「…知らない天井だ。」
「…ケッ!ネタに走ってる余裕があるなら、大丈夫みたいだな!」
「寺坂、お前なぁ…」
「やぁイトナ、気分は どうだい?」
…その日、放課後訓練が終わった後、数人の生徒が保健室に様子を見に行った(寺坂皆勤賞継続中)その時、イトナは目を覚ました。
結局この日、約24時間 眠り通しだったイトナ。
目を開けた後の、その第一声を聞いた寺坂は、思わず呆れ顔で悪態を吐く。
それを諫める前原に、そして何事も無かった様に、自然体で声を掛ける磯貝。
「……………………。」
「おい、黙り決め込んでないで、何か喋ったらどうだ?」
「…兄さんは、何処だ?」
「兄さん? あぁ、殺せんせーなら、教員室に…って、イトナ?」
ガタ…
教員室という言葉を聞いた途端に起き上がるが、その瞬間、立ち眩みを起こし、イトナは床に倒れ込む。
「う…!?…これは…?」
その時に頭を抑え、初めて自身の頭に巻かれている物に気付く。
「ああ、対せんせーネットと同じ繊維で作ったバンダナだよ。
悪いが触手を抑える為に、着けさせて貰ったんだ。」
少し前、結果から先に言うと惜しくも失敗に終わったのだが、裏山で敢行された岡島発案、『殺せんせーをエロ本で釣って、網で生け捕り&暗殺しようぜ計画』。
その時に使用した対せんせーネット(防衛省特注品)と、ネットと一緒に防衛省から支給して貰っていた対せんせー繊維を活用し、裁縫させたらE組で一番の原に、急遽作って貰ったバンダナ。
触手の暴走を少しでも防ぐ為、寝ているイトナの頭に巻いていたのだった。
≫≫≫
「あっ、本当に起きてるし~♪」
「イトナ君、大丈夫?」
「やあ、おはよう。」
「吉良君、もう夕方よ?」
イトナが起きたと聞き、次々と保健室に入ってくるE組の面々。
「あ~っ! イトナ君、良かった~っ!!
目が覚めましたか?気分はどうですか?
何処か体の具合が悪いとか無いですか?
頭痛や目眩や吐き気とか大丈夫ですか?」
そして、過保護なまでに心配性なタコもやってきた。
「…兄さん…気分…? 最悪に決まってる。
だか…ら…スッキリさせる…為…俺と此処で戦…え…」
「殺せんせー…と呼んでくれませんか?
私は君の担任ですから。」
「五月…蠅い…今度こそ…勝つ…勝負…し…ろ…!!」
「勝負するのは構いません。
しかし、君がいま、最優先にするべき事は心身の回復ですよ?
とりあえず、昨日から何も食べてないですよね?
どうですか? 先に校庭で、バーベキューでもしながら、先生の殺し方を皆で話し合ってみては?」
「バーベ…キュー…?」
グゥ…
その言葉に反応するように、イトナの腹が音を発てる。
「そのタコ、しつこいよ~♪
一度 担任になったら、地獄の果てまで教えに来るから。」
「ヌルフフフフ…当然ですよ?
目の前に生徒がいるなら…教えたくなるのが先生っていう生き物なのですから。
ささっ、それよりも、皆でバーベキューしましょう。
イトナ君が その気なら、マッハで食材買いに行ってきますよ!」
「黙れ…誰が、敵の施しなんか…!」
グッグゥ~…
しかし、イトナの胃は、口とは真逆の反応を示す。
「意地張ってんじゃねーよイトナ…
テメーにゃ散々してやられたがよ、全部 水に流してやっから、大人しく こっちに来いや。」
「うる…さ…」
バタ…
そして、それでも手を差し伸べる寺坂の呼び掛けも虚しく、再びイトナは意識を失い、倒れてしまう。
「これって…もしかして…」
「空腹で倒れたんじゃないの?」
「疲労と併せてピークだったんだろう?」
「…にしても、意地っ張りだよね~?」
「触手です。」
「殺せんせー?」
「触手は意志の強さで動かす物です。
そして それに伴い、触手が逆に宿主の意志を強く、悪く言えば意地っ張り、頑固者へと誘導する事もあります。」
「「「「「今じゃん!」」」」」
「はい。イトナ君に力や強さ…勝利への病的と言っても良い執着がある限りは、触手細胞は強く癒着し、決して離れる事は無いでしょう。
そうこうしている間に、肉体は強い負荷を受け続けて衰弱してゆき、最後は触手諸共、蒸発して死んでしまう…」
「その前に、餓死しそうなんですけど…」
「兎に角、彼の力への執着を消さないと、どうにもなりません。その執着の源を…」
「おい、執着の源ってアレだろ?
