銀狼 銀魂版   作:支倉貢

67 / 205
母ちゃんのふてぶてしさは侮れない

この日、オフだった志乃は仕事も無いので銀時の家に向かっていた。

その道中で通勤中の新八と出会い、一緒に行くことになった。

スクーターをスナックお登勢の前に止め、玄関へ足を運ぶ。

客間の扉を開けると、中からいい匂いがした。

 

「よォ」

 

「おはようございます。アレ?いい匂い」

 

「アラおはよう」

 

突如聞こえてきた第三者の声に、新八が驚いて声の主を見下ろす。志乃も彼に続いて見ると、定春にエサを与えている眼鏡のオバちゃんがいた。ソファに座る二人に向かって、オバちゃんは茶碗を手に取る。

 

「ご飯は?中盛り?大盛り?」

 

「いや、僕らもう食べてきたんで」

 

「何言ってんのアンタそんな眼鏡かけてェ!しっかり食べないから目ェ悪くなるんだよ!」

 

「いや、眼鏡関係ないでしょ」

 

「口答えすんじゃないの!アンタはもうホント、人の揚げ足ばっかりとってェェェ!!」

 

新八のツッコミすらも一蹴して、オバちゃんは新八と志乃の前におかずを並べて茶碗を置く。

 

「残さず食べるんだよ。ちょっとゴミ捨ててくるから」

 

オバちゃんが出て行って静かになった部屋に、咀嚼の音が響く。そんな中で、新八が口を開いた。

 

「銀さん」

 

「あ」

 

「誰ですか、アレ」

 

「アレだろ。母ちゃんだろ」

 

「え?銀さんの?」

 

「いやいや、俺家族いねーから。オメーのだろ。スイマセンねなんか」

 

「言っとくけど僕も母さんは物心つく前に死にました。神楽ちゃんでしょ?」

 

「私のマミーもっと別嬪アル。それに今は星になったヨ」

 

「じゃあ志乃ちゃんの?」

 

「コイツの母ちゃん、村でも有名な美人だったぞ。怒らせたら閻魔より怖いって言われてたけどな」

 

「マジかよどんな母親だよ。鬼か?私は鬼の子ってか?」

 

朝食を食べながら謎の母ちゃんについて話し合うが、その時扉が開いて母ちゃんが戻ってきた。

 

「もの食べながら喋るんじゃないの!」

 

「あ、スンマセン」

 

「ちゃんと噛むんだよ!二十回噛んでから呑み込みな!」

 

そして再び部屋を出て行った後、銀時達は母ちゃんの言う通り、二十回しっかり噛むのだった。

 

********

 

「母ちゃんだよ。八郎の母ちゃん」

 

朝食を食べ終わり、着替えた銀時らはやっと母ちゃんと話せる姿勢が出来た。何故か家のご飯を食べている母ちゃんは、どうやら依頼人らしい。

なんでも、五年前江戸に上京してから音信不通の息子・八郎を探して、かぶき町にやってきたという。写真を受け取った銀時は、報酬の話をした。

 

「仕事なら引き受けますけどね、おばちゃんお金とか持ってんの?」

 

尋ねられた母ちゃんは、風呂敷からゴトゴトとたくさんのカボチャを机の上に並べた。

 

「コレ、八郎に食べさしてあげようと思ったんだけどね。……仕方ないね」

 

「オイオイおばちゃんおばちゃん。誠意って何かね?」

 

確かに、カボチャじゃ話にならない。あくまで金を貰わなければ仕事にならないのだ。

母ちゃんは今度は、布団の上に転がる。

 

「……なるほど、そーいうことですか。つくづく腐ってるね、メガロポリス江戸。……わかったよ、好きにすればいい。ただ一つだけ言っておく。アンタに真実の愛なんて掴めやしない!」

 

「深読みしてんじゃねェェェ!!気持ちワリーんだよクソババア!!金だ金!!」

 

「ねェ銀。何であの人、他人の家の布団で寝転がってるワケ?」

 

「聞いちゃダメだよ志乃ちゃん。君はまだ純粋でいて」

 

「は?」

 

