銀狼 銀魂版   作:支倉貢

66 / 205
ガキは何かと強がりたがる

その頃。銀時らは揃って、公務執行妨害の罪で逮捕されていた。

手にかけられた手錠を見て、銀時らは近藤と土方に抗議する。

 

「そりゃーないんじゃないの!?公務執行妨害って俺達が何したってよ?」

 

「うるせェェェ!!パレードの邪魔しただろーが!!」

 

「聞けって。だからそれはさ、お通ちゃんに頼まれて」

 

「私達が自ら進んでお前らの手伝いなんかするわけないアル」

 

「手伝いってお前、あんなモン邪魔以外の何モンでもねーよ!」

 

「今度一日局長やる事になったから協力してほしいってお通ちゃん個人に雇われたんです!」

 

「いい娘だよありゃ。たった一日のために自腹で俺達雇ったんだから」

 

「その気持ちをお前らは踏み躙ったアル!」

 

「お前らが踏み躙ったの!!」

 

結局いくら話しても信じてもらえるはずもなく、お通に会わせてほしいと懇願するが、その姿が見当たらない。さらに、志乃もいなくなっていたことに気がついた。

山崎からの連絡を切った土方を見ながら、沖田は最近連発している婦女誘拐事件を思い出しながら言った。

 

「案外お通ちゃんと嬢ちゃんも、目離した隙に攫われちまったんじゃないですかィ?不思議とあの事件、真選組の管轄でばかり起きやがるんでさァ」

 

「冗談じゃねーよ。俺達の目の前でんな事が起きたら今度こそ真選組はおしまいだ。ま、志乃と一緒なら大丈夫だろ。アイツなら誘拐犯の一人や二人、余裕で潰せるからな」

 

「副長ォォいました!あそこ!!」

 

一人の隊士が指さしたのは、街中のビルにつけられている大きな画面だった。そこに、槍を向けられ縛られたお通が映っていた。

お通を人質にとる僧兵のような格好をした男がテレビの中で叫ぶ。

 

「諸君は本当に真選組が江戸の平和を護るに足る存在だと思うか!?否!!奴らは脆弱でただ税金を無駄に消費する怠け者である!その証拠に我等は奴等の前から容易く一日局長と隊士の一人を拉致することに成功した!ここに居並ぶ少女達、そしてこの寺門通が奴等の無能ぶりを示す何よりの証拠である!真選組はカスである!そしてこれを従える幕府もカスだ!この世界は腐り切っている!!それを我等で変えようではないか!」

 

********

 

現場に到着した真選組の車に、マスコミ陣が殺到する。

その中出てきた誠ちゃんが報道陣の取材に応じたが、根も葉もない話を並べ、最終的に土方に蹴っ飛ばされた。しかしその光景を見てチンピラと評されてしまう。

現れた真選組を見下ろして、お通が叫んだ。

 

「みんなァ!!」

 

「クク、来たか真選組!解散の手続きは済ませてきたんだろうな」

 

「え?何て言ったの今。すいまっせーん!もっかい大きい声でお願いします!」

 

「みんなァ!!」

 

「クク、来たか真選組!解散の手続きは……って二回も言わせるな!なんか恥ずかしーだろが!!」

 

距離と高度があって聞こえづらいため、交渉は筆記でのやり取りとなった。

テロリストの要求は仲間の釈放で、それが通らない場合人質の命はないと書いた。真選組は出来るだけ時間を稼ごうと、釈放には時間がかかると記した。

相手のフリップを双眼鏡で見ながら沖田はそれを読み上げる。

 

「『証拠が欲しい。お前達が我等の忠実な犬になったという証拠が。三回回ってワンと言え』と書いてありますぜ」

 

「あの野郎共ォ」

 

「(土方限定)と書いています」

 

「ウソ吐けェェ!!お前明らかに今付け足したろ!!」

 

沖田の襟を掴む土方だが、近藤と誠ちゃんに宥められた。

 

「しょうがねーよトシ。お通ちゃんのためだ」

 

「ウン、しょうがねーよトシ」

 

「オメーにトシとか言われたくねーんだけど!!」

 

