ハイスクールD×D ~復活のG~   作:さすらいの旅人

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第五話

(やっぱり事が事だけにリアスに知らせるべきか……)

 

 電話でローズさんから重大な知らせを聞いた翌日。

 

 学校の昼休みで昼食を食べ終えた俺は今は誰もいない屋上にいて、リアスに教えるべきかどうか未だに悩んでいた。

 

 本当なら今朝に言うべきなのだが、今回はリアス達の手に負えない重大な案件だったから、すぐに教える事が出来なかった。聖剣使いはともかくとして、一番の問題は堕天使幹部のコカビエルだからな。

 

 コカビエルは堕天使の幹部であるだけじゃなく、嘗ての大戦で生き残った猛者(もさ)の一人でもある。超が付くほど実戦経験豊富なコカビエルに、未熟な上級悪魔のリアスと眷族達では天と地ほどの差があり過ぎて相手にならない。

 

 だったらここは俺が本気を出して、イッセーと一緒にコカビエルを倒そうって算段も考えた。が、それは最終手段にせざるを得なかったので今は諦める事にした。

 

 何しろ俺はリアスと協力関係にあるから、リアスに内緒で処理したら後々面倒な事になる。リアス個人の揉め事だけならまだ良いが、悪魔側からの揉め事は何としても避けたい。

 

 冥界の悪魔上層部――特に老獪な貴族悪魔共が下らない手を打ってくると思う。これ以上悪魔のメンツを潰さないよう、俺とイッセーを危険分子として内密に排除するとかな。自分達に不都合・不利益な存在と判断したらすぐにもみ消そうとするからな、あの連中は。

 

(………人間の俺達がコカビエルと戦う事にどの道変わりない、か。ならリアスに教える前にアイツ(・・・)に一報入れとくか)

 

 そう思った俺は懐から携帯電話を取り出し、登録してる一つの番号に電話する。

 

 待ち音が数回鳴った後――

 

「すいません、お忙しいところ突然電話して」

 

『今は休憩中だから構わないさ。寧ろキミからの電話は大歓迎だよ、隆誠くん』

 

 冥界にいる現四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファーと繋がった。

 

 俺がサーゼクスと電話出来るのは、先日の『レーティングゲーム』が終わった後、サーゼクスが俺に携帯の番号をメルアドを教えたからである。

 

 何で人間界の携帯を持っているんだと俺は疑問に思っていたが、サーゼクス曰く「人間界にいるリアスとプライベートで話す時には必要だからね」だそうだ。本当に情報通りのシスコンだなぁって内心突っ込んだよ。

 

『ところで、今日はどんな用件かな? 私としては君に我が妹の素晴らしさについて語りたいところだが』

 

 サーゼクスは陽気に話しているが――

 

「残念ながら妹自慢をしてる場合じゃありませんよ、サーゼクス様。と言うか今、そのリアスや駒王町に危機が迫ろうとしているんですから」

 

『…………詳しく説明してくれるかい?』

 

 俺が言った途端に物凄く威厳のある声が返ってきた。恐らく今は深刻な表情になっている筈だ。

 

「勿論です。実は――」

 

 俺が昨日ローズさんから聞いた情報をそのまま伝えると――

 

『聖剣使いだけでなく、堕天使幹部のコカビエルもだと? その情報は確かなのかい?』

 

 サーゼクスは声を荒げずとも上擦っていた。予想外な人物が駒王町に来る事に驚いているんだろう。

 

「そうでなかったら今頃貴方に電話してませんよ」

 

『………一応訊くが、その事をリアス達には?』

 

 事は重大だと受け止めたサーゼクスがそう訊いてくる。

 

「まだ話してません。でも連中がこの町に来た以上、近いうち知る事になります」

 

『………確かにな。だが今回は相手が相手だ。正直リアス達では荷が重過ぎるどころか手に負えないだろう』

 

 流石のサーゼクスも相手が大戦を生き延びたコカビエルだったら、彼女達の実力では絶対に勝てないと分かっているようだ。

 

「そうですね。いかにリアス達が前の修行で腕を上げたといっても、あの程度じゃコカビエルに勝てませんし」

 

『だが君が協力してくれるなら話は別だ。君の弟くんも含めてね』

 

 どうやらサーゼクスは俺とイッセーがいれば、コカビエルに勝てると踏んでるようだ。

 