テメーの家の会社が大企業に潰されて、その結果、親に捨てられたって…
ついでに言えば、学校で その事で集団でバカにされたかで、キレてケンカになったが、返り討ちにでも なったんじゃね?
それで、誰にも負けない力が欲しいって、触手に手ぇ出したってオチだろ?」
「寺坂…お前、もう少し、ソフトに言えないのかよ?」
「知るかよ! 結論から言や、それでグレただけって話だろーが! くっだらねー!」
「寺坂君…」
「皆、それぞれ悩みってな、あんだろ。
重い軽いの違いは有るだろーがよ。
…けどよ、んな苦労とか悩みとか、考え方次第で割と どーでもよくなったりするもんなんだよ…おい、村松、吉田、狭間!」
「「「は?」」」
寺坂は村松達を呼びながら、イトナの腕を自分の肩に回して抱え起こす。
そして、皆に向かって言うのだった。
「俺等にコイツの面倒、見させろや。
それで死んだら、其処までだよ。」
▼▼▼
『…ごらん、糸成。
この小さな町工場から世界中に、部品を提供しているんだ。
これは、ウチにしか作れない技術なんだ。
勉強を重ねた腕利きの職人と研究を重ねた製造器機。
近道は無いんだぞ?
日々勉強の繰り返し。
誠実にコツコツやっていけば、どんな大企業とも勝負が出来る。
誠実に努力を続けた人だけが、強くなれるんだ。』
…そんな言葉は全て嘘、まやかしだった。
結局、
圧倒的な力の前には、勉強も誠実も意味が無い。
力がある者、強い者は、力無き者が それなりに大きくなるのを、黙って待てば良いだけなんだ。
力を行使して、後から奪えば簡単だから。
力があれば、誰にも邪魔はされない。
力があれば、誰にも負けない…。
だから俺は、そちら側になる為に、チカラを求めた…。
「…はっ?!」
「よう、目が覚めたか?」
「お前…」
「おはよう。」
「吉良、だから もう夜だって…」
寺坂と村松がイトナの腕を、それぞれの肩に回して下山している途中で、イトナは目を覚ました。
「お前等…俺を何処に連れて行く気だ…」
「駅前のマク〇。腹、減ってるだろ?
心配しなくても、金は出してやるよ。」
「………………………。」
「…寺坂が。」
「おぉいぃっ!!? 吉ぃっ良ぁああっ??!」
「お前が面倒見るって言ったろ?」
この やり取りを少し後ろ、距離を開けて見ていた片岡達は思った。
((((やっぱり不安だ!!))))
…少し、時間は遡る。
≪≪≪
「俺等にコイツの面倒、見させろや。
それで死んだら、其処までだよ。」
「「「はぁ!?」」」
「おいおい、何で俺達まで…」
「うるせぇ!元々は、俺達がプールを荒らしたのが今回の事の始まりなんだ!
良ーから黙って手を貸せ!」
「「ちぃ…わーったよ…。」」
「ちょっと、あたしは関係ないわよ?」
「良いんだよ、細かい事は!!」
「…てゆーか犯人、やっぱり お前達だったのか…」
今更だが、呆れ顔で言う磯貝。
「…でも、寺坂君、大丈夫なのかな? 何か、作戦が…」
「渚、アイツも思う所があるんだよ…」
「吉良君?」
「あの爆破な…少しでも、アレの清算しようと必死なんだよ。」
「でも、アレについては、皆、もう…」
「アイツが納得してないんだろうよ…
折角その気になってるんだ、挽回の機会を邪魔するのは、野暮ってもんだぜ?」
「吉良君…」
「ふ~ん? 其処まで解ってるなら、吉良君も寺坂達に着いて行ってよ?」
「「片岡さん?」」
響と渚の会話に、片岡が入ってきた。
「言ってる事は解るけど、それでも寺坂がバカやり過ぎない為の監視は必要でしょ?
どうせ殺せんせーも空から同行するんだろうけどさ、アイツ等を(物理的に)止められるって、アンタかカルマしか居ないじゃない?」
「だったら、俺じゃ無くてもカルマでも…」
「吉·良·君?」
ガシッ…
その台詞に対し、片岡は響の両肩をガッシリと掴み、青筋を立てながら にっこり微笑み、質問してきた。
「良~い? 想像してみなさい?
