本文中の英語に関する指摘、突っ込みは堪忍して下さい。
今、E組教室ではイリーナが用意してきた教材のVTRを流しながら、実践的英会話の授業中。
「分かったでしょ?
このサトルとシロネのエロトークの中、難しい単語は1コも無いわ。
日常会話なんて、どこの国でも、そんなもんよ。」
モニターには蒼黒い髪の少年が、艶んだ顔をした、白髪の少女が露骨な言葉で、それでいて無邪気に?言い寄るのを、呆れた顔で諭しながら躱している場面が流れていた。
「周りに1人はいるでしょ?
「マジすげぇ」とか「マジ パネェ」だけで会話を成立させる奴。
その「マジ」に当たるのが、あんた達も御存知の『realy』。
…木村、言ってみなさい?」
「…り…りありー」
この木村の発音に
「はいダメー!
LとRがゴチャゴチャよ!」
イリーナは両手の人差し指で
「兎に角、LとRは発音の区別がつく様になっときなさい。
゙ビッチ先生゙らしからぬ まともな内容に、思わず真剣に聞き入る生徒達。
「言語同士で相性の悪い発音は必ずある。
例えば、テレビとかでも外人の話す日本語は、『た』行が『しゃ』行になっていたりする時があるでしょ?
日本人のLとRは、私にとって そんな感じよ。」
更に続くイリーナ先生の御教授。
「相性が悪い物は逃げずに克服する!
これから先、発音は常にチェックしてるから、LとRを間違えたら…」
ここでイリーナは、今までの真面目な教師の顔から、妖しくも人を惹きつける艶やかな表情に豹変し、
「公開ディープキスの刑よぉん…♡」
人差し指を唇に当て、色香を放ちながら言うのであった。
ぞくっ…!
戦慄する生徒達。
特に身に覚えのある渚、響、矢田、片岡、他の震えっぷりは、ハンパではなかった。
「じゃあ、そんな訳で…はい、次ソノミ、言ってみよーっ!」
「ぇ゙ ?えぇ!?」
急に振られてテンパる櫻瀬園美。
「「「(今日の生贄は櫻瀬さんか…)」」」
クラス全員が見守る中、
「れぁるぃい…」
これに対してイリーナは、凄く嬉しそうな笑顔をして腕を交差し、
「はい、ダメー♪」
凄く嬉しそうな顔のイリーナ。
この時 E組の生徒達はイリーナの背後に、絶叫しながら両腕で
「いやぁあああぁ~っ!!?」
そして教室内には、絹を引き裂いた様な少女の悲鳴が木霊した。
ぐったり…
約20秒後、櫻瀬は顔を赤らめて惚けた表情で、ぐったりと椅子に も垂れ掛けていた。
「仕方ないわねぇ…はいヒビキ、お手本!」
次は櫻瀬の隣に座る、響を指名。
「ぅ~す。…realy。」
「お?流石だな、完璧だぞ!」
「「「「「「「おお〜!!」」」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ…
思わず拍手、感嘆する生徒達。
そんな響にイリーナは
「よし、御褒美よん♡」
「ぇ゙?…って、んんっ~~~!??」
『((((どっちにしても するんだ!))))』
クラス中が そう考える中、
「吉良っちさんの体温、下腹部を中心に、急上昇していま~っす♪」
どどっ…!
律の この発言に、殆どの男子生徒と中村が爆笑、残る女子半分は顔を赤くして沈黙、また半分は何が起きているか、理解出来ていない感じだった。
「律~ぅ!誰が何時、んな
「カルマさん…です♡」
「ちょ…律ぅ、正直に言うかな~?」
「カぁ~ルマぁ~~~っ?!」
≫≫≫
放課後。
「しっかし卑猥だよな~、ビッチ先生の授業ってさ~?」
「ん。下ネタ多いし…」
「アレ、中学生に見せても善いヤツか?」
帰り道、今日の英語の授業について語る生徒達。
「…でも、分かり易いのも、確かだぜ。
二次創さk…じゃなくって、海外ドラマは良い教材って云うぞ?」
「ん? 吉良?」
響の台詞に、僅かな違和を感じたのは磯貝。
「シロネたん…ハァハァ…」
「止めんか! この、変態終末期!!」
ビシィ!
