銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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人は打ち解けていくうちに本性をさらけ出すもの

スナックお登勢にて。

 

「おかわりヨロシ?」

 

神楽は、何杯目になるか分からない空の茶碗をお登勢に突き出した。

 

「てめっ何杯目だと思ってんだ。ウチは定食屋じゃねーんだっつーの。ここは酒と健全なエロを嗜む店……親父の聖地スナックなんだよ!!そんなに飯食いてーならファミレス行ってお子様ランチでも頼みな!!」

 

「ちゃらついたオカズに興味ない。たくあんでヨロシ」

 

「食う割には嗜好が地味だな、オイ!!ちょっとォ!!銀時!!何だいこの娘!!もう5合も飯食べてるよ!!どこの娘だい!!」

 

お登勢が怒鳴りながら銀時と新八を見やる。二人は随分とげっそりとしていた。

 

「5合か……まだまだこれからですね」

 

「もうウチには砂糖と塩しかねーもんな」

 

「なんなんだいアイツら。あんなに憔悴しちまって……ん?」

 

お登勢は視線を銀時たちから神楽に向けると、神楽は炊飯器を掻き込みながら米を食らっていた。

 

「ってオイぃぃぃ!!まだ食うんかいィィ!!ちょっと誰か止めてェェ!!」

 

「バーさんうるさい。よォ銀」

 

お登勢の叫びを一蹴して、志乃が扉を開けてやってきた。その手には、パンの耳が大量に入った袋が握られている。

 

「大丈夫かアンタら……随分やつれてっぞ」

 

「うるせー……ギリギリ生きてるから無事だよ」

 

「志乃ちゃんの差し入れが仏様の餞別に思えてくるよ……」

 

「大げさだよ」

 

パンの耳を受け取った新八が、涙を拭う。志乃が彼らにならってソファに座ると、お登勢が隣に座った。

そこに、赤髪の従業員がお登勢に近寄ってきた。

 

「お登勢さ〜ん。表の掃除、終わりましたァ」

 

「ああ、ありがとね瀧」

 

瀧と呼ばれた女ーー三島瀧は、お登勢の隣に座る志乃を見ると、目を見開いた。

 

「あっ、志乃」

 

「おっ、お疲れタッキー」

 

「?タッキー、志乃ちゃんと知り合いアルか?」

 

神楽が尋ねると、お瀧の代わりに志乃が答えた。

 

「そうだよ。私の経営する万事屋の従業員さ」

 

「志乃ちゃんにも従業員がいるんだね」

 

「まあね」

 

志乃はそう言い切り、頬杖をつく。

神楽がお瀧にジュースを要求する横で、銀時はお登勢に神楽のことを説明した。

 

「へェ〜じゃあ、あの娘も出稼ぎで地球(ここ)に。金欠で故郷に帰れなくなったところをアンタが預かったわけ……バカだねぇ、アンタも。家賃もロクに払えない身分のクセに。あんな大食いどうすんだい?言っとくけど家賃はまけねぇよ」

 

「俺だって好きで置いてる訳じゃねぇよ、あんな胃袋拡張娘」

 

そう言った次の瞬間、銀時の頭にグラスがクリティカルヒットする。

投げたのはもちろん神楽だ。

 

「なんか言ったアルか?」

 

「「「「言ってません」」」」

 

十代で脅しなんてどこで覚えたのだろうか。親の顔が見てみたいものだ。

銀時がグラスをぶつけられた箇所を摩りながら顔を上げると、タオルが差し出された。

 

「アノ、大丈夫デスカ?コレデ頭冷ヤストイイデスヨ」

 

「あら?初めて見る顔だな。新入り?」

 

「ハイ。今週カラ働カセテイタダイテマス。キャサリン言イマス」

 

「キャサリンも出稼ぎで地球(ここ)に来たクチでねェ。実家に仕送りするため頑張ってんだ」

 

「へぇ〜エライねェ。どっかの誰かさんなんて自分の食欲満たすためだけに……」

 

今度は志乃が言い切る前に、グラスが頭にヒットした。投げたのは以下省略。

 

「なんか言ったアルか?」

 

「「「「言ってません」」」」

 

「ああー!志乃ー!」

 

デジャブな光景が広がる中、お瀧の声が店に響く。突然、店の扉が開いた。

 

