銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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弟を持つお姉ちゃんは苦労人

バイトで朝から屯所を訪れていた志乃は、何やら騒がしい雰囲気に首を傾げた。

耳に入ってくるのは、近藤が美人と何やら楽しげに話しているとかどうとか。

お妙という女がいながらなんて男だーーと思わなかったことはないが、とにかく土方に言われたままに、沖田を起こしに行った。

 

********

 

障子を開けると、部屋の真ん中に布団を敷いて、愛用のアイマスクをつけて眠っている沖田がいた。

こっちは朝早くから、寝ぼけ眼擦ってわざわざ屯所に来てやったっつーのに。自分より少し年上のこの男は、ぐーすか寝ていた。いや、寝ていなかった。何かをブツブツ言っている。

羊でも数えてるのか?と、しゃがんで近付いて耳をそばだてたところ、「うぅ〜」と唸るだけだ。

 

「オイ、総悟は起きたか?」

 

「あ、ゴメン。今から」

 

部屋に入ってきた土方を振り返る。その時、再び沖田が何かを数え始めた。

 

「土方の死体が4016体。土方のバカの死体が4017体。土方のあんちきしょーの死体が4018体」

 

こいつ、なんてもん数えて寝ようとしてんだ。どんだけトシ兄ィを殺したいんだよ。つーかめちゃくちゃ数えてんじゃん。

色々ツッコみたかったが、取り敢えず全てを呑み込んで土方から下がる。彼は抜刀してそれを振り上げていた。

 

「土方のクソったれの……」

 

「羊を数えろォォォォォォォ‼︎」

 

「あれ?」

 

土方の怒り混じりのツッコミで目を覚ました沖田が、体を少し起こす。

 

「もう朝か……全然眠れなかったチキショー」

 

「眠れるわけねーだろ!んなグロテスクなモン数えて‼︎」

 

「すいやせん、わざわざ起こしに来てくれたんですかィ4019号」

 

「誰が4019号だ‼︎」

 

のそりと布団の上に座った沖田は、アイマスクを外す。その下の目にはくまが出来ていた。

 

「さっさとツラ洗って着替えろ。客だ。オイ志乃、行くぞ」

 

「ほーい」

 

納刀した土方と共に、志乃は未だぼんやりする沖田の部屋から出ていこうとした。だがしかし。

 

むにゅっ

 

「えっ……」

 

ついこの間経験した、懐かしい感触。でも、とても好ましく思えない感触。視線を下にズラすと、上着の上から胸を掴まれていた。握力が強くて、少し痛い。

 

「ぇ……あ……」

 

「ん……ちと硬ェなァ。でもこないだは結構あったし……やっぱサラシか」

 

「そ……そ、にィ……」

 

カァァ、と頬が熱くなる。恥ずかしさで潤んだ目を沖田に向けると、眠そうだった目がギラギラし出した。

 

ーーちょ、これマズいんじゃ……⁉︎

 

サッ、と血の気が引いた瞬間、さらに強く揉まれた。

 

「ひっ⁉︎」

 

思わず、上ずった声が出てしまう。絶体絶命の危機に、刹那、志乃の中で何かがブチ切れた。

 

「何さらしとんじゃクソガキがァァァァ‼︎」

 

朝の屯所に、ドガッシャァンと大きな物音が響いた。

 

********

 

沖田に制裁を加え終わった志乃は、隊士らがこぞって覗き見をしている部屋の前へ向かった。そして彼らに混じって、襖の隙間から覗き見る。

近藤と対面して、一人の女性が座っていた。色素の薄い短めの髪。優雅で儚げな雰囲気を纏うこの女性は、とても綺麗な人という印象を受けた。

背後から一緒に覗く山崎に尋ねる。

 

「ねぇ、あの人誰?」

 

「あの人はね、沖田さんの姉上様のミツバ殿だよ」

 

「お姉さん?」

 

もう一度、その女性ーーミツバを見てみる。なるほど、確かに髪の色とか、沖田にそっくりだ。

感嘆する志乃の背で、原田と山崎が話す。

 