しかし、下手に刺激すればテロリストが人質を殺す可能性もある。

土方は屈辱に濡れながらもターンして、それを実行した。しかもちょっとカッコつけようとしたのが余計恥ずかしいと、マスコミ陣に笑われ本人も恥ずかしさに俯いていた。

 

「土方さん、間違えました。『腹が減ったからカレーを用意しろ』の間違いでした」

 

「どんな間違いだァァァァ!!まるまる違う文章じゃねーかァァ!!」

 

確信犯のせいで大勢の前で恥をかいた土方は、沖田を追い回す。それをバックに、近藤が辛口か甘口か尋ねていた。

隊士らがカレー作りをする間、テロリストは今度はロボットダンスをやれと要求してくる。

 

「クソが、調子に乗りやがって。ロボットダンスをやれだァ。(沖田限定)だ」

 

「マジですかィ仕方ねェ」

 

双眼鏡でフリップを読んだ土方は、仕返しとばかりに付け足した。

 

「ロケットパーンチ!!」

 

「ぶふォ!!」

 

不意打ちで沖田からパンチを食らった土方は、そのまま尻餅をつく。

 

「ダンスって言ってんだろーが!それ必殺技じゃねーか!」

 

「ロケットパンチから入るダンスなんでさァ」

 

「なんかうめーし何コイツ!?弱点ナシか!」

 

沖田がやたら上手いロボットダンスを披露したところで、今度はものまねをやれと命令してきた。

それを自ら買って出た土方は先程の沖田のロケットパンチをマネするが、かわされて逆に腹に手をまわされ、そのままエビのマネと称してバックドロップを受けた。

 

「……オイお前さ……マジでちょっと頼むから一発だけ殴らせてくんない?痛くしないから頼むから」

 

「いやでィ」

 

「ふざけろクソガキ!」

 

ついに堪忍袋の尾が切れた土方は、沖田に向かって蹴りかかり、そのまま喧嘩に発展してしまった。マスコミにまで見る影なしと評された真選組。

近藤はついに誠ちゃんと一緒にカレーを食べて現実逃避していた。

 

「まこっちゃん、もう帰っていいよ。あとは俺達でなんとかするから」

 

「そうもいかねー。イメージマスコットだから。俺はお前らの。お通ちゃんには前払いで金貰ってるからきっちりやらねーと」

 

「イメージマスコットって何?俺らってそーいうイメージなの?」

 

「こーいうカンジだろ」

 

「どーいうカンジだ」

 

「バカで物騒で江戸の平和を護るカンジ」

 

「バカなカンジしか出てないんだけど」

 

誠ちゃんは自分のイメージを一蹴されたが、隊士に命令してカレーを用意させる。カレーを乗せたおぼんを両手に持ち、どこかへ向かい始めた。

 

「オイ、どこに行くまこっちゃん」

 

「言ったろ。まこっちゃんはお前らのイメージマスコットだ。バカで物騒で江戸の平和を護る」

 

誠ちゃんは近藤を振り返らず、カレーを持って去っていった。

 

********

 

一方その頃。塔の上では、体を縛られ転がされていた志乃が目を覚ました。

薬がまわっているのか、頭が少しクラクラする。

頬に当たる木材の感触を感じながら、志乃は目を閉じて気を張り詰めた。その時。

 

ドッ

 

「かふ……っ」

 

「ようやく目覚めたか、お嬢ちゃん」

 

志乃が起きたのに気がついたテロリストに、腹に蹴りを入れられる。そして彼女の銀髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。

 

「ちょうどいい、お嬢ちゃんは真選組の隊士だな?今から下に行ってお前の局長を斬ってこい」

 

「!!なんだとッ……!?」

 

「やめて、志乃ちゃんにそんなことさせないで!」

 

お通が懇願するが、テロリストは彼女の頭を掴んで手すりに押し付ける。

 

「やめろ!!うぐぁっ!」

 

頭を踏まれ、床に顔を押し付けられる。

志乃は視線をテロリストに投げ、鋭く睨み据えた。その殺気ともとれるそれを受け、テロリストは思わずゾッとした。

 

「……お通に手を出すな」

 

「ああ、もちろんだ」

 

