銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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友に身分は関係ない

控え室を出て入り口へ客を迎えに行こうとすると、店内に松平とその後ろに、何故か真選組の面々がついてきていた。

もう一度言おう。松平の後ろに、何故か真選組の面々がついてきていた。

 

「何してんの、アンタら」

 

思わず呟く。それが彼らの耳に入ったらしく、こちらに気づく。そして、顔を真っ赤にした近藤が指さしてきた。

 

「えっ?志乃ちゃん⁉︎何でこんな所に……ってかその格好……」

 

「色々あってね」

 

理由を話すと店に関わるため、説明を割愛する。

志乃は、何故か裸にタオル一枚の女装銀時&新八を横目に、真選組に近付いた。

 

「それより、何でアンタらがこんな所に……」

 

ムニュッ

 

いるの?と聞こうとしたその時。胸に違和感を感じた。

思わず、体が強張る。志乃だけでなく、辺りがシンとした。

自分の体を見下ろしてみると、胸に手が置かれていた。胸をがっしり掴んでいる、その手の主を見ると。

 

「なんだ志乃、オメー結構胸あるじゃねェか。アレか?着痩せか?」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて、松平がさらに強く揉んできた。

 

「……死ね」

 

次の瞬間、松平の顔面に志乃の拳が叩き込まれる。志乃の渾身の右ストレートは松平のグラサンにヒビを入れ、そのままドアまで吹っ飛ばした。

この一連の流れに銀時達、真選組は唖然としていたものの、今のは完全に松平が悪かったと片付けた。

ぶん殴っても怒りが収まらないのか、志乃の拳はブルブルと震える。

 

「ねェ、もう一発殴っていいよね?ねっ?」

 

「落ち着いて志乃ちゃん!お客様だから!これ以上はマズイって!」

 

「そうだぜィ、とにかく落ち着け嬢ちゃん」

 

もみっ

 

「は?」

 

先程と、全く同じ感触。背後で羽交い締めにして引き止めていた沖田の両手が、志乃の胸に置かれていた。そしてそのまま、掴み始める。

 

「え……?いや、ちょ、えっ?」

 

「おー、とっつぁんの言った通り、意外とデケェなァ。アレかィ、普段はサラシでも巻いてんのか?」

 

慣れない志乃は完全に追い詰められ、口に手をやる。その仕草が、図らずも沖田のサド心に火をつけてしまう結果となった。

さらに強く揉まれ、思わず体が硬直する。その時、

 

「どさくさに紛れてどこ触ってんだテメーはァァァ‼︎」

 

土方の踵落としが、沖田の脳天に炸裂した。沖田の手が緩まり、その隙に逃げ出す。

頭を摩りながら、沖田は土方を振り返った。

 

「何するんですかィ土方さん。せっかくいいところだったのに……」

 

「いいところじゃねーよ‼︎テメーよくそんなナチュラルに触れるな⁉︎」

 

「そりゃ嬢ちゃんが隙を見せたからですよ。嬢ちゃんは油断したところでさらに追い立てられた時が一番カワイイんでさァ」

 

「だからってガキに手ェ出すんじゃねーよ!てめェ痴漢でしょっぴくぞ‼︎」

 

「へいへい」と悪気もなく軽く返事をする沖田。土方は嘆息し、ワンピースを整える志乃に声をかける。

 

「大丈夫か」

 

「うん……ありがと、トシ兄ィ」

 

「別にてめーのためじゃねェよ。ったく総悟の奴、今日は遊びに来たんじゃねーっつーのに……」

 

「え?客ってアンタらじゃないの?」

 

ポカンとする志乃に背を向け、土方達は店を出ていこうと踵を返す。頭から血を流した松平が、それを引き止めようとした。

 

「オイなんだよ、遠慮すんなって。お前らも飲んでけ」

 

「いや、そーもいかねェ」

 

出て行く真選組とは対照的に、中へ進んでくるちょんまげ頭が目についた。豪華な着物にキリッとしながらも気品溢れる顔立ち。見覚えのある顔だった。そして、それを忘れる志乃ではなかった。

志乃は思わず、彼の名を呼んでいた。

 

「将ちゃんんんんん⁉︎」

 

「あら、志乃ちゃん知り合いなの?」

 

お妙が口に手を添え、尋ねる。

将ちゃんーー徳川茂茂(しげしげ)も、志乃と目を合わせ、驚く。しかしその次には、再会を喜ぶ笑顔に変わっていた。

 

「志乃ちゃん⁉︎何故こんな所に」

 

「いや、こっちの台詞だって!何で将ちゃんがキャバクラに来るワケ⁉︎」

 

茂茂はぎゅっと志乃の手を握り、嬉しさのあまりブンブンと振った。キリッとした顔が一気に柔らかくなり、ふにゃっと笑いかける。

それにつられて、志乃の表情も綻んでいた。

 

「ま、なんでもいいや。じゃ、こちらへどうぞ」

 