「しかし、似ても似つかねェ。あんなお淑やかで物静かな人が、沖田隊長の……」

 

「だからよく言うだろ。兄弟のどっちかがちゃらんぽらんだと、もう片方はしっかりした子になるんだよ。バランスが取れるようになってんの世の中」

 

刹那、そのさらに後ろから気配を感じる。それに志乃が気付いた次の瞬間、バズーカが撃ち込まれた。

志乃は咄嗟にそれをかわし、他の逃げ遅れた隊士達はそのままバズーカの餌食となった。

 

「まァ、相変わらず賑やかですね」

 

「おーう総悟、やっと来たか」

 

「すいません、コイツ片付けたら行きやすんで」

 

襖ごと隊士達を吹っ飛ばした沖田は、山崎を捕まえて刀を向ける。それを、ミツバが窘めた。

 

「そーちゃん、ダメよ。お友達に乱暴しちゃ」

 

沖田がミツバに視線を向ける。

いや、そんな言い方しても総兄ィ聞かないって。

志乃が山崎を助けるべく出ていこうとしたその時。

 

「ごめんなさいおねーちゃん‼︎」

 

沖田が、ミツバに土下座していた。

志乃は目を疑った。あの沖田が、姉に土下座した。しかもものすごい勢いで。先程の爆撃で煤だらけになった畳の上にも関わらず。

近藤はそれを見て、豪快に笑う。

 

「ワハハハハハ!相変わらずミツバ殿には頭が上がらんようだな、総悟」

 

「お久しぶりでござんす、姉上。遠路遥々、江戸までご足労ご苦労様でした」

 

志乃は同じく驚きを隠せない山崎と共に、大人しくミツバに頭を撫でられている沖田を見やった。

ありえない。普段の沖田なら、絶対にありえない光景が、そこには広がっていた。

これは夢か。ぎゅーっと頬を抓ってみても、やはり痛い。どうやら、夢ではないらしい。

 

「……誰?」

 

「まァまァ、姉弟水入らず、邪魔立ては野暮だぜ。総悟、お前今日は休んでいいぞ。せっかく来たんだ。ミツバ殿に江戸の街でも案内してやれ」

 

「ありがとうございます‼︎ささっ……姉上‼︎」

 

ハキハキと近藤に頭を下げてから、ミツバの手を引く沖田。その表情は、心から嬉しそうだった。

沖田姉弟が部屋から出ていくのを見送り、志乃は近藤を振り返る。

 

「何アレ?」

 

「アイツはなァ幼い頃に両親を亡くして、それからずっとあのミツバ殿が親代わりだったんだ。アイツにとってはお袋みてーなもんなんだよ」

 

「へぇ……」

 

母親。思い返せば、母の事はもうほとんど覚えていない。

自分がこの世に存在しているのだから、必ず両親がいることはわかっているが、それでもその顔を思い出せないのだ。無意識の記憶の奥底にあるのか、あるいはその記憶を消してしまったか。

どちらとも言えない、でも確実に覚えていない、両親のこと。

 

「……いいな」

 

「ん?何か言ったか志乃ちゃん」

 

「んーん、何でもない」

 

近藤を見上げて、志乃は無邪気に笑いかけた。

 

********

 

それから志乃は、山崎と原田についていって、沖田姉弟を見に行った。

レストランで向かい合わせに座り、楽しげに話している。人によっては、美男美女のカップルと思われても不思議ではない。

それを向かいのテーブルからこっそり覗いていた。

 

「そーですか、姉上もついに結婚……。じゃあ今回は、嫁入り先に挨拶も兼ねて?」

 

「ええ。しばらく江戸に逗留するからいつでも会えるわよ」

 

「本当ですか。嬉しいっス‼︎」

 

「フフ、私も嬉しい」

 

「じゃあ、嫁入りして江戸に住めば、これからいつでも会えるんですね」

 

「そうよ」

 

「僕……嬉しいっス」

 

「フフ、私もよ」

 

