暗殺聖闘士   作:挫梛道

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お久し振りに御座います。
 


茅野の時間

「「「「「茅野…」」」」」

「「「「「茅野さん…」」」」」 

時刻は夜の8時。椚ヶ丘公園奥の すすき野原。

 

「殺せんせー、一応、言ってあげる。『逃げずに よく来た』…ってね。」

「……………。」

E組一同、そして烏間とイリーナが見守る中、黒い触手を2本、首筋から蠢かせる茅野が、殺せんせーを挑発気味に自らが用意した決闘(あんさつ)の場への歓迎の言葉を送る。

対する殺せんせーは、(恐らく)慎重な表情での沈黙。

 

「…じゃ、早速 始めて さっさと終わらせよっか♡」

短くとも自身の足首、長い物で膝下まで生い茂っているススキで覆われた野原で、袖無し・丈の短い黒のワンピースにマフラー姿の茅野が若干 狂気を孕んだ笑顔を、

 

ヒュンッ

 

触手と同時に投げ掛けた。

 

ボヮッ!

 

「…!?」

「「「「「ほ、炎の…?」」」」」

「「「「「…し、触手ぅ?!」」」」」

その触手が、突如 発火。炎を纏う それは焔の鞭となり、殺せんせーを襲うが、

「ニュル!」

コレを殺せんせーは寸前で回避。

 

「…ふん!♪」

しかし茅野も悔しい素振りは見せず、避けられて当然とばかりに笑みを浮かべる。

 

ボボヴォゥッ!

 

「…!!」

それも当然。彼女の今の攻撃の本命。

それは…

「炎の…」

「…リング!!」

叩き付けられた地面が燃え、その炎は円周(リング)を描く様に走り、茅野と殺せんせーを閉じ込めるかの様に囲む。

 

【不意な環境変化に弱い】

 

4月からの暗殺生活の中で学んだ、殺せんせーの弱点の1つ。

それを作り出す事だった。

 

「…茅野さん、もう止めましょう。

触手(それ)をそれ以上 使うのは危険過ぎます。

今直ぐにでも抜いて治療しなければ、命に関わりm

「ハッタリの心算?

大丈夫。今の私、凄く好調なんだけど?

つまらないハッタリで動揺を誘うのこそ、止めて欲しいんだけど?」

殺せんせーの気遣いの言葉も、茅野には届かない。

それが()なのか或いは触手の影響なのか、はたまた役者として ()()()を見せているのか…

その口調も、普段の彼女の それでは無く。 

 

ドッドッドッドッドッドッ…!

 

「…ヤバいな。」

高速移動で距離を詰め、近接での触手のラッシュを仕掛ける茅野、それを躱し続ける殺せんせーを見て、イトナが呟いた。

 

「俺も ()()だったから分かるが、今の茅野の格好を見ても分かるだろ?

身体全体が熱い…だけど、首元だけが異常に寒いんだ。」

「それで『夏かよ?!』な服装なのに、首だけ あんな分厚いマフラーか。」

「よく見たらカエデちゃんの顔や手足、凄く汗ばんでいるし…」

「触手持ち特有の体調異常だ。

恐らくだが あの炎の触手も、異常な体温を触手に集中させる事で、身体本体の負担を和らげる手段なのだろう。」

「欠点を武器に…かよ?」

「…しかし どちらにしろ、あの状態で戦うのは本気でヤバい。」

「茅野…」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

そして続く茅野のラッシュ。

大きく飛翔し、其処から地に突き刺す様な炎の触手の連打は、噴火した火山が撃ち出す溶岩弾の如し。

その場に幾多のクレーターを作っていった。

 

ビチィッ!

 

「きゃはははは♪ 千切れた! 千切っちゃたぁ!

びくびく脈打ってるぅ♡…キっも!」

そして遂に、茅野の触手が殺せんせーに届く。

今迄の()()で無く、刺突狙いの触手を()()した触手(うで)を、強引に斬り裂いたのだ。

それはイトナの転校初日の決闘以来の有効打だった。

 

「あの殺せんせーが避けるで無くて、防御(ガード)したってのが、とりあえずヤバいんだよな…?」

「茅野ちゃん…」

 

◀◀◀

『…本当に良いのか? 殺せんせー?』

『はい、吉良君。キミも手出しは不要です。』

実は茅野と殺せんせーの決闘が始まる前、響は殺せんせーに手助けの話を念話で持ち掛けていた。

 

『今迄の雑魚とは違うぜ?

