銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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大切なものは何が何でも護りたい

倒れたミツバを家へ運び、しばらくするとようやく落ち着いたらしく、呼吸も穏やかになっていた。ミツバの病状はあまり良くないらしく、だんだん悪化しているという。

客間に案内され、山崎は襖の隙間越しにミツバを覗き見る。

 

「それより旦那、アンタ何でミツバさんと?」

 

「………………成り行き」

 

バリバリとせんべいを食べていた銀時も、山崎に質問を返す。

 

「そーゆうお前はどうしてアフロ?」

 

「成り行きです」

 

「どんな成り行き?」

 

どうやらレストランで沖田に食らったバズーカの爆撃が、未だ彼に爪痕を残しているようである。それにしても見事なアフロだ、と志乃は感嘆した。

志乃も銀時の隣に座り、彼と同様せんべいを食べ始める。そして、縁側で煙草を吸う土方の背中を見やった。

 

「……そちらさんは、成り行きってカンジじゃなさそーだな。ツラ見ただけで倒れちまうたァ、よっぽどの事あったんじゃねーのおたくら?」

 

「てめーにゃ関係ねェ」

 

せんべいの素朴な醤油味が、優しく感じられる。

こちらを振り返ることなく、素っ気なく返した土方だったが、銀時と山崎はクククと笑いを堪える。

 

「すいませーん、男と女の関係に他人が首突っ込むなんざ野暮ですた〜」

 

「ダメですよ旦那〜。ああ見えて副長純情(ウブ)なんだから〜」

 

「ねェ銀、男と女の関係ってどーいうこと?それって恋び……」

 

ズバリ言いそうになったその時、土方が抜刀しこちらに斬りかかってきた。それを山崎が咎める。

 

「関係ねーっつってんだろーがァァ‼︎大体何でてめェらここにいるんだ‼︎」

 

「副長落ち着いてェ!隣に病人がいるんですよ‼︎」

 

「うるせェェ!大体おめーは何でアフロなんだよ‼︎」

 

どうやらかなりご立腹だったらしい。銀時は鼻をほじりながらムカつく笑顔を浮かべていた。

んー、あんなに否定するってことは、恋人じゃないのか……。じゃあ一体どういう関係なんだろう……?

土方が未だギャーギャー騒ぐ中、襖が開いた。中から、角刈りの男が正座し頭を下げていた。

 

「皆さん、何のお構いもなく申し訳ございません。ミツバを屋敷まで運んで下さったようで、お礼申し上げます。私、貿易業を営んでおります。『転海屋』蔵場当馬と申します」

 

山崎が土方に何やらヒソヒソと耳打ちする間にも、話は続いていく。

 

「身体に障るゆえあまりあちこち出歩くなと申していたのですが……今回はウチのミツバがご迷惑おかけしました」

 

顔を上げた蔵場は、真選組の制服を着た土方達を見る。

 

「もしかして皆さん、その制服は……真選組の方ですか。ならば、ミツバの弟さんのご友人……」

 

「友達なんかじゃねーですよ」

 

そう言って、沖田が部屋に入ってきた。沖田は蔵場も銀時も山崎も志乃も無視して、土方と睨み合う。

 

「土方さんじゃありやせんか。こんな所でお会いするたァ奇遇だなァ。どのツラさげて姉上に会いに来れたんでィ」

 

いつものポーカーフェイスを浮かべていたが、明らかに不穏な雰囲気を醸し出していた。

確かに普段から、沖田は土方とあまり馬が合わないような感じだったが、その空気がいつもよりもピリピリしている。

ゆえに銀時と志乃は黙ってそれを見ていたが、山崎は空気が読めなかった。

 

「違うんです!沖田さん。俺達はここに……ぶっ‼︎」

 

しかしそれも、土方の蹴りで沈められる。

 

「邪魔したな」

 

ポツリと一言詫びてから、山崎の襟をズルズル引き摺って退室した。

 

「……さーてと、私らも帰ろっか。あんまり長居出来ないしね」

 

「え?帰るの?」

 

「たりめーだろ!人様の家に上がり込んどいてこれ以上迷惑かけちゃダメ!アンタそれでも私より年上か⁉︎」

 