テロリストは頷いてから仲間に視線をやり、志乃の縄を解かせてから彼女の体を持ち上げた。

 

「お前が局長を斬ればなっ!!」

 

「!!」

 

ポイッと塔の外に投げ出された志乃は、自分に叫ぶお通がどんどん遠ざかっていくのを見た。

そして、体が重力に従って落ちていく。

ギャラリーの悲鳴も聞こえたが、志乃は体を反転させ、スタッと小さな音を立てて難なく着地した。

 

「志乃!?」

 

「嬢ちゃん、やっぱり奴等に……」

 

行方知れずだった志乃と再会し、彼女に駆け寄ろうとした土方と沖田だったが、志乃の傍らに槍が一本降って突き刺さった。

志乃は俯いて、肩を震わせる。志乃が落ちてきたのを見ていた近藤も駆けつけた。

 

「志乃ちゃん……」

 

「…………近藤さん」

 

志乃は近藤から目を逸らし続け、震える手で槍を抜き取り、穂先を近藤に向ける。そして、

 

「……ごめんなさい」

 

涙声で、ポツリと謝った。

 

「近藤さんを斬れって。やらなきゃ、お通が……」

 

「志乃ちゃん」

 

名を呼ばれた志乃は、ゆっくりと顔を上げる。大きな赤い目からボロボロと涙を零し、弱々しく近藤を見つめていた。

近藤はバサッと上着を脱ぎ捨てた。

 

「来い」

 

「近藤、さん……?何、やって……」

 

驚いた志乃が、一歩後退る。

近藤は上から見下ろすお通に向かって叫んだ。

 

「お通ちゃん!すまなんだ!!色々手伝ってもらってなんだが、結局俺達はこーいう連中です!(もが)いてみたがなんにも変われなんだ!相も変わらずバカで粗野で嫌われ者のムサイ連中です!どうやらコイツは一朝一夕でとれるムサさではないらしい!だがね、お通ちゃんの言う通り踠いて、自分達を見つめ直して気付いたこともある!俺達はどんだけ人に嫌われようが、どんだけ人に笑われようがかまやしない!ただ、護るべきものも護れん不甲斐ない男にだけは、絶対になりたくないんだとね!」

 

近藤は槍を持つ志乃を見つめ、両手を広げる。

 

「さァ来い、志乃ちゃん!たとえ俺の屍を越えても、護らなきゃならねーモンがあるはずだ!さあかかって来やがれ!!」

 

「…………」

 

志乃は近藤を黙って見つめていたが、ふと俯き、肩を震わせた。

 

「……………………クッ……ククククッ」

 

「志乃ちゃん?」

 

「プッ……クククッ、アハハハハハハッ!!」

 

「えっ!?ちょ、志乃ちゃん……?」

 

突然空を仰いで高笑いを始めた志乃に、近藤は困惑し彼女の様子を伺う。

志乃は腹を抱えて、必死に笑いを堪えようとしていた。

 

「ひひひっ……お、お腹痛っ……」

 

「志乃ちゃん……?」

 

「近藤さん。私やっぱアンタのこと好きだよ」

 

笑い過ぎで目に溜まった涙を拭い、先程の泣き顔とは打って変わった笑顔を見せた。

 

「アンタやっぱ男の中の男だよ。最高だ。真選組のみんなが、アンタのことを慕うのも、納得がいくよ。だから……」

 

志乃は槍をくるりと回転させ、刃をこちらに向けた。

そして、それを躊躇なく自分の腹に突き立てた。

 

「なっ!?」

 

「嬢ちゃん!?」

 

「志乃!!」

 

「志乃ちゃァァァァん!!」

 

「なっ……あの女ッ!!」

 

突然の出来事に、真選組の面々は動揺し、テロリストは怒りのあまり、お通に槍を向けて叫んだ。

 

「貴様ァァ命令を忘れたかァァァァ!!何をしている!?」

 

「何って……腹刺しただけだけど」

 

槍を引き抜き、血が止めどなく溢れる中、志乃はケロッとした表情でテロリストを見上げた。

 

「近藤さん言ってたろ。私も同じさ。護るべきものも護れないんじゃあ、私らが変わろうとしてる意味がない。だから」

 