「いや…アイツなら面白がって、尚更 支茶化滅茶化にしてしまいそうな気が…」
「そう、だったら…分かるわね?分かるわよね?分かってるわよね?(ニッコリ♡)」
「は…はひ…」
暗殺教室で身に付けた、余りにも殺気が込められたスマイルからのONEGAIに、若干引きながらも承諾してしまう響。
≫≫≫
「…とゆー訳で、同行する事になった。」
「くっく…アンタも災難ね…」
寺坂達に同行する旨を伝えると、狭間から早速 同情される響。
「…で、寺坂。とりあえず これから、どーすんだ?」
「おう…」
イトナを抱え、先頭を歩く寺坂と村松の少し後ろを歩いている吉田が尋ねると、寺坂は立ち止まると、後方を向き、
「お前等…これから どーすんべ?」
「「「「はぁああ!?」」」」
何とも間の抜けた笑い顔で、逆に意見を求めるのだった。
「質問に質問で返すな!」
「何も考えてなかったのかよ!?」
「ホンッット、無計画だなヤツだな、テメーわ!!」
「呆れた…」
「うるせー!5人も居れば、何かアイデア浮かぶだろーが!!」
余りの行き当たりばったり感に、非難轟々な響達と、それに逆ギレする寺坂。
「とりあえず、何か食わせようぜ。
俺も普通に腹、空いてきたわ。」
「…だな。」
「だったら村松ん家は?」
「村松ん家?」
狭間の言葉にオウム返しで聞く響。
「あぁ、吉良は知らなかったか。
俺ん家、ラーメン屋でよ…。」
「へ~? ラーメン、良いじゃん♪
コイツも一杯食べたら、気も多少は楽になるかもな?」
「バカヤロ、それ、何の罰ゲームだ!?
あの不味いラーメン食わせた日にゃ、逆に更にキレて、それこそ また触手で店を破壊しかねんぞ?」
これに寺坂がストップを掛ける。
「あ゙!?…まぁ、可能性はあるわな…」
この寺坂の発言に村松は、一瞬キレるが、次の瞬間には同意する。
「おいおい、自分ん家ディスられてんだからよ、そこはキレろよ?」
「いや、ぶっちゃけ仕方無ーよ。」
「村松?」
「ウチの親父…俺が散々レシピ改良しろって言ってるのに、全っ然聞きやしねー。」
どうやら村松は、自分の家の店に、不満がある様だった。
「それじゃ駅前のマク〇、行かないか?
あの店、今の時間帯なら可愛い店員さんが居るんだぜ♪
ツインテでさ、茅野ちゃん並の背丈に矢田さんレベル…下手すりゃ それ以上なのをお持ちでよ、まぢ、スペシャルビッグ〇ック、2プリ~ズ!どーん!!…みたいな?」
「「「よし、レッツ ゴー!!!!」」」
「はぁ…バカばっか…」
胸元で、両手で何かを持ち上げるポーズをしながらの響の提案に、ノリノリで応じる寺坂達を見て、溜め息を吐く狭間は、決して間違ってはいないだろう。
そして、今に至る。
▼▼▼
「何だ? これ…?」
「くくく…修羅場ってるわねぇ?」
響達が件のマ○ドに入った時、店内では見た目20歳位の男性店員と、同年代なOL風の女性客が、痴情の縺れか、カウンター越に何やら言い争っていた。
それを あわわわ状態で見ている、アルバイトだろうか、若い女性店員が1人。
「あ…いらっしゃいませ~♪」
来店した響達に気付き、その女性店員が接客する。
「また あの2人っすかぁ?」
「そ~なんですよ~。ハァ…」
それなりに常連な響からすれば、この2人による店内での やり取りは既に何度か見ており慣れた光景なのか、何気に話を振ってみると、マク○の制服の胸元に『佐々木』と書かれた名札を付けた店員は、溜め息混じりにボヤく。
「お姉さんも 大変っすね♪」
「え?えぇえっ!? わ、わたしは真奥さんとわ、別に しょんにゃ…§ΘЖ※Ψ◎£¢§@∂∬…」
言い争っている2人と この佐々木という女性店員の3人を含め、まるで全てを察してますみたいな、響の下世話な顔をした含み笑いに、顔を赤くしてテンパるツインテールの店員。
「えと…ご注文をどーぞ…」
それでも、最後にはキチンと仕事するのだった。
≫≫≫
「どーよ? 美味いか?」
席に着き、スペシャルビッ○マックを頬張るイトナに吉田が話し掛ける。
「…特別な事はない。普通だ。」
「この野郎…人の奢りだからって、何の躊躇いも無くスペシャルのセット頼みやがって…もう少し美味そうに食え!」
「…で、あの お姉さん、どうだった?」
イトナの感想にブーたれる寺坂に続いて、響が接客してくれた、アルバイト店員について話を振る。
「…
でも、悪くはない。」
『アレ』…女性店員の何の事、何処の事を言ってるのか、どの様に尋常ではないのかは察して下さいなのだが、兎に角、満更でもないイトナ。
「お前等は どーよ?」
そして響が寺坂達に同様に振ると、
「「「吉良君! お前、嫌な奴だと思ってたけど、実は凄く良い奴だったんだな!!」」」
ガシッ!
