「はァあ?!!」
月の大部分の消失の報告。
既に世界レベルで
常時 月から送られて来る、実験マウスの通信データが突然 途切れた直後の事態。
「は…反物質を運用する臓器の、細胞分裂周期は如何なる生物でも一定です。
マウスと人間との細胞周期を比較すれば、
「それは何時だっ!!?」
「ひえっ?!」
冷静さを欠片も感じさせない柳沢の鬼気迫る怒声に、研究員は狼狽えながら
「柳沢主任…」
「どうしましょう…か…?」
「分かり切った事を聞くな!
あのモルモットは…廃棄だ!」
研究室に響く、柳沢の声。
月が
如何なる責任追及が、それを如何にして責任を取るか等は、想像も付かない。
変わり果てた月と、地球との引力的なバランス等、如何なる影響が生まれるかも、これも また未知数。
「分裂限界の前に心臓を止めさえすれば…つまり、ヤツを殺せば、サイクルは安全に停止する!!
至急
それから直ぐ、武装警備員を此処に呼べ!!」
「は、はい!」
しかし そうした中でも、柳沢は的確な最良であろう指示を飛ばす。
…兎に角 今、最も優先すべきは あの
どうせ本部も、同じ判断をするだろう。
『月の崩壊は、我々の研究実験が原因です』等と、バカ正直に公表する筈も無い!
大混乱の中、各自が
「………………………!!?」
しかし そうした中、それとは真逆の行動に移る者が、1人だけ。
≫≫≫
「…………………………………………………………。」
本来ならば この日は、死神の体調チェックも謂わば中休みの日。
簡単な検査が終われば、あぐりは帰宅出来る。
尤も、久し振りに出来た自由時間。
彼女は久し振りに、妹と会う約束をしており、その妹も既に、研究施設の側で待っている筈。
退所前に柳沢に挨拶をしようと…その部屋に入る前、廊下越しに聞こえた死神処分を命令する柳沢の言葉に、あぐりは絶句。
だから あぐりは柳沢に声を掛ける事無く、死神の元に向かう。
そして彼女から事の大筋を聞いた死神は、顔色を変える事無く、その説明を冷静に聞き入っていた。
「な…? 何で そんなにも、冷静で いられるんですか?」
あぐりからすれば、死刑宣告を告げたも同じと思っている。
それでも分厚い強化アクリル越し、目の前の男は表情崩す事無く、普段通りな態度。
まるで他人事の様な振る舞いに、あぐりも思わず大声を出してしまう。
「私が死ぬ。…それだけでしょう?」
「な…?!」
しかし死神は、それでも余裕の姿勢の儘。
「人は何れ死ぬ。私の場合、それが約1年後、地球全体を道連れにするかも知れない…それだけの話ですよ。
天に届く程…千の
最初から碌な死に方をするなんて、思っても望んでもいませんよ。
それでも まさか、人体実験失敗の果てとは、半年前迄は想像も していませんでしたが。」
「半年…前…?」
「はい。彼は此方から何も言わずとも、自分の方から勝手に、実験の概要を隠さす詳しく話してくれていました。
誇らし気に、ね。
彼の誤算は、自分の言っている事を、私が理解出来ていないと思っていた事ですね。
何しろ何時も、『良いか、モルモット。お前に言っても何1つ解らないだろうが…』から始まる御高説したから。」
「…つ、つまり、それって?!」
「ええ。反物質とやらのパワーが、肉体が限界を超えた時には、
クス…あの天才科学者さん(笑)は、月が破壊された、ですか?
そんな現状になって、漸く気付いたみたいですが。」
そして その余裕の正体は、既に已の運命を受け入れていたからだった。
「あぐり、教えてくれた事には感謝します。
だからアナタは直ぐ、この施設から出て行きなさい。
此処は直、戦場となる。…下らない巻き添えで、死にたくもないでしょう?」
「………!?」
その台詞を聞いて、あぐりは全てを察する。
少なくとも柳沢以下、自分を始末しようとする人間は、皆殺しにするのだと。
「死神さん、わたs
「あぐり。アナタは今、『止める』とか考えていますね?
しかし それは一体 何を…ですか?
柳沢を? 私を? それとも私の
「……………?!」
「その何れも、アナタには無理ですよ。
権力、暴力、頭脳…アナタには其れ等を可能とするチカラを、何1つ持ち合わせていない。
…私は此処から
だから あぐり、アナタも早く逃げて下さい。」
ミシィッ…
「………。」
結局あぐりは死神の言葉に、今の自分では どうする事も出来ない事を自覚。
最終警告なのだろう。
柳沢曰く、
▼▼▼
『…柳沢、 聞こえているか?』
「…?!」
あぐりが自分の目の前から姿を消した後、死神は部屋角天井の監視カメラに顔を向け、今も自分を観ているであろう柳沢に話し掛ける。
『どうせ今の会話も、 聞いていたのだろう?
