卒業式翌日。
「…ぉゃ?」
政府による封鎖が解除された、椚ヶ丘中学校。
その理事長室にて、この部屋の主
椚ヶ丘学園は、政府が破壊生物について公式な発表をした時から、生徒を危険に晒したとして激しく糾弾されており、更に その中核となったE組(ついでにX組)のシステムも問題視され廃止に。
様々な不手際?の結果、浅野は学園の経営権を手放す事となった。
そしてE組の在る旧校舎も、今期の卒業生の代で閉鎖させる事に。
そういう理由で彼は この部屋から去る前に、私物を纏めていたのだったのだが…
【荷物整理あるある】…不意に懐かしい品が目が止まり、其の思い出に耽り、作業の手も止まってしまう。
浅野が見付けたのは古い写真。
其処には小学校高学年と思しき2人の少年と1人の少女。
そして容姿からして、15年位前…今の冷徹さからは想像も付かない程に、明るく優しい笑顔をしている浅野が居た。
「………………。」
この3人の少年少女は、浅野の最初の生徒。
まだ椚ヶ丘が正式な学校で無く、山の上の小さな私塾だった頃の教え子。
3人共、様々な意味で良い生徒だった。
少なくとも、浅野は そう思っていた。
「…。」
しかし、それは間違いだったと思ってしまう。
この3人が小学校を卒業して数ヶ月。
その日、浅野は偶々、所用で その内の1人の自宅の近くに出向いていた。
3人の中で、一番元気の良かった少年。
少し悪戯な面も有ったが、直ぐに謝る事の出来る、素直な少年だった。
頻繁にとは言わないが、卒業後も連絡は取り合っていた。
バスケ部に入った事も聞いていた。
「折角だから挨拶を…」と、その少年宅に赴いてみると、其処は少年の葬儀の最中だった。
自殺。
部活内の先輩とのトラブル。
その先輩と言うのは元より、周囲からの評判が良くない生徒だったそうだ。
日常的、暴行沙汰だけで無く、金銭の要求もされていたらしい。
「……。」
浅野からすれば、この彼は一番、自殺等とは縁遠いと思っていた。
強い子だと思っていた。
「………。」
少年と同期生だった2人が涙を流すのを見る中、自分の認識は間違っていたと感じる。
強い子だった?…いや、違う。
彼は決して、強くなかった。
そして、それは私に責任が有る。
彼を強く導けなかった、この私の教育が、間違っていたのだ。
…もっとだ。もっと心身共に強い子を育てる。
その為には1度、今迄の私の やり方…考え方の全てを、否定する必要が有る!
幼少より、失敗や挫折を知らなかったのだろう。
そして初めて感じた、自身を否定する程の絶望。
だからこその、全てを壊しての やり直し。
…数年後、浅野は椚ヶ丘私塾を中高一貫とした学園として改めて起ち上げ、より強き
そして その舞台は椚ヶ丘私塾跡。
この始まりの木造校舎は
…尚、この少年を直接に自殺に追い込んだとされる、部活の先輩とやらは、彼の死後1ヶ月も経たぬ間に、覚醒した浅野による法に触れぬ無血制裁が下され、現在も まともな生活が出来ない…路上生活者の如くに なっているのは、別の話。
≫≫≫
「…だったんだけどね。」
「でも、浅野先生は、教育者を辞めたりは、しないんですよね?」
「勿論だよ。もう これから先の事は、考えているよ。」
その後、理事長室の整理を再開した浅野に、来客が現れた。
それは件の最初の3人の生徒の内の、残る2人。
超生物関連の報道で浅野が学園を去ると聞き、駆け付けて来たそうだ。
余りにも懐かしい顔に、再び整理は中断。
今は互いの近況を語り合っていた。
「今迄 私の周りには、イエスマンしか居なかったからね。
それに不満も疑問も…何も感じなかった私にも、問題が有った…それが1番の大問題だったのが、今回の結果で漸く解ったよ。
そして自分自身、気付きもしなかった事だが、今年度のE組が、私が本当に目指していた形だったんだ…ってね。
強者が強き者で在るのは当然。
しかし弱者も、現状に腐る事無く、下剋上の牙を研ぎ、その牙を強者に剥けていく。
そして強者も それを堂々と受け立ち、互いに進化していき…強くなるってね。
それを私に教えてくれた人物には、本当に感謝してるよ。」
「それで先生、これからは…?」
「今回の件が有るから、流石に直ぐ、教育の世界…表側には出られないだろうからね。
そうだね…3年位は
それから更に4年後かな? 表側に顔を出して、本格的に動くのは。
その頃には、私に協力してくれる人達も それなりに居るだろうからね。」
▼▼▼
今回の…全ての発端と言える、柳沢が提唱した反物質計画。
此れに対しての世界各国の最終的な見解は、『エネルギーとしても兵器としても、実用に値しない』『人類が御せる代物では無い』と言う結論だった。
そして現在、行方不明となっている柳沢だが、対せんせーレーザー衛星に備えられていたカメラによる映像確認が出来なかった為、響の「逃げられた」と言う発言でしか情報が得られず…それを信じる他に無く。
