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「え?『ONE ROOM』、公開って今日からだった?」
「え? 赤羽…君?」
赤羽業と潮田渚。
2人の接点は、中学1年の6月。
それ迄は単なるクラスメートだったが、授業の合間に渚が映画雑誌を読んでいた時に、偶々それを目にしたカルマが話し掛けてきたのが切っ掛けだった。
「潮田君、一緒に見に行こーよ!」
「ぅ…うん!」
無邪気に笑いながら誘うカルマに、渚も笑いながら応えた。
渚からすれば、カルマという存在は、一言で言えば憧れ。
成績優秀で運動神経も抜群。
しかも、
「先生〜。今日の
「ぁ…っカバネぇえ゙っ!?」
「……。」
成績至上主義な椚ヶ丘だからこそ お咎め無しな、無尽振り。
その全てが、渚からすれば尊敬に値していた。
だからこそ、彼から誘われた時は嬉しく、それからも行動をする事も多くなった。
…しかし、カルマは生粋のトラブルメーカー。
「赤羽ェ、この前は、俺の連れが世話になったそうだなぁ?」
「え〜? それ、ソッチから絡んできたヤツじゃん?
俺、正当防衛だよね~?♪」
「嘘付け! コイツが言うにはテメーかr
「ゴメン 渚君。ちょっと鞄、持ってて♪」
「ぇえっ?!」
バギィッ!
「べきょおっ?!」
「え? 何て言ってんの? よく聞こえないし〜?♪」
ドスドスドスドスドスッ!
「………。」
常に全方位に挑発すべくで、乱闘沙汰も決して少なくは無く。
しかも悉く、それを1人で解決出来る強さを持ち合わせていた。
それ等を目の当たりにしていく内に、渚はカルマを、自分とは別世界…いや、別次元の存在だと感じる様になる。
一方のカルマも、渚への遊びの誘いは徐々に少なくなり…渚は自分と居ても退屈だと思われていると感じ、何も言わず…2年の3学期…カルマが暴力沙汰で停学処分となる頃には、2人は只のクラスメートに戻っていた。
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人畜無害な小動物。
それが、カルマから見た渚の第1印象だった。
ケンカっ早い彼が警戒しなくて済む、数少ない人間。
だからこそ、カルマは渚とは積極的に共に行動した。
人畜無害な小動物だから。
「………………。」
…の筈だったが、何時の頃からか心の奥底で、カルマは渚に対して、正体不明な警戒心を宿す様になっていた。
何と言うべきか…無理矢理に表現するなら、
絶対に起こり得ない事だが、仮に背後から不意打ちされるとしたら、その背中から刃で心臓を貫かれた事すら気付かす、殺られる自信すら有った。
いや、考え過ぎだろ?
だって
俺と違って正直で良いヤツだし?
そんな不安、単なる気のせいっしょ?
存在感が無いってのは ほらアレだよ、渚君、身体 小さいから!
だから見えなくて気付かないだけ、そうに決まってる!!
そーゆーのに いきなり後ろから話し掛けられたりしたら、誰だって少なくとも一瞬はビビるっしょ?
…でも!
それでも油断の出来ない
何時か寝首を掻かれかねない
引き摺り出して潰すべき…得体の知れない
しかし其れは、勉強やケンカで勝った処で意味は無い、明らかに其れ等とは
その正体不明の
しかし渚の方も、自身の規格外さに自分とは住む世界が違うと感じてくれたのか、(自分が その様に誘導したのも一因だが)次第に両者が疎遠となっていったのは、その時のカルマからすれば
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そして、
「…成る程。俺が今迄 感じていたのは、
今のE組だからこそ解った、渚君の暗殺の才能。
渚君の、
良いよ。何なのかが判ったのなら、必要以上にビビる事も無い。」
「確かにカルマ君は僕にとって、異次元の存在だった。
でも今は、暗殺という同じ
後は、勝つだけ。
だから、カルマ君…僕は もう、君に憧れるのを、止めにするから。」
スゥ…
「カルマ…」
「渚…」
そして その2人が今、考えている事は同じ。
勝たなきゃ…勝たないと自分の意見は通らない。
だったら勝てば良いだけ、簡単な話。
…ねじ伏せてやる!!
≫≫≫
ダダッ…!
別に誰かが開始の声を掛けたで無く、それでも示し合わせたかの様に、渚とカルマは同時にダッシュ、間合いを詰め寄る。
ガキィッ!