スッと手を差し出し、茂茂をエスコートする。志乃が女の子らしくないと言われる所以が、ハッキリわかった瞬間だった。しかし、当の本人はそれに気付かず、茂茂の手を引いて席に案内した。

茂茂を挟むようにお妙と志乃が座る。酒を酌しながら、お妙はにこやかに話しかけた。

 

「カワイイあだ名ですわ、将ちゃんて。でも本名の方も教えて下さいな。私知りたいわ」

 

「征夷大将軍徳川茂茂。将軍だから、将ちゃんでいい」

 

「ヤダ〜もう、ご冗談がお上手な方ですね。お仕事は何をなさっているんですか?」

 

「だから、征夷大将軍だ」

 

「もォ〜てんどんですか。ホント面白いお方ですね」

 

ホホホ、と笑うお妙を遠目から見ていた銀時と新八が、完全に固まっていた。彼が本物の将軍であると知る者は、この中で志乃と松平だけだろう。勘のいい(っていうか他のメンバーが気付いてないだけ)銀時と新八も、察していたようだ。

それに構わず、志乃は茂茂に小鉢を勧める。

 

「食べる?」

 

「ああ、ありがとう」

 

小鉢を受け取った茂茂の横顔を見ながら、志乃はずっと気になっていたことを茂茂に訊いてみた。

 

「ねェ将ちゃん。変じゃないかな?私」

 

「?」

 

どういうことか、と茂茂は視線だけで返してくる。ぽりぽりと人差し指で頬を掻いてから、付け足した。

 

「あの……今日の格好」

 

「格好?ああ、今日は一段と綺麗だと思うが」

 

「っえ⁉︎」

 

突然友とはいえ男に綺麗と言われて、思わず照れてしまい、カァァと耳まで真っ赤になる。

茂茂も茂茂で、思ったことをそのまま口にしただけであったため、彼女の反応に慌てて弁明した。

 

「へ、あ、いや、別に深い意味は無くてだな。志乃ちゃんはいつもはカワイイのだが、今日は大人びていて綺麗だと……それに……」

 

「わかった!わかったからこれ以上言うな、恥ずかしい……」

 

ストレートにガンガン褒められ、耐えられなくなった志乃は両手で顔を覆った。俯いた彼女を見て、茂茂はバツが悪そうにうなじに手をやる。

 

「すまない。なんだか、悪い事をしたな。そんなつもりはなかったのだが」

 

「いや、将ちゃんは何も悪くないから……大丈夫」

 

志乃は頬の熱をとろうと、ぐいっとグラスの水を呷る。喉に流れてくる冷たい感覚が、気持ちよかった。

それからしばらく酒を飲んだりしながら談笑し、志乃も少し落ち着いてきた。松平が、ふと切り出す。

 

「酔いも回ってきたし、じゃそろそろ、将軍様ゲームぅぅはっじめるよ〜‼︎」

 

ドンドンパフパフ

 

即興で用意した楽器で、効果音を演出。我ながらなかなかいい感じに出来た。

ちなみに、将軍様ゲームとは。

 

用意するもの:男と女、わりばし

「将軍」と書いたくじをわりばしで作る。

 

ルール:くじをみんなで引き、将軍様を引き当てた人は将軍になり、様々ないやらしい命令(拒否不可)を下すことが出来る。

 

まぁ要約すれば、ただの王様ゲームである。

 

ーー将軍様既にいるんだけど。王様ゲームにしなくていいのか?

 

疑問に感じたが、面倒なので考えるのをやめることにする。

 

進行役の松平がくじを引くよう促すと、お妙、神楽、九兵衛、あやめが一斉にくじに飛びつき、将軍様のくじを巡って大乱闘を始めた。客を楽しませるどころか、最早戦争状態である。しかも飛びついた時に吹っ飛ばした松平や、破壊した机すら気に留めていない。

何こいつらマジ怖い。志乃には流石に、この乱戦の中に飛び込もうとは思わなかった。しかし、少なくともこの「戦い」に、彼女の血が騒ぎかけたことをここに記しておく。

 

新八がバラバラになったくじを持って、茂茂に将軍様を引かせようとするが、その前にあの四人が一斉に引く。あまりにも速くて、目で追いかけられなかった。

 

ーーアレ、これゲームだよね?何でゲームごときでこんな大乱闘が起こるわけ?

