暗殺聖闘士   作:挫梛道

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寺坂の時間

▼▼▼

 

 

俺は、自分が強いと思っていた。

碌にケンカもした事も無いが、図体と声がデカいってだけで、大概の事は有利に運んだ。

クラス内の弱そうな奴をターゲットにして支配下に置く。

小学校じゃ、それだけで一定の地位を保つ事が出来た。

偶々 勉強も出来る方だったので、中学は私立の進学校に行く事にした。

余り深く考えず、何時もの調子で楽勝と考えていた。

しかし、この学校じゃ、その考えは間違ってたと、直ぐに知らされた。

そう…周りには、俺みたいに先を考えていない奴なんか、誰1人居なかった。

特別強化クラスE組。

成績が悪い奴等を1つの教室に集めて、集中的に学力アップを図らせる。

聞こえは良いが、実は単に、他の奴等の当て馬目的で作られた、差別される為だけに存在するクラス、通称・ENDのE組。

このクラスにだけは入りたくない…

それも理由にはあるだろうが、他の奴等は少なくとも、大学進学くらいは既に見据えて必死に勉強している。

小学校の勉強が出来てたからって理由なだけで、この学校に来た奴なんて、俺くらいだった。

入学時は小学校と同じノリで、どんなに粋がっても、それは最初だけ。

このE組というシステムの前には、デカい図体とデカい声、それから繰り出す暴力に圧力…

そんな安っぽい俺の武器は、この学校じゃ、何の役にも立たない事が解った。

そして其れは、この先も一生同じなのだと…。

此処の奴等みたいに先を見て、努力してる連中が社会に出た時に、俺みたいな無計画な奴を支配するんだ―と。

…で、その落ち零れのE組に落ち、周りは俺と同じ様な目的の無い連中だと、以前みたいに楽に暮らせると思っていたら、それも違っていた。

新学期になった途端、いきなり月を壊したとか言う化け物が担任として現れ、クラスにデカい目的を与えやがった。

結果、それに乗れず、このクラスでも取り残された俺は、やはり目的があり計算高い奴に、良い様に操られて使われてた。

 

 

「…クソがァっ!!」

 

▼▼▼

「…俺と兄さん、どっちが TSUEEEEE!か、改めて決めよう。」

 

ビシィッ!

 

その言葉と同時に、殺せんせーに攻撃を仕掛けてきたイトナ。

その一撃は、前よりも速く、そして重い。

一方の殺せんせーは、今まで水に流された生徒達を救う為、既に全身ずぶ濡れ、身体は大量の水を吸収して大きく膨らみ、かなり動きが鈍っている。

 

「ふふふ…どうだい、モンスター?

以前より強化されたイトナの触手の味は?

お前の()()を破壊するのも、時間の問題だ。」

既に勝ちを確信したかの様な、白装束の男が得意気に話す。

 

≫≫≫

「マジかよ…あの爆発は、あの2人の仕業だったってのか?」

「…に、しても、押され過ぎじゃない?

あの程度の水、そこまでハンデになったりするの?」

2人の戦いを岩場の上から見守る生徒達。

 

「ありゃ、水だけのせいじゃねー…」

「寺坂…!」

そこに現れたのは寺坂。

 

「力を出せねーのは、お前等を助けたからだよ、見てみろ、タコの頭上。」

「…!?」

寺坂の指差した先には、岩場に残された吉田と村松。

そして岩場に生えた木の枝に、抱きつく様にしがみついている原がいた。

その場所は触手の射程圏内。  

      

「原達の安全も考えながらだから、あのタコは尚の事、集中出来ない。

シロのヤローなら、そこまで計算してるんだろうよ。」

「呑気に解説してる場合かよ、寺坂!」

「原さん達、マジで危ないじゃない!」

「お前、まさか…今回の事、全部奴等に操られてたのか?」

「「………………。」」

寺坂に言い寄る磯貝を、この場は敢えて無言で傍観する響とカルマ。

そして寺坂は

「フン…」

開き直った様な得意気な顔で言い放つ。

 

「あー、そのとーりさ!

目的もビジョンも無ぇ短絡的な奴はよ、頭の良い奴に操られる運命なんだよ!」

 

ガシィッ!

