ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――ついに来た』 作:鍵のすけ
――アポイント
――サービスオーバー
――サービスオーバー
デュースに持ち込んだまでは良かったが...食い下がってもまた離される。ここで粘らないと応援してくれたアイツ等に示しがつかないな...なんとしてもあと二点取らなければ!
とまぁ意気込んだわけだが、甘く上げてしまった羽根をコートのライン際にスマッシュで叩き込まれ...
――アポイント
俺の敗北が決定した。勝てば全国への切符が手に入るという試合で負けてしまった...まだ来年があるとは言えどもツラいな。なまじあと一歩のところまで行けたことが、敗北の実感を助長しているのがまた何とも言えない。
こうして高校生活をバドミントンにつぎ込んだ、俺の高二の夏が終わった。
***
時は戦国でもなければ争いも無い平和な昼下がり。梅雨明けも近づき暑くなってきたこの時期になると、去年の試合を思い出してしまう。あと一歩、というところで悔しい思いをした...全国大会という夢の舞台のほんの少し手前まで届いていたのにな。
「なーに辛気くさい顔してるのよ。まだ学校は半分しか終わってないのに、今からそんなんじゃ午後の授業大変よ?」
「やかましい喜子。せっかくの昼休みを浪費していいのか?駄天使なら布教して信者でも増やしてろ。なかなかに名案だと思うんだがどう思うよ」
「浪費か有意義かなんて私が決めることだからほっときなさいよ...そ・れ・に!私のことはヨハネって呼びなさいっていっつも言ってるでしょ!?しかも堕天使の漢字おかしかった気がするし!!」
こいつは俺の幼馴染...というよりかは腐れ縁で繋がってる
だが物好きだと思う反面、居てくれて助かるというのも本音だ。なにせ毎回俺の試合を見に来ては必死になって応援してくれるのだ。選手にとって"声援を受ける"ことはとてもやる気が出る。あいつの声はよく通るからな、さすがはスクールアイドルといったところか。
「お前は善子、呼び方は変えるつもりないぞ?ぶっちゃけ恥ずかしいし。なにがヨハネだ」
「う、うううるさいわねっ!堕天使なんだから相応しい名前にしただけじゃないの!!文句ある!?」
「分かったから叫ぶな...。っとそうだ、何しに来たんだ?昼休みは同じ部活の1年といるだろうに。ケンカでもしたか?もしくはお前の趣味に合わないやつの溜まりに溜まった鬱憤が噴き出たとか、どうだ近いだろ」
堕天使、とか言ってる時点で痛い子確定である。クラスで孤立してたとしても不思議じゃない。てかしてそう。あぁなんてかわいそうな善子ちゃん...。
「なにがケンカよ!なにが鬱憤よ!まずクラスで話してるのは基本ルビィと花丸だけだからトラブルなんて起きないわよ!!それに、堕天使である私が人の子と不和を起こすわけないじゃない。だってヨハネにはこの魅力があるんだからね」
「自分で友達いないって宣言してるようなもんだろ...やっぱりアホだな、駄天使だな。まぁいい、そのルビィと花丸って子はどうしたよ」
「教室の窓から外を見ていたら、一人でいるのを見つけてね。今日は別行動よ」
友人関係が築けているようで何よりだ。仲の悪いやつとアイドルするとか地獄だろう。
「それで?こんなところに一人で何してるのよ?」
「あん?...まぁ考え事だ。俺にだって人のいないところで考えたいことはある」
「ふーん。ま、どうせ去年の夏を思い出してへこんでたとかそんなんだろうし」
「なぜ分かった...?」
「顔に出ているのよ。このヨハネに隠し事なんて無駄よ、ム・ダ。どんだけ貴方を見てきたと思ってるの?
