普段着飾らない人がオシャレするとめちゃくちゃ可愛くなってすごく驚く
ピンポーン
万事屋志乃ちゃんの店内に、無機質な音が響く。中であやとりをしていた志乃は、紐を机の上に置いて扉を開けた。
「こんにちは」
「あれ?九さん、それに東城さんも」
扉の前に立っていたのは、九兵衛と東城だった。九兵衛は片手に紙袋を提げている。
志乃は取り敢えず彼らを中に入れ、客間に通し、茶を持ってくる。
「久しぶりだな、志乃ちゃん」
「うん、久しぶりだね」
あの後志乃は度々柳生家に訪れ、稽古に飛び入り参加したり、試合をしたりした。特に九兵衛とはあれから仲良くなり、「九さん」とあだ名で呼ぶほどの仲になった。
今ではたまに、お妙と三人で遊びに行くこともある。
茶を飲んで、志乃は九兵衛に尋ねた。
「で、どうしたの?」
「ああ。志乃ちゃんが万事屋を営んでいると聞いていたから、依頼をしてみようかと思ってな」
「依頼?」
「妙ちゃんの店まで案内してくれないか?」
依頼、と言われ構えていた志乃だが、その内容はただの道案内だった。思わず、ポカンとしてしまう。
「…………」
「無理か?」
「いや、無理じゃないけどさ……」
「報酬の方なら心配いらんぞ。先払いか?」
「いや、あのさ、別にたったそれだけで報酬なんて……」
彼女の言葉に耳を傾けず、ドンと一万円の札束を机に置く九兵衛。
ただの道案内でこんなに金くれるってどんだけ気前いいんだ。流石セレブ。
しかし、道案内だけで金を取るわけにはいかない。志乃は苦笑を浮かべつつ、金を返した。
「こんなにいいよ、九さん。たかが道案内で」
「しかし、何でもやるのが君の仕事なのだろう?なら、それに見合った報酬を出すのは当たり前だ」
受け取れ、と札束を手で示す九兵衛。しかし、頑固さなら志乃も負けない自信があった。
「九さん、私の店ではね、初依頼のお客さんは依頼料が無料になってるの。だから、いいよ」
ニコッと笑顔を浮かべて、札束を返す。もちろん、言っていることは嘘だ。しかし、ただの道案内で、友達からこんな大金は頂けなかった。
九兵衛はなかなか食い下がらなかったものの、最終的には折れ、今回は無報酬の仕事となった。
「それじゃ、早速行こうか」
********
スナックすまいる前。店のドアを開けて、中に入る。
「すいませーん」
志乃が店の中に呼びかけながら席の並ぶ場所へ向かうと、そこには何故かお妙と店長の他に銀時、新八、神楽がいた。
彼らの姿を認めて志乃は足を止めるが、何も知らない九兵衛と東城は彼女の元まで歩いてくる。
「あの、妙ちゃんはおられるか?差し入れを……」
「九ちゃん!志乃ちゃんも」
こちらに気付いたお妙達がソファから立ち上がり、駆け寄ってくる。
「何?何かお取り込み中だった?っていうか何でアンタらがいるの?」
志乃が銀時に尋ねるも、突如彼は志乃の肩をガシッと掴み、顔を近づけた。そして、いつもの死んだ魚のような目で見つめてくる。
「……急に何」
「志乃。お前に頼みがある」
「やだ」
「………………」
まだ内容も言っていないのに、あっさり拒絶された。その隣で、お妙が九兵衛の手を引いて、控え室に向かっていた。
********
控え室に連行された九兵衛は、理由が何か全くわからないまま、着替えさせられた。九兵衛は膝上10㎝以上の可愛らしい着物に身を包み、ポニーテールにしている髪を一度下ろし、ツインテールにした。
普段の姿から一転したあまりの美少女っぷりに、お妙と店長は、思わず歓声を上げる。
「九ちゃんカワイイ‼︎」
「いいよコレ、スゴイいいよこの娘‼︎」
しかし、その後ろで東城が彼らに突っかかる。それを銀時と新八、志乃が押さえていた。
「貴様らァァァァ!若に何をしているかァァ‼︎」
「待て、落ち着け東城さん」
「ちょっと色々ワケがあって、あの……」
「ちょっとだけだから力貸してください!すいまっせんホントすいまっせん!」
