銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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知りすぎるとヤバイ事もある

カチャ、と刀を抜く音が微かに耳に入る。橘は右手を握りしめ、背後に立つ京次郎の刀を握る手に拳を打ち据えた。

振り返り、京次郎を蹴り飛ばす。その時に発砲され、弾は橘の左肩を貫通した。

 

「……どういうことだ、コレは」

 

「だから言うたじゃろ。今更バカ息子引きずり出そうちゅーても遅いて。どいつもこいつもめでたい奴等じゃ。五年も姿も見ず声も聞かんで、どうして生きてると?」

 

撃たれた左肩を庇いつつ、橘はゆっくりと京次郎と距離をとる。

 

「おじきが悪いんじゃ。せっかく若がカタギになって邪魔者がいなくなったと思っとったら、わざわざ連れ帰ってきよって。あの人におられるとわしは一生出る幕がないんじゃ。仕方がないんで一生殻から出てこられんようにさせてもらったわ。どんなに呼びかけようと叫ぼうと、もう若が外に出てくることはない。なんせ殻の中は骨しかないからのう。この先もずっと、若は殻の中じゃ。おじきが死んでも、ずっと。おじきには気の毒じゃが、愛しい息子とはあの世で会ってもらうことになるのう」

 

橘の眉が、眉間に寄せられる。

その雰囲気は、明らかに怒りが混じっていた。

 

「……鬱蔵を殺したのはお前か」

 

「わしは昔若の世話役をやっとった、引きこもった後もわしにだけは会ってくれてのう。細工をするなんざお手の物よ、騒ぎになっては面倒じゃけんのう。組長が死んでも倉から出てこんバカ息子。代わりに組を指揮るモンが必要じゃろ。そうじゃ、頼りにならん跡取なんぞじゃない。腕も頭もキレる、本物の極道がのう」

 

京次郎の後ろには、彼の仲間がぞろぞろと集まってくる。

橘は怒りの込もった視線を京次郎に向けつつ、懐から折りたたまれた棒を取り出した。それを組み立てると、普段彼が使っている槍と同じ長さの棒になる。

 

「お前は極道などではない。ただの外道だ」

 

棒を構え、京次郎達と対峙する。

しかしその時、視界がぐにゃりと歪んだ。足取りが覚束なくなり、フラリとよろめいてしまう。

どうやら、先程飲んだ酒に毒が盛られていたらしい。

嵌められたと感じたのと同時に、情けなく思う。

自分は「獣衆」の"黒虎"。毒なら、匂いでわかったはずなのに。

 

しかし敵も待ってくれるはずもなく、大勢で襲いかかってくる。痛む肩を無視して、橘は大きく棒を振るった。

塀を乗り越え、とにかく屋敷から逃げる。毒に侵された体に鞭を打ち、走り続けた。

 

橋の上で、前方も後方も囲まれてしまう。フラフラな足取りで敵を薙ぎ倒していくが、背後からバッサリと斬られた。すぐに斬ったヤクザに棒を叩きつけ、打ち倒す。

傷をものともせず戦っていた橘の腹を、鉛が貫通した。

チラリと銃を構えた京次郎を見て、倒れていく。橘はそのまま、橋から川へ落ちていった。

 

ちょうどその頃。何も知らない下愚蔵は、息を引き取った。

 

********

 

それから数日後。魔死呂威組新組長の襲名披露が行われた。大広間には、大勢の人が集まり、横一列に並んでいる。それは全て、京次郎の襲名を祝うものだった。

大きな盃の前で、京次郎は頭を下げる。

 

「畏まらずに飲め。酒の味は働いている奴にしかわからんらしいぞ」

 

聞き覚えのある声に、京次郎は思わず頭を上げる。

目の前には変わらず、同じく正装した男が座っているだけだ。しかし、その顔に生気はない。

 

「まぁ尤も、お前のはたらいているのは悪事だけだろうが」

 

それに引き続き、並んで座っていた男達が次々と倒れる。声の主は京次郎の目の前の男を踏んで、盃をひっくり返した。

 

「久しいな」

 

男の後頭部を踏みつけて、橘が御猪口を片手に京次郎を見下ろしていた。

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