「行くぞ異端者!」
「今度は本気で行くからね、リューセーくん!」
「あっそ」
さっきと違って本気でやるゼノヴィアとイリナに、兄貴は構えもせずに待ち構えてる。
そして二人からの鋭い斬撃を全て紙一重で躱していた。
「兄貴のやつ、ありゃマジでウンザリ気味だな……」
その三人の戦いを少し離れて見てる俺――兵藤一誠は兄貴の顔を見ながらそう呟く。
「ねぇイッセー、リューセーは大丈夫なのかしら?」
すると、部長が突然俺に兄貴について訊いてくる。
「大丈夫ですよ、部長。兄貴はそう簡単に負けませんから」
まだ見たばかりで実力は大して分からないが、それでも今の状況だとあの二人じゃ勝ち目はないだろう。
言っちゃ悪いが、いくらイリナとゼノヴィアが聖剣使いでも兄貴の敵じゃない。もし兄貴がその気になればあっと言う間に終わらせられる。
「それは大して気にしてないわ。私が気になってるのはリューセーの様子よ。どうもあの聖剣使いの二人に、と言うより教会側に対して感情的と言うか、どうも嫌悪感を抱いてるような感じがするのだけど」
「あ、そっちでしたか」
どうやら部長は兄貴の勝敗については分かりきっていたようだ。
確かに部長の言うとおり、兄貴は複雑そうな雰囲気を醸し出しながら相手をしてる。
普段から大して慌てる事無く相手をしてる兄貴が、今回みたく感情を露にする事に部長は珍しがっている事が疑問なんだな。
「俺もどうしてかは分からないんですが、兄貴は教会の連中を嫌ってるんですよ」
「……え? リューセーさんが……」
俺が兄貴の教会嫌いを言った途端、アーシアが凄く悲しそうな顔をする。多分、教会出身である自分の事も嫌ってるんじゃないかと思ってるんだろう。
「ごめん、アーシア。言い方が悪かった。兄貴は教会が嫌いでも、神の名を利用して行き過ぎた行為をしてる信徒が嫌いだって言ったんだ」
「……そう言えばリューセーは聖剣計画の事を知ってたけど、もしかしてソレが理由かしら?」
思い出したように部長が兄貴の教会嫌いの理由を尋ねてくる。
「まぁ、それもあります。けど兄貴はそれ以前に、聖剣計画みたく神を利用して何でも正当化するあくどい信徒がとにかく嫌いなんですよ。更にはその信徒達を徹底的に叩きのめしてますし。尤も、俺も俺で兄貴と一緒にやってましたけど」
「だとしても益々分かりませんわね。クリスチャンでもない彼がどうしてそんなに教会を嫌うのでしょうか?」
「……リューセー先輩は教会に何か恨みでもあるんですか?」
「さぁ、俺もそこまでは……」
部長だけでなく朱乃さんや小猫ちゃんも尋ねてくるが、俺は分からないと首を横に振る。
俺も時々『どうして教会を嫌ってるんだ?』って聞いているんだが、当の本人は『……まぁ、ちょっとな』と言ってはぐらかす。
これは以前にも言ったが、俺が
「それはそうと木場、必死に立ち上がろうとしてるようだが止めとけ。兄貴の光をまともに受けた以上、悪魔のお前じゃそう簡単に立てねぇぞ」
「そうは、いかない……。僕は、どうしてもあの聖剣を破壊しないと……!」
俺の近くでうつ伏せになってる木場は、兄貴によって動きを封じられてるにも拘らず立ち上がろうとしていた。
倦怠感に襲われてても、聖剣に対する憎悪は未だに収まってないようだな。
「だから止めろっての。仮に立ち上がったとしても、俺が阻止するからな。兄貴にそう言われてるし」
「………キミやリューセー先輩は、どうして僕の邪魔をするんだ……!?」
木場が途轍もない憎悪を込めた目で俺を睨んでくる。もし万全の状態だったら俺や兄貴に襲い掛かってくるだろうな。まぁそんな展開になっても迎撃するけど。
「んなもん俺じゃなくて兄貴に言ってくれ。まぁ多分兄貴の事だから、お前に聖剣を破壊させる大義名分を与えると思う。だからそれまで大人しくしてろ」
「………え?」
俺の発言を聞いた木場が、さっきまでの憎悪が少し収まる。
そんな中――
「どうした!? 避けてばかりだと私たちは倒せないぞ!」
「そんなに避けるなんて、リューセーくんのくせに生意気よ!」
「じゃあ反撃に移るとするか。ほれ」
イリナとゼノヴィアの斬撃を避け続けていた兄貴が、少し距離を取った途端、すぐに指をパチンと鳴らして二本の光の槍を放った。
二人目掛けて襲い掛かる光の槍に、ゼノヴィアは咄嗟にイリナを守るように立つ。
「甘い! 同じ手はもう食わん!」
ギィィィィンッ!!
ゼノヴィアの一振りが、兄貴が造った二本の光の槍を霧散させる。
「ほう? 聖剣で破壊したか。さっきのアレは並みの悪魔を簡単に滅ぼせる威力だったんだが」
一撃で自分の光の槍を破壊された事に、兄貴は感心するように言う。
聞いた話じゃ、あのエクスカリバーは七つに分かれてオリジナルに劣るそうだが、それでもかなりの威力を持ってる聖剣みたいだな。
「この剣に砕けぬものはない!」
そう言ってゼノヴィアは長剣を器用にくるくる回して天に翳し、地面へ振り下ろした。
ドォォォォォオオオオオンッ!!