***
あの後、俺は妙に気恥ずかしなってその場を立ち去った。善子が何やらほえていたが知らん。あいつにかまうよりも、去年のリベンジを果たす為に練習したほうが有意義だろう。他人にかまけている暇はないのだ。
そうしてヤツから逃げおおせた後はまっすぐに自分の教室に戻った。昼休みも終わりそうだったからな。部活ばかりに身を入れて、学業をおろそかにしてはいけない。
「あ、帰ってきた!もう、お昼いっしょに食べようって誘ったのに~」
「すまんな、少し一人で考えたいことがあったんだよ。自分の目標を再認識してた」
「それは仕方ないけどさ...君がいないと寂しいの!」
教室に入るなり声をかけてきたのは
そう思って教室を見渡してみたが、どこにもいない。千歌とその二人を含めた三人は休み時間や放課後、下校にいたるまでずっといっしょにいるんだがな。確か善子と同じでスクールアイドルやってるらしい。こいつが、あの伝説グループともいわれるスクールアイドル"μ's"のファンだってのは知ってたが...まさか自らアイドルになるとは思わなかった。
スクールアイドル"μ's"――秋葉原にほど近い『音ノ木坂学院』出身。第一回ラブライブでは地方大会を棄権。しかし、第二回ではそれまで全国最強だったグループ"A-RISE"を東京大会にて下し大金星をあげる。最強を倒したものが最強に成り代わるのは必然、彼女らは見事全国制覇を成し遂げたのだ。
だが、彼女らの"伝説"はまだ終わらない。
開催が検討された第三回ラブライブ。開催されること自体は何ら不思議ではない。そこまで人気を誇るのだ、スクールアイドルというものは。そう、開催は普通だ。問題は
――アキバドームでのラブライブ開催――
ドームの貸し切りなんて簡単に出来ることではない。そこで運営は考えた。海外にまで"スクールアイドル"が広がれば、それは世間に対して無視できない影響力をもつ、と。ならばどうするか?優勝者の力を借りた。
――μ'sの世界進出――
その反響は凄まじいものだった。それはμ'sの進退を脅かしてしまうほどに。もともと彼女らは第二回ラブライブをもって解散する予定だったらしい。だが恐ろしい程に有名になってしまった...当然ファンは続けてほしいと願った。それは身勝手な要求、彼女らは聞く耳をもつ必要はない。程なく決断は下された。
――μ'sのラストライブ――
全国からスクールアイドルを集め、大規模なイベントを行ったあとしばらくして開かれる最後の
語り継がれることで物語は伝説となる。こうしてμ'sの伝説は広く知れ渡ることになるのだった。
「どうしたの?急に黙って...もしかして千歌といっしょにいるのは嫌、だったり」
「ん、そんなことはないさ。伝説を思い返していたんだ」
「よかった~...もし嫌われてたらすごいヘコんでたよ」
「それはよろしくない...元気という唯一の取柄を奪ってしまったら、千歌には何も残らないもんな」
「なにをー!そんなことないもん!何か残るって...残る、よね?」
さぁな。少なくとも仲良し二人なら何かしら見つけ出してくれるだろう...多分。さて、こいつと話していたらいい感じに時間も潰れた。気合いを入れ直して午後の授業も頑張りますかね!