変貌っぷりが半端じゃない。まるで虎から兎にでも変わったようだ。

 

ーーこんなの総兄ィじゃなァァァァァァァい‼︎

 

山崎は双眼鏡で二人の様子を見、志乃と原田は笑いを必死に堪えていた。

 

「ねぇ、聞いた?今聞いた?聞いたよね?」

 

「聞いた聞いた!僕だってよォォォォ‼︎プククッ!」

 

「ちょ、二人とも静かに!聞こえちゃうよ」

 

小声でヒソヒソ話す向かいで、沖田は姉を心配する。

 

「でも僕心配です。江戸の空気は武州の空気と違って汚いですから、お身体に障るんじゃ。見てくださいあの排気ガス」

 

沖田が立ち上がって、窓の外を指さす。

そこにミツバの意識が向いた瞬間、沖田は志乃達に向かって突如バズーカをぶっ放してきた。

 

ーーえ?

 

スッと咄嗟にしゃがんで、それを避けた志乃。しかし、逃げ遅れた原田と山崎はそれをモロに食らってしまった。周囲を巻き込み煙が漂う。

 

「まァ……何かしら。臭い」

 

「酷い空気でしょ。姉上の肺に障らなければいいんですが」

 

ーーいや、てめーのせいだろーが‼︎この汚ェ空気はよォォ‼︎

 

彼の襟を掴んで、そう突き詰めてやりたかった。

しかし、このミツバという女性、何やら病を抱えているらしい。肺に障るとは、おそらく気管支辺りに関わる何かだろう。

それから会話の内容は、沖田の普段の生活に移っていく。

 

「ちゃんと3食ごはん食べてる?」

 

「食べてます」

 

「忙しくても、睡眠ちゃんととってるの?」

 

「とってます。羊を数える暇もないですよ」

 

ーーいや、アンタが数えてたのは上司の死体でしょーが。しかも今日は寝不足っぽかったし。

 

「皆さんとは仲良くやっているの?苛められたりしてない?」

 

「うーん、たまに嫌な奴もいるけど……僕挫けませんよ」

 

ーー逆に苛めてる側だろ、お前は。

 

様々なツッコミが、彼女の中で溢れてくる。それほど自分のツッコミスキルが上がったのか。果たしてこれは喜ぶべきか否か。

 

「じゃあお友達は?」

 

「……………………」

 

「貴方昔から年上ばかりに囲まれて、友達らしい友達もいないじゃない。悩みの出来る親友はいるの?」

 

そう問われて、沖田は黙り込む。そういえば、沖田に友達がいるなど聞いたことがない。

 

「……いますよ、親友。しかも二人も。今から呼びましょうか?」

 

そう言って、沖田が携帯を開いて電話をかける。それから何やら話した後、再び電話をかけた。

その時、胸ポケットに入れた携帯のバイブが鳴る。着信を見てみると、沖田からだった。

 

ーーん?これは何かのドッキリか?

 

取り敢えず、耳を当ててみる。

 

「はい、志乃ちゃんです」

 

「嬢ちゃん、今すぐこっち来い。来てるからわかるだろィ」

 

それだけ言うと、沖田は通話を切った。

 

「……え、今のもしかして沖田隊長から?」

 

「うん。今すぐこっち来いってさ」

 

ーーアイツ横暴だ。横暴の化身だ。

 

志乃はちらりとこちらを見てくる沖田に苛立ち、殴ってやろうかと思ったが、その拳を嘆息して抑える。ここは少し大人になって、沖田に協力してやろうと思ったのだ。

 

そしてさりげなく、を極限まで装って、沖田姉弟の座る席へ近づいた。

ミツバと目が合う。ミツバは志乃の真選組の隊服を見るや否や、まァと口に手をやった。

 

「あら、真選組に女の子なんていたの?」

 

「つい最近バイトとして働き始めたんです。ほら嬢ちゃん、こっちだ」

 

志乃が答える代わりに説明した沖田は、手招きして席に促す。言われるがままに席につくと、沖田が耳打ちしてきた。

 

