ほーら……」

 

銀時を引き抜こうと桂と志乃が、彼の手を引っ張ると、ふと森の奥から足音が聞こえてきた。

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