 

甚だ疑問であったが、その答えを追求しようとすると朝になりそうなので、志乃は何も考えず余ったくじを茂茂と引くことになった。

志乃が引いた番号は、1だ。残念、将軍様じゃない。

 

「あー、私将軍だわ」

 

その声を振り返ると、銀時が将軍様のくじを手にしていた。そして、命令を下す。

 

「えーとじゃあ、4番引いた人下着姿になってもらえますぅ」

 

初っ端から何つー命令だ。志乃は自分のくじ運に救われ、ホッと溜息を吐いた。

しかし彼女の隣で、何やらゴソゴソとする人が。茂茂が、ブリーフ一丁になっていた。

乾いた目で悟る。

 

ーー将ちゃん、4番だったのね……。

 

まさか友の下着姿、しかもブリーフ姿をこの目で見る時が来ようとは。運がいいのか悪いのかわからなくなってきた。

 

銀時と新八がコソコソと作戦会議を開く隣で、二回戦が開始される。

今度はお妙が将軍になった。今回、志乃は5番だ。

 

「んーと、どうしよっかな。じゃあ私はァ、3番の人がこの場で一番寒そうな人に服を貸してあげる」

 

それすなわち。茂茂に服を着させよう作戦だ。

お妙の作戦を察したはいいものの、3番は一体誰なのだろうか。

首を傾げていると、また隣で何やらゴソゴソとする人がいた。志乃は思わず頭を抱えた。

 

ーーああ、将ちゃんまたなのね……。

 

ということで、見事3番を引いた茂茂が、あやめにブリーフを貸すことになった。

隣に、素っ裸の男が座っている。友達とはいえ、めちゃくちゃ居づらかった。志乃は極力目を逸らし、見ないようにしていた(ていうか見たくなかった)。

そして、銀時と新八が再び作戦会議を開く。

 

「パチ恵、もう着物云々は諦めよう。見た通り失うもんはもう何もねェ。これ以下はねーんだ。あとは上がっていくだけだ」

 

「ちょっ、これ臭いから脱いでいいかしら」

 

「下あったよ‼︎」

 

「ちょっとォォォ‼︎涙目になってきてますよ将軍‼︎」

 

「泣いてるよね!泣いてるんだよねアレ!」

 

最早ただのイジメっぽくなってきているが、志乃はそんなことどうでもよかった。

とにかく席から立ちたかった。そのまま帰りたかった。そしてこの日のかわいそうな友の姿を、今すぐにでも忘れたかった。

そんなこんなで、三回戦が開始される。将軍を引いたのはあやめ。志乃は2番だった。

 

「ついに私の時代が来たわ。私の願いは一つ。銀さんと……」

 

「番号で言えボケェェ‼︎」

 

何やらアヤシイ命令を下そうとしたあやめの脳天に、お妙が踵落としを浴びせる。仕切り直して、あやめが命令した。

 

「5番の人は、トランクスを買ってきなさい」

 

あやめの意図を察した銀時達だったが、肝心の5番は誰か。もうここまで来たらフラグになるだろう。

席を立ったのは、やっぱり茂茂だった。

鮮やかすぎるフラグ回収。しかし彼は、天下の征夷大将軍。素っ裸で街に出て、トランクスなんか買いに行けば……必ずヤバい事になることは火を見るより明らかだった。

銀時達はすぐさま外に出た茂茂を追いかける。

 

「将ちゃん何気に足速っ」

 

「ヤベェ‼︎エライ事になってきた!」

 

その時真選組の傍を通り過ぎたため、もちろん彼らにも見つかってしまった。

 

「貴様らァァ上様に何をしたァ‼︎総員に告ぐ‼︎上様を追えェェェ‼︎」

 

真選組が戦車で追いかけてくる中、茂茂を筆頭に奇妙な軍隊が完成した。側から見ればただの危険人物のパレードだ。

走り続けながら、神楽が将軍にくじを引くよう促す。茂茂がその中の一本を引くと、そのくじには将軍と書いてあった。

 

「将軍様、我等になんなりとご命令を」

 

実は、神楽の持ってきたくじは全て当たりくじであったのだ。並走する神楽を横目に、命令を下す。

 

「ではすまぬが、一人、余の代わりにトランクスを買ってきてくれぬか?それ以外は、アレを止めてくれ」

 

「仰せのままに‼︎」

 

急ブレーキをかけて逆走してきた神楽、志乃、銀時、新八、お妙、あやめが、真選組に襲いかかる。

 

「将軍様のご命令により、今からアンタらをここで食い止めまーす‼︎」

 

「はァ⁉︎それってどういうこ……」

 

「食らえコラァァ‼︎」

 

志乃が戦車の上に立つ近藤を蹴っ飛ばしたのを始め、夜のかぶき町に何かが壊れる音と悲鳴が響き渡った。

 

********

 

一方、茂茂と共に大江戸マートに向かった九兵衛は、茂茂の代わりにトランクスを買ってきた。堀の前のベンチに座る茂茂の背中に声をかける。

 

「……上様。お下着の方、お持ちしました。…………あの、色々……失礼な事……」

 

「いいんだ。楽しかったよ」

 

茂茂はそう微笑んで、九兵衛から下着を受け取ろうと手を差し伸べる。

 

「また片栗虎に連れてきてもらうぞ。その時は、また余と遊……」

 

しかし次の瞬間、ふと九兵衛の手と茂茂の手が触れる。

そして反射的に、茂茂は九兵衛によって堀に投げ飛ばされてしまうのであったーー。




次回、沖田の姉登場です。
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