屋根の雨漏り修理が終わり、志乃は新八と共に依頼主から報酬を貰っていた。少し分厚い封筒に、彼らの心も踊る。
「おおっ、結構貰ったね〜」
「姉上にハーゲ◯ダッツでも買って帰ろっかな」
「私も団子買って帰ろーっと」
二人肩を並べて廊下を歩いていると、障子の奥から聞き慣れた声と、ガタガタという物音が聞こえてきた。
ふとそちらに目をやると、障子が開いている。そこには、お妙と白い服を着たポニーテールの眼帯少年がキスをしている光景が広がっていた。
それを目にした二人は、思わず固まった。彼らにお妙と少年が気付き、こちらに視線を投げる。
シンとした静かな部屋に、ししおどしが石を叩く音が響いた。
「し……新ちゃん、志乃ちゃん。ち、違うの‼︎新ちゃん、これは……」
お妙が必死に弁明しようとするが、次の瞬間、新八は机を吹き飛ばす勢いで少年の服を掴んで詰め寄った。
「何やっちゃってんのォォォォ‼︎お前らァァァァ‼︎貴様ァァァァ‼︎嫁入り前の姉上に何してんだァァァァ‼︎」
「新ちゃん!」
しかし、少年は冷静に新八を見つめる。
「新八君か。相も変わらず姉離れが出来ていないらしい」
すると、少年は新八の足を払い、そのまま投げ飛ばした。
「いい加減君も、強くなったらどうだ」
「新八⁉︎」
「新ちゃん!」
お妙が倒れた新八に駆け寄ると、少年は彼を見下ろして言う。
「別れの時だ。君がそんな事では、妙ちゃんも心配で家も出られんだろう」
「‼︎アンタ……‼︎九兵衛さん……柳生九兵衛さんか」
この少年ーー柳生九兵衛は、新八らの知り合いらしい。しかも彼は、何やらお妙を連れて行こうとしている。
いくら勘の働く志乃でも、これ以上は何もわからなかった。
「いきなり現れて何言ってんだ‼︎家を出るって一体どういう……」
「そういう意味さ。君は知らんのかもしれんが、僕と妙ちゃんは幼い頃、夫婦になる誓いを共に立てた。
「はァ⁉︎何言ってんだ!幼い頃誓ったって、そんな子供の約束……ねェ⁉︎姉上」
新八がお妙を見やるが、彼女は俯いたまま、沈黙を貫いていた。
「姉上!何で何も言わないんですか⁉︎」
「…………新ちゃん。ごめんなさい、私……」
ポツリと謝罪の言葉を呟いたお妙は、立ち上がって九兵衛の元へ歩み寄る。
「姐さん、ちょっと」
今まで成り行きを見守っていた志乃が、遂にお妙に手を伸ばす。
その時、障子を突き破って銀時と神楽、そして何故か近藤が部屋の中へ転がり込んできた。
何やらもめている様子だったが、すぐにこちらに気付き、お妙を見上げる。
「アレ⁉︎お妙さん!」
「アレ、何コレなんかマズイトコ入ってきた?」
「アネゴ‼︎こんな所で何やってるアルか⁉︎」
彼らを見たお妙は、悲しげな目を向けていたが、その目には涙が溜まっていた。
「……みんな、さようなら」
背を向けたお妙に銀時が手を伸ばすが、部屋の天井を破壊しながら何かが入ってきた。
何だろう?とそれを振り返る志乃。そこには着物を着た、まごう事なきゴリラがこちらへ進撃していた。
「ぎゃああああああああ‼︎ゴリラァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」
小鳥達が呑気にチュンチュンと
********
あれから数日。志乃はソファに寝転がり、雨が降りしきる窓の外を眺めながら、溜息を吐いた。
あの時見た、お妙の涙が忘れられない。結婚とは本来、お互いが共に幸せになれるものではないのだろうか?それなのに、何故お妙は泣いていたのか。
「志乃」
向かい合わせのソファに、お瀧が座る。待ってましたとばかりに、志乃はガバッと跳ね起きた。
「何かわかった?柳生家のこと」
「わかったも何も、あんな有名なトコ潜入するまでもあらへんやろ」
あれから帰宅した志乃は、すぐにお瀧に柳生家のことを調べさせた。
普段はスナックで働くキャバ嬢である前に、最恐の忍であるお瀧は、もちろん諜報活動も得意としている。
その力を使い、柳生家のことについて調べてもらったのだ。
簡単だった、と溜息を吐くお瀧は、柳生家について語り始めた。
「柳生家っちゅーのはな、かつては将軍家の剣術指南役を仰せつかっとった名家や。天人が来てから剣術は廃れる一方やゆーのに、その華麗な技学ぶため、未だに門叩く
「へー、すごいトコなんだね」
「せや。ま、簡単に言うたらセレブっちゅーヤツやな。んで、これの次期当主が、柳生九兵衛や」
そう言いながら、お瀧は九兵衛の写真を机に置いた。
それを覗き込み、間違いなく先日出会った少年だと確認する。
お瀧はさらに続けた。
「この九兵衛っちゅーガキはなんや神速の剣の使い手やいうて、柳生家創始以来の天才とか呼ばれとるらしいで。……せやけど信じられへんわァ。あのモンスター女が、次期柳生家当主と幼馴染で許嫁とはなァ……」
欠伸をして、ソファに凭れかかるお瀧。
お妙は確か、剣術道場の娘。その娘が柳生家の次期当主に嫁ぐとなれば、玉の輿だろう。
でも、それなのに何故彼女は涙を流し、さよならを告げたのだろうか。
天井を見上げた志乃は、フウッと大きな溜息を吐いて、立ち上がった。玄関で草履を履き、金属バットを腰に挿す。
「どこ行くの?外雨だよ?」
「ちょっと散歩。雨の日の散歩ってのも、なかなかオツなもんだよ」
時雪にそう言ってニッと笑うと、扉を開け笠を被り、外へ出た。
********
「あっ。銀、神楽」
「あっ。志乃ちゃんアル」
柳生家の階段の前、志乃は銀時と神楽の姿を見つけた。
その反対側を見やると、何故か土方と沖田が歩いてくる。
「……みんな揃って何やってんの」
「新八が昨日から来てなくて、様子見に来たアル」
「俺は柳生に借りがあるからな。それを返しに来ただけだ」
「ふーん」
興味無さげに肩を竦めた志乃は、階段を上っていった。それに続き、銀時達も上がってくる。
「オイてめっ、俺達は話したっつーのにお前は話さねーってかよ。オイコラ、お前何しに来た」
「天下の柳生流」
ポツリと呟き、銀時を振り返って口角を上げてみせる。
「ソイツがどんなもんか、腕試しに来た」
「はァ?」
「オイオイ、俺達は遊びで来てんじゃねーんだぞ。邪魔するならとっとと帰れクソガキ」
「安心しな。邪魔なんざしねーよ」
階段を上りきると、閉ざされているはずの門が解放されていた。その中から、怒号やら何やらが飛び交う。何やら騒ぎが起こっているようだった。
そこでは、新八と近藤が、大勢相手に戦っていた。
その内の見知らぬ一人を、銀時と志乃が同時に吹っ飛ばした。
「わりーな、二人じゃねェ」
「新八、今日から私らも門下だよ。何つったっけ、天然パーマ流だった?」
「銀さん‼︎神楽ちゃん‼︎志乃ちゃん‼︎」
「お前ら‼︎」
どうしてこんな所に、と語らう間も無く、柳生家の門下達が一斉に襲いかかってきた。