志乃は槍を両手に構え、穂先をテロリスト達に向けた。

 

「私は、大切なものを護り抜くために戦う」

 

「ふざけやがって、このガキが!!」

 

テロリストが人質にお通を使おうとしたが、そこにいたはずのお通がいない。

見てみると、お通を抱えて女装した山崎が塔の上から飛び降りていた。

さらに振り返ってみると、攫っていた娘達もいつの間にか消えていた。

 

「な、何ィ!?」

 

「あいつら、どこ行っ……」

 

「人質ならさっき銀達が逃がしたよ」

 

志乃が槍を携え、地面を蹴り、塔まで跳躍する。

塔の中に単身乗り込んだ志乃はニヤリと笑った。

 

「それじゃ、掃討作戦開始しま〜すき焼き」

 

「小娘がァ調子に乗るなァァァ!!死ねェェェ!!」

 

「それはこっちのセリフだるまさんが転んだァァァ!!」

 

槍を振り上げ襲いかかってくるテロリスト達。志乃は一人一人を突き飛ばしながら倒していった。

負傷しているはずの志乃の圧倒的な力に為す術なく、程なくしてテロリスト達はあっさりと彼女に逮捕されるのであったーー。

 

********

 

手錠をかけたテロリストを引き連れながら、志乃は下りてきた。

 

「ただいま〜。全員逮捕したよ〜」

 

志乃はへらっと笑っていたものの、真選組は心配するような目を彼女に向けていた。

しかし、志乃はどうしたのかとキョトンとしてみせる。

 

「どーしたの?そんな顔して」

 

「……志乃ちゃん…………」

 

近藤が一歩志乃に歩み寄った次の瞬間、志乃の脳天に拳が入った。

 

「あだっ!?」

 

ゴン、と低い音がする。頭を摩りながら顔を上げてみると、誠ちゃんが前を歩いていた。

 

「バカヤロー。二度とあんなマネすんな」

 

背中越しに頭を摩る志乃に向ける視線は、とても鋭かった。誠ちゃん、いや銀時は怒っていた。

それを視線だけで察した志乃は、黙って銀時の背中を見つめていた。

 

「……ごめんなさい」

 

ぺこりと頭を下げた。

 

「まったく、本当に貴女はロクなことをしない」

 

不意に聞こえてきた第三者の声と同時に、ガシッと下げた頭を掴まれる。そしてそのまま勢いよく地面に叩きつけられた。

 

「がふっ」

 

「志乃ちゃんんんんん!!」

 

「何やってんですかアンタァァァァ!!志乃ちゃんは怪我してるんですよ!?」

 

山崎が志乃を地面に押し付ける白髪で陰陽師の格好をしている男に詰め寄るが、涼しい顔でにこりと笑う。

 

「ガタガタうるさいですね、黙りなさいハエ共が」

 

「何ィィィこの人ォォ!?初対面の人に向かってハエ呼ばわりしたよ!」

 

「何ですか、初対面の人に対してツッコミを浴びせるとは。まったく、最近の警察は一体どうなっているんですか」

 

「出会い頭に虫呼ばわりした奴に言われたくねーよ!黒い!黒いよこの人!!髪とか肌白いくせに腹黒いよ!!」

 

山崎と男がやいのやいのと言い合っていると、倒れていた志乃が地面に手をつき、立ち上がっていた。

 

「何やってんのジョウ」

 

「えっ、志乃ちゃんの知り合いなの?」

 

「知り合いも何も、アンタら一回会ったじゃん。『獣衆』"白狐"こと九条八雲だよ」

 

「えええええ!?」

 

驚く山崎を無視して、八雲は志乃のこめかみをアイアンクローでギリギリと痛めつけながら、ニコニコと笑う。

 

「私、ここで働いてるんですよ。しかし、なんなんですかあのザマは。我らが棟梁たる貴女が、あの程度とは情けない。罰として今夜は私が特訓の相手をして差し上げますよ」

 

「わかった、わかったから止めろ!痛えんだよ!」

 

八雲のアイアンクローから解放された志乃は、ふと腹に痛みを感じた。しかしそこに手を置くこともなく、疲れが出てふと欠伸をした。

その時、不意に首根っこが掴まれ、足が宙に浮く。

 

