「やっぱり お前も
「うん。」
3月末日。
新年度である4月を翌日に控えた この日の夕暮れ時、響と渚は明日から世話になる勤め先…私立極楽高校に足を進めていた。
極楽高校…都内でも1、2を争う底辺の高校で有り、響達が中学時の修学旅行にて、悶着を起こした不良高生が通っていた学校だ。
本来なら初通勤は明日の4月からだが、2人は この高校の理事長兼校長からの連絡を受け、1日早く、午後からだが職場に赴いていた。
最寄り駅で ばったり会った2人が交わしたのが、冒頭の会話である。
▼▼▼
「やぁ、2人共に こうやって話すのは、久し振りだね。
そして今日は、態々 私の呼び掛けに応じてくれて、ありがとう。」
事務室で入校手続きを済ませ、案内された理事長室で待っていたのは7年振りに合わせる顔。
嘗て、椚ヶ丘学園にて理事長を務めていた、浅野學峯だった。
「お久し振りです、理事長先生…で良いんですかね?」
7年前、椚ヶ丘学園の理事長を退くも、教育者の道を退く気は微塵も無かった浅野。
椚ヶ丘学園を去った直後は、過剰な差別制度…E組のシステムを創った者として周囲から糾弾され、教育の表舞台に立つ事は無かった。
しかし それでも何の行動も起こさぬ訳も無く。
数年に及ぶ水面下の活動から、本格的に表側で動き出したのが、今から4年前。
様々な経緯を経て、次の年には極楽高校の理事長兼校長の座に就いていた。
その最初の1年目。
この年は浅野は まだ、目立った行動を起こさず。
只、教諭、事務員を問わず この校内の職員の無能有能を見定める事だけに留めていた。
表面的な能力は勿論、この底辺学校を少しでも良い方向に進めようとしている者と、『どうせ底辺校だから』と諦めの境地、何の行動も示さない無気力な者を選別…篩に掛ける為に。
そして翌年から本領発揮、理事長としての権限をフル活用。
選別した無能者を容赦無く切り捨てると同時、自身の知りうる人材、更には話に聞く有能者を次々とヘッドハント、学内に招き入れていたのだった。
それは椚ヶ丘学園時代の独裁運営の再来の如し。
当然、解雇された者達を中心に多少の反発は出たが、相手は
最終的には この男 御得意の
そして今年度。
響と渚は新卒教師として、浅野から有能認定された形である。
「流石の私も、悪名高い最底辺と云われる この学校を、短期間で名門校に押し上げるのは無理が有る。
椚ヶ丘学園は私がゼロから建てた学校だった。
だからこそ、その何色にも染まっていない無色の学び舎を、最初から私好みの色の学校に創っていく事が出来た。
しかし この学校は、正しくマイナスからのスタートだからね。
…だからこそ、やり甲斐も有るのだけどね。」
「「…………。」」
…そう云った過去から今に至る話を話す浅野と、それを無言で聞く響と渚。
「…どうだい? わくわくしないかい?
底辺と呼ばれていた学校が、名門校へと生まれ変わる…
その瞬間に、その立役者の1人として、その場に立っていたくは、ないかい?」
「「………。」」
嘗て、内心ラスボスと呼んでいた男の悪戯な笑みからの誘い。
「確かに、
それに先ずは響が、黒い笑みを浮かべて同調。
「僕も、協力させて貰います!」
そして渚も、力強く応える。
「ありがとう。宜しく頼むよ。」
そして がっしりと握手する3人。
浅野からすれば、良く意味も悪い意味も含めて、最高の理解者と呼べる2人が協力者となった事に、素直に喜びの表情を浮かべる。
嘗ての氷の素顔を隠す為の
しかし この3人…そして浅野が他所からスカウトしてきたライトスタッフ達でも、都内最底辺と呼ばれる高校を名門校…の前に現状のマイナス位置をゼロに迄 引き上げるのも、この先 数年を掛ける事になるのだが、それは また別の話。
「本当なら こういった話も、明日 君達の他にも赴任する人達と一緒に話しても良かったんだが、それでも渚君と吉良君…いや、もう潮田先生と早乙女先生と呼ぶべきだね。
君達2人には、先に話しておきたかったんだ。
…さて、日も落ちて来たし、これから一緒に食事…お寿司でも、どうだい?
ああ、早乙女君は新婚さんだけど、大丈夫かな?」
「全っ然、大丈夫です!!」
響の中では【晴華の手料理<<<<お寿司】だった。
「 ( ¬_¬) 一応 連絡は、しとこうね?」
≫≫≫
「へ〜? そ・れ・で?