ならば話は早い。 私は此処から、 出させて貰う事にした。』
「巫山戯るな…おぃっ!」
「は、はいっ!」
死神の煽りに、柳沢は怒りの感情の儘、部下に指示。
直後、死神の独房内に毒ガスが、そして人体を不快に感じさせる周波数の超音波が放たれ、更に床には高圧電流が走る。
『クス…今、 何か しているのか?』
「な…効いていないだと?!」
しかし その何れも、死神には効果を確認出来ず。
無駄な事だと、冷たい笑みを浮かべる死神。
「ちぃ、ならば!」
BOMB!!
『…?!』
柳沢が制御盤のスイッチの1つを押すと、死神の胸部が身体の内側から破裂した。
一連の人体実験が開始された時、柳沢が一番最初に死神に施した作業。
その体内に仕込んでいた、爆破装置が起爆したのだ。
ずず…
「…な?!」
しかし それも、今の死神には何の意味も無く。
反物質細胞の力か…裂けた胸元は瞬く間に再生され、更には
ずずずず…
「何…だと?!」
死神の身体が、異形へと変化。
確定した已の『死』を、死神は呪ったりは しない。
…しかし、苛烈な人体実験の末に手にした この
全く使わずに朽ちるのは勿体無い。…違わないか?
触手は宿主の感情に、過敏に反応する。
感情が負の側に歪めば、その身も異形に歪ませる。
そして それは完全に、人間の姿で無くなる。
昨日迄は まだ、
しかし今は…顔立ちは確かに人間だった時の面影は残っているが、既に その姿は人に非ず。
触手が
「礼を言うよ、 柳沢。
お前の お陰で、 私は更なる力を得る事が出来た。 …ありがとう。」
それは決して、皮肉では無いのだろう。
『さぁ、 試してみるか。
今の私なら、 この独房を破壊する程度、充分に出来る。』
「…させると思っているのか?
そもそも お前は最初から、全ての実験が終われば処分する予定だったのだ。
その部屋が貴様の死に場所だ!」
カパ…
死神の更なる挑発に柳沢も更に顔を歪ませ、独房内の更なる
天井のパネルが幾ヶ所か開き、その各所から銃口が顔を覗かせた。
しゅばばばば…!
それに対して死神は、粘着性物質を体内で分泌すると天井へ飛ばし、その銃火器が出ていたパネルを押し返し、その全てを閉じ塞ぐ。
「粘液…だと?!
いや、粘液自体は、不思議じゃない。
どうして あのモルモットが、
粘液を作り出す事よりも、その体質を死神が理解しているのに、柳沢は驚愕。
バリィッ!!
そして死神は、
『…ふむ。 なかなかのパワーだ。』
「クソ…まさか、ヤツが実験をコントロールしていたとでも言うのか?
…
満足そうに、自分の
それを見て…此処で柳沢は漸く、今迄の実験が順調…順調に行き過ぎていた事を疑問視。
確かに死神に、色々と実験の詳細を喋ってきた自覚は有る。
しかし、単なる殺し屋が それを理解…意図は別として、自分達に逆らう処か、逆に協力していたとは、完全に思考の外。
〜優れた暗殺者は萬に通ず〜
その理を知らない、柳沢の完全な誤算だった。
…尤も仮に それを知っていたとしても、これ程迄の理解力は、想定外だっただろうが。
「だがヤツが この
お前等、この部屋で迎え討つぞ!」
「「「「「はっ!」」」」」
呼び寄せていた武装警備員隊にライフル銃を構えさせ…この部屋には数々の
ク゚ィィン…
先ずは仕掛けの1つ。天井から、碁盤の様な
ウィン…
「…………鼓太郎…さん?」
「………。」
その時に開いた扉から現れたのは、死神に この施設から出る様に言われた あぐりだった。
ドンッ!
「きゃっ!?」
「この、役立たずがっ!!」
ゲシゲシゲシゲシッ…!
「きゃぁあっ!!?」
あぐりが顔を見せた瞬間、柳沢は彼女の腕を掴むと自分の側に、シャッターが完全に閉じる前に引き寄せた。
そして壁際に突き飛ばし、そこから更に倒れた彼女に踏み付けを連続で浴びせる。
「主任!?」
「お、落ち着いて下さい!」
「あなたの婚約者なのでしょう?」
女に対しての度が過ぎる、この躊躇無き暴力。
これには流石に、普段から この男に
「本当に使えないヤツだ!
誰が1人でノコノコ戻って来いと言った!?
あのモルモットの人質にでも なれば良かった物を!」
しかし、柳沢の
実験の失敗、
その自分の意に即わない全てが、柳沢のプライドをズタズタに引き裂く。
「もう良い! お前との婚約は破棄だ!
慰謝料だろうが違約金だろうが、好きなだけ請求しろ!
いくらでも払ってやる!」
「………。」
ドッゴォッ!!
「「!!!!??」」
『…やあ。』
そして この時、死神も壁を破壊して登場。
広い研究室の中、それを二分したフェンスを挟み、柳沢と死神が対峙する。
『柳沢。 此処は素通りさせて貰えないか?
それなら
「それは無理な相談だな、モルモット。」
それは本心なのか それとも これも暗殺者のスキルなのか、殺意を全く感じさせない優しい笑みと口調で取引を持ち掛ける死神だが、柳沢は それに応じようとしない。
『…ならば、 仕方無い!』
それに対する応えは先程と同じ
しかし、つい先程迄の それとは対極の、殺意を欠片も隠そうともしない、冷たく歪んだ嗤い顔。
びゅん!
