紅桜との戦いでボロボロになった銀時を支え、外に出ようとしていたその頃。
志乃は遠くから、何かが飛んでくる音が聞こえた。
その音に、バッと顔を上げる。
「どうしたの?志乃」
彼女の異変に気付いて、時雪が鉄子と共に銀時に肩を貸しながら、彼女を見やる。
「…………いや、なんでもない……」
志乃の勘が、「早く逃げろ」と告げていた。
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一方その頃。桂は、高杉の背中に語りかけていた。
「高杉。俺はお前が嫌いだ。昔も今もな。だが、仲間だと思っている。昔も今もだ。いつから違った。俺達の道は」
高杉は鼻で笑い、懐からあの本を取り出す。
本は先程斬られているが、既にボロボロで古いものであることが伺われた。
「何を言ってやがる。確かに俺達は始まりこそ同じ場所だったかもしれねェ。だがあの頃から、俺達は同じ場所を見ちゃいめー。どいつもこいつも好き勝手。てんでバラバラの方角を見て生きていたじゃねーか。俺は、あの頃と何も変わっちゃいねー。俺の見ているモンは、あの頃と何も変わっちゃいねー。俺はーー」
高杉は一度本に目を落としてから、それをしまった。
「ヅラぁ、俺はな。てめーらが国のためだァ仲間のためだァ剣を取った時も、そんなもんどうでもよかったのさ。考えてもみろ、その握った剣。コイツの使い方を教えてくれたのは誰だ?俺達に武士の道、生きる術、それらを教えてくれたのは誰だ?俺達に生きる世界を教えてくれたのは、紛れもねェ。松陽先生だ」
高杉は空を仰ぎ、海風を受けた。
「なのにこの世界は、俺達からあの人を奪った。たった一人、
彼の後ろに立つ桂は、黙って聞いていた。
「だったら俺達は、この世界に喧嘩を売るしかあるめェ。あの人を奪って、アイツを遺したこの世界をブッ潰すしかあるめーよ。なァ、ヅラ。お前はこの世界で何を思って生きる?俺達や志乃から先生を奪ったこの世界を、どうして享受し、のうのうと生きていける?俺は、そいつが腹立たしくてならねェ」
桂は高杉の想いを汲んで、目を伏せる。
「高杉……俺とて何度この世界を更地に変えてやろうかと思ったか知れぬ。だがアイツが……それに耐えているのに、
江戸で出会った新八や神楽、エリザベス、西郷、幾松、時雪のことを思い出しながら、桂は目を開いた。
「今のお前は、抜いた刃を収める機を失い、ただいたずらに破壊を楽しむ獣にしか見えん。この国が気に食わぬなら壊せばいい。だが、
その瞬間、桂の頭上から、別の声が降ってきた。
「キヒヒ、桂だァ。ホントに桂だァ〜」
「引っ込んでろ。アレは俺の獲物だ」
「天人!?」
屋根の上に、孫悟空風の天人と猪八戒風の天人がしゃがみ込んで桂を見下ろしていた。何故、と振り仰ぐ。
高杉が舷縁に凭れかかり、動揺する桂を見やった。
「ヅラ、杉浦から聞いたぜ。お前さん、以前銀時と『獣衆』と一緒にあの春雨相手にやらかしたらしいじゃねーか。俺ァねェ、連中と手を組んで後ろ盾を得られねーか苦心してたんだが。おかげで上手く事が運びそうだ。お前達の首を手土産にな」
天人らが降り立ち、桂に詰め寄ってくる。
「高杉ィィ!!」
桂の声を聞きながら、高杉はいつもの薄笑いを浮かべた。
「言ったはずだ。俺ァただ壊すだけだ。この腐った世界を」
********
船上は、鬼兵隊と春雨連合軍、桂一派の戦いとなっていた。
船内から出てきた銀時一行は、新八と神楽と志乃が先導し、銀時を狙う天人達を次々と薙ぎ払っていく。
「おーーう邪魔だ邪魔だァァ!!」
「万事屋銀ちゃんがお通りでェェェェ!!」
志乃は天人達の中に単身入り込み、そこで一掃する。
「見つけたァ!!銀狼だ!!」
天人の一人が歓喜の声を上げて志乃に襲いかかる。
志乃は刀を無情にも心臓に突き立て、体を貫かせた。
「っ……やっぱ私、この感じ嫌いだわ」
ボソッと呟き、刀を突き刺したまま絶命した天人を蹴り飛ばす。
刀から手を離したその時、反対側から天人らの魔手から逃れてきた桂が現れた。
「どけ。俺は今、虫の居所が悪いんだ」
「ヅラ兄ィ!」
銀時一行と桂一派は、揃って背中合わせになる。
銀時は桂を見て、笑みをこぼした。
「……よォ、ヅラ。どーしたその頭。失恋でもしたか?」
「黙れイメチェンだ。貴様こそどうしたそのナリは。爆撃でもされたか?」
「黙っとけやイメチェンだ」
「どんなイメチェンだよ」
銀時はボロボロになったのをイメチェンだと言ったが、そこに志乃のツッコミが入った。
志乃は刀の代わりに鉄パイプを手に、正眼の構えを取る。
桂一派の一人が、桂に指示を扇ぐ。
「桂さん!ご指示を!!」
「退くぞ」
「えっ!!」
「紅桜は殲滅した。もうこの船に用はない。後ろに船が来ている。急げ」