「うぎゃ!?」
教材VTRに登場した少女に発情していた岡島の脳天に、岡野の踵落としが炸裂。
「でも、確かに潜入暗殺が専門だから話術も上手いし、間に挟む経験談も聞いてて飽きないよね?」
「うぅ…」
中村の言葉に何かを思い出した様に、急に黙り込むのは矢田桃花。
「たださ…」
「ただ?」
「正解しても、どっちみち公開ディープキスされてるよね? 吉〜良君?w」
「やかましい! ありゃマジに痴女だ!」
≫≫≫
ドサッ…
「あ~ったく、もう!
面倒いわ、授業なんて!!」
教員室に入った途端、疲れた顔を見せ、やってられないとばかりに椅子に座り込むイリーナ。
そんな彼女に対し烏間は、
「…その割には、生徒の受けは良いぞ?
生徒達に興味を持たせる技術に長け、内容は兎も角…経験を活かした実践的授業は見事だと思うが?
お前が来たのは生徒達にとって、あらゆる意味でプラスになっている筈だ。」
「………………。」
「ん?どうした?」
「カラスマ…あんたが其処まで私を誉めるなんて…もしかして、惚・れ・た?」
「評価すべきは評価する。それだけだ。」
イリーナの含みある口調にも、何事も無かった様に答える堅物・烏間。
「…ふ、ふんっ!
そんなの、何の自慢にもなりゃしないわ。
殺し屋なのよ、私は! 殺し屋!!
あのタコを殺す為に、この学校にいるの!
そ・し・て! その肝心のタコわ!!」
「ヌルフフフフ…いや~、絶景絶景♪」
其処にはイリーナの机の上に正座して、真上から胸の谷間を景色に見立てる茶人…優雅に お茶を飲んでいるピンク色のタコがいた。
直ぐ様にイリーナがナイフを持って切りつけるが、このタコに その刃は届かない。
「焦るな。割り切れ。そして慣れろ。
そういう
腰を据えて じっくりと機会を窺う為に、俺達は教師になったんだ。」
烏間が諭すが、
「
やってらんないわ!!」
イリーナはナイフを放り投げて部屋を出て行った。
「…随分と気が立ってますねぇ?
もしかして、女性の日ですか?」
その様を見て、このタコは言うのだが、
此処は皆で言うべきだろう…。
『全て お前のせいだ!!』…と。
▼▼▼
イリーナは今、E組教室の隣、作業実験室に来ていた。
窓際に立ち、1人思う。
こんな場所で、これ以上、足止め食ってる訳にはいかない。
殺し屋の業界で名を上げて、のし上がるのは これからなのに…
今回の
なのに、アイデアが纏まらない…
一体、どうやったら、あのモンスターを…
ビィン…
「え…?」
そこまで考えいたイリーナの身体が突然、宙に浮く。
ワイヤートラップ。
何者かが放った、ワイヤーの輪っかに首を捉えられ、その儘 天井近くまで持ち上げられるイリーナ。
咄嗟にワイヤーと首の間に指を入れ込み、頸動脈を圧迫されるのだけは防ぐ。
「驚いたよイリーナ…
教師をやってる、お前を見て…」
「せ…
そこに居たのは、東欧諸国の言語を低い声で話す初老の男。
その鋭い目つき、トラップの扱い、そして何よりも、イリーナに師匠と呼ばれた事から、゙裏゙に生きる人間である事は間違いではなかった。
「子供相手に楽しく授業に、生徒達と親しげな朝と帰りの挨拶…
まるで…お笑い芸人のショーを見ている様だったぞ…。」
男は影を含めた目つきで不敵に微笑む。
「
其処に現れたのは烏間。
「
「…心配ない。ワイヤーに対する防御位は教えている。」
烏間の英語に対し、東欧の言葉で応じる男は、ナイフ(タコ専に非ず)を取り出すとイリーナを吊り上げているワイヤーを断ち切った。
ドサッ
「ケホッ…ケホッ…」
床に落ちるイリーナ。
「(…東欧諸国の言語か?)
