銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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全蔵と絡ませておきたかったがだけの理由で書きました。



策は幾重にも弄しておけ

志乃は冬空の下、ジャンプ合併号を求めてコンビニに向かっていた。

寒い中出かけるのは本当に嫌いだ。志乃はマフラーにポスッと顔を埋めて、スクーターを走らせた。

 

「あ〜〜〜……クッソ寒……」

 

ようやく目的のコンビニに辿り着き、スクーターを店の前に停める。

鼻にまで巻いたマフラーを首元にずらして、足早に本棚に向かった。

ジャンプ合併号が、あと一冊だけ残っていた。

何店かハシゴして、やっと見つけたのだ。嬉しくて、パアッと表情が明るくなる。

手を伸ばしたその時、隣からも手が伸びてきた。

 

「「ん」」

 

チラリと横目で隣を見上げると、前髪で目を隠した男が立っていた。

その男とも目が合うと、露骨に反応した。

男ーー服部全蔵は、隣に立つ銀髪の少女を見下ろしていた。

彼の脳裏に、あの銀髪の天然パーマが浮かぶ。キョトンとした顔でこちらを見つめる少女は、あの男に似ていた。

 

「お兄さん、ジャンプ合併号?」

 

「ジャンプ合併号。え?ジャンプ合併号?」

 

全蔵の問いに、志乃はこくりと頷く。そして、目の前のジャンプ合併号に目を落とした。

 

「どうしよ。一冊しかないね」

 

んー、と顎に手をやる志乃。しばらくジャンプ合併号を見つめ、やがてうーんと腕組みを始めた。

かれこれもう十軒近くのスーパーやコンビニ、書店を回ったが、どこも売り切れて買えなかったのだ。

しかし、全蔵もそれは同じらしい。このような状況でも銀時ならばジャンプを手に入れようとするが、志乃は全く違った。

 

「お兄さんどうぞ。私また別の所回ってみるよ」

 

「へ?いや、あの……」

 

明らかに年下の少女にジャンプ合併号を譲られて、全蔵は戸惑った。

マズイ。このままでは、子供に少年誌を譲られた情けない大人というレッテルが貼られてしまう。

全蔵はすぐさまマフラーを口元まで上げた志乃の背中に声をかけた。

 

「ちょっ、ちょっと待てちょっと待て‼︎」

 

「何?お兄さんジャンプ買うんでしょ?私はまた別の所で探すから。最悪明日買ってもいいし。どうぞ」

 

「いや、俺が別の所行って買う‼︎だからお嬢ちゃんが買いな」

 

「いや、いいって言ってるじゃないですか。私は兄貴みたいな大人げない大人になりたくないんで。それじゃ」

 

「だからちょっと待てって‼︎」

 

今度は前に回り込まれ、通路を塞がれる。流石に志乃もイラっときた。

 

「何なんですかアンタ。人がいいって言ってるでしょーが。その親切受け取らねェたァどーいう了見?」

 

「いやだから、子供がそんな気を使わなくていいってんだよ。今回は俺が譲るから。次は多分ないから」

 

「次なかったら今回なくてもいいでしょ。ジャンプ合併号譲り合戦開始する?みっともなくて笑えるよ」

 

「言っとくけどそれお嬢ちゃんも同じだからね?結局は俺もお嬢ちゃんも恥かくだけだからね?」

 

「嫌でしょ?ならアンタが買いな。私行くから」

 

ーー言いくるめられてるゥゥゥゥ‼︎

 

マズイ。これは今までにない程マズイ。

あの天然パーマより大人ってどういうことだ?そして以前は争奪戦だったのに今回は譲り合いって何だこの因縁は?

つーか俺はこいつら兄妹とジャンプ奪い合ったり譲り合ったりする運命なのか?

 

全蔵の頭の中で疑問が次から次へと浮かび上がり、ぐるぐると駆け巡る。

しかし、とにかくこの少女にジャンプ合併号を渡さなければ、自分がこれから先後ろ指を指されることは間違いない。全蔵は諦めなかった。

 

「まァとにかくお嬢ちゃん、ジャンプ合併号を買いなさい。ね?」

 

「は?」

 

こうなったら実力行使だ。

全蔵は志乃の肩を押して、本棚に連れ戻す。

 

「…………ホントにいいの?」

 

「ああ、いいんだ。俺は他の店回るよ」

 

志乃が振り返るのも気に留めず、足早にコンビニから立ち去る。外の寒い外気に肌が触れた時、全蔵は大きな溜息を吐いた。

最悪だ。やっとジャンプ合併号を見つけたと思ったのに、少女が現れて渡さざるを得ない状況になってしまった。

 

「……しゃーねェ。他の店行くか…………」

 

「やっぱお兄さん買いたかったの?」

 

「うをおっ⁉︎」

 

背後から声をかけられて、思わず飛び上がる。志乃はマフラーに口まで顔を埋めて、全蔵を見上げる。

マズイ。先程の独り言をバッチリ聞かれていたらしい。

 

「ぁ、いや、その……」

 

