「そうか、総悟がやられたか。クク……いい気味だ」
そう言って咥えた煙草ーー否、おもちゃ花火に火をつける土方。先程の戦いでダメージを負い、頭から血をダラダラ流していた。
気付いていないのか、新八がツッコミを入れる。
「土方さん……それ煙草じゃないです。どっから拾ってきたんですか?」
「ダメだ。出血が酷くてロクに物事を判断出来ないらしい」
志乃が新八の肩に手を置いて、ふるふると「手遅れだ」とでも言うように首を横に振った。
現在、志乃達は厠の茂みに隠れていた。近藤は厠に行き、戦えるのは志乃のみ。
しかし、三下の北大路でさえ土方にあれほどの苦戦を強いたのだ。上の九兵衛やその大将を相手取るとなると、先が思いやられる。
さらにこの広い屋敷内では連絡の手段もなく、銀時や神楽がどうなっているのか全くわからない状況だ。こちらが優勢なのか劣勢なのかも判断がつかない。
その時、茂みの向こうから気配を感じた。
しかも、二人。九兵衛と東城だ。志乃は気配だけで、それを察した。
未だ花火を咥える土方も気配に気付いたらしく、茂みの中から様子を伺っていた。
彼らは、こちらへ真っ直ぐ向かってくる。
「どういうこった?何で俺達の居場所が……」
「オメーがその口に咥えてるものを見ろ!」
新八の指摘通り、茂みの中でバチバチと火花が飛んでいれば、いやでも目立つ。
今の状況では確実に負ける。そう判断した土方は、二人を促して逃げようとした。新八は厠の扉を叩き、近藤を呼ぶ。
「近藤さん何やってんスか⁉︎早く‼︎出てきて下さい、逃げますよ!」
しかし、全く返事がない。
「アレ?先に逃げちゃったかな」
「新八、行くよ!」
土方が先行し、それについていく形で志乃と新八もその場から脱した。
しかし、この時彼らは知らなかった。
近藤だけでなく銀時までもが、極限のピンチに見舞われていたことをーー。
********
森の中に逃げ込み、ひたすら走る。それに並走するように、九兵衛が追いかけてくる。
「何なのアイツ!やたら足早ェじゃん!」
「こいつァ逃げ切れるもんじゃねーな」
ボソッと呟いた土方は、ブレーキをかけ立ち止まる。
「行け」
「土方さん!」
「お前っ……」
それに気付いた新八と志乃も、立ち止まって土方の背中を見た。土方は血を拭い、呼吸を整える。
「心配すんな、テメーのためじゃねーよ。言ったろ、俺ァ喧嘩しに来ただけだ。オメーがやられたら、この喧嘩負けなんだよ」
新八を振り返らず、土方は続ける。
「…………姉貴に会え。たとえこの勝負に勝とうが、てめーの姉貴の気持ちが動かねーようなら、連れ戻すことなんざ出来やしねーよ」
「オイ待てコラ」
ガッと土方の肩を、志乃が強く掴む。
「手負いの野郎に任せられっか。私がやる、お前は下がれ」
「うるせえクソガキ。邪魔すんな」
「なっ……」
志乃の手を払い、土方は懐から煙草を取り出した。
「志乃、お前はアイツを護れ。もうお前しかいねーんだ。頼んだぞ」
「……………………チッ」
これだから男ってのは。
呆れた志乃は、舌打ちをした。
「……わーったよ。テメー、終わったら団子一皿奢れよ」
勝てなくても、足止めくらいなら出来る。その覚悟の上だろう。
志乃はビシッと土方の背中に指をさして、新八を促す。新八もマヨネーズを奢ると約束して、駆け去っていった。
苛立ちが抑えきれないのか、志乃はもう一つ舌打ちをする。
「あー、マジムカつく。これだから男ってのは嫌いなんだ。特にやたら負けず嫌いな野郎は」
「志乃ちゃん……」
「…………とにかく、姐さん迎えに行くよ。こっち」
「え?ちょ、ちょっと待って!志乃ちゃん姉上の居場所知ってるの⁉︎」
突っ走る志乃に並んで、新八が尋ねる。駆ける足を止めずに、志乃は首を横に振った。
「んーん、知らない」
「はァ⁉︎」
「こんなもんは勘でなんとかなるんだよ!ってことでこっちだー!」
「待てェェェ‼︎勘でなんとかなるかァァ‼︎こっちは
一旦止まって考えよう!と提案する新八だが、志乃は聞く耳持たず、さらにスピードを上げた新八を肩に担いだ。
あまりにもナチュラルな一連の動作に、新八は目を丸くする。
「え?」
「任せな。私の勘は当たるんだ。それこそビリー・ザ・キッドの早撃ち並みに当たるんだぜ」
「随分妙な喩えだな!意味わかんねーよ!」
新八のツッコミも全て聞き流し、志乃は再びスピードを上げた。