「…これは失礼。日本語で大丈夫だ。
別に怪しい者ではない。」
この烏間の英語に対し、男は今度は日本語で答える。
しかしながら、いきなりイリーナにワイヤートラップで殺人未遂をしでかす辺り、怪しさ100㌫なのは否めない。
「私は この…イリーナ・イェラビッチを この国の政府に斡旋した者…と言えば、お分かりだろうか?」
「 殺し屋・ロヴロ!!」
「
殺し屋ロヴロ…嘗ては腕利きの暗殺者として、(裏の)世界には広く知られていたが、現在は引退。
後進の暗殺者を育てる傍らで、その斡旋で財を成している。
暗殺者の様な存在に全く縁の無い、今の日本政府には貴重な人脈であった。
「それでMr.カラスマ。殺せんせーとやらは、今何処にいる?」
「奴なら…入間市に饅頭を買いに行くとか言って出て行った。
奴にしたら、大した距離じゃない、じきに戻るだろう。」
「ふ…噂通りな怪物だな?」
口元を俄かに緩めたロヴロは、イリーナに目を向けると
「来て良かった。答が出たよ。」
「
「今すぐ撤収しろイリーナ。
この仕事は お前では無理だ。」
「…!?」
イリーナの顔が曇る。
「…随分と簡単に決めるな?
彼女は あんたが、推薦したのだろう?」
「実際に足を運んで現場を見てみたら、状況が大きく変わっていた。
もはやコイツは、この仕事に適任ではなくなったと言う事だ。」
烏間の問い掛けに対し、その理由を説明するロヴロ。
「確かにイリーナは、正体を隠した潜入暗殺なら、その才能は比類無い。
…しかし、一度素性が割れてしまえば、一山幾らレベルの殺し屋に過ぎん。」
そう言うと、先ほど迄は影を含めながらも、笑みを浮かべいたロヴロの顔が修羅の如き豹変、
「挙げ句、見苦しく居座り教師の真似事…
俺は こんな事をさせる為に、お前を教えた心算は無いぞ?」
鋭い眼光で自分の弟子を睨み付ける。
それに対しイリーナは、負けじと険しい表情で
「そんな…必ず殺れます
私の力なら…」
力強く言い返すが、
「ほう?ならば…」
シュッ…
「がっ…?!」
「こういう動きが お前に出来るか?」
ロヴロは一瞬にしてイリーナの背後に回り、瞬時に左腕を極ると同時に首筋に指を押し当てる。
「…速い!」
その速さは、烏間が驚く程。
腕を極め、頸動脈に親指を押し付けた儘、ロヴロは話し続ける。
「この教室の
2人の転校生暗殺者。その残る もう1人が、実戦テストで驚異的な能力を示し、投入準備を終えたそうだ。」
「…!!」
「相性の良し悪しは誰にでもある。
今日、お前は発音について教えていたが…
この教室こそが お前にとって…LとRではないのかね?」
「半分正しく、半分は違いますねぇ。」
「「「!??」」」
神出鬼没…
其処には顔を青とオレンジの2色に縦に割り、それぞれに
いきなり現れた殺せんせーは、触手でロヴロの額とイリーナの鼻を掴んで引き離す。
因みにイリーナは所謂、鼻フック状態だ。
「何しに来たのだ、ウルトラクイズ!?」
「にゅる…非道い呼び方ですねぇ…?
