ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――ついに来た』   作:鍵のすけ

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――これは、『俺』が水の名を関する九人の人魚たちとの関係の御話――

――これは、『俺』が好きになり、『俺』を好きでいてくれる彼女達との甘い一日――

――これは、その中で起こった、しょうもなくて刺激的な出来事――



『俺』と『彼女』の九つのひと時

「チカたちの間には競争心が足りないんだよ!」

「いきなりどうしたんだよ千歌……」

 

 

ある休日の自宅。

突如朝っぱらから押しかけてきて、俺の部屋でなにやらギャーと騒いだのは、幼馴染兼自称第一婦人である【高海(たかみ)千歌(ちか)】。

俺に彼女を含めた九人の想い人がいるのは、大体彼女が発端と言うか、元凶というか。

十人の関係がこじれていないのも大体コイツのおかげなのだからあまり文句が言えるものでもないんだが。

 

まぁそんな千歌が実家である旅館の手伝いをほっぽってまで、俺の家まで朝からやってくるというのはよっぽどのことだと思うだろう。

俺も最初の頃は思ってた、まぁそんなことも無かったのだが。

別に親御さんたちには『千歌は危なっかしいからまぁ面倒見てくれて助かるわ』みたいな認識をされているし、問題はないのだろう。

いや、保護者じゃねーよ俺は、恋人だよ。

 

 

「ちがうよ! 旦那様だよ!」

「さらりと心を読むんじゃねーってばよ。それで、今度はどうしたんだ」

 

 

千歌は俺の問いに、ウンウンとうなずきながら、俺の机をバンと強くたたく。

おいこら、その机いつもお前ともう二人が叩いてるから、軋んでいるんだぞ。

そろそろ買い替えなきゃなって思ったけどさ、この調子だと買い替えて一年もしないうちにゴミに出さなきゃならん気がするんだが。

 

 

「最近チカたちと君の間に()()()()()()()()してるんだよ!」

「マンネリ感……?」

「そう! あ、今のはね、マンネリと蔓延の響きをちょっと似せて――」

「あ、言わんでいい。大体わかったから今のは」

「ぶー、今のはいい出来だとおもうんだけど……」

 

 

なんとなくでわかってほしいのだが、この千歌はダジャレやそれに関係するギャグなどがお好きで、暇さえあればそれを会話の中に盛り込もうとしてくるのだ。

今回のはまだいい、本当にひどい時なんて台風の日に『フィートすごいから布団が吹っ飛んじゃって歩いてる人の頭に降ってっちゃうね』とかみたいなもんを持ってくるのだから。

 

 

「それで、マンネリってどういうことだ?」

「ほら、私たちって十人みんなで仲良くやってるでしょ?」

「まぁそうだな、よくこじれないで仲良くできてるなって思うよ」

「でも最近さ、なんか刺激足りないと思わないかな」

 

 

何を言っているのだろうコイツは。

刺激……個人的に言わせてもらうならもう毎日が刺激なんだが。

 

カナと海に潜って新しい魚とかを見つけたり

マリーのレッスンで乗馬について学んだり

ダイヤに帝王学について教わったり

梨子に教えてもらいながらピアノを弾いたり

曜と一緒に船の模型組み立てたり

ルビィと一緒にアイドルのDVD見てたり

マルと交換日記をしたり

ヨッコと一緒に謎解き型のゲームで盛り上がったり

そして目の前のこいつと旅館の手伝いをしてたり……

 

ここまでいろんなことをしていて刺激がないだなんてどういうことだろうか。

 

 

「あのね、そうじゃないんだよね」

「む……じゃあどういうことだ?」

「それって君が感じる刺激であって、チカたちの間ではいつも通りって感じでね、互いにあんまり刺激になってないんだよ!」

 

 

互いの刺激……?

俺たちの関係性がいつも通り……?

……ああ、でも確かに。

やっていることは前々から、恋人同士になる前から変わらない。

俺にとっては新しいものに触れられるだけで刺激的なんだが……

 

 

「君のその反応を善子ちゃんが聞いたらきっと『幻想の世界にうんぬんかんぬん』とか言ってそうだよね」

「せめて最後まで言いきれよ。中途半端に止めたらヨッコが多分、かわいそうだろ」

「とにかく! チカたちはもう少し互いに刺激を与えあうようなことをするべきだと思います!()()()()()()()()()()()()()()()()()()!……あ、今のは刺激と喜劇のニュアンスを似せてだね――」

「おまえ喜劇の意味分かってんのかよ」

 

 

しかもコイツ今、ヨッコについての話を無視しおったぞ。

 

 

「まぁそれは別に良いんだがさ……なにかすることって計画あるの?」

「ふっふっふ……よくぞ聴いてくれました!」

 

 

何やら不適そうな笑いを浮かべる千歌。

大体コイツがこういう顔をするときはろくでもないことが待っている。

本音を言うならば休日だし寝ていたい。

あとお前ははよ家の手伝いに行け。

 

 

「手伝ったらお姉ちゃんたちに追い出されるもん!」

「お前それ自分に非有るかってかんがえてみたことない?」

「だぁかぁらぁ! そんなことより! 続き!」

 

 

『つぅづぅきぃ!』と騒いで机をバンバン叩きはじめる千歌を諌め話の続きを促す。

このままだとただでさえ耐久値がダダ下がりな机さんがマジでお亡くなりになってしまう。

そろそろバキッと音を立ててくれやがりそうなくらいボロボロになってる気がする。最近金具部分の折り曲げが上手くいかないし。

 

 

「チカは考えたのです! そろそろ長期休みが来るでしょ?」

「そうだな、一応俺の通うところと浦の星の休みは互いに公立だから同じなはずだし」

「なので! チカたち全員で君の時間を一人一日ずつ貰って、デートをしたいと思っています!()()()()()()()()()()!……どう、今少しラップ口調も混ぜてみたんだけど!」

「あー、はいはい、凄い凄い」

 

……なるほど、ギャグもそうだがよくわからん。

千歌のいう言葉にしばし理解を試みる、意外とあっさり答えは出た。

つまりは、俺が九人の彼女達それぞれと、一日ずつデートをして、九人は互いに自分の経験を打ち明け合うということ。

そうすれば九人互いが互いに刺激を与えあうことになり、俺はまぁ彼女達とこれまで通り一緒に過ごせばいいので問題なし。

なるほど、千歌にしては考えたものだ。

 

 

「だが、俺がデートプランを考えると、皆そろって同じ内容になってしまう懸念があるのだが?」

「そこも問題なし! 今回デートプランを考えるのはチカたちです!」

「……なるほど、いつもと同じ経験にならないように気を付けることは?」

()()()()()()()()()()()()!」

 

 

そりゃまたえらくざっくりしたもので。

まぁこれも千歌の考えたこととしてはかなり上出来だ。

いつもやってることをしてたって刺激も何も有ったものじゃないだろう。

珍しく恋愛ゲームをやっていたヨッコがデートの重要性について目覚めたっぽい雰囲気を出してた頃もあったし、そんな感じなんだろう。

 

まぁ、いつものことを禁止しなかったら特にカナとダイヤ、そしてヨッコとは何にも変わらないひと時になっていそうだし。

いや、俺としては全然ダイビングも勉強もゲームも楽しめるからいいんだけどね。

 

 

「それで、この事はもうみんなに話したのか?」

「……ぅ」

「……おまえさ、次の練習の時にその話しときな?」

「はい! わかりました!!」

 

 

 

***

 

 

 

そんなわけで長期休み一日目。

割と千歌の提案は八人の恋人たちにも受け入れられたらしく。

『今まで君に頼りっぱなしだったからね。自分でデートプランを考えるって新鮮なことできて、いいと思ったよ』

と、カナが話していたのはつい最近の話。

 

千歌曰く『デートは待ち合わせから始まるんだよ!』ということで、俺は駅前で本日のデート相手と待ち合わせをしていた。

そう、待ち合わせ場所と時間も、その日の相手の指定なのだ。

 

 

「はぁ……はぁ……ごめんなさい、待たせましたか?」

「いや、大丈夫だよ。あまり待って無いから」

「もう……そこは嘘でもいいので『今来たところ』って言ってほしかったかなぁって……」

「ごめんごめん、今日はよろしくね梨子」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

息を少し荒げる程度の速度で走ってやってきた本日のお相手は【桜内(さくらうち)梨子(りこ)】。

東京にある音ノ木坂学院と言うところから浦の星女学院へ転校してきて、そして暴走気味な千歌に誘われてAqoursに加入した子だ。

穏やかで清楚な雰囲気に違わずピアノが上手く、絵も綺麗。

でもファンシーなイラストを描くと、それにどこか狂気さを感じてしまうのが玉に瑕な子。

そんな彼女が作ってきたデートプランとは何だろうか?