「はあぁ~…本当、バカばっか…」
寺坂達は、感動しながら、響に対する認識を改めたかの様な発言と共に、がっしりとシェイクハンド。
4月の渚の自爆テロ以来、彼等の間で かなり深くなっていた溝が埋まった瞬間だった(笑)。
その様を見た狭間が更に呆れ返ったのは、必然か。
((((やっぱり凄く不安だ!))))
その様子を2つ離れた席で伺っていた磯貝、片岡、渚、萱野の4人は そう思った。
尚、同席のカルマは店内での大笑いを堪えている模様。
因みに入店の際、茅野が何故か、件の女性店員を見た瞬間に尋常でない殺気を放ち、渚や片岡が必死に宥めたのというトラブルがあったのも、また別の話である。
「よしイトナ。飯も食ったし、腹ごなしに次は、風でも感じてみるか!」
▼▼▼
ブルン…ブルンブルンブルン…
次に5人が足を運んだのは『吉田モーターズ』。
吉田の家が経営しているバイク屋である。
ドッドッドッドッ… グオォォォン…
「ひゃっはー! どーよ、イトナぁっ!?
このスピードで嫌な事なんざ、吹き飛ばしちまえ!!」
店の裏のグラウンドの練習用トラックを、中型バイク2人乗りで疾走する吉田とイトナ。
「良ーの? 中学生が無免で?」
「まあ、敷地内だから大丈夫だよ。
2人乗りは どーだか知らないけど?」
「
その様子を見守る4人。
更に店の外、フェンス越しには片岡達5人が見守っている。
「どだ? テンション上がったか?」
「…悪くない。」
ハンドルを握る吉田の問いに、まずまずの反応を見せるイトナ。
「はっ! それなら もっと上げてやるぜ!!
しっかり掴まってろよ!」
ブォオッ!
バイクがトラックの直線からコーナーに差し掛かった時、
「必殺! 高速ブレーキターン!!」
キッキィィッ!
「「「おぉっ!」」」
自身が必殺と銘打つだけの事がある、豪快なターンが見事に決まるが、
「「「あぁーっ!!?」」」
その勢いで、後部座席のイトナが振り落とされる。
幸いにも地面に激突する事はなく、コース脇の茂みに突っ込み、大事には至らなかった。
「あの お馬鹿ぁっ! あんた達もボォッと見てないで、早く助け出してきなさい!!
ショックで また暴走したりしたら どーすんのよ?!」
「いや、あの程度なら平気じゃね?」
わーわーぎゃーぎゃー…
兎に角、バカ騒ぎな寺坂達。
(((((……………………。)))))
それを見て、片岡達は完全に言葉を失う。
「計画性、まるで無いわね…」
「うん、ただ遊んでるだけな気が…」
「ま、アイツ等って基本的にバカだから仕方ないよ。」
「なんか、吉良君も一緒にノリノリになってるし…」
「で、でも、狭間さん頭良いから…狭間さんなら、きっと何とかしてくれる…筈!」
≫≫≫
「くくく…シロに復讐したいんでしょ?」
しかし、そんな茅野が推しの狭間は、偶々自分の鞄に入れていた、復讐をテーマにした、ダークでブラックな有名長編小説を薦めようとするのだった。
「これ読んで暗い感情、高めなさい?」
「重いわ!」
「暗いんだよ!」
「難い!!」
ブーイングな寺坂達。
「あら? 心の闇は大事にしなきゃ駄目でしょ?」
「もういい! おい吉良!お前、何かないか?」
ダメだ こりゃ…そう思った寺坂は、最後の砦?である響にアイデアを求めるが、
「う~む、近くの空手か柔道かの道場に放り込んで、鍛えて貰うとか?