いい加減、殺せんせーと呼んで下さい。」
烏間の、自身の呼び方に物申す殺せんせー。
しかし この場は、烏間なりの精一杯なユーモアを褒めてやるべきだろう。
そして、殺せんせーは言う。
「確かに彼女は暗殺者としては、恐るるに足りません。クソです。ウン〇です。」
「Shit!おいタコ! 誰がウ〇コだ、誰が!?」
イリーナが このウン〇発言に、額に血管を浮かべ、目を吊り上げて大声で怒鳴るが、殺せんせーは それをスルーして
「…ですが、彼女という暗殺者こそ、この教室には適任なのです。」
「…!?」
「…ほぅ?」
「タコ…?」
この台詞に3人の表情が3様に変わる。
「殺り比べてみたら判りますよ。
彼女と貴方、どちらが優れた暗殺者か…」
どちらが より優れた暗殺者かを決める勝負が、その
「ルールは簡単。
イリーナ先生とロヴロ氏…烏間先生を先に殺した方の勝ち!」
「「はぁ??!」」
声を上げ、「何それ?」な表情をする烏間とイリーナ。
そして、無言で同様な顔をするロヴロ。
「ちょっと待て!!
何で俺が、ターゲットにされるんだ?」
無関係な筈が、勝手に巻き込まれた形の烏間が異を唱える。
「烏間先生なら、公正な
第一、私を
「(く…確かに このタコが
1刺し⇔1おっぱいとか、普通に やりそうな気がするし、イリーナも それに乗っかる可能性は凄く大だ…。)」
この縞々のタコの言葉に、渋々 納得する烏間。
「にゅ? 烏間先生、今凄く失礼な事を、考えていませんか?」
そんな訳で…
◇ルール◇
・使用するのは、対せんせーナイフ
・先に このナイフを烏間に当てた方の勝ち
・互いの暗殺の妨害は禁止
・生徒の授業の邪魔となると即失格
・期間は明日の8:40~17:00の間
※烏間特別シークレットルール※
・もしも烏間が制限時間内の2人の暗殺から逃げ切った場合、殺せんせーは烏間の前で1秒間、何があっても動かず、その間は殺りたい放題とする
・但し、共謀して手を抜くのを防ぐという意味で、イリーナとロヴロには このルールは秘密としておく
・どちらかが この特別ルールを知った時点で、このルールは無効とする
「…成る程、要するに模擬暗殺か。
良かろう…余興としては、面白そうだ。」
びよょょよん…
特殊ゴム素材のナイフを撓らせたロヴロは、烏間にニヤリと笑いかけ、
「…イリーナ、この男に刃を当てる事等、お前には無理だ。」
次にイリーナに顔を向ける。
「お前の持つ暗殺技術の全ては、この俺が教えた事だ。
お前に可能な事、不可能な事…俺は全て、知っている。」
「……。」
無言で俯くイリーナに対し、ロヴロは言葉を続ける。
「お前には この暗殺ごっこで それを思い知らせ、この仕事から大人しく降りて貰う事にしよう。」
更にロヴロは持っていた対せんせーナイフを殺せんせーに向け、
「そして、誰も殺せないという殺せんせー…貴様を殺すに適した刺客…もう一度選び直して送ってやるさ…」
そう言うと、部屋を出て行った。
「…私を、庇ったつもり?」
ロヴロが部屋を出た後、今度はイリーナが殺せんせーに噛み付く。
「どうせ、
「にゅる…いや、そんなつもりは…」
「冗談じゃない!そうは行くもんですか!!
カラスマもタコも、絶対に私が殺ってやるわよ!」
どんどんどんっ…
そう言いながら、大股で派手に床を踏みつけ大きな足音を立てながら、イリーナも部屋を出る。
「ま、まあ、そんな訳で、烏間先生も よろしくお願いします。」
「ふん…あの特別ルールが無かったら、こんな茶番には付き合わん処だったぞ!」
▼▼▼
「…と、云うわけだ。
迷惑な話だが、君達の授業に、決して影響は与えない事になっている。
普段通りに過ごしてくれ。」
「「「「(烏間先生も大変だなぁ…)」」」」
次の日の朝、ホームルームで烏間が事情を説明すると、生徒達は声に出さずとも、内心で気遣う。
≫≫≫
そして この日の2時限目、体育の授業。
「狙ってる…」
「狙ってるよね…」
ナイフの素振りをしながら、それぞれ呟くE組の面々。
「「「「(何か狙ってるぞ!)」」」」
視線の先には、鋭い目をした初老の男、忍者みたいな格好をした黄色いタコ。
そして…
ハァハァ…
如何にも「私、男に飢えてます~!」…な感じで、顔を赤らめ、荒い吐息でナイフを舐めている、何だか目がイッちゃっている感じの金髪の美女がいた。
3人とも、一応は忍んでいる心算なのだろうが、それぞれが…特にタコと金髪が、全っ然、忍んでなく、それに伴いキチンと忍んでいた初老の男も、存在が明らかになると、どうしても その存在感が逆に一気に溢れ出してしまう。
キーンコーンカーンコーン…
そして体育の授業が終わり、
「カラスマ先生~♡」
烏間に駆け寄るイリーナ。
「おつかれさまでしたぁ~♡
喉、渇いたでしょ?