ゼノヴィアが剣を地面に当てた直後、足場が激しく揺れて地響きが発生した。
「きゃあっ!」
「おっと」
体勢が崩れようとするアーシアに俺が片手で肩を抱いて支えようとする。
「大丈夫か?」
「は、はい……。ありがとうございます」
支えられてるアーシアは顔を赤らめながら俺に礼を言ってきた。
あと何故か分かんないんだが、部長が怖い顔をしてコッチを睨んでいる。どうして? 俺は倒れようとするアーシアを支えただけなのに。
余り気にしないように目の前の戦いを見ようとすると、ゼノヴィアが立っているところでは巨大なクレーターが生み出されていた。
たったの一撃であれ程の威力とは、さすが聖剣ってところか。
んで、兄貴の方は……クレーターからちょっと離れた位置にいて、分析するように見ていた。
――――――――――
「流石は『
俺――兵藤隆誠は『
「これで分かっただろう? いかに貴様が光の槍を造れると言っても、これはあらゆる物を破壊する。
「ご説明どうも」
「ちょっと危ないじゃないゼノヴィア! おかげでもう土だらけだわ!」
ゼノヴィアの近くにいたイリナは毒づきながら、服に付いた土を払っていた。
未熟な聖剣使いとは言え、それなりに聖剣を使えてるようだ。
まぁそれでも未熟である事に変わりなかった。
戦って分かったんだが、コイツ等は聖剣を全く使いこなせてない。それどころか聖剣に振り回されてるにも等しい感じだ。
ゼノヴィアは力任せに『
『
と言うかコイツ等、この程度の実力でコカビエルから聖剣を奪還するのか? はっきり言って無謀だぞ。ってか教会側は何考えてんだ? もうちょっとマシな人材を送れば良いのに。
「でも、ようやくリューセーくんのスピードに慣れてきたわ。そろそろ決めちゃいましょう、ゼノヴィア」
「そうだな」
………呆れた奴等だ。俺はまだ全然本気を出してないってのに、もう勝てるかのように言ってるし。
ならばその思い上がり、すぐに打ち消してやるとしよう。
「いい気になるのも大概にしろ。そんな
「何だと?」
「……リューセーくん、この状況でまだそんな事を言える余裕があるのね」
「その減らず口を今すぐきけなくしてやる」
そう言って俺は両手を開いたまま前に出し、掌を空に向けた状態にする。
「はぁぁぁ……!」
「! 何だ?」
「リューセーくんの両手から、光が集まってる……?」
そう。イリナの言うとおり俺は開いた両手に光のオーラを集束させていた。
そして両手に集束させている光のオーラは飛び出すように、サッカーボールサイズの光の玉となって浮かぶ。
「さてお前達、覚悟は良いか? 言っておくが絶対に気を抜いたりするなよ」
「? 何をする気だ?」
「……あれ? あの光の玉、どこかで見たような気が……」
俺のやる事をゼノヴィアは全く分からないような表情をしてるが、イリナだけが何かを思い出すように目を細めていた。
そんな二人に俺は気にせず――
「行くぞ!
技名を告げながら両手にある光の玉を二人に投げるように飛ばした。
ギュインッ!!
「うわっ!」
「きゃあっ!」
凄まじい勢いで来る二つの光の玉を見たゼノヴィアとイリナは驚愕するも、何とかギリギリで躱す。
「甘いよ。せいっ!」
「なっ! 戻ってくるだと!?」
「遠隔操作も出来るの!?」
俺が両手の指を動かすと、二つの光の玉はUターンするように戻っていき、再び二人に当てようとする。
繰光連弾。これは両手に光のオーラを集中させて繰り出した光弾を放つ、ドラグ・ソボールのヤマチャが使っていた技。ついでにこの光弾は指を動かすことで自由に遠隔操作できるという特徴を持つ。
因みにこの技の本当の正式名称は
「そらそらそらぁっ!」
「ぐっ! こんなもの!」
「来なさい! この聖剣で!」
自分に向かってくる繰光連弾をゼノヴィアとイリナは何度か避けた後、持ってる聖剣で斬ろうと振りかざそうとするも――
「あらよっと」
グンッ!
「「なっ!?」」
俺が指で即座に引き戻すよう動かすと、繰光連弾は意思を持つように急停止した後に後退した。
聖剣を振り翳していたゼノヴィアとイリナは、予想外な動きをした繰光連弾を見て驚愕する。
「くっ! あの光の玉を自由自在に操作出来るとは……!」
「ちょっとリューセーくん! 反則にも程があるわよ!」
「んなもん知った事か」
反則などと言われる筋合いは無い。第一、敵である俺が君達の戦いに合わせる気なんかないし。
「これで止めだ! とうっ!」
繰光連弾を二人の頭上まで運んだ直後、指を一気に振り下ろすと、二人目掛けて凄まじい速度で落下していく。
「「くっ!」」
ゼノヴィアとイリナは何とか躱そうとバックステップをした後――
ドガァァァンッ!!
繰光連弾はそのまま地面に激突してしまった。
「ちっ。意外に素早いな」
避けられた事に俺は舌打ちをしながらそう呟く。
「驚いたぞ。まさか貴様にあんな芸当が出来るなんてな」
「正直言ってかなり危なかったわよ、リューセーくん。でもそれと同時にショックだわ。あんな力を持っておきながら、私たち教会に牙を向くなんてね」
もう同じ技は通用しないと言うように、二人は再び聖剣を持ち構えようとする。
そんな二人に俺は嘆息した。
「やれやれ。絶対に気を抜くなって言った筈なのに、君達ときたら…………はぁっ」
「? 何を言っている?」
「リューセーくん、この期に及んで負け惜しみかしら?」
「おバカな君達に呆れてるんだよ。そらっ!」
俺が両手の指を上げた瞬間、地面から何か上がってくる音がした直後――
ドガッ!!
「「がっ!!」」
繰光連弾が二人の腹部に直撃した。