そのラスボス先生とやらと? 潮田君と?
回らない お寿司、食べてきたんだ〜?
へ〜? そうなんだ〜?
ねぇ、美味しかった? 回らない お寿司、 美味しかった?」
「いや、勤め先のトップ様の お誘いだから、断る訳には行かないだろ?」
「………………………………………………。」
「悪かったって! 分かったから! 今度 給料入ったら、連れて行ってやるから!!…回るヤツだけど!」
▼▼▼
「やぁ。成人式以来だね。」
「まさか お前も、この学校だったか。」
「それは お互い様だろう?」
翌日の4月初日。
極楽高校も この日から新年度が始まり(新学期は4月8日から)、浅野理事長の呼び掛けで、朝の9時から校内職員の殆んど…電話番を除く全員が、大会議室に集合していた。
響や渚の他、新しく赴任する職員の紹介と、今後の教育や学内運営の方針の説明だ。
そんな中、響や渚と同じく、今年から赴任する事となった新人教諭の中に、響の知っている顔が。
「まぁ、これから宜しくだな、北倉
「あぁ、宜しく。早乙女
高校1年時のクラスメート、北倉マモルだ。
高校初日、最初のクラスでの自己紹介の時、北倉のドイツ語を交えた挨拶にクラス内が大ウケ。
それに次の番の響が対抗心からか、ギリシャ語を使って自己紹介したり。
それで 互いに『面白いヤツw』として、学内では つるむ事も多い仲だった。
「…処で、早乙女…いや、吉良?」
「ん?」
「ぶっちゃけ早乙女さんとは…出来婚?」
「違ぇーよ!!…ったく、何で どいつも こいつも?!」
≫≫≫
「…そう言う訳で、問題を起こした生徒には、此れ迄以上、断固たる措置を行なっていこうと思います。」
…ざわ…ざわざわざわざわ…!??
響他、新しく赴任した者の紹介の後、浅野が今後の生徒に対する指導方針を語ると、会議室に どよめきが起きた。
「り、理事長、いくら何でも、それは少しばかり…やり過ぎなのでは…?」
浅野理事長の発言に、1人の教諭が異を唱えた。
浅野の言う、此れ迄以上の断固たる措置。
それは例えば、喫煙や暴力沙汰、或いは窃盗罪を犯した生徒は、即座退学にすると言う、厳しい処分。
「常習者なら兎も角、初めての者には反省を促す意味も込めて、先ずは停学に抑えておくべきかと…」
「…ふむ。」
この教諭の意見に、興味深く頷く浅野。
浅野は自分の意に そぐわないからと、この教諭を排除する様な事は考えていない。
寧ろ反対意見の後、対案代案を提示してくれる者は大歓迎である。
事実、自身が この高校の理事長になった時、単に媚び諂うだけのイエスマンな職員を真っ先…それこそ無能認定する者よりも先に、
「…しかし、それで昨年度、
「…。」
「そうです。私の問い掛けに沈黙で答えざるを得ない…それ程の人数です。
宜しいですか? 高校は義務教育では無い。
極端な話を言えば、勉学だけを教えていれば、それで良いのです。
社会不適合者に常識を説く必要は、無いのですよ。
全くの放置とは言いませんが、そんなのは家庭で教えるか、自身で自覚し学ぶべき事です。
もう分別の付かない、小学生では無いのですから。
更生の見込みが有る者なら、導く価値も充分に有り。
そうしていくべきですが、逆に そうで無い者は即座、斬り棄てるべきなのです。
それが我が校、そして その当人の為でも有る。」
「…。」
浅野の返しに、この30代教諭は、何も言えない。
事実、昨年度に不祥事を起こして退学処分となった生徒は、2桁に達していた。
その全員が、初犯は停学処分を受けた後の、
「松岡先生。確かに貴方の所謂 熱血とも言える指導方法で、真面目になった生徒も、確かに少なからず居ます。
それは事実ですし、それは貴方の実績です。
だから私は、貴方の やり方を称賛こそすれど、否定しません。
しかし、それで全員が全員、更正した訳で無いのも、また事実…現実なのです。」
「…。」
「…そうですね。新任の人にも意見を聞いてみましょうか。
…早乙女先生、アナタは どの様に考えてますか?」
「…はい。」
此処で浅野は、新人教諭…響に話を振ってきた。
「私個人で言えば、理事長と松岡先生の考え、どちらも理解納得が出来るのですよ。
しかし これは…まだ学生気分が抜けてない若僧の台詞になるかも知れませんが…
自分は中学高校大学時代、マジメな方だった心算で、それでも