「嬢ちゃん、姉上は肺を患っているんでさァ。あんま心配かけさせたくねェから、ちゃんと友達演じてくれ」

 

「ハイハイ。団子後で奢ってね。慰謝料と貸しで足しといたげるから」

 

「チッ」

 

ミツバには聞こえないように舌打ちする沖田。こっちには丸聞こえなんだが。

 

ーーお姉さーん。おたくの弟くん、めちゃくちゃガラ悪いですよ〜。

 

嘆息してから、志乃は改めて目の前に座るミツバと向き合った。

 

「大親友の霧島志乃ちゃんです。真選組のバイトで最近入ってきて、公私共に仲良くしてもらってます」

 

「初めまして、お姉さん。霧島志乃です」

 

「まァ、ご丁寧にどうも。沖田ミツバです。いつも弟がお世話になってます」

 

志乃が頭を下げると、ミツバも会釈をする。

 

「良かったわ。そーちゃん、昔から年上ばかりに囲まれて育ったから……同年代のお友達が出来てて。志乃ちゃん、今おいくつ?」

 

「12ですけど……」

 

「まァ!」

 

ミツバは驚いて、口元に手を当てた。

 

「それじゃあ、そーちゃんより年下なのね。とてもしっかりしてるわァ」

 

「ありがとうございます」

 

しっかりしてると言われたのは、ぶっちゃけ初めてだ。少し照れ臭くて、志乃はうなじに手をやり、苦笑した。

この目の前で楽しげに微笑むミツバという女性は、本当に綺麗だ。一目見た時は少し遠かったが、改めて近くで見ると、その慎ましやかな美しさがよくわかる。仕草も女性らしくて、男勝りな自分とは正反対で、少し羨ましかった。

しかし、何だか顔色が悪そうに見えた。それも、ミツバが病を患っているからなのだろう。

 

「志乃ちゃん」

 

「えっ⁉︎は、はいっ」

 

突如ミツバに呼ばれ、完全に油断していた志乃はビクッと肩を揺らした。

 

「あら、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのだけれど」

 

「ぁ、いえ……大丈夫です。ちょっと、ボーッとしちゃって。あの、何ですか?」

 

心配そうに覗き込むミツバに手をひらひらさせ、大丈夫だと応えた。

 

「貴女のこと、志乃ちゃんと呼ばせてもらってもいいかしら?昔から、周りにあまり女の子がいなかったものだから、嬉しくってさっきはつい……」

 

「構いませんよ。あ、じゃあ私も貴女のこと、ミツ姉ェって呼んでもいいですか?」

 

「ええ、もちろんよ。ふふ、なんだか姉妹みたいね」

 

弾んだ笑い声を上げて、ミツバは心底嬉しそうに微笑んだ。それにつられて、志乃も笑みをこぼす。年の離れた優しい姉と話しているような感覚だった。

ふと、隣で少し不満げな気配を感じる。一瞥してみると、沖田がふてくされていた。

お?これは嫉妬か?ニヤニヤほくそ笑む中、入り口からやる気が全く無さそうに歩いてきた男が視界に入ってきた。

 

「銀⁉︎」

 

「お?何でお前も居んの?」

 

思わず立ち上がった志乃に気付いて、銀時もこちらへ歩いてくる。そこから沖田にアレヨアレヨの流れで座らされた。

 

「大親友の坂田銀時く……」

 

「何でだよ」

 

銀時はおもむろに、沖田の顔を机に打ち付けさせる。銀時と沖田の真ん中に座った志乃は、サッと姿勢を低くして彼の邪魔をしないようにした。

 

「オイ、いつから俺達友達になった?」

 

「旦那、友達って奴ァ今日からなるとか決めるもんじゃなく、いつの間にかなってるもんでさァ」

 

「そしていつの間にか去っていくのも友達だ」

 

「あ、てめっズルいぞ!」

 