***
昼の授業も終わり、部活に精を出す時間だ。昼間にアレを思い出してしまったからか非常にやる気に満ち溢れている。今日は居残りで自主練でもするかな...。
「フッ!フッ!フッ!ハィヤッ!――あーしんどい」
自主練といってもバドミントンで一人で出来ることなんて多くはない。多人数、せめてもう一人くらい手伝ってくれるヤツが欲しいものだ...。
そう独り言つものの返ってくるのは痛いほどの深閑。俺以外に誰もいない体育館はとても広く感じる。そんな折、俺の荒い息遣いのみが響く
何事か、と音のした方向に振り向いてみると人影が見えた。その影はこちらに近づいてきたが距離があるために顔までは判別できない。やっと識別できるほどに近くなり、その人物の顔を見たとたん驚いてしまった。
「え、ちょっ何でお前がここに!?」
「なによ、来たらいけないの?居残りしてるって聞いたから見に来たの...この心優しい堕天使ヨハネに泣いて感謝してもいいのよ?」
「何しに来たとか心優しい堕天使って何なんだとかお前に泣いて感謝することは生涯ありえんとか言いたいことは山ほどあるし、質問がかぶるが言うぞ...何でお前がここに?」
「何でもなにもさっき言ったとおりだけど。残ってるって聞いたから来てみた、それだけよ。それに、バドミントンも久しぶりにやりたかったしね。テニスと違って壁打ちとか出来ないから相手いるでしょ?仕方ないからこのヨハネが付き合ってあげる。というかそのつもりで来たんだけど...嬉しい?ううん、嬉しいに決まってるわ!嬉しいと言いなさい!!」
...予想の斜め上の回答が返ってきてフリーズしかけた。言い方こそ偉そうだが、善意であることが感じ取れる。正直こんなことを言われるとは思っていなかったからなんと言おうか困惑しているし、善子の言うことに同調するようで悔しいが――嬉しかった。
確かにこいつの言うとおり練習相手が出てきたというのもあるが、わざわざ"俺のために"来てくれたってのが本当にうれしい。...まぁ絶対に口には出さないが。チョロいと思われても癪だし、調子に乗られるのもウザったいからな。
加えてこいつはそこそこに上手い。俺が勧めたというか巻き込んだところ、意外にも筋がよかった。それからはちょくちょく教えたり試合もどきをしたりと、気づけば結構な腕になっていたのだ。出来るヤツと打ち合うことだけでも練習にはなる。
「あー...まぁぶっちゃけ嬉しいよ。俺も相手が欲しかったんだ、ちょうどいいタイミングで来たよホント。んじゃ早速やるか?」
「ふふん、スクールアイドルになってちょっとは体力ついたんだから!これまでのようにはいかないわ!」
「そうかそうか...じゃあ走らせるかな。それとも、そのちっちゃい背丈を攻めるか。悩む」
「ちっちゃい言うな!確かに男のあなたから見たら小さいかもしれないけど!周りの身長もたいして変わらないから平均よ平均!!」
「分かった分かっただから叫ぶな...よし、善子もからかったし練習するか!俺は必ず優勝するんだ、その為によろしく頼むぞ」
「ここまでずっと応援してきたのは誰だと思ってるの?私も東京行きたいんだから、優勝くらいしてもらわないと困るもの。そして東京で私のカンパをたーくさん作るの!このヨハネの魅力の前にたくさんのリトルデーモンが傅くのって...はぁ~ス・テ・キ」
叶いもしない妄想に沈んでるバカは放ってコートに入る。それを見て慌てて走ってくる駄天使。じゃんけんの結果、俺からのサーブになった。
行こうか、手加減はしない。
先制したのは少年。どうやらこの少年はフォアハンドでのロングサーブが苦手なようで、バックハンドサーブを主に使う。少年がバックハンドで構えたとき駄天...堕天使の少女が前に来たところにバックでのロングサーブを打ち込んだのだ。前に来たのにもかかわらず後ろに打たれてしまっては拾えなかったようだ。もう少し足が速ければ...やめておこう。
少年の得点が続き5-0、六回目のサーブだったが低めに狙いすぎた所為でネットにかかってしまった。これで5-1。この試合初めての少女のサーブだ。
フォアハンドサーブが苦手な少年とは逆に、少女のサーブはフォアオンリーだ。彼女の高く深いサーブは打った後にホームポジションに戻ることを可能とし、たとえスマッシュを打ち込まれてもあらゆる方向に対して素早く反応できる。そうやって反応したスマッシュを
先程と同じく高く深く上がったサーブを少年がスマッシュ。打った直後にヘアピンを警戒したのか前に出てきた少年だったが、
その後も取り取られを繰り返して20-19。少年が取れば勝利、少女が取ればデュースという場面。サーブは少年、しかし緊張からか疲労からかは分からないが痛恨のサーブミス。奇しくも去年の夏と同じ状況だ。20-20、デュースは二点連続でポイント出来た者の勝利となる。
つまらないミスでデュースにもつれこんでしまった。なんか、俺の知らないうちに強くなってやがる...。とんだ誤算だった。しかし同時に喜ばしい。拮抗しているヤツとの試合は楽しいし特訓にもなるから。
「まさかお前が....ここまで強くなってるとはな....嬉しいぜ」
「案外楽しかったし....うちの部活でも流行ったり流行らなかったり....してたから」
「なんだ、バテバテじゃねーか....辛いんだったら....さっさと降参したらどうだ?」
「うるさい....そっちだって今にも死にそうじゃない....このヨハネに屈しなさいよ」
二人とも疲れに疲れていた。俺だって早いところ休みたいさ...だが女に負けるのは許容できん!それに純粋に勝ちたいんだよ!