多分だけど あの茅野ちゃん、触手イトナより強い。

何が有ったかは想像が…いや、どう云う訳か、偶々()()()()()()()()()()()()、色々と勘違いしたのだろうけど…』

『ええ。そして どう云う経緯かは判りませんが、()()()()()()()()()()()()…のでしょう。』

『…だからだ。今の茅野ちゃんから感じられるのは、純粋な憎悪だ。

それが触手にも伝わって…』

『大丈夫ですよ。手助けが必要だと判断した時は、皆さんに援護を頼みますから。』

『…了解。』

…因みに この小宇宙(コスモ)使用、殺せんせーのマッハ20の反応速度に合わせた やり取りの所要時間、0.07秒。

 

▼▼▼

「…どちらにしても、アレじゃ戦いが終わった後…緊張が途切れた瞬間に、精神も生命力も、触手に全部 持ってかれて死n

「違う! 違うよ! …そんなの間違ってる!!」 

「…渚?」

「渚君?」

イトナが経験役として話してる途中で、渚が ()()()()()声を荒げた。

 

「茅野ッ!」

そして その儘 茅野にも、声を向ける。

 

「……………………。」

「…忘れてないよね? 4月に僕が、自分の身を犠牲にして殺せんせーを殺そうとしたの。

今だから言えるけど、そんなのしたって、何も残らない!

だから、もう止めよう! 殺せんせーに触手(それ)、抜いて貰おう!」

「…だから?」

「…?!」

しかし その必死の訴えも、今の茅野には響かない。

 

「大事なのは結果! コイツを殺したという結果が出来たなら、もう それで良いのよ!」

「茅…の?」

「きゃははははははははははっ!♪

殺せんせー、死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んでえッ!!♪」

 

ドドドドドドドドドドドッ!

 

「ニュルッ!?」

狂気な表情…完全に目が()()()しまっている茅野は、追撃の触手()を緩めない。

それに対して殺せんせーは防戦一方。

襲い迫る触手を、時に躱し、時に防御(ブロック)し続ける。 

 

「ヤバい…いよいよ、マジに、ヤバい…!」

「イトナ?」

「茅野が どうやって触手を手にしたかは分からないが、俺の時の様に、誰かの援助を受けている様には見られない。

もし そうだとしたら、俺にも茅野の事は、政府から知らされていた筈だ。」

その状況に、イトナが分析。

 

「今頃 茅野の頭の中は…例るなら脳内で棘だらけの蟲が蠢いている様な、地獄の苦痛に蝕まれているだろう。

それでも…理性を半分近く失っていながら、残り半分の正気で、あんなにも動けるなんて…」

「なんちゅう精神力だ…?」

「イ〜トナ君〜? 聞こえてるわよ〜?」

「「「「!!!?」」」」

このイトナの解説に、茅野が攻撃を休める事無く会話に参加。

 

「そうよ? 確かにキミが言ってた通り、最初は頭ガンガンで死にそうだったけど、今は凄く…そのガンガンが凄く、凄くキモチイイのぉ〜♪♡

きゃは…きゃははははははははははははは!!」

()()ってヤツかよ!?」

「「「「「………。」」」」」

変わらずの…いや、更に増した狂気の笑みでの返しに、吉田が一言 放つだけで、他の皆は何も言えず。

 

「………………………………。」

その場面で、冷静に戦況を視る者が1人。

 

「茅野ちゃん…」

…響である。

 

 

死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!

 

 

「………………。」

その、心の叫びを聞きながら。

 

 

殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!! 殺して…助けて…

 

 

「……!」

そして その、触手に被された上辺の言葉で無く、心の奥底に秘められた本音を…響は遂に聞き出した。

 

 

この…! 雪村先生の仇とか言ってて、何だかんだで殺せんせーの事、信じているんだろうが!!