 

 

「えっと……今日はですね、駅前の映画館で今、映画をやっていて……」

「ああ、それってもしかしてついこないだ公開した作品?」

「うん、花丸ちゃんがお薦めしてくれた作者さんの本が原作の映画で、さらに私の好きな作曲家の人が音楽を手掛けているって聞いて」

「そっか、結構ニュースになってたから興味もあったんだけど、それは音楽も楽しみだね。上映時間はいつ位かな?」

 

 

事前に調べていたのか、梨子はスケジュール帳を取り出す。

梨子らしい桜色のシンプルなそれには、千歌から押し付けられていたカエルのシールが貼られていてとても愛らしい。

よく見るとヨッコからプレゼントされてたシールも貼ってある、律儀な子だなぁ。

 

 

「二時過ぎだからまだ時間は大丈夫です」

「そっか、それじゃあ先にお昼でも食べようか」

「あ、あの、駅前の喫茶店でお薦めのところがあるから、そこに行きましょう?」

 

 

なるほど、昼食についても彼女たち自身で用意したり、計画しているのか。

そんなわけで昼ごはんを取りながら梨子に映画の後について聞いてみたところ、映画の後は歩いて商店街を通り、後はあまり考えていないとのこと。

『それなら商店街で色々あるし、近くで美術展もやっているそうだし、そこに行くのもいいかもしれないな』と、提案をするだけしてみて映画館へと向かう。

 

 

「梨子はポップコーンどうする?」

「私は……さっき食べたばかりだし、お腹は空いていないかな……」

「それもそうか、そう考えたら俺も全部食べきれなさそうだし、やめておこうかな」

 

 

そして映画を見終えて外へ出る。

いやぁ、梨子が好きな作曲家だけあって音楽がよかった。

俺はその道のプロでもないし、そういう知識に詳しいわけではないけれども、映画の内容に違和感を感じさせない、それでいて主張しすぎなくて、でも存在感はあって……

上手く言えないけど、とてもいい音楽でストーリーだったと思う。

 

 

「梨子、さっきの映画そんなに感動したのかい、涙が止まってないよ?」

「最後の、主人公と……ヒロインの、やり取りに……感動、しちゃって……」

「そっか。確かに良い終わり方だったよね。今度マルにその原作を借してもらわないとね」

 

 

梨子とのデートはその後、商店街にあるケーキ屋に二人で入り、映画の感想で盛り上がった。

ついでになのだが、彼女が好きな作曲家の今までリリースされたサウンドトラックなどが家に在るらしく、次会うときに貸してくれるとのこと。

最後は最近足りなくなってきたという彼女の画材道具の買い物に付き合い、この日のデートは終わった。

今度また絵を見せてもらおう。

 

 

 

「また……一緒に映画を見たいです!」

 

 

 

***

 

 

 

凛、とした黒く長い綺麗な髪を風に揺らせながら、自慢気にたたずむ少女が俺を見る。

対して彼女の瞳に映る今の俺は、死んだ魚のような目をしているのだろうか。

そんなくだらないことを考えながら、俺は目の前の彼女の言葉へたった一言情けない声でツッコミを入れることしかできなかった。

 

 

「これこそが、わたくしが行きついたデートの王道――つり橋ですわ!」

「……なんでやねん」

 

 

翌日、朝も終わりといった昼前に、突如家へ押しかけてきた黒塗りの高級車に拉致された俺は、『暫定日本一長いつり橋』である三島スカイウォークへと来ていた。

……高級車ってあたりで大体察してもらえると嬉しいのだが、今回のお相手は【黒澤(くろさわ)ダイヤ】。

 

沼津市内浦における元網元の一つである黒澤家、その家系の次期当主で、現浦の星女学院生徒会長たるその少女はいわゆるポンコツ。

出会った最初の頃はすごく厳格で堅苦しく、ちょっと接しづらいけど自分の家に誇りを持っていて、それに恥じない人間であろうとひたむきに努力を続ける一種の天才――だったのに。

だが彼女は弾けた。なぜ今はこうなってしまったのか、それは俺にも、妹であるルビィにもわからない。

 

 

「わたくし、今回デートプランを自分で用意しなければならないと聞き、調査しましたの」

「ふむふむ、まぁ妥当だよな。みんな悩むだろうし」

「そしてわたくしはある雑誌を読みましたわ」

「ほう、それとつり橋に何か関係があるのか?」

 

 

俺の問いに、ドヤ顔を隠せないダイヤは胸を張って声を挙げた。

 

 

 

「殿方は、『つり橋効果』というものに弱いということを、わたくしは知ったのです!」

「……まさか」

「そう、そのまさかですわ。つり橋効果とはつり橋で起こる物、さらにわたくしは丁度この日本一長いつり橋があることにも気づきましたの!」

 

 

……みなさん、これが黒澤ダイヤのポンコツ具合です、お納めください。

つり橋効果について解説するとだ、『不安や恐怖を強く感じている時に出会った人に対し、恋愛感情を持ちやすくなる効果のこと』。

どっかの国の学者さんが実際につり橋を使って、それから証明された理論だからこう呼ばれているが、別につり橋である必要性はない。

さらに言えばこの理論は恋愛関係にない男女を引き合わせるために使われたりすることが多く、俺とダイヤのような恋人関係の間柄には専ら意味があるとは思えない。

 

そしてここからが重要なのだが、俺は高所恐怖症だ。

つり橋とか恐怖感がマックスになるからダメ……あっ、もうなんか脚震えだした。

 

 

「さぁ、行きますわよ。ドキドキ感というものに身を任せればきっと今回の課題である刺激的な体験になることにちがいありませんわ!」

「まてっ、それは違う意味でのドキドキ――あっ待って待ってほんとまってやァァァァァ!!!」

 

 

この後、めちゃくちゃ気持ち悪さと恐怖感で吐きかけた。

ダイヤが予約を済ませていた老舗鰻屋でのうな重の味なんて全く分からなかった。

刺激的過ぎてほんともうわけがわからなかった。

おつきの人がいつでも吐けるように準備してくれていたのが嬉しかった反面情けなかったです。

あ、背中さすってくれてありがとうございました。

 

 

 

「おかしいですわね、本の通りならばつり橋の時に彼はわたくしに抱き着いてもいいはずですのに……」

 

 

 

***

 

 

 

「昨日は……お姉ちゃんがご迷惑をおかけしました!」

「いいよいいよ、体調は万全、何も問題がないから」

「でもでも……お姉ちゃんが迷惑かけちゃったからルビィがあやまらなくちゃいけないですし!」

「大丈夫、気にしてないって。だから今日は楽しもう。ね?」

 

 

翌日。一晩死んだようにぐっすり眠ったおかげか元気全開な俺は再び駅前に来ていた。

カナや曜に『その回復力があればどんな運動をしても平気……』と失礼なことを言われている身体だが、今回に関してはそんな身体で良かったと心底思っている。

 

そんな俺に対して目の前の少女は平身低頭せんばかりに謝り倒してくるのは、先日のお相手だった黒澤ダイヤの妹であり、これまた俺の彼女でもある【黒澤ルビィ】。

紅いツインテールを揺らす彼女は小動物みたいとAqoursメンバーの中でも好評で、マスコットのような立ち位置に座している子である。

 

 

「それで、今日は何処に行く?」

「ぁ……あの、その、えと……おっお洋服を見に行きたくて!」

「洋服か……確か静岡駅あたりに大きなデパートができたって話題になってたっけ……」

「そう! そこっ、そこに行きたくて!」

 

 

こうして考えるプランが同じになるのはうれしいものである。

静岡まではここからだと少し遠くて時間がかかってしまうが、折角のデートだし、電車でのゆったりとした時間も乙なものである。

と、駅まで向かうとルビィはバッグの中から二枚の切符を取り出した。

 

 

「あの……お父さんとお母さんが『遠いから新幹線を使いなさい』って……」

「えっ、指定席じゃないかこれ。いいのかこんなの貰って……」

「『いつもお世話になっている礼』だって……」

「……まぁ、ありがたく心遣いを受け取らせてもらうよ」

 

