銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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力不足とは裏を返せばまだまだ強くなれる証拠

船内に入ると、辺りは土煙で前すら見えなかった。

志乃と時雪は一度立ち止まり、あまりの煙に思わず腕で顔を隠す。

 

「何だコレ……何があったんだ?」

 

「……トッキー、刀借りるよ」

 

「えっ……あっ、志乃!!」

 

志乃は刀を手にしたまま、土煙の中に飛び込んでいく。

時雪が止めようと手を伸ばしたが、それは何も掴むことなく下ろされた。

 

煙を掻き分けて前に進むと、目の前に紅桜に侵食され、最早化け物と化した岡田がいた。

彼の腕は紅桜のコードのようになり、それで銀時を捕まえている。銀時は気を失っているのか、体を預けたままだった。

そんな彼を救おうと、鉄子、神楽、新八が岡田に果敢に挑んでいた。

 

「みんな!!」

 

「志乃ちゃん!」

 

志乃も刀を抜き放ち、暴走する岡田の胸を袈裟懸けに斬る。

岡田がこちらに意識を向け、紅桜を振るうと、それをかわして彼の左側にまわり、銀時を縛るコードを切り落とした。

 

「よしっ、これで……」

 

「「「うわああああ!!」」」

 

その時岡田が暴れ、三人を吹き飛ばす。その拍子に、龍がとぐろを巻いたような鍔を持った刀も振り落ちた。

志乃は飛ばされた鉄子を抱きとめ、床に降ろす。鉄子は驚いたように、彼女を見上げる。

 

「何でアンタがここに……?」

 

「こっちの台詞。ま、理由は別に訊かないけど」

 

志乃はすぐに岡田と対峙し、振り下ろしてきた紅桜を刀で受け止めた。

 

「ぐうっ!!」

 

初めてやり合った時よりも、格段にパワーが違う。桁違いだ。

しかし、負けるわけにはいかなかった。

 

「こんの……ヤロォォォォォォ!!」

 

怒号と共に紅桜を押し退け、そのままフラつきながら彼の懐に潜り込んだ。そして、刃をその体に突き立てようとする。

 

ーードスッ!!

 

「う、う……うぐおああああああああ!!」

 

岡田の腹に深く突き刺し、手が紅く染まる。

それを気にせず、志乃は刀を引き抜いた。岡田はそのまま、仰向けに倒れ込んだ。

正直言って、刀を誰かに突き刺すのは初めてだった。人の肉体を貫いたあの感覚を気持ち悪いと感じながらも、心のどこかで快感を覚えていた。

 

ーーこれも私が、人斬りの血を引いているって証かねェ……。

 

刀を握る手が、少し震える。

それを堪えながら、志乃は岡田に目を向けた。

 

「……やった、か…………?」

 

しかし。

 

ーードッ!!

 

「なっ!?」

 

大量のコードが、志乃めがけて襲いかかってくる。

驚きに目を見開いた瞬間、彼女の体はコードに絡め取られて、持ち上げられていた。

 

「がっ……ぐ、ぅ……ぅあぁっ!!」

 

首にコードが巻き付き、ギリギリと体を締め付ける。

比較的動かせる両手は、首に巻かれたコードを掴んだ。

 

「ぁ、く……ぅ……」

 

「あっ……兄者ァァァ!!」

 

鉄子の悲鳴が耳に刺さる。視線だけ背後に向けると、鉄矢が血を流して倒れていた。

その時、志乃は思い出した。

 

そうだ、私の後ろには、鉄子姉さんがいた。私が襲われたのはつまり、鉄子姉さんが襲われたのも同然。

鉄矢兄さん……姉さんを庇って……。

 

「ゔっ、がぁっ……はっ……」

 

もうそろそろ、本当に呼吸が出来なくなってきた。酸素が足りず、頭がクラクラしてくる。

岡田が、鉄矢を抱いて泣く鉄子に、刀を振り上げた。

鉄子を護らねば。薄れゆく意識の中で志乃が鉄子に手を伸ばしたその時。

 

ドゥッ!!

 

落ちた刀を拾って、銀時が岡田の目のすぐ下を斬りつけた。

血が吹き出る中、少し緩まった拘束に、銀時はコードを引き千切って志乃を引っ張り出した。

前のめりに倒れた銀時は、刀を床に刺して立ち上がる。既に息は上がっていた。彼を案じて、新八と神楽が駆け寄った。

解放された志乃も、喉を押さえて咳き込んだ。

 

「げほげほっ、ごほっ……」

 

「志乃!!」

 

煙の中に突入してきた時雪が、彼女の元に駆け寄って、その小さな背を摩る。

 

「けほっ……はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「志乃、大丈夫?」

 

「う、うん……」

 

こちらを見て笑いかける志乃に、時雪もホッとしたように表情が綻んだ。

鉄子は、自分を護って倒れた兄を抱え、叫ぶ。

 

「兄者ッ!!兄者しっかり!」

 

鉄子の叫びが届いたのか、鉄矢は咳き込んだ。

 

「兄者!」

 

「クク、そういうことか。剣以外の余計なものは捨ててきたつもりだった。人としてよりも刀工として剣を作ることだけに生きるつもりだった。だが、最後の最後で、お前だけは…………捨てられなんだか。こんな生半可な覚悟で、究極の剣など打てるわけもなかった……」

 

「余計なモンなんかじゃねーよ」

 

兄妹の前で、銀時がヨロヨロと立ち上がった。

 

「余計なモンなんてあるかよ。全てを捧げて剣を作るためだけに生きる?それが職人だァ?大層なこと抜かしてんじゃないよ。ただ面倒くせーだけじゃねーかてめーは。色んなモン背負って頭抱えて生きる度胸もねー奴が、職人だなんだカッコつけんじゃねェ」

 

銀時は迫り来る岡田に、鉄子の打った刀を向けた。

 

「見とけ。てめーの言う余計なモンがどれだけの力を持ってるかを。てめーの妹が魂込めて打ち込んだ(コイツ)の斬れ味、しかとその目ん玉に焼き付けな」

 

岡田が銀時に襲いかかってくる。

鉄子も、鉄矢も、新八も、神楽も、志乃も、時雪も。誰もが、目を見張った。

 

紅桜と鉄子の打った刀が、ぶつかり合う。

鉄子の打った刀は折れ、床に突き刺さる。

紅桜は次々にひび割れ、最終的には砕け散った。

 

それすなわち、銀時が岡田に勝ったのだ。

 

「やった……銀時さんが、やった……!」

 

「ククッ。やるね、銀。流石だよ……」

 

時雪が満面の笑みを浮かべる隣で、志乃は少し悔しげに笑った。

そして、痛感する。私もまだまだ未熟過ぎる。もっともっと、強くならなきゃ。

時雪に支えられて立った志乃の後ろで、か細い声で鉄矢が言った。

 

「護るための……剣か……。お前……らしいな、鉄子。…………どうやら私は……まだ打ち方が……足りなかった……らしい。鉄子、いい鍛冶屋に……な…………」

 

そう言って、鉄矢は事切れた。鉄子はボロボロと涙を流して、彼の上に突っ伏す。

 

「…………聞こえないよ…………兄者。いつもみたいに……大きな声で言ってくれないと……聞こえないよ」

 

嗚咽を呑み込んで泣く彼女を見下ろして、時雪は静かに涙し、志乃は黙って兄妹を見つめた。

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