「で? 君は結局コチラ側に来たって訳か」
「ああ。けれど今でも、この道を選んで良かったのかと悩んでいるがな」
「まだ悩んでるのかよ……」
コカビエル襲撃から数日後。
俺達は何事も無かったかのように、いつも通りの平穏な時間を過ごしていた。
放課後の部室に来た俺は、緑のメッシュを入れた女子――ゼノヴィアと話している。駒王学園の制服を身に纏っている彼女の話を聞いて俺は少し呆れていたが。
すると、部室の扉が開いてイッセーとアーシアが入ってくる。それを見たゼノヴィアはすぐにイッセーに話しかけようとする。
「やあ、赤龍帝」
「……どこかで感じたオーラかと思ったらやっぱりお前だったか、ゼノヴィア」
ゼノヴィアからの挨拶にイッセーとアーシアが驚いていた。イッセーはゼノヴィアが部室にいたのをオーラで感じていたのか、アーシアほど驚いてはいないが。
「ってか、何でおまえがここにいるんだ? それにお前のオーラが悪魔みたいな……」
「みたいではなく、本当の悪魔に転生したんだ」
「………は?」
背中から悪魔の翼を出すゼノヴィアにイッセーは言葉を失う。
そりゃそうだ。教会出身のゼノヴィアが悪魔になったなんて誰も思わないだろう。
イッセーの反応にゼノヴィアはふんと鼻息をつきながら理由を言う。
「さっきまで兵藤隆誠と話していたんだが、神がいないと知って、破れかぶれで悪魔に転生したんだ。リアス・グレモリーから『
もし此処で『実は俺は人間に転生した聖書の神でした』、なんて言ったらゼノヴィアはどんな反応するかな? 言うつもりは無いけど。
「因みにデュランダルが凄いだけでゼノヴィア自身は大したこと無かったから、駒一つの消費で済んだようだぞ。ま、デュランダルを使いこなせてないから当然と言えば当然だけど」
「……兵藤隆誠、それは私に対する嫌味か?」
「じゃあ否定出来るのかな?」
「……………と言うわけで、この学園にも編入させてもらった」
おい、否定出来ないからって俺の問いを聞かなかったように話を戻すなよ。まぁ別にいいけどさ。
「今日から高校二年の同級生でオカルト研究部所属だそうだ。よろしくね、イッセーくん♪」
「……真顔で可愛い声を出すな」
「イリナの真似をしたのだが、中々うまくいかないものだな」
「……あれってイリナの真似なのか?」
ゼノヴィアの言動に若干困惑しているイッセー。
何かゼノヴィアって日常生活だと非常識な振舞いをしてるんじゃないかと思う。教会はこの子にどんな教育をさせたんだろうか。
「リアス、今更だがこの子を眷族にして良いのか?」
「デュランダル使いが眷族にいるのは頼もしいわ。これで祐斗とともに剣士の二翼が誕生したわ」
どうやらリアスはゼノヴィアを眷族にする事に大して気にしてないようだ。細かい事にこだわらないのがリアスらしい。
俺としてはゼノヴィアを眷族にしたら教会側が黙ってないと思うんだが。未熟とは言え、デュランダル使いであるゼノヴィアは教会からしたら貴重な戦力だ。
ゼノヴィアを悪魔に転生させたのを口実に、何かしてこなければいいんだが。
尤も、下らない事を仕出かすなら、
「にしてもゼノヴィア、本当に悪魔になってよかったのか?」
「神がいない以上、もはや私の人生は破綻したに等しいからな。だが、敵だった悪魔に下るというのはどうなんだろうか……。いくら魔王の妹とはいえ……私の判断に間違いはなかったんだろうか……。お教え下さい、主よ! あうっ!」
イッセーの質問に答えた後、急にぶつぶつと呟き始めたかと思いきや、今度は祈ってダメージを受けてる。
悪魔になったんだから祈っちゃダメだろうが。世話の掛かりそうな子だな。イッセーも俺と同じく完全に呆れ顔になってるし。
ま、
「そういやイリナは?」
再度質問するイッセーに痛がっていたゼノヴィアが急に真面目な顔になった。
「………エクスカリバーを合わせた五本を持って本部に帰ったよ」
するとゼノヴィアは彼女と空港で別れた経緯を話し出す。それを聞いた俺達は何とも言えなく複雑な気分だった。
フリードとの戦いで統合したエクスカリバーは祐斗とゼノヴィアによって破壊されたが、アレは芯があれば錬金術で再び聖剣に出来る。だから破壊されても然程問題はないから、聖剣奪還の任務は成功だ。悪魔に転生したゼノヴィアを除いて。
「イリナは私より信仰が深い。神の不在を伝えたら、心の均衡はどうなるか……。要するに私は、最も知ってはいけない真実を知ってしまった厄介者――異端の徒になってしまったのさ」
「……成程な。それで悪魔に転生したと言う訳か」
ったく。真実を隠したいとは言え、都合の悪い事を知った信徒は異端として排除かよ。
不謹慎だが、彼女がコッチに来て正解だったかもしれない。
俺がそう決意してると、ゼノヴィアは途端にアーシアへ視線を移す。
「君に謝らないといけないな、アーシア・アルジェント」
「え?」
「主がいないのならば、救いも愛もなかったわけだからな。すまなかった、キミの気が済むのなら、私を殴ってくれて構わない」
「そ、そんな!」