自衛隊や…ついでに【群狼】を動員して、山の中、そして近辺を搜索したが、当然ながら身柄を発見する事は出来なかった。
その儘 行方不明者として日本国内を中心に、世界規模で行方を追う事に。
…尤も当人は既に、亡骸も残らずの死亡。
今は黄泉平坂にて頭を残し地面に埋められ、死者達の行進の際に、永久に顔面を踏み続けらている状況なので、見つかる筈も無いのだが。
…その方面からの理由でも今後、反物質計画が再開する事は無いだろう。
そして その反物質計画の実験事故により、三日月形状となった月は、徐々に崩壊し始めた。
天体の専門家曰く、崩れた欠片は月の重力に引き寄せられ、以前よりも小さいが、最終的には再び球形となり落ち着くらしい。
爆発により地球との距離は縮まるが、地球から見た大きさや形は以前と大して変わらなくなり、重力や公転軌道の影響も、問題は無いとか。
▼▼▼
卒業式から1週間が経過。
卒業時点でE組の中では、進路が まだ正式に決まっていなかった磯貝と片岡も、本命だった公立高校を合格となり、E組全員が第1に志望した進路に就く事が出来た。
そうした中、殺せんせー暗殺報酬の300億がE組一同に支払われた。
「改めて、本当に…?」
「マジ…かよ?」
「あ…ぁぁ…キュ〜」
パタ…
「い、磯貝君〜?!」
その初めて見るであろう、大量の札束に恐れ畏まる者、
「コレだけの金が有れば、チャンネーとチャンネーとチャンネーと…」
「カメラ、高級機材一式に…」
「円盤円盤円盤円盤♪」
「プリンプリンプリンプリンプリン!♡」
「車にバイクにギター、後デート。それから家も買って…」
大小の欲に忠実な者と様々だが、最終的には皆、将来の学費に その後の1人暮らしの頭金を手にするに留まった。
「「「「「「…orz」」」」」」
無論、此れには多少の不満の声も上がったが、最後は1人の少女の凛としたOHANASHIと、担任製作のアドバイスブック内の『大金だけに頼って生きていても、立派な成長は望めない』と云う記しに、無理矢理に納得。
そして皆で1つ、大きな買い物をして、残金は『1年間の支援の感謝』として、国に返還する事にした。
これは政府の式典として、公式に行われる事に。
≫≫≫
「烏間先生、ありがとうございました。」
「ああ。此方こそ、ありがとう。」
そして3月末日。
防衛省の一室にて、E組代表として、磯貝が烏間に感謝状を渡す。
パシャパシャパシャッ…
それに伴い、それなりな数の報道陣も駆け付けていたが、この日は その様子をカメラに収めるだけで、暗殺教室の面々に執拗なインタビューをする者は居なかった。
…卒業式に押し掛けて来たマスコミは全員、E組一同にカメラやマイクを向けている最中、意識を喪い倒れた後、その各々が搬送された病院にて1度、死亡が確認された。
しかし その後 全員が葬式最中、1番 遅い者でも、火葬釜に投棺される直前に息を吹き返す事に。
そして この報道陣は翌日には、自身が勤める局や出版社に、辞表を届けたのだった。
閑話休題。
…兎に角この2回に渡る、報道陣の昏睡劇に恐れを抱いたか或いは学習したのか、はたまた退職者との引き継ぎの際、何かを…例えば破壊生物の呪いや、黄金の仮面を被った、謎の上半身裸男の様な話を吹き込まれたのか、誰もE組一同に話し掛けようとする者は、居ないのだった。
「ちょっとだけ、脅し過ぎたか?…殺せんせー、ゴメンね?」
≫≫≫
「烏間先生!」
「…吉良君?」
式典も終わり、その場から退席しようとした烏間を、響が呼び止めた。
「何か、用かい?」
足を止め振り向き、烏間は響に尋ねる。
「烏間先生…最後に一組、手合わせ お願い出来ますか?」
「…。」
それは単純な戦闘的興味。
1年間、暗殺訓練の一環とした模擬戦で、結局 響は烏間に(
何時の頃からか、殺せんせー暗殺と同時、烏間に勝つ事も目標として訓練に励んでいた響からすれば、今日が さしあたっての最後の機会と感じたのだろう。
「ふっ、吉良君。…知っていると思うが、俺は結構 強いぞ?」
ピシッ…
「…!!」
瞬間、空気が軋んだ。
烏間の、その強烈な圧を放ちながらの不敵な笑みでの返しに、響も それを全身に感じながら、苦笑しながらも
「勿論、知ってますよ。」
好奇心全開、嬉しそうに応えるのだった。
≫≫≫
「それでは、掛かって来なさい。」
「お願いします!」
防衛省の一室、鍛錬場。
最初から その心算で持ってきていたので有ろう、空手の道着に着替えた響が、同じく空手着姿の烏間に一礼。
「「「「「「「…………。」」」」」」」
元のクラスメート達が無言で見守る中、
「シュッ!」
素早い踏み込みで自身の間合いに距離を取り、右の正拳突きを繰り出すのだった。
次回より新展開…の前に、番外編! 乞う御期待!