「無論俺やイッセーも協力します。ですが人間の俺等が協力するにしても、後になってから色々と面倒な事が起きると思いますので、ちょっとばかしサーゼクス様にやって貰いたい事があるんですが……」

 

 人間の俺が冥界の超大物である魔王サーゼクスに要求してるのを、貴族悪魔達が知ったら絶対に激怒するだろう。

 

『構わないよ。君や弟くんが協力してくれるなら、こちらとしては大助かりだ。それで、私は何をすれば良いんだい?』

 

 サーゼクスとしては本来であれば、リアスを守る為に人間界に行きたいだろう。

 

 だが魔王と言う立場であるから、サーゼクスは簡単に動く事が出来ない。いかにリアスが自分の妹でも、一介の悪魔相手に身贔屓出来ない事も理解してる。その心情は嘗ての聖書の神(わたし)も分かるからな。

 

「貴方にやって欲しい事は――」

 

 俺の要求にサーゼクスは若干苦笑しつつも、すぐに受け入れてくれた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 一日の学業と表の部活動を終えて、俺はイッセーとアーシアと一緒に帰路についていた。

 

 本当ならリアスも一緒なのだが、今日は珍しく一緒じゃなかった。

 

 帰る直前にソーナと森羅が部室に来て、緊急の話があるから屋敷に来て欲しいと言われたから、リアスと一緒に帰っていない。

 

 ソーナが急にリアスを呼び出したとなれば大体想像はつく。恐らく既に潜伏してる聖剣使いについて話すんだろう。

 

「出来れば俺から説明したかったんだが……まぁ良いか」

 

「何ぶつくさ言ってんだ?」

 

「どうかしましたか?」

 

 俺の独り言にイッセーとアーシアが反応し、揃って訊いてくる。

 

「いや、何でもないよ。それより二人とも、後で大事な話があるから俺の部屋で……ん?」

 

 家に着いて玄関の扉を開く前に、家の中から聖剣のオーラを感じた。他に人間と思われるオーラも二人。

 

「おい兄貴、これってまさか……!」

 

 当然イッセーも俺と同じく、家の中からの見知らぬオーラを察知している。

 

「分かってる。イッセー、俺が先に入るから後に続け。あと念の為にお前はアーシアの傍から離れるな」

 

「おう」

 

「え? え? お二人とも、一体どうしたんですか?」

 

 オーラを感じ取れないアーシアが俺とイッセーの行動に全くわからない様子で首を傾げている。確かに俺とイッセーが勝手に話を進めてたら、アーシアがこうなるのは無理もない。

 

 だが俺達は気にせず警戒しながら家に入るが、特に問題はなかった。あるとしたら、笑い声らしきものがリビングから聞こえてくる。

 

 俺とイッセーは目を合わせてコクンと頷くと、俺が先に進み、後からイッセーはアーシアと手を繋いだままリビングへ向かう。

 

 そこにはどこか見覚えのある女性一人に見知らぬ女性一人、そして二人と談笑してる母さんがいた。

 

「でね、これがプールでイッセーが海パン破けちゃったままで――」

 

「何をしているのかな、母さん?」

 

 俺に気付いた母さんがこっちへ顔を向ける。

 

「あらリューセー、お帰りなさい。どうしたの? そんな顔しちゃって」

 

 不思議そうに見てくる母さんに俺は気にせず、来客と思われる女性二人を見る。

 

 十字架を胸に下げた二人の若い女性は教会関係者だと一目で分かる。あと俺たちと同じ位の年齢だと言う事も。

 

 栗毛の女性と、緑色のメッシュを髪に入れてる少々目つきの悪い女性。どちらも教会が属する白いローブを着込んでいる。

 

「久しぶりね、リューセーくんにイッセーくん」

 

「……ああ。本当に久しぶりだね。君と会うのは何年振りかな?」

 

 挨拶をしてくる栗毛の女性――紫藤イリナに俺も懐かしい感じを見せながら挨拶で返す。

 

「あれ? 兄貴、会ったことあるのか?」

 

 するとイッセーがイリナの事を全く覚えて無いのか、俺にそう訊いてくる。

 

 イッセーの反応に彼女が少々眉を吊り上げた。

 

「あら? イッセーくんは覚えてない? 私だよ?」

 

「……へ?」

 

 自分を指差す指導イリナに、イッセーは未だに覚えがないような反応をする。

 

 そんなイッセーに母さんが一枚の写真を取り出す。例の聖剣が写し出されてる写真を。因みにそれは俺が昨日、既にアルバムに戻しておいた。

 

