銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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恋する瞬間は誰にも決められない

ドォォン!!

 

「うわっ!!」

 

工場の爆発は次々と誘爆を生み、今まさに時雪にも襲いかかろうとしていた。

見張りの浪士によれば、何でも外では桂一派と交戦しているらしい。

そのため彼もすぐに出払い、部屋には時雪がたった一人取り残されている状態だった。

しかし、両腕を壁に拘束され、逃げることが出来ない。頭上から耳を焼くような爆音が聞こえてくるのに、逃げたくても逃げられない。

 

「くそッ……」

 

時雪は拘束具を外そうと、両手に力を入れる。暴れてみても、相手は鉄。人間の力では到底敵わない。

しかし、そんなことを言ってられない。とにかく、何としてでも生き延びねばならないのだ。

生きて帰って、また志乃に会わなければ。想いを伝えなければ。

 

「ぐっ……おおおおおおおっ!!」

 

腹の底から張り上げた怒号と共に、一歩前に進み出て腕を引っ張る。

ミシミシと音を立てて、壁がゆっくりと剥がれていく。

時雪は壁を蹴り、膝のバネを使って壁ごと引き剥がした。

 

「わっ!」

 

勢いあまって顔面からダイブする。

爆発にやられた壁が脆くなっていたのが、幸いだった。

なんとか部屋から逃げ出した時雪は、落ちていた刀を拾い、拘束具を斬る。

 

「志乃ォォォォ!!どこだァァ!?志乃ォォ!!」

 

ここに、志乃が来ている。

そんな予感がした時雪は、刀を携え少し暗い廊下を走り出した。

 

********

 

その頃。志乃は、高杉の腕の中で眠っていた。舷縁に腰かけ、傍らに彼女を座らせ、ざんばらに切られた銀髪を愛おしげに撫でる。

屋根の上を見上げると、銀時と岡田が戦っていた。

そこに、自分を追ってきた桂がやってくる。それを気配だけで認め、彼を見ずに促した。

 

「ヅラ、あれ見ろ。銀時が来てる。紅桜相手にやろうってつもりらしいよ。クク、相変わらずバカだな。生身で戦艦とやり合うようなもんだぜ」

 

桂も、それを横目でその戦いを見る。

 

「……最早人間の動きではないな。紅桜の伝達指令についていけず、身体が悲鳴を上げている。あの男、死ぬぞ……」

 

岡田の右手は紅桜の侵食により復活はしているものの、身体は既に限界寸前になるほどボロボロだった。

 

「貴様は知っていたはずだ。紅桜を使えば、どのような事になるか。仲間だろう。何とも思わんのか」

 

問われた高杉は、眠る志乃の頬に手を添えて言う。

 

「ありゃアイツが自ら望んでやったことだ。あれで死んだとしても本望だろう」

 

「本望だと?」

 

桂は眉を寄せて、舷縁から降りた高杉を見つめた。

 

「その通りですよ」

 

桂の背後から、別の声が響く。

バッと振り返ると、そこには入口に壁に凭れて腕組みをする杉浦がいた。

気配に全く気付けなかった桂は、少し後退りする。

 

「貴様は……真選組にいたはずでは……?」

 

「やめましたよ。俺は元々高杉さんの部下です。志乃ちゃんを探し出して監察するためだけに、真選組(あそこ)にいただけですから」

 

高杉は彼らに背を向けたまま抜刀し、刀を掲げた。

 

「刀は斬る。刀匠は打つ。侍は……何だろな。まァなんにせよ、一つの目的のために存在するモノは、強くしなやかで美しいんだそうだ。(こいつ)のように」

 

刀を戻し、甲板に下ろした志乃を一瞥してから、高杉は空を見つめる。

 

「クク、単純な連中だろ。だが、嫌いじゃねーよ。俺も目の前の一本の道しか見えちゃいねェ。畦道(あぜみち)に仲間が転がろうが誰が転がろうがかまやしねェ」

 

 

 

「あっそーかよ」

 

棘を含んだ女の声が、その場にいる全員の耳に入る。

声の聞こえた方に一斉に注目すると、舷縁に手をかけて、立ち上がる志乃がいた。

 

「起きたか、志乃」

 

「よく言うぜ。一体誰のせいで眠らされたんだか」

 

一つ舌打ちを立て、高杉を睨み据える。

 

「私の仲間を返せ」

 

「仲間?」

 

「チャイナ娘と一緒にいた、青い髪の女みたいな顔した奴だよ。私はそいつを助けに来た。どこにいる」

 

志乃は今にでも震えそうな足を強く踏ん張って、高杉に言い放った。

そんな彼女の心中を知ってか、高杉は目の前の少女を笑う。

 

「あの男か?さァな。俺は知らねーよ」

 

「あっそう。なら、探しにいく」

 

踵を返して船内に向かおうとした。

しかし高杉に手を掴まれ、引き戻される。

 

「行かせねェよ」

 

「……っ、放して!」

 

「放しもしねーよ。お前は俺のものだ、志乃」

 

成り行きを見ていた桂が、志乃を助けようと前に出ようとしたが、彼の背後に立っていた杉浦がカチャリと刀を彼に向けた。

 

「大人しくしててください桂さん。男女の恋に首突っ込むなんざ、野暮ですよ」

 

「貴様……!!」

 

