「ではお答えします。こちらの返答は………どこの勢力にも属しません。謂わば中立と言ったところでしょうか」
俺の返答を聞いたアザゼルは顔を顰め、ミカエルは悲しそうな顔をしている。協力関係である悪魔側のサーゼクスとセラフォルーも残念そうに嘆息し、二人の背後に控えてるリアスが凄く哀しそうな表情をしていた。
「おいおい、中立なんて一体どういうつもりだ? 俺らが提示した待遇に何か不満でもあったか?」
「待遇に関して一切不満はありませんよ、アザゼル様。ただ単に、どの勢力にも属さない理由がいくつかありましてね」
「その理由とは?」
俺の発言を聞いたミカエルがすぐに尋ねる。
「先ず天使側ですが、嘗て聖女と呼ばれたアーシア・アルジェントを、魔女と異端認定させた挙句に追放した前歴があります。そちらに色々な事情があったとは言え、我々を引き入れる為にそれを無かった事にするなんて身勝手も甚だしいです。他にも『聖剣計画』の首謀者であるバルパー・ガリレイを罰しておきながらも、奴の研究を利用してたミカエル様たち天使にも若干不信感があります」
「それは……確かにあなたの仰るとおりですね」
過去に天使達がやってきた事を理由として言うと、流石のミカエルも言い返すことが出来ずに少々落ち込んでいる様子だ。
アーシアを追放した理由は大体分かる。
これでもし見苦しい言い訳なんぞしたら、
「次に堕天使側はハッキリ言ってあまり信用出来ません。コカビエルの件以外で、以前レイナーレと言う女堕天使が駒王町にやって来ては、こちらに迷惑を掛けられた経緯がありましてね。その女堕天使はあろうことか、俺たちの知り合いと言う理由で一般人を人質にしたんですよ。教会によって追放したアーシアの
「………はぁっ。部下の独断とは言え、否定できねぇな。まぁ確かに、おまえさんが
諦めざるを得ないと言うように嘆息するアザゼル。
因みにレイナーレは
あと理由は他にもある。アザゼルの背後に控えてる白龍皇のヴァーリだ。あの男はさっきからずっと俺を見ながら好戦的な笑みを浮かべている。状況次第ではすぐにでも俺と戦いそうな雰囲気だ。何のつもりでああなってるのかは知らんが。
「最後に悪魔側ですが、ただでさえ協力関係になって世話にもなってると言うのに、人間の俺達がこれ以上の厚待遇を受けると後々面倒な事になります。魔王様やリアス達のような友好的に人間と接する悪魔はまだ良いとしても、人間を下等な存在と見下してる貴族悪魔達から何言われるか分かったもんじゃありません。現に俺は貴族悪魔達を見て、全く信用出来ない連中であったと酷く痛感しましたから。もしコカビエルと戦う前にサーゼクス様の助力がなかったら、危うく面倒な事になりそうでしたし」
「……何とも耳が痛い理由だ。確かに隆誠くんの言うとおり、彼らの事を考えれば仕方ないな」
「残念だけど、諦めるしかないね」
悪魔側に所属出来ない理由が貴族悪魔である事に頭を悩ませるサーゼクスとセラフォルー。まさかここで、あの連中に足を引っ張られる事になるとは思いも寄らなかったんだろう。
三大勢力に所属しない理由は大体言ったが、ぶっちゃけ今の俺、もとい
天使側へ行ったら、ミカエル達が
堕天使側だったら、天使達が
最後に悪魔側となれば、殆どさっきと同じ理由で天使と悪魔の戦争になるのがオチだ。これもダメ。
以上の事から、
「どこにも所属しないってんなら、おまえさんはこの先一体どうするつもりだ? まさか人間を中心とした新たなる勢力でも作る気じゃねぇだろうな?」
「そんな気はありませんよ、アザゼル様。強いて言うなら………そうですね。こちらが提示する条件を皆様が守って頂けるなら、我々人間側は和平を結ぶ三大勢力の協力者になりましょう。謂わば助っ人と言うやつです」
「助っ人だぁ? 俺らからの勧誘を蹴っといて、条件を出すとは随分と大きく出るじゃねぇか」
厚かましいと思っているのか、アザゼルは顔を顰めながらそう言ってくる。
確かに三大勢力のトップが提示した厚待遇な条件を断っておいて、こちらから条件を出されるのは余り気分の良いものではないだろう。