 その戻した写真に写ってる嘗ての友人だった子を母さんが指差す。

 

「ほらイッセー、この子よ。紫藤イリナちゃん。この頃は男の子みたいだったけど、今じゃこ~んな女の子らしくなっちゃって、お母さんビックリしたのよ」

 

「え……ええっ!? 俺、この子、本当に男の子かと……!」

 

「ちょっとイッセー、いくらなんでもソレは失礼よ!」

 

 余りにも失礼な発言に母さんが軽く叱咤する。

 

 って言うかイッセー。お前は彼女の事をずっと男だと思ってたのかよ。

 

 ………けれど確かに当時の彼女は男の子顔負けのヤンチャだったから、そう思うのは仕方ないか。

 

「まぁ仕方ないよね。あの頃はかなりヤンチャだったし。でも、お互い、しばらく会わない内にいろいろとあったみたいだね」

 

 随分と意味深な言葉だ。ひょっとしてこの子、俺とイッセーがあくどい事をしてた信徒共をぶちのめしていた事を知っているのかな?

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「リューセー、貴方はもう知ってるかしら? この町に聖剣を手にした教会の関係者が潜り込んできていることを」

 

「知ってるも何も、ついさっきまでソイツ等が家に来てたよ」

 

「っ! それはどういうこと!?」

 

 アッサリ答える俺に、リアスは予想外と言うような反応を示して声を荒げる。

 

 あの後、紫藤イリナともう一人の女性は三十分ほど談笑してから帰っていった。

 

 何でも久しぶりに日本に帰って来た上に、幼い頃住んでいた町にも再び来たから、あの頃を懐かしんで兵藤家へ寄ったらしい。

 

 取り敢えずアーシアは彼女達と関わらないようにする為に、俺が適当な理由を言って部屋に待機させた。

 

 今のあの子は教会から『魔女』の烙印を押されて追放された身だから、教会関係者と一緒にいさせるのは色々と不味い。

 

 それでも向こうがアーシアに何かしようとした場合は、強制的に実力行使で帰ってもらうとしたが何事もなく終わった。

 

 その後にリアスが帰ってきて、俺達に大事な話があるとイッセーの部屋に集まった。

 

 そしてリアスが本題に入ろうと俺に聞いた途端、さっきの反応をしてたって訳だ。

 

「その教会関係者の中に、何と俺とイッセーの幼馴染がいてなぁ。帰郷ついでに家へ来たんだと」

 

「だったらどうして私に連絡しなかったの!?」

 

「したらしたで、お前が血相変えて家に来るだろうが。悪魔のお前が教会関係者と会って、あの家でイザコザ起こして良かったのか?」

 

「………ゴメンなさい。確かにあなたの言うとおり、それは不味いわね」

 

 俺の言い分に納得したリアスは、すぐに落ち着いて謝ってくる。

 

 でもまぁ、いかに俺がいるとは言え、自分の眷族候補である愛しのイッセーとアーシアにもしもの事があったら、居ても立ってもいられないだろう。

 

「大丈夫ですよ、部長。もし何かあっても、俺が部長とアーシアを守りますから」

 

「イッセー……」

 

「イッセーさん……」

 

 お? イッセーの頼もしい言葉に、リアスとアーシアは胸がきゅんとしたような感じだ。

 

 ったく。こう言う台詞が自覚ありのままサラッと言えるなら、いつまでも『レーティングゲーム』の件を引き摺らないで欲しいんだがな。

 

 何かこのままだと甘ったるい空気になりそうな感じがしたので、一先ず俺がゴホンと軽く咳払いをする。

 

「まぁそれよりもリアス、お前がその教会関係者について訊いてきたって事は、ひょっとしてソーナから聞いたのか?」

 

「え、ええ、そうよ」

 

 話を切り替えると、リアスはイッセーから視線を外して真面目な顔をしながら話を進める。

 

「昼間に彼女たちと接触したソーナの話では、彼女たちは私――駒王町を縄張りにしてる悪魔リアス・グレモリーと交渉したいそうよ」

 

 わお。教会の者が悪魔と交渉だって? 中々面白そうな話じゃないか。

 

「あの二人がリアスに交渉、ねぇ。因みにどんな交渉だ?」

 

「さぁ? そこまでは知らないわ。どういうつもりかはわからないけれど、明日の放課後に彼女たちは旧校舎に訪問してくる予定よ。しかもこちら対して一切の攻撃を加えないと神に誓ったらしいわ」

 

 聖書の神(わたし)に誓った、か。それはつまり、誓いを破るような事をすれば聖書の神(わたし)が断罪しても良いって事かな?