 

そんなわけで新幹線に乗るために隣の三島市まで移動、昼飯の駅弁を選んで新幹線で静岡まで行くことに。

食べながら話すのは新曲の衣装について。

まぁ俺から語れることはないから基本的に相槌うつだけだったりするんだけどね。

 

そんなわけで静岡駅。

無料シャトルバスがあるらしいのでそれに乗ってショッピングモールへ。

 

 

「ひっ人が多い……」

「離れないようにしなくちゃね、気を付けてルビィ」

 

 

ルビィは男性恐怖症だ。

いや、正確に言えば症状とかよりも単に男性免疫というか、男性に対する心構えが育っていないというのか。

少し前までは男と言えば父親以外知らなかったような子だったのだが、今では俺とこうして出かけられるようになるほど成長した。

 

ちなみに俺と話せているのに『元』ではないのは、未だに俺以外の男性には免疫が全くないのと、俺とですらまだ手を繋いだりは難しいから。

ルビィの親友でもあるマルから聞いたのだが、彼女の目下の目標は俺と長時間手を繋ぐことらしい。

 

 

「あっあの……その……」

「ん、大丈夫だぞ? ちゃんとみているからさ」

「いえ……あの……そうじゃなくて……」

 

 

いつも以上に強張る顔のルビィ。

その眼が向けられているのは……俺の手。

そうか、ルビィはここで頑張って克服しようっていうのか。

 

 

「ほい」

「ぁっ……」

「出来るとこまでやってみよう、ただ走ってどこかに行くのだけはダメだからな」

「ぁ、ありがとう……ございます!」

「いたいいたい、爪入ってるからもう一回お願い!」

 

 

結局ルビィの挑戦は三十分ももつことはなく、彼女は恐怖感が限界を超えたのか気絶をしてしまった。

何処からかついてきていたおつきの人の手伝いもあって大事に至らず、肝心の洋服探しはまたの機会に流れてしまったのであった。

 

余談だが、ルビィが気絶している間に、彼女に似合いそうな服を一着見つけたのでこっそり買ってて、帰り際にプレゼントしたら泣かれてしまった。

自分だけ受け取ってばかりなのが申し訳ないだとかいろいろ言ってたけど、正直俺との関係でそういうのを律儀に悩まれても、俺としては困ることしかないしなぁということで、次回以降のデートに持ち越してもらうことになった。

 

 

 

「次はちゃんと……手、繋いで歩けたらいいなぁ……」

 

 

 

***

 

 

 

朝、早くから今日の相手と共に向かったのはかの有名なFランド。

そこのチケット売り場にてその相手は深く深く、まるで今の雨空のようにどんよりとした空気を漂わせている。

 

 

「うう……なんで天気予報では晴れだったのに……!」

「まぁまぁ、これが駄天使ヨッコの真骨頂だからな。そう気を落とすな」

「だからヨッコじゃなくてヨハネっ! あとなんか堕天使の響きが違うわよっ!」

 

 

そう、今日のお相手は【津島(つしま)善子(よしこ)】。

小さな不幸が積み重なったことで堕天使を自称するようになってしまった子で、その名前は【ヨハネ】。

そのためか善子と呼ぶと大体ツッコミを入れつつ訂正してくる。でも俺は【ヨッコ】と呼び続けている。

趣味はゲームで、好きなものはチョコと苺。逆にみかんが嫌いで、千歌とはそこらへん相性が悪いらしい。

 

 

「うぅ……せっかくのデートなのに……こういう時にまで不幸が訪れなくていいじゃない……」

「雨でもデートはできるもんだぞ。と言うかお前さ、なんでジェットコースター苦手なのにここ選んだよ」

「こっここら辺だとここしかないんだから仕方ないじゃない! 本当ならゲームセンターとか行きたかったけど、ダメって言われたし!」

 

 

まぁいつもやっていることが禁止だからな、それは仕方がない。

後今回は雨が降っていると言ってもそこまで酷いものじゃない。

小雨位の降りなのだから気を付けていれば十分遊べるだろう。

 

 

「と、言うわけだ。折角だしお化け屋敷とかでも行ってみるか?」

「おっお化け屋敷ですって!?」

「……もしかしてそっちも怖いのか?」

「あああああなたってまさか知らないの!?」

 

 

めっちゃくちゃビビった振る舞いをするヨッコを見ながら俺は考え込む。

はて、このFランドのお化け屋敷とはそこまでやばいものなのだろうか。

あいにくとCMで見たことがあるのがジェットコースターなどの絶叫マシン系だけだったりするのであんまりわからない。

ただお化け屋敷好きだから行ってみたいんだけどなぁ……

 

 

「うぅっ……だっ大丈夫よ、この堕天使ヨハネにとって幽霊など恐るるに足らぬ幻影……我が伴侶ルシファーの願いをかなえることに怖れなどないわ!」

「戦慄っておっそろしい名前付いてんだなこのお化け屋敷」

「無視しないでよっ!」

 

 

めっちゃヨッコの顔が青ざめていて震えているのだが、まだ挑んでもないところ。

途中でリタイアもできるし、無理はさせないようにはしたいとも思っている。

幸いヨッコは絶叫くらいで済む子だ、これがダイヤだったら走って逃走して迷ってなんて目に合いそうなこと間違いない。

ほんと来てくれたのがヨッコで良かったと思っている。

 

 

「かっ感謝されるほどでもないわ……行きましょう、襲い来る亡霊なんてこのヨハネが操る漆黒の炎で――」

「あ、大人二人で。よし、逝くぞヨッコ!」

「響きがおかしいって言ってるじゃない! それとヨハネだってばぁ!」

 

 

意気揚々と半涙目のヨッコを連れていって、1/3も踏破する前にリタイヤする情けない結果だったのは誰かさんの予想通りだと思う。

言い訳をするならば、このお化け屋敷は俺の想像をはるかに超える恐怖だったことだ。

ヨッコがへたり込んでしまって、それを支えるために頑張ったのだが正直俺のほうもへたり込みたくて仕方がなかった。

寝る前に恐怖感がやばくて明かりをつけっぱなしで寝たのは内緒にしたい。

 

 

 

「こっ怖かったけど……かっ、彼が抱きしめてくれて……少し落ち着いたかも……こういうのなんていうんだったかしら……怪我の功名?」

 

 

 

***

 

 

 

翌日、今はまたもや静岡市側へと向かう電車の中。

あまり眠れなかった俺は隠せないほど大きなあくびをしてしまった。

 

 

「すごいあくび。話は聞いたよ、お化け屋敷すごく怖かったんだって?」

「ああ……ヨッコより……俺がビビってたかも……」

「それで眠れなかったんだね」

 

 

『見栄を張るところは昔っからだね』と俺の隣で笑うのは幼馴染の一人でもある【渡辺(わたなべ)(よう)】。

定期船の船長が親父さんで、海が大好きな水泳少女。

一時期梨子のことで千歌とギクシャクしてたこともあるが、今はもうそんなの関係なしに仲がいいみたいだ。

 

そんな彼女が自身の太ももを数度叩く。

なんの合図か一瞬戸惑った俺の頭を直後グッと引き寄せてくるからに、きっとこれは膝枕なんだろう。

頭だけはしっかり動いているが眠気でボーっとしてた分抵抗もできず、なすすべなく曜に体を預けてしまう。

 

 

「じゃあ少し寝ていよっか。折角鈍行列車使ってるんだし、時間はたくさんあるよ」

「ん……ん。ごめん」

「いいよいいよ。寧ろ今我慢して起きちゃって後で寝られる方が嫌だもん」

 

 

そっか。という言葉も出せないくらい口が重く感じる。

どうやら思った以上に眠気はマッハらしい。

ありがたく膝を借りて、しばし眠ることにしようと思う……

 

 

 

そんなこんなで静岡についた俺たち二人。

実は今日の目的はショッピングではない、SLに乗るためにここに来たのだ。

どうやら曜の父さんが常連の人からSL乗車の優先チケットだかをもらったらしく、使用期限が近かったということもあって曜に譲渡、俺と一緒に乗ってくるように勧められたらしい。

 

普段は船ばかりに乗っている曜は、こうしてSLに乗るどころか見るのも初めてらしく、珍しいものを見たとばかりに目を輝かせている。

乗車時間まではまだまだ余裕がある、少しゆっくりと眺めていても問題はないだろう。

 

そうして乗車した俺たち、昼ご飯もまだだということで駅弁も購入してあるので何も問題はない。

 