肩に手を置いて銀時から離す新八。志乃はキョトンとしたまま、首を傾げるのだった。

 

********

 

それから彼らはそれぞれ分かれて、八郎の情報を集めていた。志乃もありとあらゆる情報屋を訪ねたが、ヒットは何一つない。

何も得られないまま、取り敢えず闇医者の店の前で銀時らと合流した。

 

「こっちはダメでした」

 

「私もダメネ。オバちゃんの匂いが染み付きすぎて、定春鼻おかしくなってしまったアル」

 

「私もダメだったわ。銀はどう?何かわかった?」

 

そう尋ねて、銀時を見上げる。彼も腕組みして首を振った。

 

「いや、俺もあちこち情報屋当たってもアタリがねーんで視点変えてみた。どーやら孝行者の息子は親から貰ったツラ二、三度変えてるな」

 

「整形ですか!?何でそんな」

 

「しかもここだけじゃなくあちこちで顔弄り回してるようだ。もう写真(コイツ)はアテにならねェ」

 

「顔コロコロ変えるなんてまるで犯罪者アルナ〜」

 

新八は安売り商品を手に取って見ている母ちゃんを見やった。

 

「……銀さん、この件はあんまり深く突っ込まない方がいいかもしれませんね。これ以上何か知っても……八郎さんもなんか嫌がりそうだし。お母さんも知らない方がいいかも……」

 

「そいつァ俺達が決めるこっちゃねェ。兎にも角にもまず孝行息子見つけてからの話だ」

 

「でも写真はもう使えないし……どうやって?」

 

「整形っつったって骨格まではなかなか変わんねーだろ。整形美人なんてみんな似たツラしてるじゃねーか」

 

そう言いながら、銀時は八郎の写真に油性ペンで落書きを始める。さらに神楽がそれに付け足し、最終的にはデカいアフロに鼻髭の変人が完成した。

新八が絶対にいないと否定していたその矢先、彼らの傍らを一人の男が通り過ぎた。

 

その男は、めちゃくちゃ大きなアフロに、眉が繋がり、鼻髭の濃い面だった。男はアフロの中から携帯を取り出し、耳に当てる。

まさか本当に落書き写真そっくりな男がいるとは思わなかった銀時らは驚く。

 

「マッ……マジでかァァ!?いっ、いたぞオイぃぃ!!」

 

「マジだ!あの人だ!もう間違いないよ!」

 

「どどど、どーすればいいの!何をすればいいの僕達!?」

 

「落ち着け!取り敢えずババア呼んでこい!!」

 

新八が母ちゃんを呼ぼうと振り向くと、母ちゃんはガングロギャルと間近で睨み合っていた。

 

「ギャルとメンチ切り合ってるアル」

 

「バババぁぁぁ!!」

 

「あーもう!何やってんの!」

 

志乃がすぐに母ちゃんの元に駆け寄ると、それを追って銀時も走り出した。

 

「アレは俺らがなんとかすっから、お前ら八郎を追え!」

 

「「うす!!」」

 

志乃に追いついた銀時は、二人揃ってこの上ない程平静を装って、救急車を呼んでいる母ちゃんに歩み寄った。

 

「何してんの母ちゃん。ホラ早くこっち」

 

「ワリーな、田舎者だから許してやってくれ」

 

「ちょっダメよ銀さん、志乃ちゃん!あの娘達の顔見て!アレ父ちゃんが死んだ時と同じ顔色よ!」

 

「ああ、アレはね、土の精なんだよ。ここら辺コンクリートで埋められたから、故郷の土に還りたいのに還れないんだよ。かわいそうな妖精さんなんだよ」

 

「それどーいう意味だコルァ!!」

 

「そーいう意味だよ。忙しいからとっとと土に還りなさいもぐら共」

 

志乃の遠回しな死ね発言に、ギャル数人は声を荒げる。そこに、別の声が入ってきた。

 

「ちょっとちょっと何ィ何ィ?お咲ちゃんモメ事〜イェ〜」

 

「勘吉さん!」

 

