銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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申し訳ありません、芙蓉篇飛ばします。予め考えていたのですが、あまり志乃ちゃんが出てこないので。

ということで、真選組動乱篇です。ミツバの話に引き続き真選組ネタですが、気合い入れて頑張りたいと思います。


真選組動乱篇 絆は形となって現れない
本当に大切なものはたとえ友達でも壊される可能性があるから誰かに触らせるな


この日も、志乃は真選組のバイトで屯所を訪れていた。

最近志乃は仕事の際、「鬼刃」を持ち歩いている。もちろんバイトの時だけだが、帯刀が許可されている数少ない機会であるし、何より相手が攘夷志士なので、対等に渡り合うためにも腰に挿していた。

 

今日は、いつもより騒がしい。何があったのだろうと奥の庭に向かうと、近藤がポッキリ折られた刀を手に沖田に詰め寄っていた。

 

「何してんの」

 

「あ、嬢ちゃん」

 

「志乃ちゃァァァん‼︎聞いてよ!総悟が俺の虎鉄に嫉妬して、刀をポッキリ折っちゃってさァ‼︎」

 

涙混じりに肩に手を置いて、同情を求めてくる。ボロボロ泣いて鼻水まで垂らす始末だ。

そんなに大事な刀なら沖田に触らせるな。奴を誰だと思ってる。ドS帝王だぞ。

志乃は自分より一回り以上年下の少女に泣きつく近藤を見て、呆れる他なかった。

 

「知らねーよ。そっちの管理能力の甘さが招いた事態でしょ。そんなに大事なモンなら、安易に他人に触らせるな。それが一番だ」

 

「うう……虎鉄ぅ……そして志乃ちゃんが冷たいぃぃ……」

 

「男がその程度で泣くなァァァ!てめェそれでも侍かコノヤロー!」

 

大体男に泣きつかれてもこちらが困るだけなのだ。小さい子供ならまだしも、相手は三十路近い男だ。余計めんどくさい。

近藤を押しやる志乃の腰元を見て、隊士がそれを指さす。

 

「そういえば嬢ちゃんって、バイトの時はいつも刀を持ってるよね。買ったの?」

 

「違うよ。コイツは私の一族に代々伝わる刀さ」

 

「スゲー、流石銀狼‼︎専用の刀があるなんて!」

 

「ちょっと!ちょっとだけ素振りさせて!」

 

もう一人の隊士が、両手を合わせて志乃に請う。志乃はベルトのリングを外して、「鬼刃」を差し出した。

 

「いいよ」

 

「やった!ありがとう!」

 

「鬼刃」が、隊士の手に渡ったーー次の瞬間。

 

ズシッ

 

「ふんぐっ⁉︎」

 

思いがけない重さに、隊士は両足をグッと踏ん張る。歯を食い縛っていないと、すぐにでも地面に落としそうだった。

しかし握力の限界が来て、「鬼刃」を地面に落としてしまった。その時、「鬼刃」が若干、地面にめり込む。

皆信じられないような目で刀を見つめた。

 

「……えっ?」

 

「ウソ……えっ?」

 

刀を持てなかった隊士に、志乃が怪訝な視線を向ける。

 

「え、何で?持てなかったの?」

 

「いや、だって……重すぎ」

 

「重い?ハハハ、何を言ってるんだ。鍛え方が足りないんじゃないか?」

 

志乃は銀狼といえど、女の子だ。筋肉もそこまでついているわけではないし、どちらかといえば女の子らしく脂肪がついている。そんな少女が、大人の男が持てない程の重い物を振り回せるわけがない。

近藤は笑い飛ばして、「鬼刃」を拾おうと手をかけた。

 

「まったく、最近の奴らは力が足りないぞ。女の子は力強い男に惚れるもんだ。俺を見てみろ、こんなもの軽く……アレ?」

 

グッと持ち上げようとしても、全く動かない。両手でしっかり持ってみても、切っ先が上がらない。

 

「ふんぐぐぐぐぐ……‼︎」

 

「ダメです近藤さん。全く持ち上がってませんぜ」

 