 

 

「…何やってんだ殺せんせー! 何か策が有るのなら、さっさと実行しろ!」

「吉良?」

「きーちゃん?」

それを知ったからこその、この咆哮。

自分には手出し無用と言われていたので、尚の事。

 

「分かっています!」

「「「「うをっ?!」」」」

響の叫びに応えるかの様に、突如E組メンバーの眼前の空間に、何やら見覚えの有る目と口が現れた。

 

「殺…せんせー…?」

「はい。」

それは、正しく殺せんせーの顔。

 

「茅野さんの攻撃がキツくて、こうやって顔だけ分身させるのが やっとです。」

「それは それで器用!」

「実は まだ、余裕だろ?」

その説明に少しばかり突っ込まれながらも、殺せんせーは話を続ける。

曰く、茅野の尋常で無い攻撃力は後先…自分の生存等 考えてないからこそ出せる物。

この儘だと確実に、触手に生命力を奪われて死に至る。

 

「…ですが、彼女と触手の殺意が合致している限り、あの触手の『根』は神経(からだ)から切り離せません!

…イトナ君の時みたいに、時間を掛けて説得する暇が有りません!」

「…じゃ、どうすりゃ?」

「手段は1つ! 戦いながら、引き抜きます!」

 

≫≫≫

「「「「「「心臓を!?」」」」」」

殺せんせーの考え。それは、敢えて自身の急所(しんぞう)を無防備にする事で、其処に触手の刺突を受ける。

そして、確実な手応えを感じさせる。

つまり、()()()と思わせれば、茅野…いや、()()()()()は一瞬だが弱まる筈。

  

「…その瞬間に君達の誰かが、()()()()()()()を掻き消す、何かをして下さい。」

「いや、何かって何?」

「本当に何でも良いんです!

暗殺の事なんか頭から抜け落ちてしまう、何か!」

「「「「「「………………………。」」」」」」

この急な振りに、黙り込む生徒達。

 

「これだけは先生には出来ません。

殺るべき対象から巫山戯た真似をされでもしたら、それこそ余計に殺意が増すだけです。」

「「「「「でしょーねー。」」」」」

「ん。それは、解る。」

「だからこそ、甞て寺坂君達がイトナ君に した様に、君達の手で茅野さんの殺意を弱めれば…」

「一瞬だけど茅野ちゃんと触手の繋がりが解けて、触手を摘出 出来る…って事?」

「その通りです、カルマ君。最小限のダメージでね。」

「でも、それってさ…」

それは、はっきり言って (ギャンブル)

タイミングや加減を誤れば、本当に心臓を触手に貫かれて死んでしまう、危険な策。

 

「上手い事、致死点は躱す心算ですが…

まぁ、確率は五分と云う処でしょうか。」

「五分って、おぃっ?!」

 

ドッドドドドドドドドドドドドッ!!

 

「っとっとぉッ!?」

そう話している間も、茅野の猛攻は止む事が無く。

 

「皆さん、分身も そろそろ限界です!

これから先生、防御に集中しますので、作戦タイム3分!

とっておきを期待してますよ!

皆さん、手伝って下さい!」

 

ドドドドドドドドドドドドッ!!

 

「ど…どーすんのよ?」

防戦一方の殺せんせーを見ながら、イリーナが烏間に話し掛ける。

 

「あのイッちゃってるカエデの前で、1発芸でもヤれとでも言うの?」

「……………………。」

それに対して慎重な面持の烏間は、良案が浮かばないのか、何も答えられない。 

…一方、

 

「茅野ちゃんと言えばプリンだ。プリンで釣ろう。

よし寺坂、お前ちょっとパシッてこい。」

「3分で戻れるか!?」

生徒達の方も策を出し合うが、決定打は出て来ない。

 

「ハァ…こうなったら仕方無いわ、吉良君…」

「はひ?」

そうした中、溜め息と一緒に片岡が響に話し掛けた。

 

「…今回は赦す。赦すからアナタ、脱ぎなさい。」

「はぁ?! 何なんだよ、それ???!」

まさかの発言に、間抜けな声を上げる響だが、

「だから! 仕方無いって言ってるでしょ!!」

「茅野っち、そーゆー時は一見 恥ずかしがって顔を覆ってる様だけど、実は ちゃっかり指の隙間から覗いてガン見してるから、効果的な筈よ!」

普段、その様な場面となった時は真っ先に制裁(シメ)に掛かる片岡と岡野が、『今回だけ』と推してくる。

 

「成る程! その手が有った!」

「きーちゃん良かったね! 堂々と脱げるよ!」

「…吉良っち、ファイト。」

「寒いわ! 今 何月だと思っている?!

