回想回です。
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死神。
本名も年齢も出身も、本人すら知らない。
生きる為…気付けば彼は、数多の屍の山を築き上げていた。
そう、彼は殺し屋。
その世界の人間が、面識が無くも その者を知らぬ者は居ない程に認知された存在。
彼を知る者が彼の話をする時に付けた
「…弟子?」
「はい!」
ある日、死神は1人の少年を弟子として拾う。
その少年は その日、彼が殺した
少年は死神の仕事を…自分の父親が殺害されるのを見ていた。
それは死神からすれば、誤算で有り失態。
…殺るか?
頭の中で、その選択肢が浮かぶ。
「…………。」
…が、直ぐに その考えは消えた。
少年からは、殺気も怨みも感じない。
自分の父親を殺された復讐の為で無く。
少年の眼に宿す感情は憧れ。
死神は分析した。
自分の殺り方を見て、少年の中の何かが弾けたのだろう…と。
豪快なホームランを見てメジャーリーガーを夢見る様に、華麗なドリブル、或いはシュートを見てプレミアムリーグの選手に憧れる様に、凄絶なK.Oの場面を見て世界チャンピオンを志す様に、この少年は洗練された暗殺を目の当たりにして、自分は殺し屋になりたい、そう思ったのだろう…と。
「…着いて来なさい。」
「は、はい!」
不思議と死神には、それを拒むという考えは起きなかった。
駒を手に入れた…とも少し違う。
確かに この先、
それよりも、自身が『育成』の
≫≫≫
それから数年…
少年は死神の下で、数々の暗殺の技術を修得。
更には独学で、死神が持たない技術も持つ事に。
死神の弟子に相応しく、死神と肩を並べる程の暗殺者に成長した。
「さよならだね、先生。
今から
僕が、名乗らせて貰うよ。」
「……………………。」
そして ある日、死神は この弟子の裏切りにより、とある組織に囚われてしまう。
▼▼▼
「私は改造手術を受け、世界征服を目論む悪の組織の手先になるのですか? ショッ●ーさん?」
「…世界一の殺し屋は、日本のサブカルチャーにも精通しているのか?」
棺桶の様な
腕脚は勿論の事、首に胴も鋼鉄の枷で完全拘束されても まだ余裕を見せる死神を見て、男は呆れた顔を見せる。
柳沢誇太郎。
天才と呼ばれる この科学者は、国を越えた非公式研究組織にて、ある計画の最高主任の座に就いていた。
【反物質
僅か0.1gの分量から、核爆弾相当のエネルギーを放出する物質…通称:反物質の活用計画。
一目すれば、夢のエネルギー源に見えるが、科学者達は この反物質が石油や原子力…現行のエネルギーの代用になるとは思っていなかった。
最大の理由は生産効率の悪さ。
爆発1回分の反物質を作るのに、その爆発以上のエネルギーを多量に必要としていたからだ。
解り易く端的に言えば、1円玉1枚作るのに、1万円以上の経費を使う様な物。
「柳沢主任…本当に大丈夫なのでしょうか?」
「む? 何の問題が有るのだ?