ついに近藤も「鬼刃」を持ち上げられず、手を離して地面に落とした。

 

「あーあ、近藤さんまで何やってんの?まったく、近頃の男共は。揃いも揃って情けない」

 

嘆息した志乃が、刀の柄を握る。

そして、ヒョイと軽く持ち上がった。

 

「えええええ‼︎」

 

近藤、隊士二人、山崎が呆然として、悠々と刀をしまう彼女を見つめる。沖田だけは一人、ポーカーフェイスを貫いていた。

 

「ちょっ……ウソォォォォ‼︎何で志乃ちゃんあんな重いの持てるわけ⁉︎」

 

「『鬼刃』は普通の人間には重すぎて扱えないってたっちーが言ってた」

 

「ウソでしょ⁉︎嬢ちゃんってムキムキなの⁉︎」

 

「んなわけあるか。てめー脳天から股まで一刀両断してやろーか」

 

隊士の余計な一言にカチンときた志乃は、刀を抜いて斬りかかろうとする。

その場にいた近藤や山崎らによりそれは防がれたものの、その後しばらくは、志乃怪力説が真選組内で密かに広まっていたというーー。

 

********

 

その晩。本来ならば志乃はバイトを終えて帰っているはずの時間帯なのだが、何故か未だに真選組屯所にいた。

 

なんでも、今日はかねてより外回りで出ていっていた隊士が、屯所に帰ってくるという。しかも、新人ながら隊内でもかなりの地位に立つ人物らしいのだ。

彼が外回りに行った後から真選組に入った(正確には入ってないby志乃)ため、志乃はその存在を今まで知らなかった。その紹介も兼ねて、今日は夜までの出勤となった。

 

とはいえ、働くというよりかは宴会に参加するという感じだ。

全員が席についたところで、近藤が御猪口を掲げる。

 

「伊東鴨太郎君の帰陣を祝して、かんぱーい‼︎」

 

「「カンパーイ!」」

 

近藤の乾杯の音頭を受け、皆が同じく御猪口を掲げる。志乃は未成年であるため、酒ではなくオレンジジュースが入ったコップを持っていた。

ちなみに隣に座る沖田も未成年だが、何故か酒を飲んでいた。オイいいのか。コイツはいいのか近藤さん。

果汁よりも砂糖の味が強いオレンジジュースを、ぐいっと飲む。そして、近藤に酒を注いでもらっている眼鏡をかけたインテリ系の男を見やった。

彼が、今回武器を仕入れ帰ってきた伊東なのだろうと推測する。

 

「いや〜伊東先生……今回は本当に御苦労でした。しかしあれだけの武器……よくもあの幕府のケチ共が財布の紐を解いてくれましたな〜」

 

「近藤さん、ケチとは別の見方をすれば利に聡いという事だ。ならば、僕らへの出資によって生まれる幕府の利を説いてやればいいだけの事。尤も近藤さんの言う通り、地上で這い蹲って生きる我々の苦しみなど意にも介さぬ頑冥な連中だ。日々強大化していく攘夷志士の脅威をわかりやすく説明するのも、一苦労だったがね」

 

「アハッ、アハハハハ!違いない!違いないよ!ガンメイだよね〜アイツらホント、ガンメイ〜」

 

話を無理に合わせようとする近藤に、沖田の疑問の声が飛ぶ。

 

「近藤さん、頑冥って何ですか」

 

「うるさいよお前は!子供は黙ってなさい」

 

あ、やっぱ頑冥の意味知らないんだ。

ちなみに頑冥とは、考え方に柔軟性がなく、物事の道理がわからないことを指す。まぁ簡単に言えば、頭が固いということだ。

 

頑冥も知らない大人に呆れて、志乃は早速料理を食べ始めた。普段食卓に並ばない豪華な料理だ。こんなものを食べられる機会など、滅多にない。

伊東が何やら言っている傍らで、我関せずとばかりにもぐもぐと料理を食べていると、ふと隊士らの会話が聞こえてきた。

 

「また始まったよ。伊東さんのご高説が。酒入ると毎回やってるよあの人。局長もノリノリだし」

 

「すっかりやられちまってるよ。『先生』なんて呼んでんだぜ。ウチ入って一年余りの新参者を。向こうも向こうで局長と対等に接してやがる。『参謀』なんて新しいポスト貰って調子乗ってんじゃねーの」

 

参謀。その言葉を聞いて、志乃の手がピクリと止まった。

参謀?真選組の頭脳は土方ではなかったのか?

