この日、志乃は銀時たちにパンの耳と農家の知り合いが作った売れ残りの米をおすそ分けするため、スクーターを走らせていた。
今日も志乃の店では各々が仕事に向かっており、志乃一人がヒマだった。
スナックお登勢に近付くと、何やら大きな音がした。
見てみると、飛脚が事故を起こしてスナックお登勢に突っ込んだらしい。
店の外では、お登勢とお瀧が飛脚の胸倉を掴んでいた。
「くらあああああ!!ワレェェェェェ!!人の店に何してくれとんじゃァァ!!」
「てめー、ここを何や思とんねん!!死ぬ覚悟できとるんやろーな、アアン!?」
「ス……スンマセン。昨日からあんまり寝てなかったもんで」
「よっしゃ!!今永遠に眠らしたらァァ!!」
「アンタが欲しかった睡眠やで、感謝しィや!!」
「ハイハイ、お登勢さんタッキー落ち着け!怪我人相手にさらなる怪我を増やしてやるな」
怒り狂うお登勢とお瀧を、志乃が止める。騒ぎに気付いた銀時達も降りてきて、飛脚の元に駆け寄った。
「……こりゃ酷いや。神楽ちゃん、救急車呼んで」
「救急車ャャァアア!!」
「誰がそんな原始的な呼び方しろっつったよ」
新八の要求に神楽が応えるが、当然だが空に向かって叫んだところで救急車はいつまで経ってもやって来やしない。手紙を拾う銀時に、飛脚が小包を差し出した。
「これを……俺の代わりに届けてください……お願い。なんか大事な届け物らしくて、届け損なったら俺……クビになっちゃうかも。お願いしまっ……」
それだけ言うと、飛脚は力尽きて倒れてしまった。
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こうして、銀時達と志乃が、小包を飛脚の代わりに届けることとなった。
住所通りに歩くと、たどり着いた場所は戌威大使館だった。戌威族とは、地球に最初に来た天人だ。かつて、江戸城に大砲をブチ込み、この国を無理やり開国させた恐ろしい国である。
銀時達が大使館の周りをうろちょろしていると、戌威族の警備員に見つかった。
「こんな所で何やってんだてめーら。食われてーのか、ああ?」
「いや……僕ら届け物頼まれただけで」
「オラ、神楽早く渡……」
銀時が神楽を見やると、神楽はしゃがんでくいくいと手を差し出していた。
「チッチッチッおいでワンちゃん、酢昆布あげるヨ」
すかさず、銀時が神楽の頭をスパンと叩く。小包は、神楽の代わりに志乃が手渡そうとした。
「届け物がくるなんて話きいてねーな。最近はただでさえ爆弾テロ警戒して厳戒体制なんだ。帰れ」
「ドッグフードかもしれないよ。貰っときなよ」
「そんなもん食うか」
「え!?食べないの!?」
衝撃の事実に驚愕する志乃。小包は見事はね飛ばされ、大使館の塀の中、つまり敷地内に落ちた。
次の瞬間、小包が爆発して門を破壊した。爆風が巻き起こる中、彼らの危険信号が静かに作動する。
「……なんかよくわかんねーけど、するべきことはよく分かるよ」
「逃げろォォ!!」
「待てェェテロリストォォ!!」
逃げるが勝ち。しかし犬に捕まった新八は、逃げようとする銀時の手を掴み、銀時は志乃の手を掴み、志乃は神楽の手を掴んだ。電車のように仲良く連結しているが、会話はあまり仲が良さそうとは言えない。
「新八ィィィ!!てめっどーゆーつもりだ離しやがれっ」
「嫌だ!!一人で捕まるのは!!」
「寂しがるなよ!!俺の事は構わず行けとか……そんなカッコいい台詞も言えねーのか!!」
「私に構わず逝ってみんな」
「ふざけんなお前も道連れだ」
そんなことをしている間に、犬がさらに仲間を呼んでくる。最悪だ。取り敢えず最悪だ。この歳で手錠にお世話になるとか論外だ。