はい、冷たい飲み物!」
「「「「「「「…………。」」」」」」」
満面な笑みを浮かべ、無数のハートマークと光キラキラなエフェクトを撒き散らし、水筒から麦茶をコップに注いで渡そうとするが、
「筋弛緩剤か…」
ぎっくぅ!
バレバレである。
烏間には勿論、生徒達にすら、バレバレである。
「やってられるか」とばかりに烏間は立ち去って行った。
「ふん、このバカ弟子が…」
その様子を見て、呆れ顔で、やはり立ち去るロヴロ。
「ビッチ先生…」
「流石に そんなのじゃ、俺達だって騙せないって…」
凹んでいるイリーナに、磯貝と千葉が声を掛ける。
「仕方ないでしょ!
顔見知りに色仕掛けとかって、どーやっても不自然になるわよ!!」
これにイリーナが逆ギレ。
「いや…だからね…」
「そもそも、色仕掛け自体が間違いって言ーかさ…」
「黙れガキ! その生意気な口、そんなに塞いで欲しいのかい?!」
「んん~~~~?!」
「い、磯貝君!?」
「んんん~~~~~~!??」
「…千葉っ!??」
ジャキ…
「「死ね!このクソビッチ!!」」
「わっ?! イケメグと凛香ちゃんがキレた?」
「ヤバい、2人を止めろ!」」
ワーワーワーワーギャーギャーギャーギャー…
こうしてグラウンドは一時、修羅場と化した…。
≫≫≫
3時限目と4時限目の間の、休憩時間中の教員室。
カタカタカタカタ…
烏間はパソコン相手に無言で書類作成。
そして正面の席に座るイリーナは、何を考えているか、無言で俯いてるだけだった。
いや、一応は机の下の手にはナイフを逆手で持ち、烏間の隙を穿っている。
…しかしながら、烏間に そんな物は微塵も有る訳が無い。
「……………………。」
そして そんな2人を やはり無言で見ている黄色いタコ。
ガラッ
「「「!!!?」」」
其処にロヴロが勢いよく扉を開け、急襲を仕掛けてきた。
「
ガタ…
「…??!」
烏間は反射的に椅子を引き、これを躱そうとするが、予め床板に仕込んでおいた細工が、キャスターを止めてしまう。
…警戒している手練を仕留める時…二重三重の小細工は寧ろ不要。
求められるのは、シンプル…卓越した技の精度とスピード。
少しの何かで、ほんの一瞬、反応を遅らせるだけで良い…。
手練同士の闘いでは、その一瞬こそが命取りになる!
…そう考えているロヴロは、烏間が動かない椅子に注意を向けた、正しく その一瞬の隙を突き、机に飛び乗り、
次の瞬間、強烈なアッパーブローがロヴロの顎にクリーンヒット…する前に寸止めで終わらせる烏間。
後に殺せんせーは語る。
「あの時の烏間先生は、実に活き活きとした
…と。
「熟練とは言っても、年老いて引退した殺し屋が、先日まで精鋭部隊に居た人間を、随分と簡単に殺せると思った物だな?」
刃を向けてきた男に、まるで、どちらが殺し屋か判らない様な爬虫類の如く冷たい視線を浴びせる烏間。
「…強い!!」
驚愕するロヴロ。
そして、
改めて、同僚の実力を思い知るイリーナ。
烏間は床に落ちている、ロヴロが持っていたナイフを拾うと、イリーナと殺せんせーのいる方向に向けて、つい先程にロヴロを返り討ちにした以上の、
「解っているだろうな?