「条件と言ってもそんな大したものじゃありませんよ。三大勢力は『俺の家族や関係者達、そして無関係な一般人達には一切手を出さない』、と言うのが条件です。それさえ守ってくれればいくらでも協力しますよ。まぁ、状況によっては協力に見合う報酬を要求するかもしれませんが」
「………おい、そんな条件だけで良いのかよ。おまえさん、人間にしては欲が無さすぎにも程があるぞ。いくら学生だからって、俺らが提示した地位や援助をアッサリと断るなんざ普通に考えてありえねぇだろ」
呆れるように言うアザゼルだけでなく、ミカエルやサーゼクス、そしてリアス達も唖然とした様子だった。ヴァーリは何を考えてるのかは分からないが、少し目を見開いていた。
「それはアザゼル様達にも言えることですよ。いくら勧誘の為とは言え、学生である俺達に対して余りにも破格な好条件を出してますし。『旨い事は二度考えよ』、という人間界の諺がありますからね」
俺達が力を持ってるとは言え、あそこまでの厚待遇な扱いをされたら必ず配下たちから妬まれたり、敵意を抱かれることになってしまう。俺はまだ大丈夫としても、イッセーやアーシアにはそんな目に遭って欲しくはない。
「……はぁっ、言われてみりゃ確かにそうだな。俺やミカエルに不信感を抱いてる今のおまえさんが、そう簡単に乗るわけねぇな。で、俺たちに対する不信感を解消する為には、おまえさんが言った条件を守ればいいって事か?」
「ええ、それを徹底して下されば何の文句はありません。好条件を出してくれた皆様には大変申し訳ありませんが、俺としては今のままで充分に満足していますので」
「だそうだ、ミカエルにサーゼクス。兵藤隆誠がこう言ってる以上、どうする? 先に言っておくが、俺はこいつの条件を守るぞ」
「勿論私もその条件を守らせていただきます。信用を得る為には行動で示さなければいけませんから」
「私もミカエル殿と同じだ、アザゼル」
三大勢力トップの決定により、俺たち人間側は中立的な立場となった。尤も、それはあくまで俺と(コチラ側の事情を知ってる)俺の関係者だけに過ぎないが。
「さて、そろそろ他の奴らにも訊こうか。三竦みの外側にいながら世界を動かす力を持っている二人――赤龍帝に白龍皇、お前らの意見も訊きたい」
けれどアザゼルはまだ話があるらしく、次にイッセーとヴァーリに問いかけようとする。
その問い掛けにヴァーリは笑みを浮かべながら、訊くまでもないと言うような感じで答えようとする。
「俺は強い奴と戦えればいいさ」
「ふっ。戦争しなくたって強い奴はごまんと居るさ」
「だろうな」
そう言ったヴァーリは再び俺に視線を向けてくる。
ヴァーリの奴、さっきから俺ばっかり見ているが一体どう言うつもりだ?
ああしてくるって事は、俺と戦いたいと言う意思表示か? だとしても俺にそんな気は無いんだが。
「じゃあ、赤龍帝、おまえはどうだ?」
突然呼ばれたことにイッセーは頬を掻きながら答えようとする。
「えっと……俺は別に世界をどうこうしようなんて気はないですし、兄貴と同じく今の生活を続けられるなら平和が一番かと……」
「そう言っておきながらも、また少し腕を上げたようだな。世界を動かすだけの力を秘めた者の一人であるおまえが言っても、とても説得力がないぞ」
「それは単に俺が兄貴に頼んで厳しい修行をしてもらってるからですよ。そこにいる白龍皇と戦えるように」
「ほう」
台詞に惹かれたのか、ヴァーリは笑みを浮かべたままイッセーに視線を向ける。
「お望みなら俺は今すぐにでも戦ってもいいぞ。どんな修行をしたのかは知らないが、学園で会った時よりまた一段と腕を上げたキミと戦うのも――」
「自重しろ、ヴァーリ。折角和平が成立したってのに、おまえの行動で無駄にさせるな」
ヴァーリが言ってる最中にアザゼルが少し声を低くして窘めようとする。
「向こうはいつでも俺と戦えるように修行しているんだ。別に構わないだろう?」
「止めてもらおうか、白龍皇。そうしたら君はイッセーだけじゃなく俺と戦うことになる。先に言っておくが、今の君では絶対に俺を倒すことは出来ない。俺は君を確実に倒せる対処法を持ってるからな」
「なに?」
対処法があると聞いたヴァーリが信じられないように俺を見てくる。サーゼクス達や背後に控えてるリアス達も同様に。