「ふざけるなァ‼︎貴様らも知っているだろう‼︎若は……若は……ゴスロリの方が似合うぞ‼︎」
その瞬間、東城の顎に九兵衛のキックが炸裂する。
血を吐いて倒れた彼を見下ろしてから、新八を振り返った。
「ねェ、どういうこと?何がどうなってんの?」
「実は、その……」
九兵衛とお妙が何やら話している隣で、新八から事情を聞いた。
なんでも、今日この店に松平の知り合いであり、幕府の重鎮が来るという。しかし店では夏風邪が蔓延してしまい、キャバ嬢はお妙のみ。そこで急遽、メンバーを集うことになったのだ。
なるほど、と頷いてから、志乃は鏡の前に座って化粧をする神楽を見る。
「さっき銀さん、志乃ちゃんにも手伝ってくれって言いたかったんだよ」
「ふーん。やだ」
「結局答え同じかい!何で⁉︎」
「だって私、可愛くないし」
肩を竦めてあっさり言い放った言葉に乗せて、続ける。
「私オシャレも何も出来ないし、着飾ってもそんな可愛くならないよ。銀、悪いけど他あたって。ギャルソンくらいならするから」
銀時を振り返って改めて断ろうとしたが、そこに銀時の姿がないのに気づく。
「アレ?銀?」
キョロキョロと辺りを見回して探すと、銀時が襖に突き刺さっていた。
「……何してんの、新しい遊び?」
「こんなくだらねー遊び、中二でも思いつかねーよ」
どうやら抜けられないらしく、仕方なく引っ張って抜け出すのを手伝ってやる。銀時を救出したところで、改めて断る。
「銀、私キャバ嬢はやらないから。それ以外の手伝いなら……」
「やってくれるか、志乃。それでこそ侍だ」
「やらねーっつってんだろ!人の話聞けや!」
「よし、向こうで何かしらテキトーに着替えてこい。時間もあまりねェからな」
肩を押して別室に押し込もうとする銀時に抵抗するものの、志乃の意見は全く取り入れられなかった。
どうやら銀時は、先程頼む前から拒否されたことを根に持っているらしい。しかし、この程度で負けないのが志乃である。
「だーから、私なんかがオシャレしても可愛くないからいいって言ってんの!」
「大丈夫だって。どっかの誰かが言ってたぞ、カワイイは作れるって」
「知るかァァ‼︎とにかく、やらないったらやらないかんな!」
銀時の腕を振りほどき、彼と向き合う。
「大体、仮にも妹にキャバ嬢なんてやらせたがる兄がどこの世界にいるってんだよ‼︎」
「何言ってんだ志乃、これは仕事だ。仕事に疲れた男を癒す、立派な仕事なんだぞ」
「うるせーよ!仕事って言えば何でも通ると思うなよバーカ!」
「バカって言った方がバカだ」
「んじゃてめーもバカじゃねーか‼︎」
口論に疲れ、嘆息した志乃は頭を抱えて店長に尋ねる。
「とにかく、他にカワイイ人探せばいいでしょ。ねェ、あと何人位必要なの?」
「最低でもあと四人は欲しいね」
「私入れたらあと三人アルナ」
チラリと見てみると、お妙、九兵衛、そして何故か裸にタオルを巻いてマットを小脇に抱えた東城が並んで立っていた。目を合わせかけた瞬間、銀時が志乃の目を塞ぎ、話を続けた。
「あと四人か、ダリーな」
「オイ、あと三人だって」
「誰かいないの?もう顔だけ可愛きゃいいから」
「オイ聞けヨ、泣くぞ」
神楽は完全に無視されていた。やってらんないと拗ねた彼女を無視し続け、話を進める。
「一人はもう話つけてあるからなんとかなるとして」
「ああ、もう呼んでるの?流石万事屋」
しかし、その一人とはキャサリンだった。キャサリンも一応キャバ嬢なのだが、何故か東城と同じ格好になる。
「あと三人ね」
そう言って、木刀を抜き、振り向きもせず天井に向けて投げる。それが突き刺さり、天井から忍者の女ーー猿飛あやめが落ちてきた。
「え、誰」
彼女の頭に突き刺さった木刀を銀時が抜く。
「オイ立てコラ、ストーカー。今日からお前もキャバ嬢だ」
「ええええええ⁉︎銀、ストーカー被害に遭ってたの⁉︎」
驚愕の事実に、真っ青になった志乃が銀時とあやめを交互に見る。