大量殺人を犯し、死刑止む無しの殺し屋。
元より戸籍も無い、
死んだ処で、何処からも誰からも文句は来ないさ。」
「………………………。」
柳沢が立案した、それを解消する計画。
それは人体に特殊薬物を投与して、先ずは その肉体を強化。
その後に所謂 反物質の
「それに明晰な頭脳とやらに、強靭な肉体。
最高の
それは、正しく神に仇為す人道からも道徳からも外れた、文字通りの下法の所業。
「「「「「…………。」」」」
何の迷いも無く言い切る柳沢に、彼の部下達は何も言わす、只 顔を引き攣らせていた。
正直な処、柳沢は周囲の研究者達からの評判は芳しくない。
暴言は勿論、直接な物理的暴力のパワハラ行使も日常茶飯事。
傲慢にして自己中心。
しかし、周りよりも群を抜いて有能なのも また事実なので、誰も何も言えずにいたのだ。
≫≫≫
「今回の実験。はっきり言って、私からしても未知だらけだ。
近い距離で直接 目視…監視する人間が欲しいのだが…」
「「「「「「……………………。」」」」」」
柳沢の言葉に、研究員達は何も応えない。
「くく…だろうな。元々が世界一
怖いのは理解出来るさ。
それに実験が進めば、こんな
尤も俺は、
「「「「「「……!!?」」」」」」
沈黙…監視役を名乗り出ない自分達に、また何時もの癇癪を起こすかと身を守る用意をしていた研究員達だが、その予想に反して柳沢は彼等の不安を理解しているかの様に薄い笑みを浮かべ、まるでライフルを撃つかの構えを取りながら、話を続ける。
その反応に研究員達は驚愕。
自分達の心情を察してフォローするだけで無く、殺し屋云々で まさか狙撃のポーズというジョークをこの男が見せたのだ。
「そ、それでですね、
簡単に外部の者を迎え入れる訳にも行きません。
口が固いのは勿論、頭脳明晰な人間で、なければ…」
「OK。それは俺が、何とかしよう。」
▼▼▼
「どうも、初めまして。死神さん…で、良いんですよね?」
「…ダッさ。何なのですか? その
「しょ、初対面の一言が それって、酷くないですか?!」
雪村あぐりは、柳沢の婚約者だ。
…と言っても、彼女の父親が経営する会社が柳沢の親の会社の下請けに当たり、その経営不振の会社を支援する代わりに彼女が謂わば、人身御供の様な形で縁を持った関係だが。
あぐりは兎も角、柳沢は愛という感情を、彼女には全く抱いていない。
この日、あぐりは死神の監視役として、柳沢に呼出された。
そして死神との初顔合わせ。
その彼女の余りな
▼▼▼
「お疲れ様です。それじゃ、今日のチェック、始めますね。」
「はい、雪村さん。それよりも…」
「はい?」
「今日の服、何時にも増して、凄くダサいですよ。」
「酷っ?!」
あぐりの主な仕事は その日の実験後の、死神の身体チェック…と言っても、渡された用紙に記載されている質問をしていくだけだが。
≫≫≫
「…こんなもんですかね?」
「あ…ありがとう…ございます…」
あぐりが死神の監視をする事となり、1ヶ月が経とうとしていた。
何時の頃からか、2人は身体チェックの後は、軽く雑談もする間柄に。
あぐりは日中は名門と云われる私立中学校の教師をしており、そちらが本業。
そして今は、その中でも劣等生だけを集めた集中強化教室の担任をしている事も話していた。
「ぅ…殺し屋からテスト作りのアドバイスを受ける、本職教師って…」
「雪村さんは どの教科も、問題作りがストレート過ぎるんですよ。
まして名門進学校のテスト問題なら、もう少し捻らないと。」
そして現在。あぐりは死神から、自分の受け持ちクラスの試験製作の、ダメ出しと手解きを受けている。
「死神さん、絶対に私よりも先生に向いてますよね?」
「ははは…私は弟子に裏切られたから、今 此処に居るのですが?
他者を教え導き、育てる…そっち系の
どうやら私は、指導者には向いていない様です。」
「それは…その弟子さんは多分、アナタに自分の事を見て欲しかったんじゃないですか?」
「…見ていた心算だったのですがねえ?」
実験体との他愛の無い会話。
あぐりは
当然だが その行動…会話内容は、監視されているが。
柳沢も監視モニター越し、自分の婚約者が余所の男…しかも最悪の犯罪者との談笑にも、特に何も言わない。
元より彼女の実家の会社の立て直しの為、お情けで娶ってやったという関係、認識。
其処には愛も情も無い。
故に、嫉妬も独占欲も何も無い。
「くっくく…」
寧ろ その場面にも、満足そうな笑みを溢している。
「「「「…………。」」」」
彼の部下達も、自分の婚約者を『女』と見ていないのは、既に理解していた。
彼女は死神の監視に適した、それなりに優秀で従順な只の駒。
しかし、それでも その不気味な嗤いが何を示しているか…誰も その、
▼▼▼
「聞け、モルモット。
これから お前の体は、本格的に改造される。」
「ジャパニーズ魔改造というヤツですか?