もしも今日、殺れなかったら…(にっこり♡)」
凄く、凄ーく、
「「 (」°o(」°ひ…ひぃぃぃ~~!!?」」
ナイフを向けられた2人が恐怖に慄く。
「負けないで、イリーナ先生! 頑張って!!」
「…何でアンタがビビってんのよ?」
改めて烏間は殺せんせーに顔を向け、そう言うと、微かに微笑んで教員室を出て行く。
「(こいつ等からの暗殺を今日1日 俺が躱せば…お前は褒美に俺の前で1秒動かない約束だったよな? 1秒あれば、俺のナイフは5回は刺すぞ?)…楽しみだな。」
それを見て、だらだらと汗を掻く殺せんせー。
殺せんせーは確かに見た。
見開きページ、燻し銀でリーゼントな烏間のナイフが、自分の顔面、顎、鳩尾、両脇腹の5ヶ所を雷光の迸る中、瞬時に貫いている
「…ふっ、相手の戦力を見誤った上に、この体たらく…歳は取りたくないもんだ。」
そう言って黒皮の手袋を外したロヴロが見せた手首は真っ赤に腫れ上がっている。
「
どうやら骨折している様だった。
「これでは…今日の残り時間で あの男は殺れないな…。」
「にゅやっ!?」
ロヴロの発言に殺せんせーが、困った表情で驚く。
「そんな、諦めないでロヴロさん!
諦めたら、そこで試合終了ですよ!!
まだまだチャンスは沢山ありますから!」
マッハで安〇先生のコスプレに着替えて、ロヴロを叱咤激励する殺せんせー。
「…????」
その余りの必死っぷりを、不思議に思う顔で見つめるイリーナ。
「例えば殺せんせー。これだけ密着していても、俺では お前は殺せないだろう…」
自分の真後ろに立ち、肩を揉み、御機嫌を取ってる殺せんせーには言う。
それは経験で解る物。
戦力差を見極め、退く時は素直に退くのも優れた殺し屋の条件の1つ。
イリーナにしても同じ事。
殺る前に判る。相性が悪過ぎる。
イリーナの得意分野である『お色気』に、絶対的耐性がある、それで あの男を殺るのは不可能だ…と。
「ふぅ~~~~~~~~~…
どうやら この勝負、引き分けだな。」
深い溜め息と一緒にロヴロは言った。
「…そうですか。
貴方が諦めたのは よ~く分かりました。
ですが、あれこれ予測する前に…」
いつの間にか、何時もの修士服に着替えた殺せんせーは
ポン…
「イリーナ先生を最後まで見て下さい。」
イリーナの肩を叩き、話す。
「経験が有ろうが無かろうが…結局は殺せた者が、優れた殺し屋なんですよ?」
この殺せんせーの言葉に
「ふん…好きにしろ…」
ロヴロは そう言うと、部屋を出て行った。
退室時にロヴロが閉めた扉を少しの間、見ていたイリーナは殺せんせーに顔を向け、
「アンタは…本気で思ってる訳?