「殺す…!!」
「助ける…!!」
そして互いに初撃、大きく振り被ったナイフが ぶつかり合った。
ドゴッ!
その後、間髪入れずのカルマの蹴りが渚の腹に入り、渚は地面を2転3転。
「くっ…!」
吹き飛ばされるが それでも直ぐに立ち上がり、体勢を整え直す。
「おぉっ!!」
「な、渚?!」
「パワーの差は歴戦ね。ケンカ慣れって事も有るし。」
「小細工無し、正面からの ぶつかり合いなら、やっぱりカルマだな。」
「あぁ。そしてカルマが狙ってるのは短期決戦。
何しろ渚の後には
「「「「吉良あっ??!」」」」
その勝負を見守るE組の面々の中に、何時の間にか響が加わっていた。
「お前、何やってんだよ?!」
「勝負は?!」
「いや、タイマンの邪魔かな…って思って?
だったら とりあえずは此処で皆と、意見考察交えながら見た方が良いだろ?
今更 乱入出来る、空気なんかじゃないし。」
「確かに。」
「それじゃ吉良君、冨樫 虎丸ポジ、よろしくぅ!」
「解説かよ?」
≫≫≫
「………。」
響の言う通り、カルマは早期決着を考えていた。
仮に、既に残っているのが今 争っている2人だけなら、もっと じっくり確実に、実力差を見せ付けての勝ちに事を運んだだろう。
…だからって、迂闊に飛び込むのは危険だ。
さっきの格闘術と云い、渚君が まだ どんな隠し技を持っているか…
だから狙うのは、誘い出しての超至近距離、カウンターの一撃!
そして、吉良っちと…!
「…とか、カルマは考えているんだと思う。
そして それは正解だ。…しかし、」
「しかし?」
「渚も それは、承知な筈だ。
そんな簡単には、行かないだろう。
…例えば、寺坂?」
「ぁ?」
「お前、どんな展開、予想してる?」
「………。
正面からナイフで切り掛かっても、普通に躱され、膝が腹に入った処でザックリ。
死角に回ろうとしても、それも無理な話だ。
ん〜、やっぱ どう考えても、渚が勝つ場面は浮かばねぇな。」
響の問い掛けに、寺坂はカルマ有利の考え。
「「「「「「「………………。」」」」」」」
そして それは、此の場の殆どが、同じ考えだった。
「ヌルフフフ…しかし、そんな簡単に、終わりますかねぇ?
何しろ、渚君ですよ?」
「そうなんだよな〜?」
「渚だからね。」
「何するかは分かんないけど、何か やらかしそうな気がする!」
しかし その反面、渚の可能性を推す者も何人か。
「吉良君は どう見てんのよ? やっぱり渚?」
「あぁ。まぁ見てろよ。
勝負は…今は互いに警戒して膠着状態だけど、動き出したら あっと言う間。
面白いモンが、見られるぜ?」
「きーちゃんて、前に渚君が鷹岡先生と戦った時も、同じ様な事 言ってたよね?」
≫≫≫
「「……………………。」」
互いにナイフを構え、牽制する様に睨み合う渚とカルマ。
ダッ…!
「「おおっ!」」
「「「「動いた!」」」」
しかし それの均衡も、遂に崩れた。
「「「「渚ッ!!」」」」
動いたのは渚。
ナイフを右手逆手持ちで、突進。
その姿勢から その儘 分析するならば、ナイフの間合い直前で1度サイドステップで横方向に回り込み、逆袈裟の一閃を狙っているのだろう。
…渚君、焦ったね。
コレはケンカ慣れの差。
小細工無し、正面からの ぶつかり合いだと、身体スペックもだけど それ以上、過去の場数で培われた駆け引き…その引き出しの多さの差が、大きく物を言う!
どんなフェイントを混ぜてくるかは知らないけど、そのナイフを受け止めてから、確実に殺る!!
この
ス…
腰に仕舞っていた もう1本のナイフを左手に持ち、2刀流の構えで迎撃姿勢を取るカルマ。
その眼は渚が持つナイフ…正確には そのナイフから満ち溢れる
右手に携えたナイフ以外からは、殺気は感じられない。
つまり さしあたっては、今の渚が殺ろうとしているのは、ナイフによる攻撃のみ。
だからカルマは、そのナイフを刮目する。
如何なるフェイント…如何なる軌道でナイフが迫ろうと、それを受け止めると同時、もう1本のナイフの一撃で終わらせる為に。
「…。」
そして両者の得物が、互いの獲物に届く距離となる直前…
ポイッ…
「ぇ?」
渚は持っていたナイフを、自身の横方向に投げ捨てた。
ナイフを…いや それに込められた殺気を目で追っていたカルマは、それに釣られてナイフに目を向けてしまう。
つまり それは、
パァンッ!!