 

「寺坂!お前はっ!?」

「「前原、止せ!」」

その言葉に前原が寺坂のシャツの胸元を掴み上げ、拳を振り上げようとする処を磯貝達が止めに入った。

 

パシッ…

 

「でもよ…」

そして その前原の手を払いのけた寺坂は、

「それならそれで、操られる相手は自分で選びてぇ。

アイツ等はもう、沢山だ。

賞金持って行かれんのも、やっぱし気に食わねぇ!」

「寺坂君…」

今迄、誰にも見せた事もない、真剣な顔で言うのだった。

 

「だから…カルマ、吉良ぁ!

テメー等が俺を操ってみろ!!

テメー等の その悪魔みたいな脳味噌使って、俺に作戦与えてみろや!

完璧に実行して、あいつ等 助け出しててやるよ!」

ずっと黙って、その場を見ていた響とカルマに向かって吠える。

 

「へ?」

「俺達?」

いきなりの御指名に面食らう2人。

しかし、直ぐに その顔に悪い笑みを浮かべた2人は

「別に俺は構わねーけどよ…」

「寺坂、本当に…良いの?」

 

ニョキ…パサッ…

 

「「死ぬかもよ?俺等の作戦?♪」」

角と羽根と尻尾を生やし(比喩)、嬉しそうに言うのだった。

 

(((((最悪の組み合わせだ!!)))))

この時、E組の面々は2人の背後に、○素系漂白剤と○性洗剤の巨大なボトルが、『混ぜるな、危険!』の文字と一緒に小躍りしてるイメージを確かに幻視する。

 

「ケッ…」

しかし寺坂は それにも動じず、

「上等だよ…此方とら、実績持ちの実行犯だぜ?」

自信に満ちた顔で応える。

 

「…ん…だったら…そうだね…」

 

ぽん…

 

早速、何かを思いついた様に掌をぽんと叩いたカルマが話し出す。

 

「よし、原さんは助けずに放っとこう♪」

「「「「はぁ?!」」」」」

会心の笑顔と共に出た その言葉に、心底呆れ返る顔を見せるE組の面々。

 

「おい、カルマ…ふざけてんのか?」

未だ角を生やしているカルマに寺坂が詰め寄り、更に これには『まあ、冗談だろ…』と思いつつ、響も

(おかあ)さんが一番危ないんだろが!?

太ましくて身動き取れないし!!」

「アレ見てみろ! ヘヴィーだから今にも枝も、折れそうだろうが!!」

2人で大声で怒鳴る様に突っ込んだ。

 

「くっくく…冗談だよ、吉良っちぃ…」

苦笑しながらカルマは寺坂を指差し、

「…寺坂、お前、昨日と同じシャツ着てるよね?

ほら? 同じトコに染みあるしぃ?」

「あん!?」

「げっ、マジかよ?!

おい寺坂、冬なら兎も角、夏場は毎日着替えろよ?

そー言えば少し、汗臭いぞ?」

「「「「うぅっ…?!」」」」

響の言葉に女子達が寺坂に対し、まるで汚物を見る様にどん引く。

 

「吉良ぁっ! 今 カンケーあるのか!? 今 言う事か?」

「さあ?」

必死な寺坂に響は、まるで渚に次ぐ、新しい玩具が出来た様な顔ではぐらかし。

 

「はっはは…ズボラだよねー♪

お前、やっぱし悪巧みとか向かねーわ。」

「あ゙ァん!?」

その様子を見て、ケラケラ笑いながらカルマが話を進める。

 

「でもな、頭はバカでも体力と実行力は持ってるから、お前を軸に作戦立てるのって、面白いんだぜ?

俺を信じて動きなよ?

絶対に悪い様にはしないからさ?」

「…バカは余計だ。

いーから早く指示よこせ、このヤロー。」

 

▼▼▼

 

ぷっくうぅうう…

 

その頃、殺せんせーは足元の触手も水を吸い、限界まで?膨らみ、更に動きを鈍らせていた。

それでもイトナの猛攻を受けてもクリーンヒットだけは避けていたのだが、それも限界に近かった。

イトナが()()である以上、()()である殺せんせーは手を出せない…

それを承知で、イトナは、そしてシロは攻撃を緩める心算は無い。

 

「そろそろトドメだ、イトナ。

先ずは邪魔な触手を全て斬り落とし、その上で()()を貫くんだ。」

 