その対処法とはヴァーリが
「随分と大きく出たな。おまえさん、一体どんな対処法でヴァーリを倒すつもりだ?」
「それを易々と教えるほど、俺はそこまでお人好しではありませんので」
「何だよ。折角同盟を結んだんだから、ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃねぇか」
「いくら同盟関係だからって、そう簡単に手の内は晒せませんよ」
本当ならこの場で『
アザゼルはこれ以上俺に訊いても教えてくれないと判断したのか、すぐにまたイッセーに再度問おうとする。
「まあいい。赤龍帝、再度確認するが、おまえは今後世界をどうこうする気は無いんだな?」
「無いですよ。平和が一番です」
「平和じゃないとイッセー曰く、『大事な女』と一緒にいられないからな」
「そうそう……って何言わせるんだバカ兄貴!!」
俺が少し茶化すように言うと、イッセーが頷いてる途中で顔を赤らめながら怒鳴ってきた。それを聞いたリアスが顔を真っ赤に上気している。恐らく後ろにいるアーシアもリアスと同じく真っ赤だろう。
因みにサーゼクスは小さく笑っていた。将来の
「なるほど、そっちが目的だったか。確かに女と一緒にいたいよなぁ。いかに赤龍帝でもそっちの方が良いよなぁ。特に種の存続と繁栄の為の子作りとか、な」
「ほ、ほっとけ! アンタには関係ねぇだろうが!」
リアスとアーシアの反応を見たアザゼルがニヤニヤしながら意味深な台詞を言う。イッセーがアザゼルに口汚く言っても、当の本人は気を悪くしないどころか愉快そうな笑みをうかべていた。
「それでアザゼル様、
「まぁな。だがもう一つ確認しておきたいことがある」
まだあるのかよ。和平が決まったんならそろそろお開きにして欲しいんだが。
アザゼルが今度何を確認するのかと内心顰めていると――
「兵藤隆誠、おまえさんは一体何者なんだ?」
いきなり真剣な表情で俺を名指しして質問された。急に場の空気が変わった事に俺は少し面食らってしまう。
「………いきなりですね。何者と言われても俺はただの人間で――」
「そういう冗談は無しにしてくれ。ただの人間が
やはりアザゼルは初めから俺にかなり疑問を抱いていたようだ。俺が使う
「理解して使えるとは入っても、
「…………………」
黙って聞いてる俺に、アザゼルの推測を聞いた全員が様々な表情をしながら注視していた。背後にいるイッセーやアーシアからの視線も痛く感じる。
………間違いはあるが、我が息子ながら中々鋭い読みだ。中途半端とは言え、やはりイッセーにアザゼルの黒歴史の一部を言うんじゃなかったな。
恐らくアザゼルはそれが決定的な証拠となっているんだろう。アイツの言うとおり、アザゼルの黒歴史は人間が絶対に知りえないものだ。
全く。正体を知られたくないのに、バレてしまう要素をペラペラと喋ってしまう自分の迂闊さに腹が立つよ。
今のアザゼルに惚け続けて何とか凌ぐ、なんて事は出来ないだろう。もし凌いだとしても、アザゼルの事だから今後俺の事を徹底的に調べると思うし。
そう考えると、もう下手な嘘で誤魔化す事は出来ないな。こうなったら……。
「…………………」
「何だ? 黙り込んでるってことは、もしかして俺の推測は当たってたのか?」
「………アザゼル様。その推測を訂正するのでしたら、二点ほどあります」
「?」
ダンマリとなってた俺が言うと、アザゼルは訝るように目を細める。
「先ず一つ目。確かに俺は貴方様の仰るとおり普通の人間ではありませんが、憑依した天使でもなければ堕天使でもありません。ごく普通の一般家庭で生まれた人間です」
「ほう。じゃあ二つ目は?」
「
「あるお方だと?」
「ええ。皆様もよく知っているお方です。アザゼル様やミカエル様が特に馴染み深いお方から」
「そのお方とは、一体どなたの事を言ってるのですか?」
ずっと黙っていたミカエルも気になったのか、俺に早く答えて欲しい様子で答えを催促してくる。
そして――
「『聖書の神』です」
『なっ!?』
次の更新は別作品にしますので、こっちの更新はいつも以上に延びますので悪しからず。