…または『暴露の時間』。
▼▼▼
「行くぜ! 烏間先生直伝!!」
そう叫びながら、響は左手に巻き付けた鞭を引っ張り、8F到達早々に襲って来た、
「廬山〇龍覇ーッ!!」
バキィッ!
「どぴぴぴぴーっ!?」
…と、別に
尚、一応は拳保護の意味で、対せんせーグローブは着用している。
「「「よっし! 簀巻きだ、簀巻き!!」」」
そのアッパーにより失神K.Oとなった男を寺坂達が布テープで雁字搦め、身動きが取れない様にする。
「ちっくしょー、買ったばかりなのに…」
そんな中、殺し屋との戦闘の途中で、床に脱ぎ捨てていたアロハとTシャツを拾いながら、ボヤく響。
島に到着早々、ホテルのショップに置いてあり、そのデザインを一目見て気に入り、即購入したアロハとTシャツ。
所々が敵の鞭によって、ズタズタに斬り裂かれているアロハとTシャツ。
「ちぃ…やっぱ今からでも、リアルに黄泉比良坂に叩き堕としてやろうか…」
何気に とんでもない台詞を小声でブツブツと言いながら、orzった顔で渋々と、流石に何時迄も上半身真っパな訳にはいかないと、そのボロボロのシャツに響は袖を通す。
チッ…
その際に数名の女子が、普通の人間では聴き取れない程の、小さな舌打ちを洩らすのは、最早 日常。
「…いや、俺は今のアッパーも、直接教えた覚えは無いのだが…鷹岡の時のアレを、視て盗んでいたのか?
やはり吉良君の戦闘センスは、このクラスでもNo.1だな。
…と言うか、俺は別に、自分の技に そんな名前なんか付けていないのだが?」
響が口走った『烏間先生直伝』の言葉に対して、そして『廬〇昇龍覇』と云う銘について、真面目に考察する烏間。
「~直伝」云々については、事実、烏間の動きを視て体得した それであり、響が烏間を尊敬してる故の発言。
更に一応、技の名前の元ネタを説明するならば、とある御伽噺に登場する、【脱いだら強い露出狂】が得意とする技である。
≫≫≫
「くっ…ガキがぁ…」
烏間が本当に どーでも良い事を、真剣に考察している中、布テープでの簀巻き状態で身動きの取れない
そんな殺し屋に対し、アロハとTシャツの件で、未だ怒り収まらぬ響は
ニョキ…パサパサ…
「カルマぁ〜、さっきの わさび&からしって、まだ残ってる?」
「あるよ~♪」
(((((((あ、悪魔だ!コイツ等、本当に悪魔だ!!)))))))
ドン引くクラスメートの視線を余所に、無慈悲な粛清を執行するのだった。
≫≫≫
ホテル8Fは そのフロアが丸ごと、イベント用のコンサートホールになっていた。
9Fに続く階段を目指し、最短ルートとしてホールを中央突破しようとした時、
「…誰か、このホールに やって来ます!」
自分達が目指していたホール出口の方向から、何者かが近付いてくると言う殺せんせーの言葉に、烏間の指示によって、散り散りに座席の陰に隠れるE組の面々。
そして それから少し後、殺せんせーの言葉通り、ホールのステージ上に、1人の男が姿を現した。
「…全部で17人か。
呼吸も若い…殆どが10代半ば…」
「「「「「「…!!」」」」」」
髪の毛を まるで海胆か剣山かの様に逆立て、ブランド品であろうサマースーツをノーネクタイで着崩し着こなしている男。
そのステージ上に立つ男が、息を殺して客席に潜む心算のE組の面々の人数や特徴を言い当てた。
「はっはっは…!こりゃ驚いた!!
ウィルスに やられなかった、動けるヤツ全員で乗り込んで来たってか?」
ばぁん!!… ガシャン!
「「「「「「!?」」」」」」
そう言いながら男は、顔を…身体を前に向けた儘、自分の背後にあるスタンドライトの1つを、拳銃で撃ち抜く。
ホールに木霊する銃声。
殺せんせーや響達の弄りからの、半ギレ状態なイリーナによる、所謂ツッコミ的なソレなら今迄に数度、聞いた事はあった。
しかし、実質、初めて
「先、言っとくぞ~?
このホールは完全防音。…で、この銃はモノホンだ~。
お前等全員 撃ち殺す迄、誰も助けに来ねぇって事だ。」
クルクル…
「お前等、流石に人殺しの準備なんざ、出来てねーだろ?
