銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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なんだかんだ家政婦は何でも見てる

女性は賀兵衛を見て慌てて逃げようとしたが、すぐに賀兵衛のお付きの男二人に取り押さえられてしまう。

 

「やめてェェ!!離してェ!!」

 

「この性悪女が!とうとう見つけたぞ!!勘七郎をどこへやった、言え!」

 

突如、攻撃的な口調に変わった賀兵衛。女性は黙って視線を逸らした。その時、賀兵衛が女性の頬を叩く。

 

「この女!!立場を(わきま)えんか!」

 

「オイオイちょっとちょっと」

 

それを見かねたお登勢が、賀兵衛を咎める。

 

「やり過ぎじゃないかイ?そんなんじゃ喋れるもんも喋れなくなるよ」

 

「すいません、つい興奮してしまって。ですが、ここからは家族の問題ゆえ、私達で解決します。お騒がせして申し訳ございませんでした」

 

賀兵衛はお付きと女性を連れて、車で走り去っていく。

志乃はその車を睨むように見据えていたが、その時写真を持っていた神楽とキャサリンが叫んだ。

 

「あ"ーー!!」

 

「チョットチョットコレ!」

 

「なんだイ?」

 

「ババアこれ、あのジジィが捜してるって言ってた孫の写真……これって」

 

写真の中には、天然パーマで死んだ魚のような目をした赤ん坊がいた。本当に銀時そっくりだ。

 

「……………………ねェ、ヤバイんじゃないんスかコレ?銀さんヤバイんじゃないんスかコレ?変なコトに巻き込まれてんじゃないんスかコレ?」

 

「…………かくなる上は」

 

志乃は店の前に止めたスクーターのエンジンをかけ始めた。

 

「ちょ、志乃ちゃん!?どこ行くの!?」

 

「決まってんでしょ。あのジジィを調べに行くの。直接敵地に乗り込んでね」

 

新八を振り返り、さらに続ける。

 

「私の勘が合ってれば、あのジジィ怪しすぎんだよ。孫捜すってのに女に暴力振るったり、挙げ句の果てには連れ去ったり……ただの孫想いのおじいちゃんじゃないんだって。絶対何か裏がある。だから、アイツの橋田屋に乗り込んで直接調べに行く。あの女の人にも、直接話を聞く」

 

「だからってそんな……」

 

「行ってきな、志乃」

 

新八が志乃を止めようとするが、お登勢は彼女に行くように言う。

 

「でもお登勢さん!」

 

「あんなん見せられて、首突っ込むなってのがそもそもおかしいんだィ。志乃、アンタが気になる気持ちもわかる。なら、調べたいだけ調べればいいさ。だが気をつけるんだよ」

 

「わかってるよ、ババア」

 

志乃がスクーターを上昇させ、発進する。彼女を見送りながらお登勢は新八と神楽にも言った。

 

「アンタらも行ってくれるかィ。あのバカ一人じゃ、何かやらかしそうで心配だからね」

 

「お登勢さん……」

 

新八と神楽はお互いを見て、頷いた。

 

「志乃ちゃん〜!待つネ〜!」

 

「僕らも乗せてって〜!!」

 

********

 

志乃達は使用人&家政婦に変装して、無事橋田屋に侵入出来た。

 

「……まさかヅラ兄ィから貰ったコスプレ衣装が、こんなところで役立つとは……」

 

四十一話で桂から貰ったメイド服に身を包み、モップを手にした志乃は思わず頭を抱えた。これを着ているところを運悪く沖田に盗撮されたのも、記憶に新しい。

 

「え、志乃ちゃんソレ桂さんから貰ったの?あの人志乃ちゃんに何させようとしてんの!?」

 

「知らん。思い返せば私がガキンチョの頃から、アイツは私に何かとコスプレをさせたがってたな……」

 

「ヅラにそんな趣味があったなんて知らなかったネ。変態アルか?」

 

「知らないよ。つーか知りたくもない。ま、おかげで今回は大助かりだけど」

 

嘆息した志乃が、新八と神楽と共に、賀兵衛に連れ去られた女性を捜して廊下を歩く。すると目の前に、見覚えのあるマダオーー長谷川がいた。神楽はすぐに彼の背後につき、ナレーションぽいものを流し始めた。

長谷川がこちらに気付いて振り向き、驚く。

 

「!!……って何してんだてめーらァァァ!!オイ!何でこんな所にいるんだ⁉︎何やってんだてめーら!?」

 

「家政婦アルネ」

 

「長谷川さんこそ何でこんな所にいるんですか?」

 

「どーせマダオのことだからまた転職だろ」

 

「またって何だよ!つーか何でてめーがマダオなんて知ってんだ!!」

 

「神楽から聞いた」

 

志乃は長谷川の問いを短く答えて、彼の胸倉を掴む。

 

「ちょうどよかった。私ら今、潜入調査してんの。案内しな」

 

ガンつけるように睨み上げられ、長谷川は震え上がった。

そして、情けなく思う。自分の娘でもおかしくない年頃の女の子に、恐喝されるなど。

 