「「(いやいやいや、マジメなヤツはDQN相手に いきなり、手や足や Muscle技を出したりしない!)」」
響の言葉に、この男の学生時代を知る者が、心の中でツッコミ。
≫≫≫
「…ですから、改心の見込みが有る生徒には、それこそウザがられる位に面倒見ると同時、取捨選択の線引きは、確と取るべきだと思っています。」
「…成る程。潮田先生、北倉先生は?」
「ぼ、僕は出来る事なら、皆が真面目になる様にしていきたい、です。」
「私は…全く同じでは無いでしょうが、早乙女先生の考えに近いですね。」
「…ふ、む。」
若手3人の其々の考えを聞き、浅野は満足そうに微笑む。
「兎に角、です。
私は この高校を何時迄も、底辺呼ばわりされる儘の現状維持で終わらせる心算は有りません。
勿論、一朝一夕で成せる事で無いのも理解しています。
それが平坦な道で無く、茨の道なのも然りです。
…ですから、皆さん。皆さんの力を、私に貸して下さい。
大丈夫、何かが起きた時の、泥は私が全て、被ります。
具体的な事柄を挙げれば…」
▼▼▼
「初めまして、だな。
俺が これから1年、君達の担任となる、早乙女 響だ。
因みに担当教科は数学だ。ヨロシク。」
「「「「「「「「…………チィッ!」」」」」」」」
そして始まった新学期。
響が受け持った
この響の初顔合わせの挨拶にも、約40人の生徒達は無言で、響を睨み付ける。
中には舌打ちする者も居た。
「何だ? えらく不機嫌そうだな?
担任が男で、ガッカリだったか?
残念だが、この学校には女性の先生なんて、居ないぞ?
理由は…察せるだろ?」
「「「「「…ッ!!!!?」」」」」
素行的、或いは学力的な理由で、このレベルの高校しか入れなかった、見た目からして所謂
響は それを承知で、敢えて煽るかの様に話し掛ける。
「「「「巫山戯んな、テメーッ!!」」」-
「「「「「舐めてんのか、ゴラァッ?!」」」」」
「「「「「「ぶっ殺されてーのか!!?」」」」」」
そして それが火種となり、教室内は怒号が蠢く
同じタイミングで、何が起きたのか両隣の教室からも、怒声が鳴り響いてきた。
「殺れ殺れだぜ…」
そんな状況の中、響は一言 小さく呟くと、
轟ッ!!
「「「「「…ッ???!」」」」」
強烈な殺気を解放。
教室内の空気が瞬時に重くなり、声を荒げていた生徒達が、瞬時に黙り込んだ。
尚、
ツカツカツカ…
「な、何だよ…?」
そして教室の真ん中の席、響が最初に教室に入った時、『コイツがクラス内で1番 問題児だな』と目星を付けていた生徒の前迄 歩み寄ると、
「…多少の暴言は兎も角、『殺す』と言う言葉だけは、控えた方が良いぞ。
普通に脅迫罪という犯罪行為になるし、何より其れを言って良いのは、自分も殺されても構わないと云う、覚悟の持ち主だけだ。」
「は…ハァあッ??! テメー、何を、言っt…!??」
この響の言葉に、この長身長髪の男子生徒は文句を言い返そうとするが、その台詞は途中で途切れてしまう。
目の前で響が放った左の拳が止まったからだ。
因みに此方は、
「あ…ぁあ…!?」
集中力も高まり、正に直撃寸前のナノ単位の位置で止められた拳。
光速で放った それは、放たれた当人からすれば、何の前触れも無く、いきなり拳が目の前に現れたも当然で有り、
「…分かるか? そして それは、正当防衛が成立する言う事だ。
仮に お前の あだ名がブラッ●ホールになっても、何も文句は言えないのだぞ?」
「………。」
響の言葉に、この生徒は増々以て、何も言い返せない。
…只、流石にブラック●ールになるのは、過剰防衛である。
…斬!!
「「「「「…!!?」」」」」
「へぇ…?」
そして この時、
響の殺気とは異質…
仮に響の殺気を、『剛』『動』と表現するならば、此方は『柔』『静』の殺気だ。
「「「「「「……。」」」」」」
この隣の教室から放たれた、新たな殺気を感じた生徒達は、今迄以上に黙りに。
同時、壁越しでも騒がしかった、両隣の教室も、静かになる。
やれやれ…渚きゅん、殺気、広げ過ぎだぜ?
教室内に留まる様に、コントロールしとけよ?
それとも、先を見据えての牽制…ワザとか?
響は その殺気に苦笑しながら、言葉を続けるのだった。
「今の
先に言っておくぜ?
北倉マモル…