このままでは確実に全員捕まる。そう覚悟した次の瞬間、錫杖を手にし、笠をかぶった男が犬の頭の上を渡り歩いてきた。
新八の手を掴んだ犬も踏みつけ、着地した男は笠を脱いだ。
「逃げるぞ銀時、志乃」
「おまっ……ヅラ小太郎か!?」
「え!?ヅラ小五郎兄ィ!?」
「ヅラじゃない桂だァァ!!それと小五郎は元ネタの名前だァ!!」
見事二人揃って本名を呼ばれなかった男ーー桂小太郎は、アホ兄妹にアッパーカットを食らわせた。
「てっ……てめっ久しぶりに会ったのにアッパーカットはないんじゃないの!?」
「ちょっと!何かわいい妹分にアッパーカット食らわせてんの!!」
「そのニックネームで呼ぶのは止めろと何度も言ったはずだ!!それと志乃、貴様は相変わらず人の名前一つ、まともに覚えられないのか!?」
覚えられない、というかこの二人の場合は覚えるつもりがないのである。覚えるならもっと別のものを覚える。銀時は当たりやすいパチンコ台を、志乃は近日発売の注目衆道雑誌を。
「つーか、お前なんでこんな所に……」
「話は後だ、銀時。行くぞ!!」
旧友との懐かしい語らい(?)もそこそこに、追われる身である銀時たちは桂と共に逃げ出した。
志乃は逃げている最中誰かの視線を感じていたが、それが誰かという答えも出さずに、とにかく走る事に集中した。
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志乃が感じていた視線。それは、真選組からの目だった。
逃げ惑う銀時たちを見ていた男は、後ろにいる山崎という男に、桂の拠点を調べに行かせた。
自分はというと、煙草を吹かしながら、桂の指名手配のチラシに目を落としていた。
「天人との戦で活躍したかつての英雄も、天人様様の今の世の中じゃただの反乱分子か。この御時世に天人追い払おうなんざ、大した夢想家だよ」
男はそう独りごちながらチラシを丸め、仕事中だというのにアイマスクをして眠りこけている男にチラシを投げ付けた。
「オイ。総悟起きろ」
チラシは総悟ーー沖田総悟の頭に当たり、それで目を覚ましたらしく、むくりと起き上がりアイマスクを外す。
「お前よくあの爆音の中寝てられるな」
「爆音って……またテロ防げなかったんですかィ?何やってんだィ土方さん真面目に働けよ」
「もう一回眠るかコラ」
先程まで仕事中に寝ていた奴が言う台詞だろうか。
土方さんと呼ばれた男ーー土方十四郎は相変わらずの沖田に呆れながらも、言葉を続けながら刀を抜いた。
「天人の館がいくらフッ飛ぼうが知ったこっちゃねェよ。連中泳がして雁首揃ったところをまとめて叩っ斬ってやる。真選組の晴れ舞台だぜ。楽しい喧嘩になりそうだ」
土方は刀に手を添え、ニヤリと笑った。
そんな彼の視界の傍らに、ふと黙々とレタスを食べる男が入った。
「てめーも仕事せずにレタスばっか食ってんじゃねーよ」
「むぐっ!!」
苛立った土方が、男の頭をぶん殴った。
男は喉にレタスを詰まらせてしまい、すぐに水で流し込んだ。
「何するんスか土方さん!!」
「うるせー、仕事サボってレタス貪ってた奴がごたごた言うな。オイ、行くぞ。桂が出たんだ」
「え?ああ……はいはい」
男はレタスの葉を一枚口に入れ、刀を持って立ち上がった。
彼の名は、杉浦大輔。
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桂の手配でホテルに逃げ込んだ銀時たちは、部屋にいた。
テレビでは先程の爆破事件のニュースが報道されており、しかもバッチリ5人共監視カメラに映っていた。ニュースでは、監視カメラに映っていた銀時達を、テロリストと報じていた。