 

「わぁー! 景色がきれい!」

「内浦の景色とはまた違うものが視れるなぁ……」

「こっちにもこんな列車があればいいのになぁ……あ、でも船の方が私は好きだよ!」

「何に張り合ってんだか、全く」

 

 

曜のはしゃぎように苦笑しつつ、俺も窓の外を眺める。

いや、しかし本当にいい景色だ。

走る列車に流れていく緑と青と白の風景は美しい以外の言葉が出てこない。

そんないい気分で駅弁を開けようとしたその時――

 

 

「うわぁ、つり橋の下を走るんだね! 見て見て、つり橋の下に線路!」

「つり橋……? つり橋……デート……食事……うっ、頭が……!」

「ちょっと、頭を抑えてどうしたの? ……って、ああ、ダイヤさんとの日がまだトラウマなんだね……」

 

 

身体が震えて、いうことを聞いてくれない。

よっぽどなトラウマによる体の異常ははつり橋の下を走り過ぎてから少しの間続いた。

 

 

「あっ見て見て! あの橋の方!」

「今度はなんだ? ……なんだあの集団、自転車?」

「すごいよ! SLの横を走って追い抜こうとしてるんだね!」

 

 

なんかアイドルっぽいんだが芋っぽさそうな感じのある五人と、どう見てもアスリートにしか見えない人の合わせて六人が自転車にまたがって橋の脇に待機していたかと思えば。

突如SLが橋を渡り始めたとたんにその内の一人が追従するかのように自転車を走らせる。

カメラがあることから見てこれはテレビの撮影だろうか、一体何の企画の撮影なんだ、ドラマだとかそういうのにはとてもじゃないが見えないし。

あ、結局追いつけなかったぞあの人。

 

 

「私ねあの人たち見たことあるんだ」

「えっ、どこで!?」

「三津海水浴場。なんかね、『自転車で海のどこまで走れるか』とかいう看板掲げて、海の上を自転車で走ってたよ」

 

 

自転車で海の上を走る!? いや、今のご時世プラスチック板とかそういうのを浮かべてやることができるとは聞いた。

だから不可能ではないのだろう、しかしそれを曜が視かけていたとは……

 

 

「すごくずぶぬれだったけど楽しそうだったよ。変な人たちだなぁって思ったけど」

「正直その認識と警戒は正しいと思うぞ。後で調べてみるかな、ご当地アイドルとかこういうことやってそうだし」

「案外大物アイドルかもしれないけどね」

「まっさかぁ……でもどっかで見たことあるのは確かだからあり得ないとは言い切れないのか……?」

 

 

その後、帰った俺たちが先ほどのアイドルっぽい人たちを調べてみると、大物も大物。

最近ではアイドルと言うよりもバラエティや農家の仕事を多く行っていることで話題の超大手事務所排出アイドルユニットだった。

意外な瞬間に立ち会ったと二人して顔を見合わせてアホ面したのはまた別の話。

 

 

 

「寝顔可愛かったなぁ、ふふっ、船以外に乗って景色を眺めるのも楽かったから、また行きたいなぁ」

 

 

 

***

 

 

 

一日一人のデート作戦もいよいよおり返し。

俺は今日のお相手に連れられて伊豆の高級温泉に訪れていた。

結局は一庶民に過ぎない俺からすればこういうところにはかなり緊張を感じてしまうのだが、折角来たのだし楽しんでみたいところでもある。

 

 

「ジャーン! 今日はぁ、これまでのDateでお疲れなDarlingにマリーがServiceしてあげちゃう!」

「おお、なるほど、それで温泉宿かぁ」

「もちろんここは小原グループの旅館だからMoneyにも気を使わなくていいの!」

「わーすごいなぁ小原グループ……」

 

 

本日のお相手は【小原(おはら)鞠莉(まり)】ことマリー。

日本全国どころか世界の一部都市にまで展開しているホテル&旅館のチェーンカンパニーである小原グループ(鞠莉曰く)、その一人娘である。

カンパニーの正式名称は確かもっと複雑だったはずだが、マリー曰く『複雑だと覚えるのがDifficultyでしょ?』となってAqoursの中では小原グループという名義で定着している。

 

 

「Darlingとの時間は本当ならOne Nightほしかったんだけどぉ……Ruleだものね、仕方がないから夜になったらヘリで送っていく話になっているの!」

「わざわざありがとう、ならさ、また別の機会にでも行こうよ。今度は泊りありでさ」

「次のデートのお誘い? とってもAttractiveじゃない!」

 

 

ワイワイとはしゃぐマリーに微笑ましさを感じながら、二人で食事処へと出る。

ここ数日いろんなものを食べているが、梨子とヨッコ以外の三人には奢られてばかりで、なんというか情けなさがマッハ。

今日も例にもれず、お高めの食事処でマリーに良い値段のイセエビ料理を奢ってもらうことになった……

 

 

「なぁマリー」

「んーDelicious! ……Darlingは食べないの?」

「いや、いただくよ。だけどさ……ここ数日ずっと奢ってもらいっぱなしでどうなのかなぁって……」

 

 

イセエビをほおばりながら、マリーはプクーと不機嫌をあらわにする。

器用だな、そして頬が柔らかそうだなぁ。

 

 

「もう、変なことばっかりにDelicateなんだから」

「変なことっていうけどさ……なんというか気になるんだよね」

「私たちは普段Darlingにいろんなものをもらっているんだから、これくらいのPresentなんて当たり前なの!」

 

 

『だからそんなSmallな悩みはどこかにポイ!』と彼女に窘められ、食べることを勧められる。

腑に墜ちないところもなくはないが、彼女達からすればお金よりも大事なものをもらっているらしいし、彼女たち自身が気にするなと言っているのだ、納得してやるのがいいのだろう。

しかし、イセエビとか初めて食べたと思うんだが、なんというか、あまりわかんないけどおいしい。

 

 

「フフッ、Happyな顔をしてる。そんなに気にいったのかしら?」

「美味しいはジャスティス、なんか悩みがどうでもよくなった」

「そうね、DeliciousなDishはJusticeよね!」

 

 

美味しい昼食に舌鼓を打ち、しばしマリーと二人で伊豆観光と称して歩き回った後、本題の温泉宿ならでわな露天風呂へ。

流石に混浴することはないのか、マリーは俺に先に入浴することを促した。

……いや、まぁ俺もマリーもまだ清い体だからなぁ。

健全なおつきあいであるべきだよね、残念とは思ってないぞ、ほんとだぞ。

 

 

「あぁぁぁ……いい湯だぁ……」

 

 

貸切風呂ということもあって少し小ぢんまりとはしているが、ここから見える景色はやはり絶景。

少し日が暮れているだけあって夕陽に照らされた水辺は輝いていて、内浦でも、静岡でも見られなかった絶景に心を奪われそうになる。

いや、ほんと綺麗。超綺麗なんですよこれ。

 

 

「すっかり脱力しちゃってぇ、ここの温泉がそんなに気に行ったのね!」

「!?!?!?」

 

 

いつの間にかマリーが温泉に入ってきていた。

なんということだろう、普段なら誰かが後ろに来たときには気付いたというのに、温泉が気持ちよすぎて全く勘が働かなかったぞ。

 

 

「ねぇDarling、アナタの背中洗ってあげるわ」

「えっと、マリー、とりあえず一つ確認してもいい?」

「?……クスッ、No problem! ちゃんとBeachwearは着ているから!」

「そっか、じゃあ……お願いしようかな」

 

 

マリーの言葉に安心し、湯船の中でタオルを腰に巻いて、彼女の用意した椅子に座る。

マリーの方へと視線を向けると、彼女は確かに水着を着ていて、白い純白な、いたずらっ子とかのようで実は一番純粋なマリーらしい、そんな彼女の魅力を最大限に見せるビキニだ。

俺はほっと一息ついて背中を伸ばし、彼女が洗いやすいように体の位置を整えた。

――いや、待って。

 

 

「ねぇマリー」

「もう、EgoisticなDarling、今度は何?」

「俺ちょっと脱衣所に戻っていい? 俺バスタオル一枚だからすごく恥ずかしいんだけど」

 

 

彼女とは言え女子の前でバスタオルすらないとか恥ずかしさがマッハ過ぎてマリーの顔が視れない。

誰か俺の為に水着のズボンを恵んでくれないだろうか……?