素直に『参った』して、ボスにゴメンナサイしろや!」
ばん!!…ガシャーン!
「…!!?」
トリガーガードに指を入れて、クルクルと銃を回しながら降伏を薦める男の後ろ、先程、男が撃ち抜いたライトの隣に設置しているスタンド式のライトが、客席から放たれた銃弾によって、破壊された。
「………!」
「…外した!? 銃を狙ったのに…!」
殺せんせーから渡された本物の拳銃。
その銃を撃った速水凛香が、またしてものミスに、無念の表情を浮かべる。
その様を見た、もう1人の(本物の)拳銃を手に持っている千葉龍之介は、この場での追撃はベターとせず、様子見に徹する事となる。
「な? 実弾…だとぉ!??」
驚いたのはステージに立つ殺し屋である。
しかも今の発砲音…ボスの手下の拳銃を奪ったってか!
用意してた作戦とは思えんぞ!
俺との遭遇を察知し、急遽、奪った銃での迎撃態勢を整えてたのか!!?
……最初は超生物を殺る任務だった。
ロヴロの仲介で、政府からのオファーにOKする直前、同内容の仕事を政府以上の額での依頼が来たから、そっちに着いた。
…な筈だったのが、何時の間にか、ガキンチョ共の お守りと来たもんだ。
味の悪い仕事になってきたと思っていたが、暗殺の訓練を受けた中学生…ねぇ…
くっくっく…良ーじゃないか…
「意外と美味しい仕事じゃねぇかよ!!」
カチッ…
口を緩めた男がステージ上の全ての照明のスイッチを入れ、
カッ…
幾多の眩い照明が、ステージ上を照らす。
その光は生徒達が潜む客席側からすれば、逆光となりステージが見辛くなり、
「これじゃあ…」
「…きちんと狙えない!!」
座席の裏から銃を構え、機会を窺っていた千葉と速水が、静かに呟く。
ばぁんっ!
「え?!」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
直後、速水の頭の真横を、男が撃った弾丸が通り過ぎた。
「うっそ、ウソよっ!…嘘でしょ?」
ステージから、自分を狙い、20㌢にも満たない座席の隙間を正確に射ち抜いてきたプロの技量に、何時ものツンツンとした顔を引き攣らせ、驚きと戸惑いの色を隠せない速水。
「あ~、俺は、一度撃ってきた敵の位置は絶対に忘れねぇ。
お前さん…もう 其処から一歩も動けないぜ~?」
そんな速水に、客席に身を隠しているE組の面々に向け、殺し屋の男が話し出した。
「お前さん達が さっきまで会った奴等は
この程度の多対一の戦闘なんざ、何度も
その経験の中、敵の位置や大まかな情報を把握する術なんかは身に付けてんだよ!
…今時テメー等
「「「「「……………。」」」」」
威嚇染みた大声で話す殺し屋。
「…で・だ、お前さん達、当然、もう一丁の銃も奪ってるんだよなあ?」
2丁の銃を、1人の子供が持つとは思えない…
ならば もう1人の所持者を特定する為にもと、牽制の意味を込めて尚更、全員を足止めさせようとする殺し屋だが、
「速水さんは、その儘待機!」
「!」
「な?」
ホールに殺せんせーの声が響いた。
「今、君迄撃たなかったのは賢明です、千葉君!
君は まだ、敵に位置を知られていない!
先生が敵を見ながら指揮しますから…此処ぞと言う時まで待つんです!」
「おいおい…何処から喋って…………」
突然の殺せんせーの声に、キョロキョロと辺りを見渡し、声の出所を捜していた殺し屋だが、その所在を知った瞬間、固まってしまう。
ニヤニヤ…
「………………………。」
何しろ自分の真正面、客席最前列ど真ん中に、ニヤニヤとドヤ顔を浮かべる、緑と橙の縞模様の球体が、其処に在ったのだから。
「…な、何、かぶりつきで見てやがんだ、テメー!?」
ばんばんばんばん!…カィンカィンカィンカィン!
余りにも大胆不敵過ぎる殺せんせーに、怒りと驚きの顔で思わず手にしている拳銃の残りの弾丸を撃ち放つが、その全てをキィンと、金属がぶつかり合う様な甲高い音を立て弾かれてしまう。
「ヌルフフフ…無ぅ駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!!