ちぇー、と口を尖らせ、銀時も立ち上がる。まったく、どっちが大人かわかりゃしない。

呆れた志乃は溜息を吐いてから、蔵場を振り返った。

 

「それじゃあ、私らはこれで」

 

「帰られてしまうのですか?夜も遅いですし、なんならここに泊まっても……」

 

「いえ、そんなにお世話になるわけにはいきませんよ。ここからそんなに遠くありませんし……兄もいますから、ご心配なく」

 

ニコ、と微笑んで断っておく。蔵場もそこまでしつこく言わなかったため、志乃は銀時を連れて家の門の外へ出、帰路を急いだ。

 

********

 

翌日。今日はバイトも万事屋もオフである志乃は、ミツバのお見舞いに向かった。あの後病院に入院したと聞いて、お土産に激辛せんべいを買いに行こうとした。

店の前でふと足を止めると、見覚えのある原チャリとビニール袋を提げた男が。

 

「銀?」

 

「お、志乃」

 

志乃が呼んだことで彼も気付き、ひょいと軽く手を挙げる。

 

「それ何?」

 

「激辛せんべい」

 

淡々と答えた銀時が、ヘルメットを被って原チャリに跨る。その後ろに急いで乗った。

 

「ミツ姉ェの?」

 

「依頼受けてな。しっかし大したモンだぜ。身体悪いっつーのにこんなん食えるとは」

 

「ミツ姉ェ辛党なんでしょ。仕方ないよ」

 

ビニール袋を受け取り、原チャリを発進させた彼の背中にぎゅっと抱きつく。ポスッと顔を埋めると、大好きな匂いがした。

 

「オイコラ、何セクハラしてんだよ。訴えるぞ」

 

「ありがたく思いなよ。あと数年もしたらまったく抱きつかなくなって、絶対に寂しがるから」

 

「知るか。人肌が恋しいと思ったことはねーよ。オラ離れろ」

 

「カワイイ妹を振り落とすつもり?兄として最低」

 

「てんめー、都合のいい時ばっか兄貴言いやがって。誰に育てられた?」

 

「アンタだよ」

 

こんな軽口の叩き合いでも、愛おしく思える。嬉しくって、志乃はさらに銀時を抱きしめる力を強くした。

銀時は「暑い」とうざったがっていたが、結局折れてそのまま放置した。

 

********

 

ミツバの病室へ向かい、ヒョコッと顔を二人同時に出す。ミツバはさも面白そうに笑った。

 

「スゴイ、ホントに依頼すれば何でもやってくれるのね」

 

「万事屋だからな。オラ、食いすぎんなよ。痔に障るぞ」

 

「貴方、私が痔で昏倒したと思ってるんですか」

 

「銀、女の人に対してそれは失礼」

 

銀時はビニール袋をベッドの上に置くと、その中からバナナを取り出し、それを剥く。志乃もビニール袋の中からキャラメルの箱を開けた。

 

「オイ、おめーもどうだ?バナナとかもあるぞ」

 

「キャラメルもあるよ、食べる?」

 

その時、ミツバのベッドの下からソーセージを持った手が現れた。

 

「いえ、結構です。隠密活動の時は常にソーセージを携帯しているので」

 

「………………アレ、山崎さん?何でこんな所に」

 

「しまったァァァァァァ‼︎」

 

ーーバカなの?

 

銀時やミツバと共にベッドの下の山崎(忍者スタイル)を覗き込み、志乃は呆れた。

これじゃ、潜入してもすぐ敵に見つかっておじゃんだ。しかも、昨日に引き続き見事なアフロである。まだ治っていないらしい。

銀時が山崎を連れて退出するのを見送り、志乃は椅子に座りキャラメルを口に入れた。

 

「何だったのかしら?」

 

「さあ?そーだ。ミツ姉ェ、具合はどう?」

 

「ええ、今は大丈夫。でも、しばらくは様子を見た方がいいって」

 

「そっか、良かった」

 

志乃が微笑んで返すが、ミツバの表情が翳る。

 

「ミツ姉ェ……?」

 

「……あっ、ごめんなさい。ボーッとしちゃって」

 

ミツバは志乃の視線に気付くと、ハッとしてすぐに笑顔を取り繕った。

 

ーー何だろう?ミツ姉ェ、様子が変……?