思えば、あやめは原作ではずっと前から登場しているのに、志乃とは初共演だった。
「散々長いこと放置プレイして久しぶりに会えたと思ったら、キャバ嬢になれ⁉︎そんな…………そんなのって……………………」
俯くあやめがなんだかかわいそうに見えて、一声かけようかと思った志乃だが、次の瞬間あやめは意気揚々と立ち上がった。
「興奮するじゃないのォォォ‼︎どれだけ私のツボを心得ているのよォ‼︎」
そして一瞬で着替えていた。何故だか黒革の女王様スタイルで。
あ、この人Mなんだ。出会って数秒で、志乃は彼女のことがわかった気がした。
「銀、アンタこの人のこと苛めた?絶対そうだよね、絶対そうだもん」
「知らねーよ。なんやかんやでストーカーになってんだよ」
「なんやかんやでストーカーが生まれるか‼︎」
志乃は銀時を背で庇うように前に出て、あやめを指さした。
「やい、お前!私の兄貴に手ェ出したらぶっ飛ばすからな‼︎」
「あら、貴女妹さん?銀さんには妹さんがいたのね。もしかして嫉妬かしら?私に銀さんを奪られるから?」
志乃とあやめの視線が、バチバチと火花を散らす。
「残念ね、貴女は法律上銀さんとは決して結婚出来ないのよ。大丈夫、銀さんは私が幸せにしてあげるわ」
「うるせえよ、このストーカーが。別に私はこんな奴と結婚なんかしたいとは思ってねーし。でも、アンタが銀の奥さんとか絶対認めないから。絶対許さないから。アンタなんかに、兄貴は渡さない‼︎」
「やってみなさいよ。ブラコンは度が過ぎると愛想尽かされるのがオチよ」
「オイてめーら、今そんなのいいから。後にしろ後に」
睨み合う二人は銀時に宥められ、一時休戦する。しかし、必ず後で決着をつけると心に決めていた。
「よし、これで七人揃ったな」
「え?でもあと二人足りませんよ」
「決まってんだろ。オイ、着替えてこい」
ーーやっぱ私にやらせる気かコノヤロォォォ‼︎
ギリッと鋭く睨みつけるが、銀時はこちらと目を合わせようともせず、ずっと拗ねたままの神楽に視線を向けていた。
店長が、縋るようにこちらを見てくる。そのサングラスの奥の切なげな視線で見つめられたら、志乃は断り切れなかった。
「っ……だー、もう‼︎わかったよ!やればいいんでしょ、やれば‼︎」
「よし、それでこそ我が妹だ」
「うっせー黙れ‼︎殺すぞ‼︎」
特に理由はないが、とにかく目の前の兄貴分に腹が立つ。グッとサムズアップをしてみせる銀時の親指をへし折ってやろうかと本気で検討した。
その時、入り口にいたウエイターが叫ぶ。
「店長ォ‼︎お客様来ました!」
「え⁉︎もう?」
「急げ志乃!」
「わかってるよ‼︎」
銀時に急かされた志乃は、急いで控え室を漁る。何か着れるものはないか。
衣装棚を探っていると、赤いワンピースが出てきた。完全に肩を露出しているもので、肩紐などもない。胸元には、可愛らしいバラのコサージュがついていた。
これを着てもおかしくはないだろうか。不安を感じるが、今はそんなことをいちいち気にしている暇はない。かなり切羽詰まっているのだ。
帯を解き、浴衣と足袋を脱ぐ。胸に巻いているサラシを外して、ワンピースを頭から被った。着てみると、意外と体にフィットして、スカートの裾も丁度いい長さだった。
さて、服はこれでいいものの、化粧の一つはした方がいいのだろうか。しかし、志乃は今まで一度も化粧をしたことがない。一体どうすればいいか。
鏡とにらめっこをして、考え込む。
「……そうだ」
髪に少しウェーブをかけ、頭にリボンをつける。化粧は見様見真似で、薄いナチュラルメイクにした。淡い赤の口紅を塗り、鏡を見てみる。
鏡の中の自分は、普段とは180度違っていた。自分で言うのもなんだが、少しは夜の蝶としてマシにはなったのではないか。
「……しのごの考えるのはやめだ。よっしゃ、いくぞ!」
グッと拳を握って気合いを入れ、志乃は控え室から飛び出した。