「?????!!」
その瞬間、乾いた甲高い音と衝撃波が、カルマを襲った。
▼▼▼
…時は、巻き戻る。
≪≪≪
「な…何なんだよ?」
夏休み、沖縄に発つ前の合同訓練の時。
「い、今のは、一体…?」
「どうだ、少年? それが私の、
尻餅を搗いて へたり込み、何が起きたか解らない表情の響。
同じく、現状理解が出来ないかの様に、立ち尽くす渚。
そして その様を、したり顔で眺めるロヴロ。
「尤も、
解るか? コレは、
アニメに出てきそうな、派手に敵にダメージを与える技を期待していたのなら、それは すまなかったな。」
▼▼▼
≫≫≫
「い、今のって…」
「猫騙し…」
「…だよ、ね?」
「…フッ。」
カルマの意識が渚の手放したナイフに向けられた瞬間、渚がカルマに仕掛けたのは、彼の顔前での柏手…相撲で云う処の『猫騙し』。
しかし当然、只の猫騙しでは無い。
戦闘時、極限に迄 高められた意識の外から不意に放たれた大音量、音の爆弾。
しかも渚が放った それは、その意識の波長が最も山成りとなった瞬間を狙い、その山に最も高い
「…!!!!!!?」
結果それは、相手を驚かせる事で一瞬の
それが沖縄出発前、渚がロヴロから教わった、必ず殺す為の技…
「クラップ·スタナー。
…カルマ君。僕の、勝ちだよ。」
「…!?」
技が完璧に決まり、未動きが取れないカルマに対し、渚は殺し屋らしからぬ、優しく澄んだ笑顔で話し掛けた。
「そ…か…」
「そう言えば渚って、アレが有ったんだよな…」
「完全に、忘れてたわ…」
「吉良君は この展開、読んでた訳?」
「まぁ…ね。」
「あ、そーか。吉良っちって あの技の餌食、第1号だったもんね。
そ〜りゃ忘れる訳 無いわよね〜?www」
「喧しいわっ!!」
そして
斬ッ!
渚のナイフが一閃。
カルマの
『…カルマさん、リタイアです!』
そして律のアナウンス。
「終わった…のか?」
「渚が…」
「カルマが…」
「勝った…?」
「負けた…?」
終わってみれば…端から見れば その勝負、決着は短く呆気無く。
場の殆どの者が、その結果を完全に認識出来ておらず。
「…其処迄!
今回のE組 暗殺サバイバル…チーム
「ちょ〜っと待ったァッ!!」
「…?!」
そんな中、烏間がゲーム終了を告げようとした時、それを遮る声が1つ。
「は〜い。今から『殺す』側に、寝返りま〜す。」
「「「「「「「「は…はぁぁあああ゙??!」」」」」」」」
挙手しながら そう言ったのは響。
これにE組の面々も、驚きの大声を上げてしまう。
「…って吉良?! お前、何 考えてんだよ?!」
「そうだよ! しかも よりによって、このタイミングで?」
「吉良君?」
「きーちゃん?」
「このタイミング…だからだよ。」
そして その行動を問い詰めるクラスメート達。
尚、響の この寝返り宣言は、今回のサバイバルに於いてルール違反では無い。
事前に設定されたルールの中、最後の項目にも記されている。
・ゲーム中、プレイヤーは生存中1度だけ、敵チーム側への寝返りが認められる。
《補足》
①寝返り宣言は中央〜敵チームエリアにて有効、自陣内での宣言は認められない。
②期限は審判がゲーム終了宣告を言い終える迄とする。
因みに この寝返りルールは、ゲーム中に心変わり…特に『やっぱり殺せんせー、殺したくない!』と言い出す生徒が出てくるかも知れない可能性云々で、黄色いタコが半ば無理矢理に捩じ込んだルールだった。
「吉良…君…?」
自分達の勝利でゲームが終わる…本当に そのギリギリのタイミングでの響の寝返り行為に、渚は戸惑いを隠せない。
「吉良君…ど、どうして…?」
「言った筈だ、渚。お前の覚悟、見せて貰うぜ…とな。」