ついでに殺されるわ!!」

更に それを後押しする中村、倉橋、速水。

しかし響は断固、拒否の姿勢。

 

「大体、俺を露出狂か何かと勘違いしてないか??!」

「「「「「「……………………………。」」」」」」

「いや、皆も黙ってないで其処は否定してくれよ!!?」

こうした会話の中、

「…………………………………………。」

1人、状況の打破を考える者が。

 

  

…どうする?

 

 

渚である。

 

 

ロヴロさんから教わった()()

ダメだ。キマれば確実だけど、アレだけ茅野の精神が不安定だと、成功する可能性は極めて低い。

ナイフに狙撃…ダメだダメだダメだ!

茅野を傷付ける方法なんて、論外だ!

何か無いか? 4月から、このE組で学んだ技術(スキル)

 

 

「…………………………。」

脳内で方法を模索する渚。

  

「ちょっとカラスマ! さっきから仏頂面してないで、何か言いなさいよ!

本当に何の考えも無い訳?」

 

「…?!」

そうした中、不意に聞こえたイリーナの声。

その方向を見れば、イリーナが烏間に、何か言い寄っている様だった。

 

「………有る!」

そして その光景を見て、渚は何かを思い付く。

 

「吉良君、ちょっと良い?」

「…渚?」

 

≫≫≫

 

ズドンッ!!

 

「ニュ…ゴフッ!!」

そして殺せんせーの救援要請から3分後、茅野の触手が殺せんせーの三日月マークのネクタイを貫き、更に その下の心臓部を正面からか刺突した。

余程のダメージなのか、殺せんせーは苦しみの表情と共に吐血。

 

「殺ッタ…?」

その確殺な手応えを感じたのか、一瞬、触手の力を抜く茅野。

 

ガシッ!

 

「…!?」

しかし、その一瞬を殺せんせーは見逃さない。

殺せんせーは茅野の背後に回り込み、抱き締める様に拘束。

 

「茅野さん…心を触手に侵されながら、それでも正確に心臓を狙ってくる。

どれだけ私を殺す為に勉強してきたか…そして、どれだけ雪村先生…お姉さんが大事な人だったかが、よく伝わってきます。

…しかし!」

「…!?」

「私は そのアナタの お姉さんに誓ったんです!

君達から、この触手()を放さないと!!」

「…………………!!?」

姉の名前を出されたからか、茅野は動揺するか如く、更に触手から力を抜いてしまう。

胸部に刺さった儘だが、その黒い触手は だらりと垂れ下がる。

 

「茅野!」

「茅野ちゃん!」

「………………!!!!??」

此処で、渚と響が茅野の前に出てきた。

 

バサァッ…! 

 

「………… (⁠◎⁠д⁠◎) ……??!」

そして宙に舞う、コートとブレザーとカッターシャツ。

 

『ギャー ( ° д ° ⁠) ーッ?!』と『きゃー (//∀//) ーっ♡!』、E組女子達の心の叫びが乱舞する中、茅野は目を丸くして完全硬直。

 

ダダダッ…!

 

其処に飛び出すのは渚。

小柄故の超·短距離ならE組1の俊足、木村以上の瞬発力を発揮して、茅野との距離を瞬時に(ゼロ)にすると、

「「「「「え゙っ??!」」」」」

「「「「「な…!!?」」」」」

「「ま゙…♡」」

「うわぁ…」

「「「は…はぃい〜っ?!!」」」

その儘、茅野の唇を自分の唇で覆ったのだった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!? 」

 




改めて、本当に お久し振りです。
そして、待てれていた人が居ましたら、お待たせしました!
再筆に際して前の話、全てを誤字、改行の修正、並びにルビ編集。
そして過去の全話、1文2文1言2言程度の追記をしているので、宜しければ今迄の復習として読まれてみては…と思っております。
   
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