さらりと帰ろうとした銀時を追いかけて志乃もこのままドロンしたかったが、沖田に刀を向けられ逃げられなかった。

殴りたかった。無性に殴りたくなった。目の前で私を引き止めるこの男と、私を置いて逃げていくあの男を殴り飛ばしたかった。

しかし、沖田がすかさず注文したチョコレートパフェにつられて、彼も戻ってきた。

 

「友達っていうか、俺としては弟みたいな?まァそういうカンジかな。なァ総一郎君」

 

「総悟です」

 

「もうこちらとしても、兄妹共々仲良くさせてもらってるカンジかな。ねっ、総司君」

 

「総悟です」

 

兄妹揃って本名を呼ばれなかった沖田だが、めげずに訂正を入れる。

沖田が銀時に耳打ちする間で、志乃はとんでもない光景を目にする。ミツバがチョコレートパフェに、タバスコを丸々一本かけていたのだ。

 

「ミツ姉ェ?え、ちょっと何やってんの?」

 

「お姉さんんんん‼︎それタバスコォォォ‼︎」

 

気付いた銀時も一緒にツッコむが、ミツバはさも当たり前のようにタバスコをかけていた。

 

「そーちゃんがお世話になったお礼に、私が特別美味しい食べ方をお二人にお教えしようと思って。辛いものはお好きですか?」

 

「いや、辛いも何も……本来辛いものじゃないからね、コレ」

 

その時、ミツバがケホケホと咳き込む。

 

「やっぱり……ケホッ、嫌いなんですね。そーちゃんの友達なのに」

 

「好きですよね旦那、嬢ちゃん」

 

沖田が二人まとめて、首に刀をあてがう。銀時は乾いた笑い声で話を合わせていたが、志乃はタバスコの大量にかかったパフェを一つ貰い、悠々と口に運び始めた。

 

「ん、なかなか刺激的」

 

「食ったァァ⁉︎食ったのか?お前どんな味覚してんだよ⁉︎」

 

「白飯に小豆かけて食うような奴に言われたくない」

 

「あら、志乃ちゃんも辛いものが好きなの?やっぱり美味しいわよね、食が進むわよね」

 

うふふ、と上品に笑うミツバと、よしよしと頷く沖田。

 

ーー何なんだこいつら、新手の脅迫か?姉弟で結託して私らを貶めようって魂胆か?フハハハハハハハ!残念だったな、この程度では仏の舌を持つ私は倒せんぞ‼︎……何やってんだ私、恥ずかしい。

 

何故か勝ち誇っていた自分がとても小さく思えて、辛いパフェにがっつく。

しかし、銀時は諦めなかった。なんとしても、この激辛パフェをかわそうと試みた。

 

「でも、パフェ食べたからちょっとお腹一杯になっちゃったかなんて」

 

その時、ミツバの咳がさらに酷くなる。沖田も志乃も、銀時を見やった。

 

「旦那ァァァァ‼︎」

 

「銀、男を見せろ‼︎」

 

「みっ……水を用意しろォォォ‼︎」

 

しかしついに、ミツバが口から赤い液体を吹いて、ソファに横たわってしまった。

 

「姉上ェェェェェェェ‼︎」

 

「ミツ姉ェェェ‼︎」

 

これは流石にマズイ。銀時は意を決し、激辛パフェを飲み込んだ。もちろんタバスコ一本を丸々かけたものなので、その辛さは尋常でない。口から火を吹いていた。

その隣で、沖田がミツバを抱き起こした。

 

「姉上!姉上!しっかりしてくだせェ‼︎」

 

「あ、大丈夫。さっき食べたタバスコ吹いちゃっただけ」

 

ーーじゃあ銀の頑張りは何だったんだ……‼︎

 

志乃は机を破壊しつつズッコケた兄を不憫に思いながら、呆れてソファに深く座り直した。

 

********

 

それから、志乃達は様々な場所に行って江戸の街を楽しんだ。その夜、彼らはミツバを嫁ぎ先の家の前まで送った。

 

「今日は楽しかったです。そーちゃん、色々ありがとう。また近い内に会いましょう」

 