これこそが、完全無敵形態の本領発揮と言うヤツです。
今の私は、ロンズデーライトよりも硬いですよぉ?」
したり顔の殺せんせー。
…その座席の裏には、この殺ボールを座席に置いた烏間が、凄く複雑な表情を浮かべていた。
「
「何だ、俺の事、知ってたのかよ?」
ガストロ…
自分の名前を呼ばれた殺し屋…ガストロが殺せんせーに問う。
「ロヴロさんから、連絡不通になった…本来なら この沖縄に同行していたかも知れない3人の殺し屋さんの名前は聴いていましたから。
既にグリップさんとスモッグさんが、敵として現れたのだから、最後の1人、ガストロさんも同様にして現れる…
貴方が その殺し屋と想定するのは、当然でしょう?」
「ふぅ…成る程ね。」
殺せんせーの解説に、思わず納得の顔なガストロ。
「私としては、さっきの
「あんな
どうやら先程、響が倒した
カチャ…
「…でだ、超生物。その
「ヌルフフフフフ…こんな風にですよ。…木村君、5列左へダッシュ!」
シュッ…
「!!?」
殺せんせーの指示に、木村が素早く動く。
「寺坂君は左、吉田君は右に、それぞれ3列!」
ババッ
続いて寺坂と吉田が動く。
「なっ…?」
まさかの揺さぶりに、戸惑いの顔を見せるガストロ。
殺せんせーの指示は、尚も続く。
「死角が出来た!
この隙に茅野さんは2列前進!!」
「カルマ君と不破さん、同時に右8!」
「磯貝君、左に5!」
ダッ… ヒュッ… バッ… シュッ…
その指示に沿って移動を繰り返すE組の面々。
「シャッフルだとぉ!? 小賢しい真似しやがって!」
生徒達の動きに合わせて、首を左右に振るガストロ。
その顔は、明らかに揺さぶりを嫌がっている。
…だが、分かってないな。
指示すればする毎に、ガキ共の名前と位置を、この俺に知らせる事に なるんだぜ、超生物?
たった10数人程度、あっと言う間に覚えちまうぜ!
しかしながら、幾多の修羅場を体験したプロの殺し屋は、直ぐに冷静さを取り戻す。
事実、既に動く様に指揮を出した生徒の名前と位置は、完全に頭にインプットされていた。
しかし、
「出席番号14番! 右に1つ動いて準備しつつ、その場で待機!」
「へ?」
「4番と23番はイスの間から、
律さんを通し、ステージの様子を千葉君と速水さんに伝達!」
殺せんせーが名前以外の本人…或いはE組の生徒でしか、事前に調べてない限りは分からない呼び方で、指示を飛ばす方向にシフトチェンジ。
これに、完全に面食らってしまうガストロ。
「ポニーテールは左前列へ前進!」
「バイク屋さん、左前に2列前進!」
「学級委員の2人、各自1列前進の後、左に4列!」
「バンダナ少年、右斜め前に1列移動!」
「な…な…待てよ、おい…?!」
折角 生徒の名前と位置は覚えたと云うのに、それを活かせない殺せんせーの指示の前に、ガストロは再び冷静さを欠き、少しばかりテンパってしまう。
「期末試験ラストの日、竹林君イチオシのメイド喫茶に興味本位で同行してみたら想像以上に良くて、一緒に行ってた寺坂君共々、ちょっとハマりそうで怖かった人!
3歩進んで2歩下がる!」
「な、何で知ってんだテメー?!」
「このタコ! 然り気に俺まで一緒に曝露ってんじゃねー!?」
「てゆーか1列前進で良いだろ!!」
顔を真っ赤にした2人の怒声が響くが、これは序章に過ぎなかった。
「本校舎2年の女生徒にラブレターを貰って、真剣に困った顔をしてた女子!
1列前列の後、右に2列!!」
「なっ…!?」
「近所のオバチャンに何時も小動物扱いされている人!2列前進!!」
「ぅう…」
あの恥ずかしい動画の異種返しの心算か次々と、何故か知ってる生徒達のプライベートの曝露を、指示に盛り込みだしたのだった。
「某県の彼女さんと毎晩、歯の浮くような甘いトークを展開している人、2列前進の後に右に4列!」
「放っとけ!」
「倉橋さんと猫カフェに行って、子猫に頬ずり、思いっきり顔がデレてた普段はツンデレな人!…は、その場で待機!」
「…待機なら、わざわざ言わなくても良いじゃないの?!」
「街中で小学生と間違えられて、補導されそうになった人!