「すんませーん。あの、こーゆもんなんだけど、ちょっと捜査に協力してもらえない?」

 

手帳を見せながら入ってきたのは役人だった。これは刑事ドラマでよくある、聞き込みシーンというところだろうか。

店に入り込んできた役人に、お瀧が尋ねる。

 

「なんかあったんですか?」

 

「うん、ちょっとね。この辺でさァ店の売り上げ持ち逃げされる事件が多発しててね。なんでも犯人は不法入国してきた天人らしいんだが。この辺はそーゆー労働者多いだろ。何か知らない?」

 

「知ってますよ。犯人はコイツです」

 

銀時がすかさず神楽を指差すが、神楽は真顔で向けられた銀時の人差し指を折った。

 

「おまっ……お前何さらしてくれとんじゃァァ!!」

 

「下らない冗談嫌いネ」

 

「てめェ故郷に帰りたいって言ってたろーが!!この際強制送還でもいいだろ!!」

 

「そんな不名誉な帰国御免こうむるネ。いざとなれば船にしがみついて帰る。こっち来る時も成功した。何とかなるネ」

 

「不名誉どころかお前ただの犯罪者じゃねーか!!」

 

「酸素もない状態でよく地球に来れたね」

 

志乃のポツリと呟いた言葉が死ぬほどどうでもいい。彼らがギャーギャー騒ぐのを見て、役人は呆れたように言う。

 

「……なんか大丈夫そーね」

 

「ああ、もう帰っとくれ。ウチはそんな悪い娘雇ってな……!?」

 

スナックお登勢の外で、エンジン音が聞こえる。

見ると、銀時の原チャリに何やらたくさんの荷物を乗せたキャサリンが、原チャリのエンジンをかけていた。

 

「アバヨ、腐レババア」

 

キャサリンはそう吐き捨てると、原チャリを発進させ逃げていった。

 

「まさかキャサリンが……」

 

「お登勢さん!!店の金レジごと無くなっとるで!!」

 

お登勢が店の扉ごしに去りゆくキャサリンを見る。お瀧がレジが無くなっていることをお登勢に知らせると、銀時、神楽、志乃もあることに気付く。

 

「あれ、俺の原チャリもねーじゃねーか」

 

「あ……そういえば私の傘も無いヨ」

 

「私のバットも……」

 

盗まれた、と悟った3人は、揃ってキャサリンの後ろ姿を見つめた。

そして次の瞬間、怒りを露わにして叫んだ。

 

「あんのブス女ァァァァァ!!」

 

「血祭りじゃァァァァ!!」

 

「ぶちのめしたらァァァァァ!!」

 

怒りに狂った三人は、新八と役人が止めるのも聞かずにパトカーに乗り込み、車を発進させた。それを、お登勢とお瀧が眺めていた。

 

「……どうしますん?お登勢さん」

 

お瀧の質問に、お登勢が答えることはなかった。

 

********

 

車に乗り、キャサリンを追う三人を、新八が宥めようとする。だが、三人はまったく聞く耳を持たない。

それでも、新八は説得しようとした。

 

「ねェ!とりあえず落ち着こうよ三人共。僕らの出る幕じゃないですってコレ。たかが原チャリや傘やバットでそんなにムキにならんでもいいでしょ」

 

「新八、俺ぁ原チャリなんてホントはどーでもいいんだ。そんなことよりなァ、シートに昨日借りたビデオ入れっぱなしなんだ。このままじゃ延滞料金がとんでもない事になるどうしよう」

 

「アンタの行く末がどうしようだよ!!」

 

「あのバットはねェ、伝説のバット職人が作ったと言われる最強のバットなんだよ。めちゃくちゃ高かったんだからな。それを誰かに盗られてたまるか」

 

「第一話でいらないって言ってたじゃねーか!!つーか結局金かい!!」

 

「延滞料金や高額バットなんて心配いらないネ。もうすぐレジの金が丸々手に入るんだから」

 

「お前はその綺麗な瞳のどこに汚い心隠してんだ!!」

 

下らない理由にここまでやるのか。猪突猛進に突き進む人とは真に恐ろしいものである。

そして、新八がここで重要な事を思い出す。

 

「そもそも神楽ちゃん免許もってんの!なんか普通に運転してるけど」

 

「人撥ねるのに免許なんて必要ないアル」

 

「オイぃぃぃ!!ぶつけるつもりかァァ!!」

 