 

「……どうしたの?」

 

ふと、口が言葉を紡ぐ。ミツバは心配する志乃を見てから、一度目を伏せた。

 

「私…………お医者様に言われたの。あまり……長くないって」

 

「えっ……」

 

衝撃の事実に、思わず耳を疑った。

もうすぐ、ミツバが死ぬ。呆然とする彼女に、ミツバは申し訳なさそうに笑顔を見せた。

 

「ごめんなさい、不謹慎よね。こんな話して……」

 

「……………………ううん……」

 

それしか、答えることが出来なかった。

人はいつか死ぬ。誰かが死ぬのに、ここまで哀しい気持ちになるのは、初めてだった。

たった一日とちょっとで、ミツバがこんなに大切な存在になるなんて、思いもよらなかった。

 

「ねェ志乃ちゃん」

 

「ぅえっ⁉︎は、はいっ!」

 

突然呼ばれ、ビクッと体を揺らす。ミツバはクスクスといつもの優しい笑い顔を浮かべていた。

 

「ふふっ、カワイイ子」

 

「ミ、ミツ姉ェ……」

 

「私ね、嬉しかったのよ」

 

嬉しかった。そう言って、語り始める。

 

「武州……私達の故郷ね。そーちゃん達がまだ江戸に行く前から、私の周りにはあまり女の子がいなくてね。江戸(こっち)に来て、貴女に出会えて。本当の妹が出来たみたいで、とても嬉しかったの」

 

「…………一緒だね」

 

「まァ、志乃ちゃんも?」

 

ミツバが小さく首を傾げる。それに頷いてから、話し始めた。

 

「私も、ガキの頃から周りは兄貴分ばっかでさ。お姉さんっていうか……そーいうカンジの人がいなくて。だから、ミツ姉ェと一緒だよ。私もすっごく嬉しかった。会えて良かった!」

 

言葉にすると、だんだん胸が温かくなって。ようやく、ニカッと歯を見せて笑えた。

 

「フフ。おんなじね、私達」

 

「うん。おんなじだね、私ら」

 

たとえ、これが刹那的な会話だとしても。志乃はきっと、彼女を忘れない。彼女と過ごした、まるで本当の姉が出来たような、あの感覚を。

笑い合っていると、ミツバが言った。

 

「ねェ志乃ちゃん。志乃ちゃんも万事屋なのよね?銀さんと同じで」

 

「うん」

 

「それで、真選組でバイトしてるのよね?」

 

「うん、そうだけど……」

 

「じゃあ、私から頼まれてくれるかしら?」

 

ミツバからの依頼に、もちろん志乃はそれを引き受ける。承諾の意思表示をすると、ミツバに問うた。

 

「もちろんいいよ。で、依頼って?」

 

「あの人を……十四郎さんを、護ってほしいの」

 

ミツバが口にした名は、弟の沖田ではなく、近藤でもなく、土方だった。ミツバはさらに続ける。

 

「私はこんな身体だし……あの人、昔からああなのよ。誰かを護るためなら、自分の事を顧みないの。……貴女のお兄さんそっくりでしょう?でも、それがとても心配で……きっと今もそうだと思うから。だから、私の代わりに、あの人のことを護ってほしいの」

 

「………………」

 

ーーいやあ、ホント私の勘って当たるなァ……。

 

自分の勘の良さを素直に褒めつつ、志乃はフゥッと一息吐く。

ミツバは、土方のことがずっと好きだったのだ。そしておそらく、土方も。でも、あの男がいつ死ぬかもわからない身で、彼女を受け入れるわけがない。土方はミツバの幸せを願って、彼女を突き離したのだ。

不器用な男だ。志乃はそう思った。しかし、その心の底には、確かな優しさがある。ひどくわかりづらいが、確かに芯の通った優しさが。

不器用である以上に、優しいのだ。土方十四郎という男は。

 

「わかった。引き受けるよ」

 

「ありがとう」

 

「んじゃ、依頼料はコレで」

 

立ち上がった志乃は、激辛せんべいを懐に入れて、立てかけていた金属バットを帯に挿した。

 

「志乃ちゃん?」

 

「早速行ってくるよ。また明日。銀には先に帰ったって言っといて」

 

「……ええ、わかったわ」

 

志乃は最後にチラリとミツバを振り返ると、微笑む彼女を一瞥し病室を出ていった。

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