 

以前聞いた話によれば、真選組はそのほとんどが実際に武士の家の出ではないらしい。中にはあまりちゃんとした教養を受けていない者もいる程だ。

なるほど、真選組は確かにテロなど大きな事件を取り扱うため、敵と戦うことが多い。しかし、彼らも一応幕府の役職の一つとして組み込まれている。

戦いにおいての作戦面は強くても、政治のしがらみやら面倒な手続きやら、その点に強い者がいないのだろう。だから、近藤も伊東を重宝するのか。

 

一人納得した志乃は、オレンジジュースを口に含んだ。

 

「志乃ちゃーん、こっちだ」

 

近藤に呼び出され、席を立って彼の隣に正座する。自然と、伊東と向き合う形となった。

伊東が不思議そうに、彼女を見つめる。

 

「近藤さん、いつの間に真選組に女の子が?」

 

「つい最近入ってきた子でね。志乃ちゃん、この人が伊東先生だ」

 

「どうも初めまして、お嬢さん。伊東鴨太郎です」

 

にこやかに微笑み、伊東は頭を垂れた。志乃もそれに応じ、ぺこりと会釈する。

 

「霧島志乃です。近藤さんからお話は伺っていました」

 

「志乃ちゃん、だね。これからよろしく」

 

スッと、手が差し伸べられ、握手を求められる。志乃もそれを見てこちらも手を出したーーその時。

 

ゾッ‼︎

 

「ーーッ⁉︎」

 

突如、寒気が襲いかかる。

思わず、差し出した手を止めてしまった。

 

「?どうしたんだ志乃ちゃん」

 

「…………いや、何でもない」

 

近藤に尋ねられ、とにかく伊東と握手を交わした。

先程の寒気は何だったのか。その疑問だけが、志乃の頭の中に渦巻いていた。

 

********

 

「波乱ですね」

 

「波乱?」

 

家に帰った志乃は、その後すぐに八雲に相談した。

鬼道に通ずる八雲は予言が得意であるため、彼に伊東と握手する際に感じた寒気の正体を聞いていた。

その寒気は、波乱を予言している。そう八雲は言ったのだ。

 

「近い内に、真選組全てを巻き込んだ波乱が起こるでしょう。しかも、この波乱はかなり大規模になる」

 

「…………引き金は伊東?」

 

「さぁ?今の所そこまではわかりません。ですが、貴女がそこまでハッキリと寒気を感じたというのなら……おそらくそうなのでしょうね」

 

八雲は占いに使った色とりどりの石を拾い、袋にしまう。

ソファに座る志乃を横目に、口を開いた。

 

「好都合なのでは?真選組がいなくなれば、貴女を監視する目が無くなるではありませんか。そもそも貴女は、奴らにあくまで敵と見なされているのでしょう?特に、あの土方十四郎とかいう男に」

 

「そうだけど……」

 

「私は素晴らしい未来だと思いますがね」

 

立ち上がった八雲は、石をタンスにしまうと、未だ俯いている志乃に言った。

 

「……あまり気にしないでください。これはあくまで占いですから」

 

「よくいうよ。ジョウの占いはほぼ百発百中のクセに」

 

「確かに、今まで外れたことはほぼありませんがね。まァ本当にその時が訪れたら、貴女は貴女の信念に従って動くべきです。真選組を放っておくも良し、助けてやるも良し。貴女のやりたいようになさい。私は止めませんから」

 

八雲は志乃を振り返ることなく、自室に戻っていった。

一人リビング兼客間に残った志乃は、ソファに体を預け、目を閉じた。

 

波乱。八雲はそう言ったが、この時の志乃はそこまで大きくなるとは思っていなかった。

 

これは波乱ではない。動乱だ。

 

後の彼女は、そう語ることになるーー。

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