「お前勘弁しろよ。ビデオ粉々になるだろーが」

 

「バット折れたらどーしてくれんのさ」

 

「オメーらはビデオとバットから頭離せ!!」

 

流石、ツッコミ要員は的確かつ迅速なツッコミを入れてくる。

そうこうしているうちに、キャサリンに追いついた。キャサリンは振り切ろうと、路地に入る。

 

「ほァちゃああああ!!」

 

アメリカ映画さながらのドライビングテクニックを見せる神楽。家の壁が壊れてもお構いなしに突き進む。

 

「オイオイオイオイ」

 

「何かもうキャサリンより悪い事してんじゃないの僕ら!!」

 

「死ねェェェアルキャサルィィィン!!」

 

猛スピードでキャサリンに突っ込もうとしたその瞬間、車は路地から出た。その先には川が流れていた。志乃達を乗せていたパトカーは、川に落ちてしまう。ちなみにキャサリンは傍に曲がっていて、無事である。

キャサリンは余裕の表情で、川に落ちたパトカーを見下ろしていた。

 

「そこまでだよキャサリン!!」

 

原チャリを動かそうとしたキャサリンを制止する声が聞こえた。

声の主をキャサリンが見ると、橋の上にお登勢が立っていた。

 

「残念だよ。あたしゃアンタのこと嫌いじゃなかったんだけどねェ。でもありゃあ、偽りの姿だったんだねェ。家族のために働いてるっていうアレ、アレもウソかい」

 

「……オ登勢サン……アナタ馬鹿ネ。世話好キ結構。デモ度ガ過ギル。私ノヨウナ奴ニツケコマレルネ」

 

「こいつは性分さね、もう直らんよ。でも、おかげで面白い連中とも会えたがねェ。ある男はこうさ。ありゃ雪の降った寒い日だったねェ」

 

********

 

ーーあたしゃ気まぐれに旦那の墓参りに出かけたんだ。

お供え物置いて立ち去ろうとしたら、墓石が口ききやがったんだ。

 

「オーイババー。それまんじゅうか?食べていい?腹減って死にそうなんだ」

 

「こりゃ私の旦那のもんだ。旦那に聞きな」

 

そう言ったら、間髪入れずそいつはまんじゅう食い始めた。

 

「なんつってた?私の旦那」

 

********

 

「そう聞いたらそいつ何て答えたと思う。死人が口きくかって。だから一方的に約束してきたって言うんだ」

 

お登勢の言葉も聞かず、キャサリンはお登勢に向かって原チャリを走らせる。

それでも、お登勢は動かなかった。代わりに、口を動かしていた。

 

「この恩は忘れねェ。アンタのバーさん……老い先短い命だろうが、この先はあんたの代わりに俺が護ってやるってさ」

 

銀時は川から飛び出し、キャサリンの背後から木刀を振り上げた。

 

********

 

銀時の活躍により、キャサリンは無事逮捕され、盗まれた物も帰ってきた。

現場には、店番を任されたはずのお瀧もやってきた。逮捕されたキャサリンを眺めながら、銀時は呟く。

 

「仕事くれてやった恩を仇で返すたァよ、仁義を解さない奴ってのは男も女も醜いねェババア」

 

「家賃を払わずに人ん家の二階に住みついてる奴は醜くないのかィ?」

 

「ババア、人間なんてみんな醜い生き物なのさ」

 

「何か崇高な目的を掲げても、力のある物に目が眩んじまうもんだよ」

 

「アンタら言うとることメチャクチャやで!」

 

銀時と志乃の発言に、お瀧がツッコミを入れる。お登勢は煙草を吹かしながら、溜息をついた。

 

「まァいいさ。今日は世話んなったからね。今月の家賃くらいはチャラにしてやるよ」

 

「マジでか?ありがとうババア。再来月は必ず払うから」

 

「なに、さりげなく来月スッ飛ばしてんだ!!」




タッキー誕生のお話。元よりオリジナルで考えていた「銀狼」のお話で、主人公の霧島志乃の仲間として生まれました。舞台は幕末〜明治あたりだったのですが、何故か初期設定では弓矢を扱ってました。忍者になったのはもうちょい後。髪型は全く変わってません。また、性格は今よりもっとヤンチャな感じで、志乃よりも年下でした。

次回、テロリストと警察の争闘に巻き込まれます。
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