私がカラスマにナイフを当てれるって…」
「勿論です。」
殺せんせーは応える。
「イリーナ先生、貴女が師匠の元で、何を教わったかは、私は知りません。
…ですが、
「アンタ…」
「貴女の力を見せてあげて下さい。
烏間先生に、師匠に…そして何よりも、生徒達に!」
殺せんせーは そう言うと、ハンカチで包んだ対せんせーナイフを差し出す。
ばしっ…
「…フン! 言われるまでもないわ…見ていなさい!!」
イリーナは まるで奪うかの様に そのナイフを受け取った。
≫≫≫
昼休み。
皆が和気藹々と、ランチタイムを楽しんでいる、そんな中、
「ん? 渚君、吉良っち、こっちこっち♪」
窓際でパンを食べていたカルマが、渚と響を手招きする。
「「??」」
呼ばれた2人と、他に数人の生徒がカルマの所に行ってみると、赤髪の少年は、ちょいちょいと外を指差す。
その先には木に も垂れ掛ける様に座り、ハンバーガーを食べている烏間が居た。
「…あ、烏間先生、よく彼処で ご飯食べてるよね。」
ザッザッ…
その烏間に近づく女が1人。
イリーナ・イェラビッチ。
「へぇ…? 見ろよ、明らかに殺る気漫々だぜ、ビッチ先生。」
暗殺教室に席を置く者なら一目で分かる、尋常でない馬鹿正直な殺気を解き放って烏間に近づくイリーナ。
烏間も当然、『それ』には気付く。
「ちょっと いいかしら、カラスマ?」
その顔も午前中の暗殺を試みた時に見せた笑顔とは違う、冷酷な暗殺者の それだ。
「…何だ? 模擬暗殺でも、これ以上は手加減しないぞ。」
烏間も それは承知。
「「…………………。」」
そして、その様子を校舎の影から伺う殺せんせーとロヴロ。
「ナイフを持ってますね。」
「正面から殺る気か?…バカ弟子が。
そもそも あいつには、高度な戦闘技術は教えていない。」
何故なら訓練された動きは、寧ろ
【女】を使った暗殺スタイルには、無用の長物だ…とロヴロは語る。
「…素人程度なら、正面から殺れるが、あの男には、それが通じないのは承知の筈。
だから…」
スル…
イリーナが身に着けている白の上着を脱ぎながら、烏間に話し掛ける。
「ねーぇ…いいでしょ、カ·ラ·ス·マ♡?」
無造作に地面に放られた上着の下は、胸元が開いた袖無しの黒いインナーシャツ。
裾を捲り、臍も丸出しでセクシーなポーズと言葉で烏間に近づく。
並の男なら、この時点で堕ちるだろうが、100㌫罠と理解している烏間は眉1つ動かさずに、顔をしかめて見ているだけだ。
「やはり…だから、結局は色仕掛けに頼る他にない。
これでは 先程と同じ、只の道化だ。」
これにロヴロが呆れ顔、且つ厳しい口調で言い放つ。
ざわざわ…
何時の間にか、教室内の生徒達も窓側に集まり、このイリーナと烏間の やり取りを見守っている。
「私は
イリーナは そう言うと、ウインクしながら、烏間が背を預けている木の後ろ側に回り込む。
「見返りは とってもイ・イ・コ・ト♡
あなたが今まで受けた事無い、極上のサービスよ♡」
この耳元の囁きに、烏間の目は既に冷めていた。
所詮は この程度か。ナイフを奪って、それで終わりだ。
…そう、頭の中で呟いた烏間は、
「…分かった、殺れよ。何処にでも当てるが良いさ。」
投げやりに言う。
「うふ…嬉しいわ…。
じゃ…、そっちに行くわね。」
ザッ…
妖しく微笑んだ金髪の美女が、木を一周する様に、
ビィンッ!
「…??!」
先程 脱ぎ捨てたイリーナの上着が素早く地を這い、烏間の足を掬う。
「な…?」
座った儘 一回転し、背中から地面に倒れる烏間。
ワイヤートラップ。
予め上着に仕込んでいたワイヤーを、木を軸にして引っ張る事で、獲物の足を刈る。
これにはロヴロも目を見開いて驚く。
本来なら本命である、得意分野の色仕掛けを敢えて囮にするという、自分が教えていない、その殺り方を。
そしてロヴロが驚いている間にも、イリーナは動いていた。
倒れ込んだ烏間が体制を整え直す前に、ダッシュ、腹の上に飛び乗り、マウントポジションを捕る。
「
透かさず両手でしっかとナイフを握り締め、烏間の胸元を刺しに行くが、
ガシッ…
「…く…危なかった…!」
そのナイフを持った手は寸での処で、先のロヴロの急襲の時にも見せなかった焦りの表情を浮かべた烏間の両手でキャッチされてしまう。
「ぁ〜っ!」
「惜しいっ!!」
これを見ていた生徒達が、残念そうに呟く。
そして こうなると、後は力比べしかないのだが、それだと勝ち目が全く無い、イリーナが執った次の行動は…
「カラスマ…」
無邪気無垢な表情で
「私、どうしてもカラスマを殺りたいの。…ダ、メ?」
潤んだ瞳で訴えかけた。
「え~い、アホか お前は?