やはり健全な精神は、健全な肉体に宿るからn
「「「お前 実は脳筋だろ?! 」」」
「誰がレ●ディオスだ!?」
脳筋と言われて、思わず自分が知る限りの脳筋の代名詞と云える、キャラクターの名前を出す響。
「何か もっと、こう…簡単にアガるヤツってないのかよ?…って、イトナ?」
「う…うがぁ…!?」
この時、イトナの様子が急変。
「何かヤベぇ、プルプルしてんぞ?」
「少し巫山戯け過ぎたか?」
「…違うわ。これは…」
バリィッ!
再びイトナの触手が暴走を始める。
対せんせー素材のバンダナを、ダメージを受けるのを承知で無理矢理に引き裂き、蠢く黒い触手。
「マズいです!」
空から様子を見守っていた殺せんせーが急降下。
「寺坂!」
「イトナ君!」
「吉良っち!」
外で様子を見ていた渚達5人も、敷地内に駆け付ける。
「寺坂君、皆、下がって!」
殺せんせーが前に立ち、寺坂達に退くように促すが、
「下がるのはオメーだ、このタコ!」
「にゅっ?!」
担任を押しのけ、更に前に出る寺坂。
「そーそー、この先はガキの時間、大人は引っ込んでろっての!」
そして、響。
「寺坂君…吉良君…?」
この2人の教え子の発言。
不安ながらも頼もしさも、担任教師は感じてしまう。
「俺は…普段から適当にやってる、お前等とは違うんだ…
今すぐ、アイツを…兄さんを殺して、勝利を…!」
前に出た2人に対し、イトナは目を血走らせ、睨みながら話す。
「おう、イトナ…俺も、つい この前までは そう考えてたぜ。
あのタコ、今日にでも ぶっ殺してやりてーってな。
…でもよ、少なくとも今のテメーにゃ、今すぐ奴を殺るなんて無理だ。」
「もっと楽に考えてみようぜ?
無理なビジョンなんか捨ててよ?」
寺坂と響は真剣な、且つ力を抜けと、笑みを浮かべた顔で話し掛けるが、
「黙れ! お前等に俺の、何が分かる!?」
ブンッ!
そんな言葉にも、聞く耳を持たない2本の黒い触手が2人に襲い掛かる。
ガシィッx2!
「「うっ!?」」
その鞭の様に撓りながら、横殴りで襲ってきた触手を、2人は揃って腹、両腕、脚を使ってガッチリと、顔を歪めながらも受け止める。
「2回目だし、やっぱし前より弱ってるからな、捕まえ易いわ。
吐きそうな位、痛てーけどな!」
「刺突なら、地味に危なかったけどな?」
明らかに痛いのを我慢して、強がりの笑いを見せる2人。
「それに、片岡さんや岡野さんが投げる拳銃の方が、もっと痛てーしな!」
…それに関しては、全て
「…だ、そうだよ~、片岡さ~ん?♪」
「あ、あれは あの露出魔が悪いの!」
角と羽を生やして茶化すカルマに、片岡は顔を赤くして必死に弁解する。
尚、
因みにだが、響は今回、
只の人間である、寺坂が生身で受けようとしたという、負けず嫌い的な物もあるが、瞬時に必要無しと判断したのである。
仮に必要があったなら、
「吐きそうって言や、村松ん家のラーメン思い出したぜ。」
「ほっとけ!…なあ、イトナ?」
いきなりの振りに寺坂に突っ込みを入れた村松が、その儘イトナに話し出す。
「あのタコな、前に
今は不味いラーメンでも、何時か俺が店を継ぐ時、新しい味と経営手腕で勝負しろってよ…。」
「それ、俺も同じ様な事を言われたわ。
い・つ・か・絶対に役に立つってよ。」
吉田が続けて話す。
「イトナよぉ…」
ゴンッ
「痛てっ!?」
「テメー、1度2度負けた位でグレてんじゃねー!
い・つ・か・勝てたら、それで良いじゃねーかよ!!」
そう言いながら、拳骨を落とす寺坂。
「いつか…?」
「おぅ、あのタコ殺すってのもな、別に今じゃなくて良いんだよ。
100回失敗しようが1000回失敗しようが、3月までに たった1回殺れたら、それだけで俺達の勝ちだ。」
「親の工場だったか?