ギリッと歯軋りをして、桂は杉浦を振り返った。

その時。

 

 

 

 

「その娘を…………放せ!!」

 

船内から、青い影が躍り出てきた。

陽の光を照り返し、銀色の刃が高杉に向かって走り込んで来る。

高杉はそれを視界に捉えると、掴んだ志乃の手を引き寄せた。

志乃が抵抗も出来ずに高杉の腕の中に閉じ込められると、刃は舷縁に突き刺さった。

 

「こんな所まで来て何の用だ?小僧」

 

青い影の正体は、少年だった。

澄んだ青い髪を一つに括り、それが彼の動きと共に激しく揺れる。

少年は急いで突き刺さった刀を抜くと、両手で構え高杉に向けた。

志乃は高杉の体を押しやりながら、視線を少年へ投げる。

その顔を見て、驚愕した。

 

「ぁ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ーートッキー!!」

 

志乃は思わず振り返ろうとしたが、それを高杉の腕が許さなかった。グッと強く抱き締められ、引き剥がせない。

時雪は彼の纏う狂人のような雰囲気に、気圧されかかっていた。

しかし、愛する少女が他の男の腕の中にいるのは許せなかった。

 

「その娘を放せ!嫌がってるじゃないか!!」

 

「嫌がってる?志乃がか?」

 

「そうだ!!」

 

確かに志乃は彼の胸を押し、離そうとしている。

しかし抱き締めている当の本人はどこ吹く風だ。

 

「小僧、お前は志乃の何だ?」

 

「?」

 

「志乃は俺の妻だ。お前が簡単に触れていい存在じゃねェんだよ。それとも、お前は人妻趣味だったか?」

 

「なっ!!」

 

「っ!?」

 

時雪は耳を疑った。

今、この男は何と言った?志乃の夫?

愕然として見つめてくる彼に、志乃は叫んだ。

 

「違う!!高杉!私はアンタの妻になった覚えはない!!ていうかトッキー、私まだ12歳だよ!?結婚なんて出来ないからね!?」

 

「そ、そうだけど……」

 

「知ってるさ、志乃。これは婚約だ。お前が16になったら、すぐに結婚しよう」

 

一気に戦意喪失した時雪。

頬に手を添え、顔を近付けてくる高杉。

それを見守る桂と杉浦。

 

ーーあーもう、どいつもこいつも!!

 

苛立った志乃は、高杉を渾身の力で突き飛ばした。

 

「誰がアンタなんかと結婚するか!!大体ねェ、私には今…………

 

 

 

 

好きな人がいるの!!」

 

 

「……はァ?」

 

「えっ?」

 

「む?」

 

「はい?」

 

その時、この場にいる男全員が固まった。

今彼女は何と言った?好きな人がいる?

頭の中で整理し終わった時雪と桂が、大声を出した。

 

「ええええええええ!?」

 

「それは本当なのか!?誰だ!どこの馬の骨だ!!お父さんは結婚など許さんぞ!!」

 

「ヅラ兄ィうるさいから黙ってて!」

 

志乃が桂に一喝すると、背後から鋭い殺気が襲いかかってきた。

志乃は瞬時に時雪から刀を奪い取り、振り向きざまに刀を振るう。それに二刀が受け止められた。

 

「どーしたァ嫉妬か?高杉。……つか、何でアンタも斬りかかってくるわけ?」

 

志乃は高杉と杉浦、二人の斬撃を刀一本で防ぎながら、余裕の笑みを浮かべる。刀と刀が擦れ合い、金属音が鳴り響く。

高杉は普段の様子から一転し、憎々しげに彼女を睨みつける。

 

「志乃ォ……てめェ、この俺を差し置いてどういうつもりだ……!?」

 

「まさか浮気とか思ってんじゃないでしょーね?私は元から独り身だっつーの。別に何もおかしくないでしょーが」

 

志乃は刀を滑らして体を回転させ、その勢いを利用して二人をまとめて斬りつけた。それを杉浦が受ける。

しかし、下から払うように振るわれた志乃の一撃は、上から押さえつけるように受け止めた杉浦の刀をいとも容易く折ってしまった。

 

「なっ!?」

 

「何でアンタまでが怒るのか知らないけど……」

 

刀を上段で構えた志乃は、そのまま両手に持って、真っ直ぐ振り下ろした。

 

「人の色恋にケチつけんな野暮男!!」

 

刃は杉浦に迫る目前に峰に変えられ、杉浦の右肩を強打した。

その衝撃で杉浦は肩を脱臼し、杉浦は刀を落とし、痛みのあまり片膝をつき、肩を押さえた。

 

「ぐぅうッ……!!」

 

「悪いね、アンタにゃそこまで恨みはないけど」

 

志乃は杉浦を見下ろしてから、高杉に刀を向ける。

 

「高杉。アンタが本当に私を妻にしたいなら、ちゃんと私にプロポーズしなさい。何でアンタが私を妻に迎えたいのか忘れちゃったから、もう一度しっかり告白して。話はそれからだよ」

 

志乃は時雪の手を引いて、桂の横を通り過ぎる。その時、彼に釘を打っておいた。

 

「ヅラ兄ィ、団子忘れないでよ」

 

「ああ。わかっている」

 

志乃と桂は、お互い小さく笑いかける。志乃は時雪と共に、船内に駆け込んで行った。

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