「バッチリ映っちゃってますよ。どーしよ、姉上に殺される」
「テレビ出演……実家に電話しなきゃ」
新八と神楽がテレビを見る横で、銀時は悠々と寝転び、志乃は呑気にせんべいをボリボリ頬張っていた。どんな時でもマイペースを貫く彼らには、危機感というものがないのだろうか。
新八はそんな二人を振り返る。
「何かの陰謀ですかね、こりゃ。何で僕らがこんな目に……唯一桂さんに会えたのが不幸中の幸いでしたよ、こんな状態の僕ら匿ってくれるなんて。銀さん志乃ちゃん、知り合いなんですよね?一体どーゆー人なんですか?」
「んーテロリスト」
「もしくは爆弾魔とも言う」
「はィ!?」
「そんな言い方は止せ」
桂の声と共に、障子が開く。
桂が数人の侍を引き連れて現れた。
「この国を汚す害虫"天人"を討ち払い、もう一度侍の国を立て直す。我々が行うは国を護るがための攘夷だ。卑劣なテロなどと一緒にするな」
「攘夷志士だって!?」
「なんじゃそらヨ」
神楽がせんべいをバリバリ食べながら興味なさそうに尋ねる。
画面の前の皆さんの中には知らない人もいると思うので説明しよう。
攘夷とは、二十年前の天人襲来の際に起きた、外来人を排そうとする思想である。
圧倒的な武力を背景に高圧的に開国を迫ってきた天人に、危機感を感じた侍たちは、彼らを江戸から追い払おうと一斉蜂起したのだ。
だが、国内政治の実権を握る幕府は天人の強大な力に弱腰になり、攘夷思想を持つ侍たちを無視して勝手に天人と不平等条約を締結してしまった。
さらに、幕府の中枢にまで入り込んだ天人たちによって、侍たちは刀を奪われ、無力化された。
その後、主に動いていた攘夷志士たちも、幕府によって大量粛清されたのだった。その中の生き残りが、桂なのだ。
さて、説明も終わったので本編に戻ろう。
新八の説明が終わった所で、銀時と志乃はある事に気付いた。
「……どうやら俺達ァ躍らされたらしいな」
「?」
新八がどういう事か、と視線で問う。
銀時と志乃は、同じ一点を見つめていた。
「なァオイ。飛脚の兄ちゃんよ」
銀時が呼ぶと、そこにはスナックお登勢に突っ込んできた飛脚の姿があった。
「あっ、ほんとネ!!あのゲジゲジ眉デジャヴ」
「ちょっ……どーゆー事っスかゲジゲジさん!!」
新八がゲジゲジを問いただすが、彼は新八たちから視線を逸らした。
その横で、志乃が桂を問いただしていた。
「なるほどね、全部アンタの仕業ってことか。最近ニュースでやってるテロも、今回の騒動も。全てアンタの手引き……桂兄ィ……一体アンタ何考えてんの?」
「たとえ汚い手を使おうとも手に入れたいものがあったのさ」
桂は二人の問いに答えながら、銀時に刀を差し出した。
「…………銀時。この腐った国を立て直すため、再び俺と共に剣をとらんか。白夜叉と恐れられたお前の力、再び貸してくれ」
桂小太郎。私はこの「銀魂」キャラの中で、彼は最も偉人の名前と間違えやすい人物だと思っています。
桂小太郎のモデルとなった桂小五郎は、長州出身であの吉田松陰の弟子。
医者の家に生まれましたが、武士の家に養子に出されてます。理由は身体が弱かったからと言われていますが、この人、悪戯で川を行き来する船をひっくり返したことがあるとか。
いやいや、悪戯ってレベルじゃねーよ、コレ。まぁ、悪戯好きな子供は頭の回転も速いもので、桂はとても頭のいい人だったそうです。
嘘だろ……?と思ったそこの貴方。私もそう思いました。あの桂が……?って。
ま、彼に関しては色々語ることも多そうなので、また別の機会に回したいと思います。
お付き合いありがとうございました。