「む?」

 

「帰るぞ、クソガキ」

 

「ほーい」

 

悪戯をして怒られた猫のように土方に持ち上げられた志乃は、間の抜けた返事をした。彼らはそのままパトカーに乗り、屯所へ戻っていった。

 

********

 

車に揺られて窓の外を眺めていると、ふと土方が尋ねてきた。

 

「何故自分の腹を刺した」

 

「ん?」

 

窓から視線を隣に座る土方に向けるが、彼はこちらと目を合わせようとしない。立ち昇る紫煙を見ながら、前を向いて座席に深く座った。

 

「別に、奴らの注意をこちらに向けたかっただけだよ。銀達の気配を感じたから、彼らに矛先が向けられないようにしたかっただけ。それ以上何もない」

 

志乃は土方が意識をこちらに向けたことを察し、溜息を吐いた。

 

「……アンタも怒ってんの?」

 

「怒っちゃいねェ。テメェの勝手な無茶だ。自業自得だろ。だがな」

 

ゴッ

 

「いたっ」

 

脳天に拳が叩きつけられ、思わず頭を押さえる。

 

「何でもかんでも自分(てめー)だけで背負(しょ)い込むな。ガキのくせに一丁前な面しやがって……だからてめーはクソガキなんだ」

 

「………………」

 

「とにかく一人で抱え込むんじゃねー。お前の周りにゃ、たくさんの仲間がいんだろ。ガキならちょっとはそいつらに頼るぐらいの可愛げを持ちやがれ」

 

いつものぶっきらぼうな口調で、フウッと煙を吐く。それでも伝わってきた土方の思いが嬉しくて、志乃は黙って頷いた。

 

背凭れに体を預けると、今日一日の疲れがドッと押し寄せてきた。それと同時に瞼が重くなり、ゆっくりと目を閉じた。そして、ポスッと軽い音を立てて、眠った志乃は土方に凭れた。

それをバックミラーで見て運転していた沖田が、ニヤリと口角を上げる。

 

「オゥオゥ、随分と可愛い寝顔でさァ。土方さん羨ましーや。もしかして土方さん、もう嬢ちゃんと出来……」

 

「出来てるわけねーだろ!殺すぞ!」

 

「まさか土方さんがこんな女の子に手ェ出すロリコンだったとは……」

 

「だーからしてねェっつってんだろ!!殺すぞ!」

 

志乃が寝ているというのに、大声で叫ぶ土方。助手席に座る近藤も、楽しそうに土方に言った。

 

「ハハハ、最初は喧嘩ばっかだったのに、随分トシに懐いたもんだなァ志乃ちゃんも。トシ、志乃ちゃんを横にしてやってくれないか?」

 

「は?何でだよ」

 

「今日一日で疲れが大分溜まってたみたいだし……座ったままじゃ、体がキツイだろう?志乃ちゃんまだ小さいから、車体の広さを考えるとちょうどトシの……」

 

「膝貸せってか!!コイツに膝貸せってか!!」

 

近藤の言いたい事を察した土方は再びシャウトする。そして、自身の肩に凭れてスヤスヤ寝息を立てる志乃を見下ろした。

 

「膝枕ってヤツですかィ。こいつァ面白そーだ。土方さん、早くして下せェ。写真撮って拡散するんで」

 

「てめーの死に顔撮ってからしてやるよ」

 

「まぁまぁ、ほら早く!屯所までまだ少しかかるぞ!」

 

沖田と近藤に急かされ、土方は盛大な溜息を吐いた。

 

「屯所に着いたら叩き起こすからな」

 

取り敢えず沖田は後でぶっ飛ばすと決め、志乃の頭を自らの太ももの上に置き、そのまま足を座席に乗せた。

助手席から微笑ましく見てくる近藤と、運転席でクククと肩を震わせ笑う沖田をひたすらに無視する。

そんなことも知らず、志乃は気持ち良さそうに眠っていた。

 

 

 

 

 

 

「ん…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーお兄、ちゃん……」

 

ポツリと、寝言を言う。彼女の閉じられた目から、涙が一筋零れていった。




次回、田舎から母ちゃんがやってきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。