「今日くらいウチの屯所に泊まればいいのに」

 

「ごめんなさい、色々向こうの家でやらなければならない事があって。坂田さんも志乃ちゃんも、今日は色々付き合ってくれてありがとうございました」

 

「あー、気にすんな」

 

「また会おうね、ミツ姉ェ」

 

志乃が笑顔を見せて手を振ると、ミツバもそれに応えて軽く手を振る。沖田が去ろうとした背中に、ふとミツバは呼びかけた。

 

「……あの…………あの人は」

 

それを訊いた途端、沖田の表情が一気に険しくなった。

 

「野郎とは会わねーぜ。今朝方もなんにも言わず、仕事に出ていきやがった。薄情な野郎でィ」

 

沖田は背を向けて、さっさと帰ってしまう。その背中に、ミツバは嘆息した。

 

「オイオイ、勝手に巻き込んどいて勝手に帰っちまいやがった」

 

「アンタよりかはマシだと思うけど?」

 

「え、何?それってどーいう意味だオイ」

 

軽くディスられた銀時が志乃に突っかかる。そこから軽い殴り合いの喧嘩に発展していたが、ミツバが声をかけてきた。

 

「ごめんなさい、わがままな子で。私のせいなんです。幼くして両親を亡くしたあの子に寂しい思いをさせまいと、甘やかして育てたから……身勝手で頑固で負けず嫌いで。そんなんだから、昔から一人ぼっち……友達なんて一人もいなかったんです。近藤さんに出会わなかったら、今頃どうなっていたか。今でもまだちょっと恐いんです。あの子ちゃんとしてるのかって。ホントは……貴方達も友達なんかじゃないんでしょ。無理矢理付き合わされて、こんな事……」

 

どうやら、ミツバは全て知っていたらしい。志乃達が、ホントの友達でないことを。

彼女に想いを馳せた志乃の傍らに立つ銀時が、わしゃわしゃと頭を掻く。

 

「アイツがちゃんとしてるのかって?してるわけないでしょ、んなもん。仕事サボるわSに目覚めるわ不祥事起こすわSに目覚めるわ。ロクなモンじゃねーよ、あのクソガキ。一体どういう教育したんですか。友達くらい選ばなきゃいけねーよ。俺みたいなのと付き合ってたらロクな事にならねーぜおたくの子。なァ志乃」

 

「そーだねェ、銀みたいなのと付き合ってたらロクな大人にならないね。あ。でも逆に、銀なら反面教師になるんじゃない?」

 

「志乃ちゃーん?ソレ貶してるよね?確実にお兄ちゃんのこと貶してるよね、オイ‼︎」

 

再び喧嘩を始めた二人を見つめ、ミツバはクスクスと笑った。

 

「……………………おかしな人。でも、どうりであの子が懐くはずだわ。なんとなくあの人に似てるもの」

 

「あの人?」

 

「オイ」

 

志乃が銀時の拳を受け止めたまま首を傾げると、パトカーがやってきていた。ヘッドライトの光が、三人を照らし出す。

 

「てめーら、そこで何やってる?」

 

パトカーのドアを開けて、二人の男がこちらへ歩いてくる。

 

「この屋敷の……」

 

「あ、トシ兄ィ」

 

ライトに照らされて、その姿がようやく確認出来た。志乃は彼に気付いて指をさしたが、土方の視線はミツバに向けられていた。

 

「と……十四郎さ……」

 

驚愕で、ミツバの声が震える。その時、ミツバは激しく咳き込み、倒れ込んでしまった。しかし、地面に膝をつく前に、志乃が腕を差し出して抱きとめる。

 

「ミツ姉ェ‼︎しっかりして!」

 

呼びかけるも、喘息が酷くてまともに応えられそうにない。志乃はすぐにミツバを抱きかかえ、家の門を蹴破った。

 

「お前らボサッとしてねーで運ぶの手伝え‼︎」

 

振り返った志乃は、呆然と立つ男三人に、叱責を飛ばすのだった。

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