首切りのポーズと共に、イトナにシロが指示を出した その時、

「おい、シロ!イトナ!」

「「「???」」」

寺坂が2人が戦っている水際まで降り立ち、待ったを掛けた。

 

「何だ、誰かと思えば寺坂君(キミ)か。

近くに来たら危ないよ?」

「…るっせぇよ。

テメー、よくも俺を騙しやがったな!」

嘲笑う口調のシロに、寺坂は怒りの形相で睨みつける。

 

「おぉ、怖い怖い(笑)。

まあ、そう怒るなよ。

ちょっとだけ、クラスメートを巻き込んじゃっただけじゃないか。

E組で浮いてた君には丁度良いだろ?」

「うるせぇ! テメー等は許さねぇ!!」

自分のした事に、何の罪悪感も反省も後悔も皆無な態度のシロに、寺坂は更に怒りを増す。

 

ザブッ

 

そして水に入り、イトナの正面に立つと、

「イトナ! テメー俺とタイマン張れや!!」

着ていたカッターシャツを脱ぎ、それを闘牛士のマントの様に構えて吼える。

 

「……………」

イトナは それを冷めた目で見下し、

「駄目です寺坂君! 君が勝てる相手じゃありませんよ!!」

「黙って引っ込んでろ、この膨れダコ!」

膨れダコ…もとい、殺せんせーが止めに入るが、寺坂は聞く耳を持たない。

 

「ふふ…健気だねぇ…。

そんな布切れ1枚で、イトナの触手を防げる心算かい?」

それを見たシロは、最初は呆れた口調で寺坂に話し掛け、

「イトナ、さっさと黙らせろ。…勿論、そっちのタコに気をつけながらな。」

イトナに冷酷な口調で命令した。

 

≫≫≫

「カルマ君!」

「大丈夫だよ渚君。死にゃあしない。」

「あのシャツ…成る程、そーゆー事か!

やっぱし悪巧みさせたら、カルマは俺より上だぜ。」

「吉良っち、気付いた?」

「まあな…」

「カルマ、吉良っち、一体どーゆー事よ?」

「皆に分かる様に説明!」

岡野と片岡が2人に、解説を要請。

 

「ふぅ…いいかい岡野さん片岡さん?

あのシロは、別に俺達生徒を殺すのが目的じゃないんだ。

生きてるからこそ、殺せんせーの集中を削げるって訳。」

「あぁ、その通り。

だから(おかあ)さんも、見た目は超危険だけど、イトナの標的になる事は無い筈さ。」

「それに…例え下に落ちたとしても、殺せんせーは生徒を見捨てたりしないのは、俺が身を以て知っているし。

だから、寺坂(アイツ)にも言っといた…」

 

ドッ!

 

「うがっ…!?」

カルマが其処まで喋った時、イトナの横殴りの触手が、寺坂の腹部を構えていたカッターシャツの上から直撃する。

 

「「「「「「寺坂!!」」」」」」

「大丈夫だって♪

気絶する程度の触手は喰らうけど…」

「へへ…っ!!」

「…!!?」

しかし寺坂は、苦し表情を浮かべながらも、痩せ我慢の苦笑い。

 

「逆に言えば、パワーもスピードも、その程度だって事。

だから…死ぬ程 痛いかもしれないけど、根性出して、死ぬ気で喰らいつけ!…って言ってやった♪」

「へっ…痛ぇじゃねーかよ、イトナぁ!」

 

ギュウッ

 

そして寺坂は盾代わりにしていたシャツで包む様に、イトナの触手を捕まえる。

 

「はっはっは…!

寺坂君、痛いのを我慢して、よく頑張った! 感動したよ。

ではイトナ、ご褒美に もう1発くれてやりなさい。

くれぐれも、背後のタコには気をつけながらn

「くしゅんっ!」

「…はい?」

 

くしゅん!くしゅん!くしゅん…

 

…その異変は急に起きた。 

 

「????」

イトナが まるで花粉症にでもなったかの様に、急に くしゃみを連発し、涙や鼻水を滝の様に流し始めたのだ。 

 

「カルマ君、これは…?」

「寺坂のシャツね…昨日から着替えてないって事は、あの昨日のスプレー…

アレの成分を至近距離…いや、ゼロ距離でモロ、たっぷり浴びたシャツって事。」

「それって、殺せんせーの粘液ダダ漏れにした成分って事だろ?