何処の世界に、殺させろと縋りつく暗殺者がいる?! 諦めが悪い!!」
はぁあ~~~~~~~~~~~~~…
それに呆れ顔で深く、長い溜め息を吐いた烏間はイリーナの手を放すと、
「もういい…諦めが悪い奴に、これ以上付き合いきれん!(所詮は口約束…こんな つまらん賭けで、ヤツが大人しく殺られてくれるとは、とても思えん…)」
ぐにょ…
イリーナの手に持ったナイフが、烏間の胸元に落ちて撓った。
最後まで諦めずに試合終了させなかった、イリーナの勝利が決まった。
「「「「おぉおおぉおおぉぉ!!」」」」
「「「当たった!」」」
「「「「凄い!」」」」
「「「ビッチ先生、残留決定だ!!」」」
2人を注目していた教室が沸き立つ。
そして、
「………………………………………。」
「…ロヴロさん、昨日のイリーナ先生の授業は聞いていましたね?」
校舎の影から様子を見ていた2人。
「先ずは苦手な発音から克服していくのが、彼女の流儀。
実際、彼女が話す日本語は、驚く程流暢です。
外国語を覚えるのというは、挑戦と克服の繰り返しです。
10以上の国の言葉を克服した彼女は…未経験だった教師の仕事ですら、臆せず挑んで克服しました…。
そんな…挑戦と克服のエキスパートな彼女が…
そう言うと、殺せんせーは派手なチェック柄のバッグをロヴロに差し出す。
「…これは!!?」
その中には薄汚れたジャージに、ワイヤーやロープ、フック等が詰まっていた。
「彼女は、私を殺すのに必要な技術を自分なりに考え、外国語と同じ様に挑戦と克服をしているのです。
貴方なら、このバッグを見るだけで…彼女の見えない努力が見える筈です。」
「…………………………………。」
確かにロヴロの脳裏には、目の前の
「苦手な分野でも、一途に挑み、克服していく彼女の姿…。
生徒達が それを見て挑戦を学べば、それは1人1人の暗殺者としてのレベル向上に繋がるのです。
…だから、私を殺したいならば、彼女は この教室に必要なのです。」
「………………………………。」
≫≫≫
「…当然、あのタコも見てたでしょうね。
まさか、カラスマ相手に使う事になるとは…
はぁ…1度 見せた殺り方が通用するとは思えないから、また1から策の練り直しだわ…。」
イリーナにとって、勝利の代償は、彼女なりに大きかった様だ。
しかし、そう言いながらも安堵の息を吐きながら、校舎に戻ろうとする彼女の前に、
「…イリーナ。」
ロヴロが姿を見せる。
「
神妙な顔になるイリーナにロヴロは
「出来の悪いバカ弟子だ。
先生でもやってた方が、まだマシだ。」
「
「必ず殺れよ、イリーナ!」
「…はい! 勿論です、
師匠の激励に、会心の笑顔で応えるイリーナ。
「フッ…」
ロヴロの見せた その微笑んだ顔は、弟子の成長と成功を願う、師匠の それに他ならなかった。
【おまけ】
「…おい、何だ、この金ピカな甲冑は?」
「ヌルフフフ…タコ座の
見開きページで分解・装着図もありm
「そんな事は誰も聞いていない!
何故こんな物が有るのかと、俺は聞いているんだ!」
「にゅや…万が一の為に、備えを、と…」
▼▼▼
最初に授業教材として登場のサトルとシロネ…
作者の別作品【ガルーダDxD(仮)】を参照に。