 

 

「だからNo problemよ! マリーは寧ろAll OK!」

「ゴメンネ! 俺にとってはオールノットオーケーなんだなぁこれが!」

 

 

こちとら君を含めた九人と未だ清い関係だから今踏み出すわけにはいかんのぞ!

そうだ、般若心経を唱えよう。マルから教えてもらった仏法魂で煮立ち始めた欲望を鎮めるのじゃ!

 

 

「もう、そんなに抵抗するならマリーにだってIdeaがあるんだからねっ!」

 

 

彼女の声に一拍遅れ、俺の背中に衝撃が走る。

――マリーに抱き着かれたんだ。

 

 

「うわっふ!?」

「フフフ……Darlingが細かいことを気にならなくなるほどギューってハグしてあげちゃう!」

「アワワワワワワ」

 

 

柔らかいスベスベなものが背中にミッチリィィ!

あれ、まてよ、このままもう思考をほうきしはじめていいのではないだろうか、そうすればながれにみをまかせて……

 

 

「だ……Darling? 鼻血、鼻血!」

「ぁ……ぅ」

「キャー! Darlingが倒れたぁ! Medic、Medic!!」

 

 

 

その後、目を覚ますと既にそこはヘリの中で、マリーは隣でスヤスヤと眠っていた。

どうやら俺はマリーと混浴中、背中を流してもらう直前のあの瞬間で気絶してしまったらしい。

免疫なさすぎでしょ俺……でもいいのか? これがオチとしては最上の結果なのでは?

……いや、惜しいことをしたなぁ。

……うん、マリーの胸、背中でしか感じなかったけど、すごく柔らかかったです。

 

 

 

「Darlingってば、本当にChickenなんだから……うぅ、折角マリーがあそこまでServiceしたのに……」

 

 

 

***

 

 

 

「鎌倉と言えばお寺、マルらしいチョイスだなぁ」

「えっと……オラ、今まで興味があったのに行けなかったから……先輩も歴史が好きなので……その、ダメですか?」

「ダメなもんか、鎌倉って確かに一回くらい行ってみてかったからさ」

 

 

俺が今日訪れたのは神奈川県の鎌倉。

言わずと知れた高名な神社仏閣が多く揃っている都市。

鎌倉幕府は聞いたことがあるだろう、そこだ。

 

そんな場所をデート地に選んだのは【国木田(くにきだ)花丸(はなまる)】。

地元のお寺のご住職、その御孫さんである。

本が好きで、偉人伝だとか、歴史書にも興味が強い子だから、鎌倉に来たのだろう。

 

 

「それじゃあ、どこからまわろっか」

「すぐそこに円覚寺があるずら、そこから明月院に行って、鎌倉五山の第一位建長寺をまわるずら」

「おお、円覚寺と建長寺は有名な場所だっけ、前に鎌倉について調べた時にも名前出てたっけなぁ」

 

 

円覚寺と建長寺と言えば鎌倉時代の文化について調べると大体名前が出てくる。

文化というよりも、それに関係した建築物紹介のところだけど。

マルも鎌倉初体験だし、王道の場所をめぐるルートを選んだのだろうか。

 

 

「その後で東慶寺、浄智寺、鶴岡八幡宮をまわるつもりずら。お昼は……えっと、未定……かな」

「じゃあ、歩きながらで良い頃合いになったら見つけたところに入ろうか」

「そうしましょう! エヘヘ、憧れの鎌倉に先輩と来れるなんて夢みたいずらぁ……」

 

 

幸せで頬がゆるゆるなマルを見ていると、幸せを通り越して悟りを得られそうな領域に自分が向かいつつあることを知る。

マルの幸せそうな顔は天使、間違いない、これは世界の心理だ、素晴らしい。

 

 

「ああぁ……もう、なんともいえないずらぁ……」

「ああ……なんか、なんか圧倒される……まだ入り口だって言うのに……」

「先輩ももう立派な信徒ずら……この素晴らしさがわかるなんて、やっぱり一緒に来てよかったずらぁ!」

「ああマル、泣かないで落ち着いて深呼吸しよう、まだ入り口だから、せめて中に入ってから泣いてほしいなぁ!」

 

 

そうして盛り上がり、二人で土産屋や小さな景色に寄り道をしつつも、鎌倉仏閣巡りデートを続けているとお腹がすく。

まぁ歩いているし、健康的だから当然のことか。

 

 

「鎌倉っ、マジエンジェー!」

「……どうしたのその歌?」

「鎌倉に行くって言ったら千歌ちゃんが教えてくれた歌ずら」

「あいつ何教えてんだ……?」

 

 

千歌の教えるもんは相変わらずよくわからんなと思いつつ、お昼を探し始めた俺達。

偶然すぐ近くにあったので、いかにも老舗な感じのお蕎麦屋さんで一服することに。

美味しい笊蕎麦に舌鼓をうっていると、店員らしきお婆さんに突如話しかけられた。

 

 

「そこの若いお二人さんは学生さんかい?」

「ええ、はい」

「あたしと旦那の若いときみたいに仲睦まじいわねぇ」

「えっと……その……ありがとうございます……?」

 

 

突如若い頃について語りだすお婆さん。

はてさて、俺たち二人はそこまで仲睦まじくイチャイチャしているように見えるのだろうか。

いや、確かに否定できなさそうな感じではあることに間違いはない。

幸せですって感じのオーラを振りまいているんじゃないかって自分でも少し気になってたところだ。

まぁ実際幸せなのだから間違ってはいない、けど周りは黄にしてる様子無かったしきっとこれはわかる人にはわかるオーラなのかもしれない。

 

お婆さんのお相手はマルの方が上手なために、最初の生返事以外は全部マルが話し相手になっている。

普段から祖父であるご住職や、近所のお爺さんお婆さんたちと混ざってゲートボールをすることとかもあるマルだからこそ、お婆さんとの会話はとてもスムーズだ。

これがマルの魅力の一つであり、マルにしかない魅力でもあると、俺は思っている。

 

 

「……あらあら、ごめんなさいねぇ、お嬢ちゃんが聞き上手なもんで、ついつい話し込んでしまったよ」

「いえいえ、マルも色々なお話を聞けて楽しかったので!」

「彼氏とのでぇと邪魔して悪いねぇ、お詫びに代金半額したげるから、また来てちょうだいね」

「……ありがとう、御座います」

 

 

また鎌倉に来る理由ができたなと、店を出た後マルと二人で笑う。

美味しい料理と人情味溢れる店員さんに触れた今日のデートは、ここ数日ドタバタとしていた俺にとってもほっこりと和む、そんな日だった。

 

 

 

「次はオラと先輩とルビィちゃんと三人で……でもでも、やっぱり先輩と二人だけで来るのも捨てがたいずら……うぅ、なやむずらぁ……」

 

 

 

***

 

 

 

「メイド喫茶に行こう!」

「いや、どこのだよ」

 

 

マルと鎌倉へ行った翌日。

朝早く、それも始発電車もまだ動いていない時間に押しかけてきた千歌はそういった。

幸いにもこの町の朝は早く、港などに出向く人も多いために近所迷惑になる確率はかなり低い。

だとしても早すぎないだろうか。

前日に連絡が来なかったらきっと怒ること間違いなし。

 

ちなみにだが、前にもこんな時間に千歌がきたことあるので、梨子にそれを話したところ苦笑いで『ご愁傷さま……?』と同情されたのはまた別の話だ。

 

 

「メイド喫茶と言ったら一つしかないよ!」

「……もしかして、秋葉原か?」

「そうだよ! 東京の秋葉原! 梨子ちゃんの前に通っていた音ノ木坂があるところ!」

 

 

……なるほど、どうやら千歌は、憧れのμ’sの聖地へと行きたいようだ。

あのグループの聖地で且つメイド喫茶とは……

 

 

「【ことりちゃん】がいたって言われているあのメイド喫茶だよ!」

「……あれって確か都市伝説に近い噂じゃなかったか?」

「それが本当だったんだよ! それが発覚してから、そのメイド喫茶は整理券がないと入場できないんだって」

 

 

μ’sの一人、【南ことり】がバイトしていたと噂だったメイド喫茶で間違いない様だった。

というかマジかよ、整理券が配布型って場合、今から行かないとソレもらえなさそうなんだけど……

もしかして千歌がこんな時間に来たのは整理券がほしいからか……?