その時の賞金で買い戻したら良いだろ?
そしたら、親も戻ってくるさ。」
響も、諭す様な顔で語る。
そんな響達に、イトナは自信無さげな顔で俯き話す。
「…考えられないし、耐えられない。
その、勝利のビジョンが出来る迄…俺は一体、何をして過ごせば良いんだ?」
「「「「「はぁ??」」」」」
このイトナの台詞に、この日、最高の呆れ&引き顔を見せる響達。
くっくく…うぷぷ…
ぎゃぁーっはっはっはっはっはっはっは!!!!
そして次の瞬間には、大爆笑。
「な…何が可笑しい?」
「そ、そりゃあ、オマエ…」
「何をするってよ…」
「?」
「今日みたいに、皆で適当にバカやって過ごすに決まってんだろが!」
「え…?」
寺坂の言葉を聞いたイトナの目が変わる。
「さっきみたく、何か食いながらよ、『あの お姉さんの おっ●いパねえ!』とか駄弁ってみたり…」
「バイク乗ったりしてな!」
「皆でプリン食べてみたりぃ♪」
「スポーツとかな!」
「皆で渚君を弄ってみたりね♪」
「カルマ君…それは違うと思うよ…。」
然り気に会話に参加している渚達。
「見てみなよ、渚君、茅野ちゃん。」
「「え?」」
そんな渚と茅野の腕を引っ張り、イトナや寺坂達と少し距離を開けると、カルマは2人に小声で話す。
「寺坂ってさ…基本バカだから、あーゆー適当な事を平気で言えるんだよね?」
「カルマ君?」
「でもね…あーゆーバカの適当な一言ってさ、こーゆー時に凄く力、抜いてくれるんだぜ?」
カルマの言う通りなのか、イトナの顔から険が取れ、触手も力が抜けた様にダラリと垂れ下がり、その色も何時の間にか、黒から通常の白に変わっている。
「俺は…焦って…いたのか?」
「…じゃね?」
「…だな。」
イトナの呟きに、笑みを浮かべながら応える寺坂達。
「イトナ君…」
「兄さん?」
改めて殺せんせーがイトナの前に立った。
「目から執着の色が消えましたね。
今なら君を苦しめる触手細胞を、全て取り払えます。」
そう言って、幾本ものピンセットを構える殺せんせー。
「1つの大きな力を失う代わりに新たな力…多くの仲間を君は得ます。
皆と殺しに来てくれますね? 明日から。」
「……………………………。」
その場にいる10人のクラスメートが微笑み見守る中、兄の…いや、担任の、余りの しつこさに ついに根負けしたか、イトナは呆れた顔で、尚且つ何か安心した様な顔を見せて言う。
「…勝手にしろ。この
その顔は、嘗てのカルマの様な、憑き物が取れて吹っ切れた様な、健全な殺意が込められた笑顔だった。
≫≫≫
次の日。
「おっ、来たなイトナ!」
「もう壁壊さず、扉から教室入れよ!」
「…努力する。」
イトナが教室に入った時、木村と千葉が話し掛ける。
「おはよー、イトナ君。」
「バンダナ、似合ってるぞ♪」
「…気に入った。」
続いて、原と中村。
「おっは~♪」
「…おはー」
更に倉橋。
久しぶりのイトナの『登校』に、顔を合わせる度に声を掛けるクラスメート達。
既に昨夜の件は、その場に居合わせていなかった生徒にも、渚達がメールで報せていたので皆、事情は知っていた。
「お、イトナ! 今朝 買ったグラビア、一緒に見るか?」
「見せろ。」
ガンッ!x2
「「痛い!?」」
「いきなり
この変態終末期が!!」
「イトナ君も! 安易に
そして、岡島、岡野、不破。
≫≫≫
「ヌルフフフフフ…おはようございます、イトナ君。
気分はどうですか?」
「最悪だ。力を失ったんだから。
でも…」
ホームルームが始まる少し前に、教室に入ってきた殺せんせーの呼び掛けに、イトナは応える。
「…弱くなった気はしない。
だから、いつか…必ず殺すぞ…殺せんせー。」
首狩りポーズからのサムズダウンで意思表示したイトナは教室後方、寺坂の隣の自分の席に着く。
問題児・堀部イトナが、正式にE組に加入した。
▼▼▼
放課後。
「寺坂、腹が減ったが金が無い。
昨日のマ○ドで また奢れ。」
「はぁ!?」
…因みに、寺坂組にも加入した。