それで私は、
「…生ける伝説『死神』の新生活は、朝から晩まで人体実験を受け続ける毎日だ。
くく…まぁ、今迄 散々と、人を殺してきた報いだと思い、納得して受け入れるんだな。」
「………………。」
死神が組織に囚われて2ヶ月。
柳沢の言う
柳沢の説明に、死神は軽くジョークか皮肉かを飛ばすが この狂科学者は それを完全無視、逆に皮肉を加えての説明を続ける。
「今から、今迄とは全く別の薬物を投与する。
身体の不調を感じたら、直ぐに知らせろ。」
ズブ…
「…?!」
拘束台に備わった複数本の注射器が、死神の首筋に刺さり、反物質の素が注入される。
今迄に接種された…国によって認可否認可が別れる…肉体強化系の薬剤と違う、明らかに人体に取り込むべきでない物質。
瞬時に それを理解した死神は、一瞬だが顔を歪ませた。
「…さて、モルモット。一応は最低限の権利として、お前には教えておいてやる。
これから お前が一体どうなるか…をな。」
それを見た柳沢は、自己満足に酔い浸ったかの様に話し出す。
柳沢が現在、進めている、新エネルギー計画。
普通に生成すれば、逆にコストが膨大なマイナスとなる【反物質】。
それを生命体の中で生成…反物質生成に不可欠な『粒子加速サイクル』を生命活動のサイクルに組み入れ、その巨大なエネルギーで細胞のエンジンを始動させる。
後は、
その細胞自身のエネルギー運動により、粒子は加速し続け、生きている限り反物質の生成を続けるという仕組み。
「…と まぁ、此処迄 言った処で、お前が それを、欠片も理解出来る筈も無いがな。…くっくく…」
「………………。」
柳沢は何方かと言えば、自己顕示、承認欲求が強いのかも知れない。
自分の研究成果を世に知らしめて注目を集め、称賛されたいのだろう。
しかし少なくとも現在は、その内容故に公にするのは無理な話。
だからこそ、せめてもとばかりに死神に対して饒舌に計画の全貌を語ると、最後は嫌味を添えて、勝ち誇った様に薄い嘲笑をする柳沢。
「そんな訳だ。身体に違和を感じたら、直ぐに言えよ?
これだけは喋れないモルモットでは無理な事だからな。
分かったか? 喋れるモルモット?」
「…………………。」
柳沢の誤算。
確かに彼の理論は素人が聞いた処で何1つ理解に至らない超理論。
しかし死神の知識は並の科学者の それを、遥かに凌駕していた事だった。
暗殺の為に様々な知識を身に付けていた死神。
元より前から実験の中、此方から頼まずとも柳沢の方から勝手に、得意気に色々と喋ってくれていた情報から、この超理論の要点は ほぼ完璧に理解していた。
「クス…ダメですよ。情報というのは…せめて1割位は嘘を混ぜておかないと。」
「ん? 何か言ったか?」
「…ぁ、ちょっと、鼻が むずむずします。…掻きたいので手の縛りを解いてくれませんか?」
「知らん。我慢しろ。」
「……………。」
現在の死神の拘束状況。
一見、完全拘束に見える。
…が、確かに手首は固定されているが、実は指先は まだ自由に動かせる。
たった それだけで、微塵の警戒も無く、今も油断だらけ隙だらけに その指が届く位置に立っている柳沢なら、容易く殺る手段は無数に在る。
しかし今 殺った処で、脱出が難しく…いや、絶対に不可能になるだけ。
だからこそ、彼は今は耐える。
殺すべき瞬間…
何より、柳沢の理論が正しいならば、自分の身体にはヒトを超える
…ならば、私も この実験、協力してあげますよ。
私が現状を報せる事で実験を
死神は確信する。
近い未来に手に入れるであろう新たなチカラで、再び また破壊と殺戮の日々に還れる事を。