「……話は分かりました」
イリナが共同戦線を承知した後、俺はケータイで祐斗に連絡を入れた。流石にオカマバーに来いと言うのは気が引けたので、場所を変えようと噴水公園に来るよう指示した。因みにオカマバーから出れる事をイッセーと匙は地獄から脱出したような安堵の顔をしていた。
俺からの指示に祐斗は文句も言わずに俺が指定した場所へ顔を出すも、不満そうに俺をジッと睨んでくる。
「そんな怖い顔をするなって、祐斗。理由はさっき言ったろ?」
「そうですね。昨夜は僕に何も言わず、以前エリーと言う女性と会ったみたいですし」
「だから悪かったって」
祐斗がこうも不満気に睨んでくるのは、俺とイッセーが昨夜に行動開始してたからだ。目だけで『どうして僕を呼ばなかったんですか?』と充分に伝わってくる。
既に完全回復してるが、昨日の祐斗は俺が体内に送り込んだ光の所為でまともに戦う事が出来ない状態だったから敢えて呼ばなかった。一応それもサラリと言ったんだが、それでも未だに不満たらたらだった。
後で祐斗の機嫌を直さないとなと内心思いながら、とにかく納得させようとする。
「言っておくが祐斗、エクスカリバーの破壊に関しては今まで通りだ。だから勝手な行動はしないでくれよ」
「分かっています。破壊出来るなら問題ありません。ですが正直言って、エクスカリバー使いと共同戦線を張るのは遺憾ですね。何もその二人と協力しなくても、破壊するだけなら僕たちだけで充分だと思いますが?」
「ずいぶんな物言いだな。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で斬り捨てているところだ」
睨みあう祐斗とゼノヴィア。全く。これから共同作戦をするってのに、喧嘩は止めろっての。
「確かキミは『聖剣計画』の生き残りだったな。聖剣や教会を恨む気持ちは理解出来るつもりだ。何しろあの事件は、私たちの間でも最大級に嫌悪されていたものだ。だから計画の責任者は異端の烙印を押され、追放された。そしていまは堕天使側の住人だ」
被験者を実験動物のように殺しておいて追放処分だけで済ませるとは、教会も随分と手緩い事をする。追放された後に再び何処かで聖剣計画を再開すると考えなかったんだろうか。
「堕天使側に? ………リューセー先輩、責任者の名は?」
興味を惹かれた祐斗が突然俺に訊いてくる。
「何故そこで俺に振るんだ?」
「部長から先輩が聖剣計画の事を知っていると聞いたので、もしかしたら責任者の名も知っているかと」
リアスの奴、余計な事を祐斗に喋りやがって。まぁ口外するなと言ってなかったから仕方ないか。
「……バルパー・ガリレイ。確か『皆殺しの大司教』と呼ばれてたそうだよ」
「「っ!」」
俺が『聖剣計画』責任者の名を告げた途端、ゼノヴィアとイリナは驚愕する。
「何故貴様がその者の名を知っている?」
「リューセーくん、教会上層部しか知られてないトップシークレットをどうして知ってるの?」
「ノーコメント」
と言って回答拒否する俺に二人は食い下がろうとするも――
「これ以上追求すると、聖剣使いの君達が俺と戦ってボロ負けした事を教会にバラすぞ」
「「………………」」
昨日の戦いについて触れた途端、明後日の方向を見ながら黙ってしまった。
流石に聖剣使っても無様に負けてしまいましたなんて教会に知られたら大目玉を食らう事になるからな。益してや異端者の俺に負かされた事で尚更不味い。
「……とにかく、堕天使を追えば、その者に辿り着くと思えば良いんですね?」
「かもしれないな」
祐斗は何も聞かなかった事にするよう確認の問いをしたので、俺はそう答える。
「でしたら僕も先輩に情報を提供したほうがよさそうですね。本当でしたら今夜言うつもりだったんですが、先日、エクスカリバーを持った者に襲撃されました。その際、神父を一人殺害していましたよ。やられていたのは教会側の者でしょうね」
「ほう」
『!』