2列前進の後、左に5列!」
「うがーっ!!」
「期末テスト、自信満々だったけど結果は散々、涙目で凹んでいた人は3列前進!」
「ちょ…それ、今 言うの? 殺すよ?」
「終業式の日、駅前のマ〇ドで、巨乳なアルバイト店員さんに鼻の下を伸ばしていた3人!
攪乱の為に大きな音を立てて!」
「「や、止めろーっ!!!」」
「…後で、殺す!」
ガンガンガンガン…
多少の…生徒達からすれば とんでもない、おふざけを混ぜながらも、適確な指示を出す殺せんせー。
…尚、響と寺坂に対しての弄りが他の生徒に比べて、比較的多かったのは偶然である?
「う…うぉお…??」
その指示の前、殺せんせーの思惑通り、ガストロは既に、誰が何処に移動しているのか、何処に誰が居るのか、全く分からなくなってきていた。
しかも…死角を縫われて、確実にガキ共には距離を詰められている!
この人数相手に、神風特攻隊宜しくな接近戦にでもなった日にゃ、流石に どうなるか、判ったもんじゃないぞ?
早く、早く千葉って奴を特定しねーと!!
緊張からか、じわりと多量の汗が滲み出るガストロの手の中、拳銃が力強く握り締められた。
「…さて、いよいよ狙撃です、千葉君。」
「…!!」
「次の先生の指示の後、君のタイミングで撃ちなさい。」
そして遂に最後の指揮が、殺せんせーの口から発せられた。
「速水さんは状況に合わせ、千葉君の後をフォロー!
敵の行動を封じるのが目標です。」
「…!!」
ドッドッドッドッ…
2人の心臓が、揃って大型重機のエンジンの如く、高鳴り唸りを揚げる。
未だに、殺せんせー暗殺のミスを引き摺っている2人のプレッシャーは、既に天元突破していた。
「…と、その前に、表情を表に出さない仕事人な2人に、アドバイスを。」
「「…?」」
そんな2人の心境を当然な如く察してか、殺せんせーは話し始める。
「君達2人は今、此の上無く緊張していますね?
先生への狙撃を外した事で、自分達の腕を疑問視している。」
「「……。」」
「…普段から弱音や言い訳を口にしない君達は、『アイツなら大丈夫』『アイツなら何とかしてくれる』と、勝手な信用信頼を押し付けられる事も有ったでしょう。」
「「…………。」」
「…思えば今回の先生暗殺計画の要役。
そして今の先生の指示による、トドメ役の抜擢も、そうなのでしょうね。」
「「「「「「…!!」」」」」」
この時、この殺せんせーの言葉が、他の生徒達の心にも重く のし掛かる。
確かに、クラスのNo.1、2の銃の使い手だと云う事で、無意識の内、2人に過剰な期待を込めていた感は否めない。
「…大丈夫ですよ、君達2人が全てを背負い込む必要は、全く無い。」
殺せんせーが2人に、そして他の生徒達に話し続ける。
「仮に君達2人が外した時は、今度は人も銃もシャッフルして、クラス全員、誰が撃つかも分からない戦術にチェンジします。
…此は、此処に居る皆が、同じ訓練と失敗を経験してるからこそ出来る戦術です。
君達の横には、同じ経験を持った仲間が居ます!
だから…安心して、その引き金を引きなさい。」
「「………!!」」
千葉と速水の脳裏に微笑みながら、または照れ隠す様な顰めっ面でエールを送る…或いは悪びれ背を向けながらも、サムズアップするクラスメートの姿が浮かび上がる。
「「……………。」」
緊張感の中にも迷いが消え、覚悟を決めた顔になる2人。
「ハッ! 御高説御苦労ってか!!」
しかし、殺せんせーが千葉と速水の緊張を溶き解してた時間、それは皮肉にも、ガストロにも冷静さを取り戻させる事となっていた。
あの席…出席番号14番だったか…
アイツだけ、準備待機とやらから1人だけ全然動いてねぇ…
そのクセ、呼吸は…何を企んでやがる?
やたら荒いぜ?
…当然、他の場所も警戒はするが、あの近辺だっきゃ、出た瞬間に仕留められる様、狙いを付けておく!