********

 

長谷川から女性が連れ込まれた場所を恫喝して聞き出した三人は、長谷川に事情を説明しながらその場所へ向かっていた。

 

「オイオイ孫って何!?まさか橋田屋の旦那の孫、勘七郎君のこと!?それが万事屋の前に捨てられてて銀さんがどっか連れてっちゃったって!?」

 

「そーいうこと。詳しくは私もよく知らん」

 

「志乃ちゃん、説明したの僕だから」

 

「オイオイヤベーよ。橋田屋の旦那、浪人を使って血眼になって探してるって話だぞ。殺られちまうよ!あのオッサンただの商人じゃねーんだって!なんか黒い噂の絶えねー危ねーオッサンなんだって!しかもそれを調べるってバカか!帰ろう!オジさんと一緒に帰ろう!酢昆布買ってあげるから!」

 

長谷川は賀兵衛の恐ろしい話を並べて志乃達を止めようとするが、もちろんその程度で彼らが足を止めるはずがなかった。

 

「そんな話聞いたら余計に帰れないですよ」

 

「やっぱり私の思った通りだ。何か裏があるね、コレは」

 

「その通りネ!酢昆布くらいで釣られる尻軽女と思ったかコノヤロー!何個だ!?一体何個で釣るつもりだった?まさか四個じゃないだろうな!四個もくれるんじゃないだろうな!」

 

「神楽、バッチリ釣られてるよソレ」

 

志乃が溜息を吐いてツッコむ。

ようやく、女性が連れ込まれた部屋の前に辿り着いた。扉の格子越しに中を覗いてみると、そこには女性が柱に縛り付けられ、水をぶっかけられていた。

 

「オラ、さっさと吐け!」

 

「勘七郎様はどこだ!?吐けば楽になるぞ!ああ〜ん!?」

 

しかし、女性は全く口を割らない。賀兵衛は彼女を見て、蔑むように言う。

 

「相も変わらず強情な女よ。勘太郎も酔狂な男だったが、こんな薄汚れた卑しい女のどこに惚れたのやら。皆目見当つかんわ」

 

賀兵衛は女性の顎を掴み、柱に押し付ける。

 

「ええ?人の息子を誑かし死なせた上、あまつさえその子を攫うとは。この性悪女が」

 

「勘七郎を攫ったのは貴方達の方でしょう。あの子は私の子です。誰にも渡さない」

 

女性は負けずに、賀兵衛を睨む。

しかし、賀兵衛は彼女を嘲り、蔑んだ目を向けた。

 

「よくもまァいけいけしゃあしゃあと。お前のような女から、橋田家の者が生まれただけでも恥ずべきことだというのに。勘七郎に母親は要らん。いや、橋田家にお前のような薄汚れた女は要らんのだよ。あの子は私が、橋田家の跡取りとして立派に育てる。その方が、あの子にとっても幸せなことだろう。お前のような貧しい女が、一人で子を育て、幸せにすることが出来ると思っているのか?」

 

 

「チッ」

 

志乃は格子からその光景を眺めて、舌打ちをした。これだから男は嫌いなのだ。女に産んでもらった分際で、やたらと偉ぶりやがる。女を無能扱いする。隣の立つ新八も、長谷川を振り返った。

 

「………………長谷川さん。これって……」

 

「オイ。そこで何をしている?」

 

「使用人か?」

 

四人の後ろから、浪人達がぞろぞろとやってきたのだ。しかも皆、刀を持っている。長谷川はマズイと懸命に弁明しようとした。

 

「あっ……アレでございます。こ……この者達三人、新入りでございまして……あの、ビルを案内していたところでして」

 

「そーでごぜーます、御主人様」

 

「いや、御主人様じゃないから」

 

「は?何かこんな風に言われると嬉しいんだろ?男共はよォ」

 

「ダメだよ!志乃ちゃんそんな事言ったらダメ!!」

 

「それじゃあ、私達は失礼しま……」

 

「待ちな」

 

そろ〜っと逃げようとする長谷川を、別の声が呼び止めた。その時、志乃の背筋に寒気が走った。

長谷川を呼び止めた声の男は、目を閉じグラサンをかけ、くんくんと鼻で匂いを嗅いでいた。

 

「くさいねェ。ねずみくさいウソつきスパイの匂いだね」

 

こいつ……只者じゃない。こちらへ歩み寄ってくるグラサン男に、志乃は手にしていたモップを握りしめた。その時、男の眉がピクリと動く。

 

「ん?それだけじゃない……あの人と同じ、隠し切れない獣の匂い……まるで狼みたいな匂いがするねェ」

 

「……?」

 

志乃は彼の言動に疑問を感じながらも、意識を目の前の男に向ける。

 

「今日は色んな匂いと出会える日だね。でもそろそろ鉄くさい血の匂いが嗅ぎたくなってきたところさね。()り合ってくれるかィ。この人斬り似蔵と」

 

似蔵はそう言って、刀を抜いた。

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