「させるかァァ!!全員残らず狩りとれ!!」
逃がすまいと集ってくる天人達を、銀時、桂が斬り、志乃が殴り飛ばした。
「退路は俺達が守る」
「行け」
「しかし……!」
「銀さん!!」
「でも、志乃!!」
その時、エリザベスが新八と神楽を小脇に担ぎ、桂一派も逃げ出した。
しかし、時雪は足を動かさない。
「行けって言ってんだろ。何で行かない」
「嫌だ!!もう志乃を残して逃げるなんて嫌だ!!」
「バカ言え!殺されるぞ!!」
「大好きなお前を護って死ねるなら、本望だ!!」
「!?何、言って……」
志乃は思わず頬を赤らめ、涙を流して訴える時雪を振り返りそうになる。
しかし、敵は目前まで迫っていた。
「あー、もうわかった!!後で話したいことがある!!絶対生きて!!だから……」
「俺も!お前に言いたいことがある!!絶対生きろ!!だから……」
「「死んだら承知しないからな!!」」
お互いに背を向けて、志乃は天人の一人の脳天をカチ割り、時雪は船に向かって逃げ出した。
それを皮切りに、銀時、桂、志乃と春雨、鬼兵隊の戦いが始まった。
数など関係なく、怒涛の勢いで天人達を倒していく三人。甲板は血に染まり始めていた。
志乃も時折飛んでくる返り血に白い着物を染めながら、天人を殴り、突き、蹴り。数も体格差も厭わず斬り捨てるように倒していった。
天人や鬼兵隊を斬りながら、桂が叫んだ。
「銀時ィ!!」
「あ?」
「世の事というのはなかなか思い通りにはいかぬものだな!国どころか、友一人変えることもままならんわ!」
「ヅラぁ、お前に友達なんていたのか⁉︎」
「それ勘違いだよ絶対!!その人に謝りな失礼だから!」
「斬り殺されたいのか貴様らは!!」
銀時も桂も、口元に笑みを浮かべていた。それを見て、自然と志乃の口元も綻ぶ。
自分を取り囲んできた天人を錐揉み状に回転しながら打ち倒した志乃は、バックステップで下がる。
「銀時ィィ!!」
「あ"あ"あ"!?」
その時、銀時と桂と、背中合わせになった。
「お前は、変わってくれるなよ。お前を斬るのは骨がいりそうだ。まっぴら御免こうむる」
「ヅラ、お前が変わった時は、俺が真っ先に叩き斬ってやらァ」
二人は刀を春雨の船の上にいる高杉に向けた。
「高杉ィィィ!!そーいうことだ!」
「俺達ゃ次会った時は、仲間もクソも関係ねェ!全力で……てめーをぶった斬る!!」
それを背中で聞きながら、志乃はグッと唇を噛んだ。
かつて仲間だった三人が。共に戦い、戦場を駆け抜けた三人が。袂を分かった瞬間だった。
それから二人は突然、反対方向に走り出した。
「えっ?」
考え事をしていた志乃はハッとして、二人の背中を見る。そして、高杉を振り返った。
彼と、視線が交差する。
身勝手にも、昔のままでいてほしいと願っていた彼女の姿は、彼の目にはどのように映っていただろうか。
「精々、街でバッタリ会わねーよう気をつけるこった!」
「うわっ!?」
突如首根っこを銀時と桂に掴まれ、引っ張られる。
そのまま飛び降りる最中、志乃は高杉を見つめて叫んだ。
「晋兄ィ!!」
伸ばした手は、もちろん届かない。
かといって、抗うつもりもない。
ただ、悲しかった。
幼い頃、優しくしてくれた彼らが、大好きだったみんなが、こうして別れてしまうなんて。
背中に手をまわされ、急に桂に抱き締められる。
上着を脱いだ桂は、背中に背負っていたパラシュートを開いた。銀時は彼の足に抱きつき、志乃も桂の首の後ろに手をまわした。
彼らを撃ち落とさんと放たれる砲撃の嵐の中、脱出する。
「用意周到なこって。ルパンかお前は」
「ルパンじゃないヅラだ。あっ、間違った桂だ。伊達に今まで真選組の追跡をかわしてきたわけではない」
志乃は桂の首元に顔を埋め、グスッと鼻を啜る。真っ白な着物が、所々紅く染まっていた。
桂は志乃の頭を優しく撫でてから、懐から本を取り出した。
「しかしまさか奴も、コイツをまだ持っていたとはな……」
志乃は桂の持つ本を不思議そうに見る。
赤い目に涙が溜まっていて、ルビーように美しく光っていた。
「……始まりはみんな同じだった。なのに、随分と遠くへ離れてしまったものだな」
桂と志乃は、空に浮かぶ二隻の船を見上げた。
「銀時……お前も覚えているか、コイツを」
「ああ。ラーメン零して捨てた」
空には、青と白のコントラストがどこまでも広がっていた。
ー紅桜篇 完ー
ハイ終わりました、紅桜篇。
色々志乃ちゃんの秘密も明らかになってきた回じゃないかな、と思います。まだまだ謎の多い杉浦の正体も、これから徐々に明らかにしていきたいです。
次の長編は何になりますかね。柳生篇かな?その時もよろしくお願いします。
次回、紅桜篇アフターです。
オリジナルと原作とが入り混じった、二次創作小説の真髄が今ここに現……アレ?