だったら、それに直に触手が触れたイトナだって、タダで済む筈がない。」

 

ダラダラ…

 

カルマと響の解説通り、イトナの触手も、大量の粘液が垂れ流し状態となる。

 

スチャ…

 

「…で、イトナに一瞬でも隙を作れば、見ての通ーり…」

「「「「「「おぉ~!」」」」」」

イトナがくしゃみに苦しんでいる隙に、殺せんせーは枝にしがみついていた原を お姫様抱っこして救出していた。

それを見た寺坂は腹を押さえながらニヤリと笑うと、

「おい、吉田! 村松!」

「「あ?」」

まだ岩場の上に居る吉田と村松に向かい、

「お前等なら、其っから飛び降りれるだろ!」

「「はぁ!?」」

 

バシャアッ!

 

「水だよ水! 派手なヤツ頼むぜ!!」

水面を力強く叩きつけ、大きな水しぶきを立ててアピール。

 

「やれやれ…」

「そーゆー事かよ…」

その意味を察した2人は

「「しゃーねーなぁ!」」

 

ぴょん…

 

その場から水面目掛けてダイブ。

 

「ま、マズい!?」

それを見たシロも、何が狙いなのかを理解して、焦りの声を出す。

 

「そう。殺せんせーと弱点が同じなら…」

それと同時にカルマのサインで、

「「「「「「ひゃっはーっ!」」」」」」

吉田と村松に続き、次々とイトナの傍の水面に次々と飛び込むE組の面々。

 

「…同じ事を やり返せば良い訳って事♪」

 

ザッパーッン!!

 

全方位から派手な水しぶきがイトナを包み込む。

 

ズズズ…

 

水を吸収し、見る見る内に膨らむイトナの触手。

 

「まだまだ!」

 

バシャアッ

 

其処に追い討ちとばかりに寺坂が両手で掬った水をイトナに浴びせる。

 

「おら!お前等も、見てないで手伝え!」

「だから、何なんだよ、お前は?!」

「偉っそうに!」

「ガキ大将!」

「我が儘!」

「自己中!」

「ジ〇イアン!」

「ブ〇ゴリラ!」

「小〇元太!」

「ハー〇様!」

「秋道チョ〇ジ!」

「鷹岡モドキ!」

「ちょっと待て! 今、鷹岡モドキって言ったの、誰だーっ?!」

 

バッシャーン!

 

この寺坂の呼び掛けに、呆れながら文句たらたらで、それでも僅かに苦笑し、それに応じる様に、イトナに水を集団で浴びせかけるE組の生徒達。

 

ズズズズズズ…

 

更に大量の水を吸収したイトナの触手は、先の殺せんせーの其れよりも肥大化、その重さからか、ダラリと垂れ下がる。

 

「かなり水、吸っちゃったねー?

あの薬剤入り?の水を♪

その触手、傍目には今は もう使い物にならないっぽいのは気のせい?」

「……………」

頭巾の下で焦りの表情を浮かべるシロ。

 

「さて、どうする?

今回、あんたの作戦のお陰で皆、死にかけてるし、まさか、タダで帰れるとか思ってないよね?」

「……………………。」

「早く謝らないと、更に全力で水遊び続けさせて貰うよ?」

カルマの台詞に耳を傾けた後、イトナに対し、水を掛ける体制で準備万端のE組の面々を岩場から見下ろすシロ。

 

「…してやられたな。

丁寧に積み上げた心算の戦略が…たかが中学生の作戦と実行で滅茶苦茶にされてしまうとはね。

仕方無い、今日の処は退くとしよう。

帰るよ、イトナ?」

シロはイトナに撤退を呼び掛けるが、

「うがぁっ!?」

既に触手は殆ど役立たずな筈なのに、イトナの目からは殺気が消える事はなく、その目は退く心算は無いと言っている。

 

「イトナ! 聞こえないのか?!

今日は退くぞ!!」

怒鳴る様にイトナを呼ぶシロだが、

「…カルマも言ったろ?

タダで帰れると思ってんなよ、白装束?」

 

バキィッ!

 

「うぎぃっ!?」

シロの脇腹に、突如として現れた響のミドルキックが炸裂した。

  




  
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