 

 

「えっと……えーとね……そうだね! うん、そうだね!」

「おい、今完全に視線が泳いでただろう。正直に言ってみ」

「あんまり考えていませんでした!」

 

 

よーしお仕置きだ。

千歌のこめかみをぐりぐりと拳で押してやると『ギャー!』と悲鳴を上げる。

まぁ、何も考えていないってことは俺に会いたいが為にここまで速く起きたのだろうから、許してやることもやぶさかではない。

 

千歌を弄るのもほどほどにし、ベッドから降りて、彼女を部屋の外へ追いやる。

 

 

「着替えるから外に出てろ」

「えー、別に知らない仲じゃないから隠さなくていいよ?」

「そういうことを女の子が言わない」

 

 

言葉に反してすんなりと部屋を出る千歌。

扉を閉め、さっさと着替え、荷物をもってリビングへ出る。

 

財布の中身ももちろん確認した。

ここ九日にわたるデートの為にお小遣いなどもろもろを前借したことで財布も分厚いのだが、実は梨子とヨッコの時以外俺がお金を使うことが一切なくほとんど減っていない。

……俺の彼女にそれなりの金持ちが多すぎて困る。

 

 

「あ、そういえば朝ごはんどうする?」

「あー、俺は別に何でもいいが……確かまだご飯が残ってる、お茶づけとかでもするか?」

「わーい! じゃあチカは鮭茶漬け!」

「はいはい、少し待ってろ待ってろ」

 

 

そうして茶漬けをかっこむと丁度良い頃合い。

始発電車に乗り込める時間なので千歌を連れていざ東京。

スマホの便利さの恩恵にあずかりつつ、三時間かけて東京秋葉原へと到着した。

 

 

「わぁー! すごいね、ここがあのμ’sの本拠地!」

「おい、そこライバル校とか言われているUTX学院の前だぞ」

「違うよそうじゃないよ、ここが聖地! 憧れの聖地なんだよ!?ハッ!そうだ、ここに来た証拠としてこの辺にAqoursの旗を設置しよう!ちなみに今のは聖地と設置をかけてみたよ!旗とかないけどね!」

 

 

旗持ってきてたらすぐさま止めてるところだから持って無くてよかったわ。

とりあえず喧しいから少し静かにしなさい。

今何時だと思っているのでしょうかこの娘は、朝の九時ですよ。

 

 

「あっ……えへへ、ごめんなさい」

「それと、先の目的は整理券だろ?早くいかないと」

「そうだった、売り切れる前に急げー!」

 

 

なんとか整理券を獲得した俺たち。

時間は昼間少し過ぎたあたり、だいたいおやつ前だ。

まだまだ時間があるし、折角だということで音ノ木坂学院の前と、あのμ’sの一人【東條希】が巫女をしていたという話がある神田明神へと寄ってみることに。

今日は世間的にも休日だということがあって人が多いと思ったのだが、まだ朝早いためかほとんどいない。

 

そんな神田明神でμ’sの痕跡一つ一つに大喜びする千歌。

元気いっぱいで体力も有り余っているんだろうが、ここではしゃいで帰りに動けなくなると困るものだ。

 

 

「そんな柔な体してないよ!」

「そういって昔からおぶわれたりしてるのはだれでしょうねー」

「うぐっ……きをつけます……」

 

 

よろしい。

そうしてしばし神田明神を堪能した後、UTX学院スクールアイドルである現A-RISEのライブ映像が流れるということで、UTX学園前に来てみた。

俺たちがついたときにはすでにライブ映像が流れていた。

いつも千歌に薦められてμ’sの映像は見ていたのだが、それとは違うグループのライブ映像

……だが、なんだろうか、何かが足りないって感じてしまう。

 

 

「ほえぇ……これが東京の……。実力はおよそ53万といったところかな……!あ、今のは実力と、かの有名な龍の玉を7つ集めるマンガの戦闘力をかけてみたっ!」

「……うーん……」

「……どうしたの? ツッコミもしてくれないなんて……」

 

 

千歌が何かを言っているが、なんとなくでしか耳に入ってこない……

なんだろうか、何かに縛られてるって気がする。

なんか……なんか、楽しそうじゃない。

 

 

「おーい!」

「うぁっ! なっなんだよ、驚かせるなって……」

「なんか集中していたから、何だろうって」

「ああ……」

 

 

ああ、わかった。

いつも千歌たちAqoursの楽しそうな雰囲気に慣れ親しんでいるからか、違和感を感じたんだ。

でも……千歌はμ’sに憧れている。それはもしかしたらこのテレビに映っている人たちのような結末を迎える可能性もあるのだろう。

……やめておこう。折角のデートなんだ、そういうことを考えても仕方がない。

 

 

「何でもないさ、俺の気のせいだよ」

「そっか…………ねぇ」

「なんだ」

「チカはね、μ’sの穂乃果ちゃんに憧れてるけど、だからといってAqoursらしさを失ってまで、μ’sに憧れたくはないよ?」

 

 

俺の考えを見透かしたかのように、彼女は俺にそう告げる。

それはこの場では俺にしか届かない、俺にしか通じない言葉で……

……千歌は俺の思っていた以上に強くて、たくましい子だったことを再認識した。

 

 

 

「わぁー! スクールアイドルのグッズがいっぱいだぁー!」

「おお……ルビィとか連れてきたらきっとすごい喜びようだったろうなぁ……」

「これはここ限定のμ'sグッズがあるに違いない! 突撃ー!」

「アッ、ちょっと待てって!……まぁ、好きにさせてやるか」

 

 

あの後、メイド喫茶を体感し、千歌がまた感動でトリップしたりと色々あったが無事に退店。

なんというか、あの噂だけで人気になったわけではなく、元からあの店がすごいのだろうなということも感じさせられた瞬間だった。

 

そして俺たちは秋葉原にあるスクールアイドルグッズを取りそろえた店へ入る。

千歌はμ’sのグッズなどに興味津々だったが、俺の目的はたった一つだけだ。

――Aqoursのグッズはあるのだろうか、ということだ。

 

 

「……ないな」

「お客様、どのスクールアイドルグッズをお探しですか?」

「ああ、いえ、お構いなく」

「かしこまりました、ごゆっくりご覧ください」

 

 

やはり、まだデビューしたばかりのスクールアイドルだからだろうか……

少し気落ちするが、仕方がないことかもしれない。より一層、宣伝にも力を入れなければな……

 

そう強く気合いを入れ、店を出て、そこで千歌と落ち合おうと思った矢先――

あった、あったのだ。Aqoursのグッズスペースがほんのちょっとだけ。

九人がスクールアイドルとして活動している証明がそこにあったのだ。

 

 

「君、Aqoursのファンなの?」

「あ、え?」

「ああ、ごめんね、えらく熱心な目でグッズを見ているからさ、ついつい同志かなって思ってしまって」

 

 

グッズを見ている俺に、一人の男性が話しかけてきた。

同志、という言葉から見て、この人はAqoursのファンなんだろう……

 

 

「ええ、まぁ。最近スクールアイドルに興味持って、そこで知ったので」

「そっかぁ……ああ、僕はね、あのμ’sを結成時から応援してたんだ」

「はぁ……?」

「うん、いきなりでごめんね。それでさ、μ’sが解散前に無名だったスクールアイドルたちを集めて一つのステージをしたんだけど、知ってる?」

 

 

知ってるも何も、千歌がそれについて語ってたこともあるからわかる。

千歌はたびたび、μ’sに感銘を受けたその時から俺たちに語ってたんだし。

Yesの意味を込めて軽くうなずくと、男性は微笑み語り続けた。

――この人、笑顔がめっちゃイケメンなんだけど。

 

 

「その時に、僕は衝撃を受けたんだ。初めてμ’sと、当時絶対王者としても話題だったA-RISE以外のスクールアイドルをしっかりみて、輝かしく感じたんだ」

「なるほど……」

「それでね、あの時のような衝撃を、久々に僕は感じたんだ、このAqoursに」

 

 

語り続ける彼の顔は幼い子供のように無邪気で、とっても楽しそうで。

 

 

「まだうまく語れるほどの言葉を持ち合わせていないけど、きっとこの子たちは大きくなる。輝きが確かにあるって、僕はそう思った。だから、この子たちのファンになったんだ」

「……ありがとう、ございます」

「……? なんで君が感謝するかはわからないけど、同志は歓迎するよ。一緒に彼女たちを応援しよう!」

 

 

ああ、見てくれる人はいたんだ。

嬉しい。嬉しい。

俺のことじゃないのに、実際に歌ってるのは、踊ってるのは彼女達だってのに。

まるで自分のことの様に涙が出て来そうになる。

 