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 次の日の放課後。

 

 予定通り、昨日会った二人の女性が部室にやってきた。

 

「会談を受けて頂き感謝する。私はゼノヴィア」

 

「紫藤イリナよ」

 

 ソファーに座っている二人がそう名乗る。一人は既に知っていたが、メッシュの入った女性信徒はゼノヴィアと言うのか。

 

「神の信徒が悪魔に会いたいだなんて、どう言うことかしら?」

 

 二人の女性の向かい側にあるソファーに座っているリアスが、少々挑発的に問い掛ける。

 

 リアスがああなるのは無理もない。何しろ教会側の二人が持っている聖剣に神経が高ぶってるからな。

 

 無論ソレはリアスに限った話じゃなく、リアスの隣に座っている朱乃や、片隅で見守っている小猫と祐斗も同様の反応をしている。

 

 特に一番危険な状態なのが祐斗だ。彼女たちを怨恨の眼差しでジッと睨んでいる。何かあれば即座に斬りかかりそうな雰囲気だ。

 

 まぁ、そうさせない為に俺とイッセーが万が一の事を考えて、祐斗を挟むようにして立っているからな。因みにイッセーの隣に立っているアーシアはハラハラしながらリアス達を見守っている。

 

 その空気の中、リアスの問いに答えようとしたのは紫藤イリナだった。

 

「元々行方不明だった一本を除く六本の聖剣エクスカリバーは、教会の三つの派閥が管理していましたが、そのうち三本が奪われました」

 

『っ!?』

 

 彼女からの説明に俺とイッセーを除くリアス達が驚愕する。因みにイッセーには前以て俺の方で教えといた。

 

 そして説明した紫藤イリナの次にゼノヴィアが答えようと、布に巻かれた聖剣を持とうとする。

 

「私が持っているのは残ったエクスカリバーの内、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。これはカトリックが管理している」

 

 破壊か。となればゼノヴィアと言う子は、パワータイプの戦士と見て良いだろう。

 

 次にイリナの方は腕に巻いている長い紐のようなものを俺達に見せる。

 

「私のほうは『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。こんな風にカタチを自由自在に出来るから、持ち運びに凄く便利なの。こちらはプロテスタント側が管理してるわ」

 

 イリナは擬態の方か。じゃあ彼女はテクニックタイプだな。

 

「イリナ……何も悪魔に態々エクスカリバーの能力を喋る必要もないだろう?」

 

「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからって信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう? それにこの剣の能力を知られたからって、この悪魔の皆さんやイッセーくんたちに遅れを取るなんてことないわ」

 

 ほほ~う? それは聖書の神(わたし)に喧嘩を売ってると思って良いのかな、イリナちゃん?

 

 俺の正体を知った途端にどんな反応するのか、ちょっと見てみたい気分だよ。

 

 っと、そんな事よりも祐斗をどうにかしないと。

 

 聖剣がエクスカリバーだと知った瞬間、鬼の形相で彼女達を睨んでいるからな。何しろ祐斗は聖剣計画の被験者で生き残りだ。憎しみの対象であるエクスカリバーが二つも目の前にあるから、叩き壊したい衝動に駆られているんだろう。

 

 一先ず俺が横に視線を向けると、目が合ったイッセーが分かったかのようにコクンと頷く。祐斗が動いた瞬間、即座に止めろとのアイコンタクトだ。

 

「……エクスカリバーを奪われたって言うけれど、そんな大事な物を誰が奪ったのかしら?」

 

 俺とイッセーのやり取りを余所に、リアスは相変わらずの態度で話を進める。あと何気にエクスカリバーを奪われた教会側の失態を責めてるような感じもしたのは、恐らく気のせいじゃないだろう。

 

「奪った主な連中は既に把握している。グリゴリの幹部、コカビエルだ」

 

「コカビエル……。古の戦いから生き残る堕天使の幹部が……」

 

 奪った相手がコカビエルだと分かったリアスは思わず苦笑していた。

 

 それもそうだろう。堕天使の幹部がエクスカリバーを盗んだなんて予想外もいいところだ。

 