そう考え、ガストロは狙撃手・千葉と思われる人物が潜んでいる席に、特にマークを強める。
「では、行きますよ!」
「千葉さん、分析の結果、狙うのは
「OK、律!」
モバイル律の指示に、千葉の前髪に隠れた目が鋭く光った時、
「出席番号14番! 立って狙撃!!」
殺せんせーの号令の下、客席から1つの銃をステージに向けて構えた人影が現れた。
「ビンゴぉ!」
ばん!
その瞬間、コンサートホール鳴り響いた銃声。
予感的中!…と笑みを浮かべたガストロが放った弾丸が、寸分の狂いも無く、事前にマークしていた席から現れた人影の頭部、眉間の部分を撃ち抜いた。
…が、
「に、人形ぅ!?」
ガストロが『千葉』と思っていた其れは、7Fで倒した見張りの男の服やカーテン、対せんせーエアガン等で作られた人形だった。
「ふぅ~、音立てずに作るのって、大変だったぜ!」
人形の影で、『出席番号14番』菅谷創介が小さく呟く。
BANG!
「な…?!」
直後、菅谷とは左右逆サイドに忍んでいた千葉が、座席を盾に見立て、ステージに向けて発砲。
完全に虚を突かれ、一瞬、動揺の顔を見せるガストロだったが、
「ひゃは……当たってねーし…」
自分の身が無事なのを認識して、
「残念だったな! これで2人目も居場所が…」
ガッゴォンッ!!
「うげぇっ!??」
千葉に銃口を向けたと同時に、ステージ天井に吊られていた照明のフレームが、勢い良く降りてきて、ガストロの背中を打ち付ける。
「…照明の吊り金具を狙った…だと?」
ガストロが目にしたのは、千葉が狙ったと思われる、ステージの天井…照明を吊すワイヤーを抑える金具が撃ち抜かれ、破壊された痕。
2本のワイヤーによって天井下、ステージ上空で支えられていた照明は、その内1本の抑えが失う事により宙ぶらりん。
その自重に耐えきれず、振り子の様に勢い良くステージに降下、その軌道上に居たガストロに直撃したのだった。
それは、その結果を導いた律の計算、そして確実に指示されたポイントを狙い通りに
「が…キぃ…」
推定200㌔オーバーの照明の直撃を、背中から後頭部に受け、意識が飛びそうなガストロ。
それでも最後の抵抗とばかりに、銃口を千葉に向ける。
BANG!
「??!!!」
しかし、その銃は、また別方向から跳んで来た、銃弾によって弾かれた。
「ふぅ~っ…やっと、当たったぁ…」
そう言っているのは、硝煙が上る銃を構え、安堵の溜め息を零す速水。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??!」
バタ…
この後、撃つ手を失い、目を虚ろにしたガストロが床に崩れ落ちるのに、時間は掛からなかった。
ダダッ…
「よっしゃ!」
「ソッコー簀巻きだぜ!!」
直後、業務用布テープを手にした寺坂達がステージに駆け上り、ガストロを拘束。
「千葉、ナイス!」
「あぁ…サンキュ!」
磯貝が千葉を労えば、
「凛香ぁ~っ! 凛香凛香凛香ぁ~!!!!」
「ちょ…不破っ!?」
速水は大泣きの不破に、思いっきり抱きつかれる。
「全く…肝を冷やしたぞ…。
よくも まあ、こんな危険な戦いをやらせたもんだな?」
1つの戦いが終わった後の、安心の笑顔を見せる生徒達を見て、烏間が殺せんせーに話し掛ける。
「ヌルフフフフフ…烏間先生、どんな人間にも、殻を破り、大きく成長する機会が何度かあります。」
「………………………。」
殺せんせーは言う。
しかし、1人だけでは決して、そのチャンスを活かし切れない。
集中力を引き出す強敵、経験を分かつ事の出来る仲間に恵まれなければ…と。
「だからこそ私は…それを用意出来る教師でありたい。
生徒の成長の瞬間を見逃さず、高い壁を、良い仲間を…その時に直ぐ、揃えてあげたいのです。」
「はぁ…何て教育だ…。」
呆れながらも、生徒達の顔を見て納得してしまう烏間。
特に…互いの勝利を呼んだ健闘を讃え合うかの様に、本物の銃を手にした儘、曲げた腕をガシッと重ねる千葉龍之介と速水凛香の顔を見て。
「やったな!」
「…うん!」
命懸けの撃ち合いをしたばかりにも関わらず、2人の はにかみながらの笑顔は、戦う前よりも寧ろ中学生だった。