祐斗からの情報に俺が目を細めながら聞いてると、イッセーを含めた全員が驚いていた。
「相手は先輩もよく知っているフリード・セルゼンです」
(おい兄貴、確かソイツって昨日エリーが――)
(今は黙ってろ)
昨日エリーが少年神父と一緒に神父狩りをしてるって言ってたが……既に知ってたなんて言えないから黙っておくとしよう。
そういえばこの前イッセーや小猫から聞いた話だと、奴は以前組んでたアーシアを陵辱しようとしてたみたいだな。
前までの俺はアーシアを保護する少女としか見てなかったが、今思うと殺意が湧くよ。可愛い妹分のアーシアを犯そうとする奴は
祐斗の言葉にゼノヴィアとイリナが同時に目を細める。
「なるほど、奴か」
「君達が知ってるって事は、あの少年神父は教会じゃ有名なのかい?」
俺の問いに二人は頷き、イリナが先に答えようとする。
「ええ。リューセーくんの言うとおり、フリード・セルゼンは元ヴァチカン法王庁直属のエクソシストよ。若干十三歳でエクソシストとなった天才。悪魔や魔獣を次々と滅していく功績は大きかったわ」
「だが奴は周囲から異常と言われるにやりすぎた。同胞すらも手にかけていたからな。フリードに信仰心など最初から無かった。あったのはバケモノへの敵対意識と殺意。更には異常なまでの戦闘執着。異端として追放されるのは時間の問題だった」
だろうな。俺も初めて少年神父と話した時はキチガイだと思ったよ。当時の教会は、少年神父にさぞかし手を焼いていたんだろうな。
「あのクソ神父、性根から腐ってやがったのか……!」
聞いていたイッセーも不快そうに呟く。コイツもコイツで少年神父の事が嫌いだからな。尤も、アイツを好む奴はいないと思うが。
「まさかフリードが奪った聖剣を使って私たちの同胞に手を掛けていたとはな。あのとき、処理班が始末できなかった付けを私たちが払う事になろうとは」
忌々しそうに言うゼノヴィア。
「取り敢えず話はここまでにしよう。祐斗も承諾した事で、エクスカリバー破壊の共同戦線といこうじゃないか。それじゃあ今夜八時、教会に集合だ。君達もそれで良いだろう?」
「ああ、別に構わん。食事の礼、いつかするぞ。兵藤隆誠」
「食事ありがとうね、リューセーくん。それじゃ後でね!」
二人は俺に礼を言うと、噴水公園から立ち去った。
「何か言いたげだな、祐斗」
「……何故、彼女たちと共同戦線を張るんですか? さっき言ったように、僕たちだけで破壊しても問題無い筈なのに」
確かに悪魔の祐斗からすれば、俺が幼馴染のイリナを死なせたく無いから共同戦線を張ると言っても関係無い事だ。エクスカリバーを破壊しようとする祐斗にとって、俺達の事情なんか知った事じゃない。
「あの二人の実力じゃ任務は確実に失敗して死ぬどころか、持ってるエクスカリバーをコカビエルに奪われるのがオチだ。そうならないようゼノヴィアとイリナをコチラ側に引き入れて、コカビエル達と戦った方がまだ良い」
「ちょ、ちょっと待って下さい、兵藤先輩。どうして俺たちがコカビエルと戦う事になるんすか?」
俺が説明してると、聞いていた匙が突然質問してくる。
「あのコカビエルが
「考えすぎじゃないっすか? 逃走先が偶々この町になっただけだと思うっすよ。それに今の三大勢力は三竦み状態だから、下手に戦争なんて起こしたら大問題ですよ。コカビエルは堕天使の幹部なんですから、そこまでバカじゃないでしょう」
あの戦争狂のバカ息子にそこまでの分別があればの話だけどな。
「だとしても、コカビエルが悪魔側と戦わないって言う保証は無いからな。まぁ他にも――」
そう言いながら俺は祐斗の方へと視線を向ける。
「祐斗がドサクサに紛れて、ゼノヴィアとイリナが持ってる聖剣を破壊しようと独断行動なんてされても困るし」
「………………」
祐斗が何も言い返さないって事は、やはり二人が持つ聖剣を破壊しようと思っていたようだな。念の為の楔をもう一本打ち込んでおいて正解だったな。