頭を下げるゼノヴィアに戸惑うアーシア。
アーシアもアーシアで、
「尊敬されるべき聖剣使いから、禁忌を犯した異端の徒。私を見る目を豹変した彼等の態度を忘れられないよ。きっとキミも同じ思いを……」
………これはちょっとばかり
俺が内心顰めてると、アーシアは優しそうな顔でゼノヴィアに話しかけようとする。
「ゼノヴィアさん、私はこの生活に満足しています。大切な人に――大切な方々に出会えたのですから。本当に幸せなんです」
聖母のような微笑でアーシアはゼノヴィアを許した。
やれやれ、アーシアには敵わないな。…………流石は俺の妹分だ。
「そうか。……それと、キミに頼みがあるんだが」
「私に?」
「ああ。今度、私に学園を案内してくれるかい?」
「はい!」
笑顔で問うゼノヴィアに笑顔で答えるアーシア。和解して仲良くなるのは凄く良いことだ。
「我が聖剣デュランダルにかけて――。そちらの聖魔剣使いとも手合わせ願いたいものだね」
「望むところだよ」
祐斗も笑顔で返すと、ゼノヴィアは次に俺を見る。
「兵藤隆誠――ああ、すまない。この学園に入学した以上、先輩と呼ぶべきだな」
「好きに呼んでくれ。兵藤でも隆誠でも、君に合った呼び方で構わん」
「では隆誠先輩と呼ばせてもらう。早速頼みがあるんだが……私を先輩の弟子にしてほしい」
「…………はい?」
突然の発言に俺だけじゃなく、イッセー達も唖然とする。
弟子にして欲しいって……何言ってんの、この子は?
「えっと……弟子になろうとする理由を言ってくれるかな?」
「簡単なことだ。以前に隆誠先輩との戦いで負けて、力の差を思い知らされたと痛感してね。それに私やイリナが勝てなかったエリガン・アルスランドやコカビエルと戦えるあなたの実力を見て、私が弟子になれば強くなれると思ったんだ。聞いた話だと、あなたは兵藤一誠を鍛えてるらしいな。だから私も兵藤一誠と同じ修行をさせてほしい」
…………う~ん。この子を守るとは決めたけど、弟子にする気は無いんだよなぁ。ってか、今の俺はイッセーを鍛えるだけで手一杯だし。ついでに今のゼノヴィアにはイッセーの修行についていけないと思う。
「おいゼノヴィア、悪い事は言わない。兄貴の弟子になるのは止めとけ」
「そうだよ、ゼノヴィア。僕だってリューセー先輩の弟子になりたいのを我慢してるんだから」
……祐斗も祐斗でまだ俺の弟子になりたがってるのか。勘弁してくれよ。
ゼノヴィアがイッセーと祐斗の発言に顔を顰めると、リアスがポンッと手を鳴らす。
「その話は一先ず置いておきなさい。さ、新入部員も入ったことだし、オカルト研究部も活動再開よ!」
『はい!』
全員が元気よく返事をする。その直後、ゼノヴィアが再び俺に弟子入りをしてきて断るのが少し大変だった。
☆
「……一人で過ごすのは久しぶりだな」
休日。俺は自分の部屋でまったりと過ごしていた。
いつもだったらイッセーの修行相手をしているが、当の本人は本日約束がある為に出掛けている。
その約束は前々から計画していたもので、半日遊び倒すプランらしい。イッセーの他にアーシア、祐斗、松田、元浜も参加している。他にもアーシアに余計な事を教えている桐生と言う女子もいるみたいだが。
イッセーが出掛ける前に『兄貴も参加しないか?』と声をかけていたが、俺は『今日は久しぶりに家でゆっくりしたい』と言って断った。アーシアは俺が参加しない事に残念そうな顔をしていたが。
因みにリアスはイッセーと同じく出かけてて、朱乃と一緒にショッピングを楽しんでいるらしい。何を買いにいってるかは知らないが、恐らくイッセーが喜びそうなもの――水着を買いに行ってるんじゃないかと思う。この前にリアスの話で、休日を利用してプールを好き放題に使えるとか言ってたし。
すると、俺の腹から虫が鳴り響く音が聞こえる。要するに腹が減った。その直後に時計を見ると時間は十二時前。昼食を食べるに丁度良い時間だ。
今日はイッセー達だけでなく、父さんや母さんも出かけているから家には俺一人だけ。だから昼食は自分で用意しないといけない。
「……何か適当に作るか」
そう思った俺は一階にある台所へ行こうと部屋から出ようとする。
今まで誰かに料理を披露していたが、いざ自分だけが食べる料理となると、簡単なもので済ませてしまおうという安易な考えになってしまう。
「今日の昼飯はチャーハンでも……っ!」
部屋のドアに手を掛けようとすると、突然背後から妙な気配がした。
存在感が薄くても強い力を持った独特な気配、この気配に俺は覚えがある。
こんな気配を持っているのは――
「聖書の神、また来た」
――やっぱりアイツしかいないよなぁ。
俺がそう思いながら振り向くと、ベッドの上にチョコンと座っている長い黒髪の小柄な少女――オーフィスがいた。その正体は最強と謳われる存在である『
「今日は何の用だ、オーフィス?」
安らかな休日から物騒な休日にならなければ良いなと思いながら、俺は彼女が来た理由を尋ねようとした。
次回からは四巻の話となります。