それと同時、もう1つの応え。
右の
バジュ…
『へ…ぇ…?』
死神としては、両者を別けるフェンス毎に、柳沢の頭部を破壊する心算だった。
しかし、触手が その約3㌢角の
逆に触手は網目に沿って潜り抜け…まるで
『…成る程。 この
触手を再生させながら、瞬時に それを理解する死神だが、それでも動揺している雰囲気は匂わせない。
「流石に察しが良いな、モルモット!
そしてコイツ等が撃ち出す弾も、同じ物質だ!」
ガチャ…
武装警備員がライフルの銃口をフェンスから突き出し、死神に向ける。
ババババババババッ…!
そして撃ち出される弾丸。
後に『対せんせー弾』と呼ばれる無数の弾丸が、死神に迫る。
しかし、
『…スローですね?』
死神の眼には、その弾幕、弾道が はっきりと視え、その全てを難無く躱していく。
バシュゥッ…ドサッ!
「「「「「「「…ッ?!」」」」」」」
そして その直後、武装警備員達の胸元から一筋、噴水の様に鮮血が飛び散り、更には口からも大量の血を吐き、彼等は その場で倒れ崩れた。
「な…?!」
全滅。ピクリとも動こうとしない警備員達を見て、柳沢は既に この日 何度目か分からない、驚愕の表情を浮かべる。
『クスクス…網の目が少し、 大き過ぎないか?』
「モルモットォ…ッ!!?」
この死神の台詞で、柳沢は理解した。
このモルモットは、自分の触手の特性を理解している。
今も髪の毛よりも細い…視認出来ない程の極細の触手で、警備員達の心臓を貫いたのだと。
「舐めるな…コイツ等も所詮は、捨て駒だ。
そして本命は…!」
それでも…警備員達が全滅しても、柳沢は まだ、戦意を失う事は無く、
カチ…
手にしていたリモコンのスイッチを押す。
ズドッ!
『…??!』
それにより、死神の斜め後方から飛び出した
【
反物質生物の副産物である、強力な触手。
死神の身体から それが確認された時から、それだけ単体で利用する研究も進んでいた。
例えば これを人間に移植すれば、常人…人智を超える戦闘力を得る事も可能。
そして これをセンサー搭載の器具に詰めれば、
「死ね! モルモット!!」
ズドッ!…ズドズドズドッ!!
『………………………。』
生命を感知して、その対象に向けて亜音速で矢の様に撃ち放たれる。
『無駄だな。 この程度では今の私を殺すのは、不可能な様だ。』
…しかし幾本もの
決してダメージを負ってない訳では無いが、それが致命傷となるより前に、その傷を再生させるのだ。
『…そして そのフェンス、先程 触れた時に理解した。
確かに この私には特効かも知れない。
…が、
そう言いながら死神は、目の前に置いてある
ベキッ…ぐぃ…
そして触手1本、長さ180㌢ 重さ推定70㌔前後の机を
ぶんっ!
それをフェンス目掛け、豪快に投げ付けた。
ガシャァッ!!
死神の言う通り、対触手生物特効の材質は其処迄の強度は無かったのだろう。
スチール製の机の直撃を受けたフェンスは脆く砕け散り、
「ぎゃっ…?!」
その机は その儘、柳沢の顔面に直撃。
丁度 天板の
『さあ、
ズガガガガガガッ!!
「ぎゃああっ!?」
「ぐうぇ…?!」
「げばあっ!?」
そして始まる破壊活動。
研究室…いや、それ其の物は勿論、室内の人間も 触手に貫かれ、引き裂かれ、捻り潰される。
『私の このチカラは、 人類にとって夢のエネルギーだったそうだな?
ああ。 それは間違ってなかったよ。
…但し夢は夢でも、 悪夢の方だったがな!』
≫≫≫
「だ、駄目…」
死神が操る触手の超破壊力により、崩壊していく研究室。
その中で大した
「駄目…」
あぐりの眼に写っているのは、正に破壊の化身。
それが
「これ以上…の…」
結果から言えば、あぐりは この場から即 退避すべきだった。
例え逃げ出す様を死神に感づかれたとしても、彼女ならば見逃す程度の情なら、まだ今の死神でも見せていただろう。
「
しかし、あぐりは それを選択しなかった。
今の死神は、
だからこそ、今 止めないと…
何故、彼女が そう思ったかは誰にも解らない。
敢えて言えば、1年間 一緒に過ごしてきた者に、これ以上の罪を重ねて欲しく無かったのだろう。
タタッ…
だから、彼女は死神に向かって走る。
その殺意無い存在は、殺意敵意悪意に過敏になっていた死神には、認識される事が無く。
「もう、これ以上は止めて!」
『…え?』
死神は単なる一般人…謂わば素人の あぐりに容易く背後を取られ、抱き止められた。
『あ…ぐり?』
これで死神の
…ドスッ!!
『…………!!?』
「…ぇ?」
しかし、