戸惑う全蔵の横を通り過ぎて、店の前に停めたスクーターの鍵を開ける。エンジンを吹かすと、志乃は怪訝そうに眉を寄せた。

スクーターから降り、車輪の辺りにしゃがみ込む。

 

「オイどーした?」

 

「ん……なんかエンジンの調子が悪いみたい。あーあ、どうしよ」

 

志乃はうーむと考え込んでから、パッと立ち上がり、全蔵に駆け寄った。

そして、手に提げていたビニール袋を差し出す。

 

「これ、向こうまで持ってってくれない?」

 

そう言って、煙の立ち上る工場を指さす。

 

「あそこにスクーター見てくれる人がいるからさ、その人呼んできてくれない?この袋の中にそのお礼入ってるから」

 

「ああ、構わねーが……」

 

「ありがとう!」

 

寒さで少し赤い頬。そんな顔でニッコリ無邪気に笑われたら、もう何も言えない。

全蔵は肩を竦め、軽い足取りで工場へ向かった。

 

********

 

しかし。

 

「……何だよ、コレ」

 

工場の中には、誰もいなかった。ドラム缶や木材が無造作に置かれているだけだ。人の気配などありゃしない。

一体どういうことだ。問いただそうとコンビニ前まで急いで戻り、彼女を探した。

しかし。

 

「……アレ?」

 

志乃の姿は、どこにも見当たらなかった。調子が悪いと言っていたスクーターごと。

彼女の荷物を預かったままだ。困り果て、溜息を吐く。

ビニール袋の中をこっそり覗くと、先程買ったジャンプ合併号がレシートと共に入っていた。

レシートの裏に、黒い線が描いてあるのを見つける。全蔵は興味本位でレシートを手に取った。

それには、こう書かれていた。

 

『ジャンプ譲ってくれてありがとう。これはお礼です』

 

爪で擦った跡が残っている。どうやら彼女は最初から、自分にジャンプ合併号を渡すつもりだったらしい。

 

「……こりゃ一本取られたな」

 

レシートを読み、後頭部に手をやる。志乃に一杯食わされた。どうやら自分の負けらしい。

彼女の好意に感謝しつつ、帰ろう……と一歩踏み出したその時。

 

「オイ」

 

誰かに呼び止められる。声に振り返ってみると、黒い髪に目付きの悪いチンピラみたいな男が立っていた。

 

「ちょっと屯所まで来てもらおーか。聞きてェ事があってな」

 

男の制服を見る限り、どうやら真選組らしい。

しかし何故、真選組に声をかけられたのか。全蔵には心当たりがなかった。

その時。

 

「嬢ちゃん、ホントにコイツで合ってんだな?」

 

「うん、アイツだよ!私にいきなり触ってきて、ジャンプ奪ったの!」

 

全蔵は目を疑った。怒った表情でこちらを睨んでくる少女は、先程スクーターごと消えたはずの志乃だった。

もう一人いたポーカーフェイスの隊士が確認するのに答えている。

動揺したまま、チンピラ男に肩を掴まれる。

 

「てめーにゃ痴漢と窃盗の容疑がかかってんだ。神妙にしてもらおう」

 

「えっ?いや、あの……コレ」

 

「返してよ!私のジャンプ!」

 

全蔵の手からジャンプ合併号が入ったビニール袋をふんだくると、志乃はそれを大事そうに抱きしめた。

 

「ったく、いい歳こいてジャンプなんて読んで恥ずかしくないの?しかも子供からジャンプ奪うなんて最低」

 

「は⁉︎何言ってんだお前、だってお前がアレ……」

 

「言い分は屯所で聞く。オラ、とっとと乗れ」

 

「じゃあな嬢ちゃん。気ィつけて帰れよ」

 

「うん。お仕事頑張って〜」

 

志乃はポーカーフェイスの隊士に手を振ると、帰路につくのかスクーターに跨る。

そして、否応無しにパトカーに詰め込まれた全蔵を振り返りーー

 

 

 

 

 

 

ニタリ、と。歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

それを見た全蔵は全てを察した。

嵌められた。あの小娘に。

 

彼女は元から、ジャンプを渡すつもりなどなかった。

しかし、争奪戦になるのは極めて面倒。そこで志乃は、一度男にジャンプを譲ることにしたのだ。

こうすれば普通の大人は、子供に気を使われることに引け目を感じ、ジャンプを譲ってくる。

案の定、彼はそれに見事嵌った。しかし、ただ嵌めるだけでは面白くない。

ならば、譲り合いに持ち込み、そこで一度彼にジャンプを渡そうと思った。

一度彼にジャンプを渡し、気分良く帰ろうとしたところで、警察に窃盗として突き出す。

いわばこれは、「地上に上げといて地獄に落とそう大作戦ジャンプver.」だ。

 

彼女の思惑をようやく察した全蔵は、悔しさと憎しみにギリ、と歯軋りする。

 

あの女、やはりあの天然パーマの妹だった。

いや寧ろ、兄より凶悪な敵かもしれない……。

 

こうして見事全蔵からジャンプ合併号を護り切った志乃は、悠々と帰宅したーー。




次回、缶蹴りです。
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