 ってか昨日から思ってたんだが、何故コカビエルの奴は聖剣を盗んだんだ? 聖書の神(わたし)が死んだ後、聖剣に関わるような出来事に遭遇して興味を持ち始めたんだろうか。

 

「そんな大物相手に貴女たちだけで奪還出来るのかしら? 無謀もいいところよ」

 

「それはそちらが気にすることではない」

 

「………まぁいいわ。で? コカビエルに聖剣を奪われた貴方たち教会側は、私たちにどうしてほしいの?」

 

 俺が思わず深く考えて込んでいると、リアスと教会側の会話は気にせずに続けていた。

 

「今回の件は、我々と堕天使の問題だ。この町に巣食う悪魔に介入されると面倒なので、一切関わらないでもらいたい」

 

 おいおい。そっちが勝手にこの町に潜り込んどいて自分達のやる事に関わるなって、どんだけ上から目線な要求だよ。

 

 ゼノヴィアの物言いに、当然リアスの眉が吊り上る。

 

「随分な物言いね。私たちが堕天使と組んで、聖剣をどうにかするとでも?」

 

「悪魔にとって聖剣は忌むべきものだ。堕天使共と利害が一致するじゃないか」

 

 あ、リアスがキレかかってる。相変わらず短気な奴だと言いたい所だが、今回はゼノヴィアの余りの言い方にそうなるのは無理もない。

 

 と言うかそこの信徒。いくら相手が悪魔だからって、それが交渉する態度じゃないだろうが。

 

「もしそうなら、我々は貴女を完全に消滅させる。例え魔王の妹だろうとな」

 

「そこまで私を知っているのなら言わせて貰うわ。私が堕天使と手を組むことなんて無いわ。グレモリーの名にかけて。魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」

 

 売り言葉に買い言葉。これが本当に交渉なのかと疑いたくなる光景だ。

 

 拮抗状態とも言える中、突然ゼノヴィアがフッと笑った。

 

「それが聞けただけで充分だ。今のは本部の意向を伝えただけでな。魔王の妹でも、そこまでバカだとは思ってないさ」

 

 じゃあコカビエルをどうにかする聖書の神(わたし)はバカだと思って良いのかな? って突っ込んでみたいよ。

 

「なら私が神側――即ち、貴女方に協力しないことは承知しているわけね」

 

「無論。重ねて言うが、この町で起こる事に一切の不介入を約束してくれれば良い」

 

「……了解したわ」

 

 リアスの了承を聞いたイリナとゼノヴィアは、途端に立ち上がる。

 

「時間を取らせてすまなかった。イリナ、帰るぞ」

 

「あら、お茶は飲んでいかないの? お菓子ぐらい振舞わせてもらうわ」

 

「生憎だが、悪魔と馴れ合うわけにはいかないんでね」

 

「ゴメンなさいね。それでは」

 

 リアスの誘いをゼノヴィアとイリナはすぐに断った。

 

 そして二人は部室を出ようと足を運ぼうとする。だが、二人の視線が揃ってアーシアに向けていた。

 

「――その兄弟の家で出会ったとき、もしやと思ったが、アーシア・アルジェントか?」

 

「え? あ、はい」

 

 戸惑いながらもアーシアが答えると――

 

「やはりか。まさかこんな地で『魔女』に会おうとはな」

 

 ゼノヴィアは吐き捨てるようにアーシアの烙印名を口にした。

 

 烙印名を呼ばれたアーシアはビクッと体を震わせる。その言葉はアーシアにとって辛いものだ。

 

 イリナもそれに気づいたようで、アーシアをまじまじと見る。

 

「ああ~。貴女が魔女になったって言う元聖女さん? 堕天使や悪魔を癒す能力を持っていた為に追放されていたのは聞いていたけれど、悪魔に寝返ったなんて思わなかったわ」

 

「……あ、あの……私は……」

 

「未だに人間のようだが、聖女と呼ばれていた者が悪魔に寝返るとは堕ちたものだ。まだ我らの神を信じているか?」

 

 ………コイツ等は聖書の神(わたし)にマジで喧嘩売ってると思っていいかな?