二人の男が、こちらへやってくる。

その内の一人、勘吉と呼ばれた男は、ズボンをズルズル引き摺ってやってきた。いわゆる腰パンというものだ。

勘吉はギャルの二人の肩に手をまわし、こちらに絡んでくる。

 

「どこの山奥から来たのか知らないけどさ、あんま俺の街で調子こいてっと殺すよマジで」

 

しかし、母ちゃんは勘吉を見て志乃にコソコソと話していた。

 

「アレあの人、足短い」

 

「ファッションだコラァァァァ!!」

 

しかも、運悪く?勘吉に聞こえていた。銀時は面倒事はこれ以上ゴメンと、そそくさと退散しようとする。

 

「すいません。田舎者なんで勘弁してください。ちょっ、忙しいんで俺達はこれで」

 

「母ちゃんいい加減にしなよ。アレはね、今江戸で流行の足の短さを誤魔化すファッションでね……」

 

「オメーが一番失礼なんだよ!!」

 

コソコソと話す志乃の声が聞こえていたらしい。キレた勘吉と連れの男が、こちらへ飛びかかってきた。

 

「コルァァ待てや!!マジなめてっと、ババアだろーとメスガキだろーと容赦しねーっ……」

 

志乃は母ちゃんを守ろうと庇うが、その前に銀時が二人のズボンを引っ張り上げる。

 

「オイ。忙しいっつったの聞こえなかったか坊主共。なァオイ。足袋でも袴でもルーズにキメんのは結構ですけどね、ババアや女の子に手ェあげるたァどういう了見だィお兄ちゃん達」

 

そしてそのまま男達の体ごと、ズボンを引き持ち上げた。

 

「足袋はルーズでもさァ、人の道理はキッチリしやがれェェ!!」

 

「「ぎゃあああ!!」」

 

コンクリートの地面に頭を叩きつけられた男達は、その一撃で伸びかけていた。それに構わず、銀時はズボンを引っ張り上げる。

 

「オラァァァズボンを上げろォォ!ボケがァァァ!」

 

「足袋を上げろォォ!」

 

「そんなんで足が細く見えるかボケェェェ!!」

 

絡んできた勘吉らを、倍にして絡み返した銀時と母ちゃんと志乃。そこに、鶴の一声がかかった。

 

「その辺にしておきたまえよ!勘吉、こんな所で何をやっているんだ君は」

 

「狂死郎さん!!」

 

志乃がそれに振り返ると、容姿端麗な男と八郎が立っていた。八郎はズンズンとこちらへ歩み寄ってくると、不意に勘吉を蹴り飛ばした。

 

「このボケがぁぁぁぁ!!下っ端とはいえウチの店に勤めてるモンが、狂死郎さんの顔に泥を塗るようなマネしやがってェ!!」

 

え?何?どーいうこと?

頭の中で疑問が尽きない銀時は、ポカンとして八郎が勘吉を蹴りつけるのを見ていた。

そんな彼に、志乃はポソッと耳打ちする。

 

「あの男……本城狂死郎だよ。かぶき町No. 1ホストの」

 

「知ってんのか?」

 

「そんな話を小耳に挟んだことがあってね。実際に顔見たのは初めてだけど……」

 

腕組みをしながら成り行きを見守っていた志乃は、再び狂死郎と八郎に目を向ける。

 

アレ……?ホストって何だっけ?

えーと、選ばれたイケメンのみがなれ……ん?ホスト?……アレ?ホスト?これ……ホスト?ホスト⁉︎

母ちゃん(コレ)の、息子(アレ)が……。

 

「「ホストぉぉぉ!?」」

 

突如、銀時と志乃が同時に狂死郎と八郎を指さして叫ぶ。どうやら、ずっと同じことを考えていたらしい。

呆然としてから、新八と神楽を見る。二人は黙って、コクコクと頷いていた。

銀時達に気付いた八郎が、話しかけてくる。

 

「ウチのモンが迷惑かけて大変申し訳ない。お怪我はありませんか?」

 

「ああ、平気だよこんなモン」

 

「是非お詫びがしたいので、ウチの店へ来てくださいませんか?俺達の城、高天原(たかまがはら)へ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。