「あのなぁ、祐斗。独断行動をするにしても、何でもかんでも一人で背負い込もうとするな。少しは眷族や仲間の俺達を頼れ」
「僕一人の行動で部長に迷惑がかかるから……ですか?」
「そうだ。だがそれ以上にリアスが悲しむ事になる。此処にいる小猫も――」
「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは……寂しいです」
俺がチラリと小猫へ視線を向けると、彼女は少し寂しげな表情をしながら祐斗に向かって言う。普段無表情で小猫の変化に、俺を除く男子全員が衝撃を受けていた。
「……私もお手伝いします。……だから、いなくならないで」
(あ、兄貴。俺、小猫ちゃんの訴えにきゅんときちゃったよ……)
取り敢えずイッセーの戯言は無視させてもらう。
そして小猫の訴えに祐斗は困惑しながらも苦笑いする。
「ははは。まいったね。小猫ちゃんにそんなことを言われたら、無茶はできないね」
どうやら祐斗はやる気になってくれたようだ。今回は小猫のファインプレーに感謝しないと。
「……あの、兵藤先輩。さっきから気になってんすけど、木場とエクスカリバーに何の因縁があるんすか?」
そう言えば匙は祐斗とエクスカリバーの関係を知らなかったな。コイツは今回事情も知らないまま俺が強制的に同行させただけにすぎないから。
「あ~、それなんだが……」
「リューセー先輩、それは僕から話します」
言い淀んでいる俺に祐斗は自分から己の過去を語ろうとする。
祐斗が語る内容は俺が以前調べた内容と殆ど一緒だった。だが本人から聞くと、全く別の話のように感じると同時に憤りを覚える。教会側がやってきた行いに。
当然俺だけじゃなくイッセーも同様の反応だ。無言で聞きながらも静かな怒りを感じる。
以降は俺の知らない内容で、祐斗が研究施設からなんとか逃げ出した後、死ぬ寸前でイタリア視察に来ていたリアスと出会い、そして今に至る。
「僕は彼らの分も生きて、エクスカリバーより強いと証明しなくてはいけないんだ。彼らの死を無駄にしない為に」
その為にエクスカリバーを破壊する考えに至ったと言う訳か。
復讐なんて無意味だから止めとけ、などと言う気はない。その台詞は奪われた者の憎しみや悲しみを否定する台詞だからな。
俺……じゃなくて、もし
「うぅぅぅ……」
そして祐斗が過去を語り終えると、ずっと聞いていた匙が突然すすり泣くを出す。ボロボロ涙を流して、鼻水までも垂れ流しながら号泣している。
「うぉぉぉおおお!! 木場! お前にそんな辛い過去があったなんて! こうなったら会長のお仕置きがなんだ! 俺も協力するぜ!」
う~ん、どうやら匙もイッセーと同様に熱血漢のようだ。
祐斗の過去に相当心を打たれたのか、匙は自分の目標を語りだそうとする。
その目標はとやらは――ソーナとデキ婚する事のようだ。それを聞いたイッセーが感動したのか、突然大量の涙を流した。
「匙! この際だから俺のも聞け! 俺の目標は部長の乳を揉み――そして吸うことだ!」
「なっ!」
アホな事を言うイッセーに匙は再び両目から大量の涙を流しだす。
「すまなかった兵藤ッッ! 俺は誤解してた! お前って奴は人間なのに……とんでもない目標を立ててるんだな!」
「匙、俺も誤解しててすまなかった! お前って奴は、俺以上に高い目標を立てていたなんて知らなかった! 感動した!!」
「同士よ!」
「戦友よ!」
ガシッと手を組んで意気投合する匙とイッセー。
「何やってんだか……」
「……あはは」
「……やっぱり最低です」
この光景に俺だけじゃなく祐斗や小猫も嘆息していた。
「因みにリューセー先輩の目標はなんですか?」
「おいおい祐斗。ここで俺に振るのか?」
「二人がああなっちゃってますから、一応先輩も訊いたほうがいいかなぁと……」
「…………俺の目標は」
イッセーを匙を無視し、取り敢えず祐斗と小猫に目標を言う事にした。
「人並みの人生を送ること、だな」
嘗ての