 

 イッセーもイッセーでキレ気味になってるし。実は俺もちょっとキレかかってるんだよなぁ~、これが。

 

「ちょっとゼノヴィア。悪魔に寝返った彼女が信仰しているはずはないでしょう?」

 

「いや、背信行為をするやからでも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れないものがいる。その子にはそういう匂いが感じられる」

 

「へぇ~そうなの? ねぇ、アーシアさんは今でも主を信じているの?」

 

 イリナの問い掛けにアーシアは悲しそうな表情で言う。

 

「……捨てきれないだけです。それに今も、主を信じていますから……」

 

 聖書の神(わたし)を今でも信じている、か。申し訳ない気持ちでいっぱいだよ、アーシア。

 

 するとアーシアの返答を聞いたゼノヴィアは、布に包まれている聖剣を突き出す。

 

「ならば、今すぐ私たちに斬られるといい。いまなら神の名の下に断罪しよう」

 

 …………おい、今何て言った? 聖書の神(わたし)の名を利用してアーシアを斬るだと?

 

「君が罪深くとも、我らの神ならば救いを差し伸べてくれるはずだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間に――

 

「ゼノヴィア、と言ったか? ちょっと君に訊きたいんだが、君が崇める神は殺戮を好む邪神なのかな?」

 

「「なっ!?」」

 

 俺がすぐに口出しした途端、ゼノヴィアとイリナだけじゃなく、この場に居る全員が一斉にコッチを見る。

 

 その直後、ゼノヴィアは即座にアーシアから俺へと視線を向ける。かなりの殺気を向けながら。

 

「今何と言った? 我等の神を邪神だと?」

 

「現にそうだろう。君は神の名を利用して女の子を殺そうとしてるんだからさ。だからそちらが崇めてるのは邪神か何かと思ったんだよ」

 

「貴様っ!」

 

「ちょっとリューセーくん! その発言はいくら私でも聞き捨てならないわ!」

 

 ゼノヴィアだけでなくイリナも俺に明確な怒りを示している。

 

「リューセー! あなた何を言って――」

 

「悪いがリアス、君はちょっと黙っててくれ」

 

 俺がそう言ってリアスを見ると、彼女は途端に静かになった。多分、俺が発する怒気で少し引いているんだろう。

 

「最近の信徒は随分と勝手な解釈をするもんだ。神もさぞかし傍迷惑だろうな。自分の名前を使って何でも正当化するんだからさ」

 

「貴様、どこまで神を愚弄すれば……!」

 

「リューセーくん、今すぐ謝れば聞かなかった事にしてあげる。だけどこれ以上主を貶めたら許さないわ……!」

 

 聖書の神(わたし)の為に怒るか。知らないとは言え、目の前の聖書の神(わたし)に対して怒るってのは随分と矛盾してるなぁ。

 

「君達のやってることが神を愚弄したり貶めてるんじゃないのか? 神の為に頑張ろうとするその姿勢は認めるが、行き過ぎた行為までは許容出来ないよ。と、神はそう思ってる筈さ。無論、アーシアを殺そうとする事も含めてな」

 

「世迷言を。信徒でもない貴様が神を語るなどおこがましい!」

 

 おこがましいも何も、聖書の神(わたし)自身がそう言ってるんだが。

 

「ふっ。君こそ神に会ったことも無いのに、まるで神の事を分かってるような言い方をしてアーシアを殺そうとしてたじゃないか。君の方が神を侮辱してると俺は思うんだが?」

 

「………貴様、自分が何を言ってるのか分かっているのか? その発言は私だけでなく、我ら教会すべてを敵に回しているも同然だぞ」

 

「だったら俺は家族、仲間、友人、そして大事な妹分であるアーシアを守る為なら、君たち教会全てを敵に回してでも戦わせてもらうよ。無論ここにいる悪魔のリアス達も守る為に、な」

 

「……そうか。それが貴様の答えか」

 

 俺の返答を聞いたゼノヴィアは目を細め、布で巻かれている聖剣を俺の前に突き出す。

 

「最初はイリナの友人だから敢えて見逃そうと思っていたが、貴様のような『悪魔に魅入られた異端者』は最早生かしてはおけん。神の名の下、この場で断罪してくれる!」

 

 聖書の神(わたし)の名の下に聖書の神(わたし)を断罪する、か。これもまた随分と矛盾してるなぁ。

 

 俺が思わず苦笑してると、祐斗が突然介入する。

 

「リューセー先輩。この二人と相手をするんでしたら、僕も加勢します」

 

 祐斗は特大の殺気を身体から発しながら剣を携えていた。

 

「誰だ、キミは?」

 

 ゼノヴィアからの問い掛けに――

 

「キミ達の先輩だよ」

 

 祐斗はそう答えた。

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