 

「ああ、ごめんね! 僕行かなきゃいけないところがあったんだ! それじゃあね、また会おう同志よ!」

 

 

嵐のような人だった。

でも、幸いだったかもしれない。情けない顔を見せなくて済んだのだから。

急ぎ足で店の外に出て、千歌にメールを送る。

――さて、千歌が出てくるまでに少しでも情けない顔を引き締めないとな。

そう決意して見上げた空は、ついさっきまでと打って変わって、雲一つない澄みわたるような空だった。

 

 

 

「μ’sのグッズとかいろいろ買えてよかったぁ……あとは、彼がチカたち以上に悩んでるんだから、もっと頑張っていかないと! 高海千歌、ファイトだよっ! チカも頑張るチカ!なんちって~!」

 

 

 

***

 

 

 

千歌との秋葉原デートから帰ってきたその夜。

俺のトークアプリに一件のメッセージが送られてきた。

送り主はカナこと【松浦(まつうら)果南(かなん)】。

 

海が好きで、ダイビングショップを営むお爺さんと一緒に暮らしていて、暇があればだいたい海に潜っている感じの人。

彼女は俺と曜、そして千歌の幼馴染で、Aqoursの中でも苦労人のような存在。

そして、皆のお姉さんみたいな立場なので、困った時にはカナに相談したりするのがデフォルトみたいなところがある。

……最近は時折胃薬を持っているところも見えるから気遣ってやらねばならんのだが……

 

そんな彼女はこのデート企画の最終番手。

内容もきっと明日の待ち合わせについてだろうと思い、画面を見たところ……

 

『明日は好きな時間まで寝てていいよ(*’▽’)』

『あ、でも夕方まで寝てるのは勘弁してね(-“-)』

『じゃ、また明日ねノシ』

 

 

「……んー、デート……するんだよな?」

 

 

肝心の待ち合わせ場所については何も書いていない。

いや、そりゃあそうか。俺が起きる時間については不透明。

好きに寝てていいと言ったが場所を指定してしまった場合、実質的な時間指定となる可能性もある。

昔幼馴染三人でカナのサプライズバースデーをやろうとして、実は気付いてたけど気付かないふりに徹していたほど、勘がいい彼女のことだ。そこまで考えていたのだろう。

 

 

「ん……まぁ、カナの気遣いにありがたく乗っておこうかな」

 

 

正直ここ数日、内浦の外に出ることしかないので疲れているのは否めない。

今日とかは千歌が早朝から家に来ていて少し寝足りないし。

はっきり言ってカナの気遣いは心に優しい。

ゆっくり寝よう、起きてからカナに連絡を取ればいいや……

 

 

 

「……ん、ぁあ……何時だ……?」

 

 

目を覚ますと空は既に日が昇っていた。

いや、当然だろう。昨日の千歌がやってきた時間の時点で既にうっすら明るかった。

まぁ、とりあえず昼前だろうとは思う。なぜなら、俺の部屋に西日が当たらないようになっているから。

 

まぁそんなことはいい。目が覚めたのだ、とりあえずリビングまで行き、食事の確認をしなければ……

カナからの連絡はないし、もうお昼時っぽいし、昼飯を取らねばならない。

 

 

「あ、思ったより早く起きたね。と言うよりも二度寝からようやくお目覚めって言ったほうがいいかな?」

「……なんでいるんだ」

「やだなぁ、今日は私の番だよ? それとも、昔からお互いの家に通ってた私がいることが、そんなにおかしいの?」

 

 

違う、そうじゃない。

色々と驚きで頭が回ってないんだ。

と言うか二度寝って何だ、二度寝してたのか俺。

 

 

「してたよー? 一回起きてトイレに行って、水呑んで部屋に戻って寝たんだけど……時間は確か八時だったかな」

「俺記憶がないくらい寝ぼけてたのか……てかカナもそんな時間に来てたなら起こしてよかったのに」

「それじゃあ昨日送ったメッセージの意味ないでしょ? 私も最初からこのつもりだったからいいの。お昼はどう? お爺ちゃんからおすそ分けで魚もあるから海鮮丼とかでもする?」

「あー……じゃあ、おねがい」

「任せて、活きの良い子が取れたらしいから気合い入れて捌いちゃうよ」

 

 

カナの調理をテーブルに座って待つように言われたのでテレビでも戯れに点けてみる。

テレビでやってるのは偶然にも曜とSLに乗ってた時見かけた超大型アイドルグループのバラエティだった。

自転車の蛇行だけでどこまで走れるのかって企画をやってたが……よくもまぁアイドルがこういうことをやるもんだなぁと。

 

 

「出来たよー。醤油とわさびはいつもの量でいいよね」

「あ、よろしく」

「はいはい……はいお待たせ!」

「おお、いい色だなこの魚……」

「でしょでしょ、お爺ちゃんが『こんなにいいものとれんのは数年ぶりじゃのぉ!』ってはしゃいでたんだ」

 

 

『召し上がれ』と勧められ、まずは一口……うまい、魚の脂がいい感じに乗ってて、身が引き締まってて旨い。

そんな美味しさに満足している俺をカナはニコニコと眺める。

……はて、カナは食べないのだろうか?

 

 

「いやいや、実はもう軽く済ませてるんだよね。だからそれは君だけの分だよ」

「ん、そうか。じゃあ、遠慮なく」

「あ、ご飯粒ついてるよ」

 

 

カナはナチュラルに、俺の口元についているらしいご飯粒をキスするように取る。

カナはこういうことを平然と行って、さらに余裕たっぷりな感じだからちょっとプライドと言うかそんなもんがだんだんと急降下する……

多分Aqoursのメンバーで『尊敬できる人物を一人だけ挙げるなら』と言われたら間違いなく彼女を推す。それくらいお姉さんなのだ。

 

 

「もう、あまり取り乱さないでよ、恥ずかしいからさ」

「どの口がそれを言うか。全然恥ずかしそうじゃないじゃんか」

「ふふ、まぁね、好きな人にしていることが恥ずかしいって、思うことはないよ」

「……ほんとずるいぞカナ」

 

 

自然な気持ちでこういうことを言われるとずるい。

顔が熱くなるし、なんかもうカナの顔をまっすぐ見れない。

 

 

「……それでさ、今日この後って何かあるのか?」

「んーん、なーんにも。今日のデートはこうしてのーんびり過ごすことだよ?」

「……あれ、いつもやってることは禁止って縛りは?」

「あーあれね、千歌が私の禁止事項は『海』って限定しちゃったからさ、じゃあ海以外なら何でもいいんだねって確認も取ったんだ」

 

 

ずるい。さすがカナずるい。

ニタニタと悪だくみをするような笑顔を浮かべるカナは話を続ける。

 

 

「君ってばこの八日間ずうっと外に出てたでしょ?」

「まぁ、みんなよく考えてくれたなぁって思ったよ」

「だから今日はご褒美もかねてかな。ゆっくり休んで、明日からも頑張ろ?」

 

 

……やはりカナには敵わない。

俺自身はあまり疲れている感じはしていないのだが、カナから見て今の俺はだいぶ疲れたようにも感じるのだろう。

まぁ、八日間連続でひっきりなしに外へ出続けている相手にはそういう印象も抱くものだ。

きっと俺が逆の立場でもそう感じるだろう。

 

 

「あとね、私こうやって二人きりで君と過ごしたかったんだ。いつもだったら千歌も曜もいるから、二人きりっていう機会も少ないしね」

「カナ……」

「夫婦みたい。私たちが結婚したらこんな生活っていうのもよさそうだね」

 

 

仕事に疲れた俺をカナが癒してくれる生活か……すごくいいぞ。

カナが出迎えてくれて『ご飯にする? それともお風呂?』とか言ってくれる日々……

 

 

「なーにを想像しているんだか。でも、そんな生活もいいでしょ?」

「はい、いいと思います!」

「即答されるとちょっと照れるね……」

 

 

そしてカナの目的通り、彼女と一緒に掃除洗濯の家事を行い、ゆったり過ごした。

そして時刻も夕方、そろそろ陽が沈み始める頃合いになると、カナが突如身支度を整え始めた。

 

 

「ほーら、行こう?」

「えっ何処に」

「いつも通りの恰好で大丈夫、懐かしいところだから」

 

 

懐かしいところ……きっと俺たち四人の思い出の場所。

たくさん思い出のある内浦の地、彼女はその中からどこに行くというのだろうか。

期待に胸を膨らませ、外出の準備を整え、カナと共に家を出る。

家を出て向かったのは山側。

しばし歩いて、着いたのは内浦の景色が見渡せる一番高いスポットだった。

 

 

「懐かしいよね」

「そうだなぁ、昔はよくここに登ってたよな。千歌が」

「そうだね、いつも登ってたよね。千歌が」

 

 

二人で顔を見合わせてクスクスと笑う。

俺たちの間では千歌がいつも何かの起点だったし、今でもそれは変わっていない。

だからこそ俺たちの思い出にはいつも千歌がいる。

……カナの言う通り、俺達が二人きりで思い出を作るってことは、確かに珍しいのかも。

 

 

「ねぇ、昔の約束覚えてるかな?」

「ここでした約束か?……いくつかあったな」

「ふふっ、そういえばそうだったっけ。私は一つしか覚えてなかったなぁ」

 

 

確か、『ずっと一緒』とか子供らしい約束ばっかりだったけど……

頬をかきながらカナに告げると、彼女は少し頬を膨らませる。

 

 

「もう、私はしっかり覚えているのに。『皆君のお嫁さんだよ』って」

「……あっ! それした! その約束した!」

「まったく……ちょっとくらいロマンチックにさせてほしかったなぁ」

 

 

俺たちがしたその約束。

幼い頃男女で仲がいいとたまーにある『大きくなったら○○と結婚する!』的な約束。

この場所で、千歌と曜とカナは俺とそう約束した。

ただ……

 

 

「あの時は大変だったなぁ」

「そうだね、私もだけど、三人とも譲らなかったし」

 

 

『私が彼のお嫁さんになるの!』

きっかけは三人が引き合わない大喧嘩、あの時が多分、一番俺たちの関係が壊れる危機だったかもしれない。

俺が止めようにも止められず、『君は黙ってて!』と有無を言わさずに争いが激化したあの時。

 

 

「あんときはほんとやばかった。いつ殴りあいしてもおかしくなかったし」

「君が突き飛ばされてなかったらきっと本当に殴りあいしてたとは思うけどね……」

 

 

喧嘩の結末は、俺が三人の間に割って入り、三人が俺を『邪魔!』と言って突き飛ばしたこと。

派手に飛ばされた俺をみて正気に戻ったのか、三人はおろおろとしてたっけなぁ。

 

 

「あの時『みんな仲良く!』って君が泣きながら言わなかったらどうなってたんだろね」

「なんでそこまで覚えてんだよ、恥ずかしいじゃん」

「あの時だよ? 私たちが君を共有しようって、君に共有されようって話になったのは」

 

 

――俺は泣いて、怒って、三人にこういった。

『みんな仲良くしろっ! 喧嘩するならお嫁さんとかいらない!』

ここまでだったらまだ三人が謝って仲直りするだけで終わるだろう。

だが、子供の頃の俺は何をどうしたのか、こんなことを続けた。

 

『いっそのこと、俺が全員結婚してやる!』

 

 

「君のおかげで、Aqoursのみんなが君を好きになっても困らなかった」

「……なぁ、カナ、もしかしてこの俺たち九人の関係って……」

「そ、君があの時叫んだ【約束】。アレがあるから、私たちはこうして仲良くなったんだよ?」

 

 

千歌が最初に言い出したこの九人の関係。

彼女はあまり喧嘩とか嫌うから、そういう理由でみんな仲良くなってほしいという感じだったのだろう――とずっと思ってた。

なるほど、そっか、千歌は、曜は、カナは、俺との約束をずっと覚えていたのか……

 

 

「でもまさか、私たち三人どころかあの男性恐怖症なルビィどころか堅物なダイヤまで落としちゃうなんてねぇ」

「いや……あの、カナ、ちょっと怒ってない?」

「べっつにぃ、今回のデート企画が君とゆっくりすごせる時間がそろそろ欲しいなって思ったから、千歌にそそのかしたわけじゃあないよ~?」

 

 

笑顔の確信犯ここに極まる。

つまり俺が幼馴染の君達にかまってあげる時間が減ったからやきもきしてたわけですね!

それと俺が節操なしに見られてますね! いや状況的に否定できないんだけど!

 

 

「……まぁ、でも、君を巡ってぎくしゃくするより、こうやって仲良くできてる方が私は好きだな」

「そうだな、俺も喧嘩してるより仲がいいほうが好きだ」

「だからありがとう。今日ここに連れてきたのは、それは言いたかったから」

 

 

夕陽に照らされたカナの顔は、珍しく赤く、紅くなっていた。

 

 

 

「さて、それじゃあデートの最後に……と」

「おい、カナ、どうして俺の腕を縛るんだ?」

「どうしてって……まだ私の独占時間は終わっていないでしょ?」

 

 

家に帰った俺を待っていたのはカナからの唐突の拘束。

キョトンとした表情をしながら俺の腕を巧みに縛っていくカナ。

いや、お爺さん心配しない? 大事な孫娘を幼馴染とは言えども男の家に遅くまでいさせるのは心配しないの?

 

 

「大丈夫、お爺ちゃんには『決めてこい』って応援されたから」

「何をどう応援されたのか気になったんだが」

「それはもちろん君とのs――」

「あーあー! 聞こえなーい! 俺は何も聞いてなーい!」

 

 

カナが俺を寝室に追いやりながらとんでもないことを言ってのける。

と言うか俺の両親は何処だよ、なんでもう夜遅いのに帰ってこないんだよ!

 

 

「あ、お義父さんお義母さんからも『責任は取らせる』って言ってもらったから。まぁむしろ私がとる側なんだけど」

「千歌ー! 曜ー! いっそのこと誰でもいい、助けてぇぇぇ!」

「こーら、騒がないの。大丈夫天井のシミを数えていれば終わるって鞠莉から借りた雑誌にはあったんだから……ああ、緊張してきたなぁ」

「それは絶対俺が言う側! 今の現状は俺が言われる側――イテッ!」

 

 

カナは俺をベッドに付き倒し、一度深く深呼吸をする。

あっ、だめだ、これ詰んだやつだ。

 

 

「まぁまぁ、細かいことは気にしないで……」

「これから起こることはどう見ても細かくないよ、重大だよ!」

「私にとってもこの瞬間は大事だよ。初めてのキスは千歌に、混浴は曜に譲っちゃったけど、今度こそは譲れないから」

「千歌のほうは言い逃れできないけど曜のほうは弁解させてほしいかなぁ!」

 

 

混浴と言うより事故だから、偶然の産物だから!

そんな俺の叫びを意に介さずゆっくり、ゆっくりとベッドに歩み寄ってくるカナ。

ああ、マリーとのデートの日ではまだ『清い交際で』とか言ってましたけど、そんな関係では俺たち居られなくなってしまうようです。

 

 

「大丈夫、私も……初めてだから」

「あの、震えてるならやっぱやめな――」

 

 

 

……カナの決意には、勝てなかったよ

 

 

 

後日、カナとの事案が千歌を通じてメンバー全員にバレ、一騒動起こったのはまたいつかの話にしたい。

 

 

 

「もうお爺ちゃん! 『孫はまだか』って言うけど私まだ高校生だよ! せめて彼が卒業するまで待ってってば!」




友情→相互認可ハーレム関係
努力→各々が描くデートプラン
勝利→大正妻カナエル

読了ありがとうございました。
どうもおはこんばんにちわ、作者の秩序鉄拳です。

今回はAqours九人一人一人とのデートを書いてみました。
ただし私は『このシーンだけ書きたい』と言うところしか書かなかったので、もしかしたらみなさんの中に『想像できる』隠れ話があるかもしれません。
もしあるならばぜひ書いてください。それが『あなたの描くサンシャイン』なのです。
そんな私が一番描きたかったサンシャインはご覧の通り果南ちゃんです。
大正妻カナエルという勝利の象徴、果南はいいお嫁さんでしょう。きっとそうです。

さてさて、今回で第二回目となる鍵のすけ氏主催のラブライブ!サンシャイン!アンソロジー企画。
第一回にいなかった作者の方々も多くいることでしょう。
そして、きっとこの企画は第三弾も訪れることでしょう、その時は皆様も是非作者として参加をしてみてください。
次回企画にて、貴方の作品が読めることを願っています。

それでは私の手番はここまで。
後書きまで読んでいただき、大変ありがとうございました。
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