「ッラァ!!!」
「くぅ...!」
気合一閃。雄たけびと共に打ち出した羽根はコートのライン上に叩き付けられた。自分でも渾身のスマッシュだったと思う。これであと1点取れば俺の勝ちだ!何としてでもぶんどってやらぁ!!
「このまま負けてやるもんか!!いっけぇ!!!」
「おまっ、どうやったらそんな細い腕で拾えない速さのスマッシュ打てんだよ!?」
「気合いとこの魅力ね!!」
「やかましいわ!」
――21-21――
「シャアッ!!」
「そんな声出しといてカットはズルくない!?」
「騙されるほうが悪いんだよアホめ!」
――22-21――
「これで決めてやるわ!!」
「
「はぁ!!?ネットインとかマジありえねー!」
「これも実力のうちよ!」
「うるせぇ!そして、なによりも許せないのは...中二技にやられたことだ」
「誰が中二よ!」
――22-22――
「そろそろケリをつける!」
「イッチマイナー!!」
「きゃあ!乙女の顔を狙うなんて卑怯じゃない!堕天使であるこの私を怒らせるとどうなるか...」
「ハハハ、ナンノコトヤラ...それと乙女とかいう寝言は寝てから言えよ」
「ヨハネは乙女よ!この外道!!」
――23-22――
「行くぞ、いい加減これで最後にしてやる」
さすがにバテバテでこれ以上動けん。それに相手は違えどデュースでの接戦から負けた、なんて経験は一回でいいしこれからもしない。しっかしここまで白熱した試合になるなんて思ってなかった。10点取られればいいほうかとか勝手に予測してたし、こんなに強くなってるとは計算外だった。
こんなにも熱い試合を提供してくれた善子に感謝の念を抱きながら、ラストにすると決めたサーブを打ち放った――
***
体育館を二人で片づけてからの帰り道、せっかくだったので善子と帰ることになった。試合にはしっかりと勝ってきた。試合の後は二人して疲れすぎて動けなかったりしたが、今日はあまりにも充実した居残り練習だったな。
「それにしても、お前強かったな~。マジで負けるかと思った」
「...まぁちょこちょこ練習したり素振りとかやってたし。あーでも悔しいわね...でも打ってる姿はかっこよかった」
「はぁ?どうした急に。そんなこと言ったらお前だって可愛かったぞ?特に点数取られてヘコんでるとことか」
「か、かわっ!?....それよりも!このヨハネに勝ったんだからしっかりと優勝してきなさいよ?勝ったらヨハネのリトルデーモン第一号にしてあげるわ!」
「そんな称号はいらん。だがまぁ...優勝は必ずつかんで来る!期待していてくれや」
「それでこそ私が見込んだ男ね」
「偉そうに...」
しかし、なんというか...こいつに応援されるというのは悪くないな。自分はそんなにチョロくないと思っていたが、どうやら違ったらしい。さっき可愛いとか言ってたし。
「そうだ善子」
「だからヨハネだって言ってるじゃない...なによ」
「お前に言いたいことがある。でも今じゃない。俺が優勝したあとで、だ」
「どうしたの改まって...まぁ聞いてあげるけど。その代わりというか、自分で条件決めたんだから――優勝してくること!」
言われるまでもない。ここまできたら引き下がれん。だから...もうちょい待ってろ、ド肝ぬいてやるから覚悟しとけ!
***
スクールアイドル"Aqours"のメンバーである津島善子、彼女の部屋にはある写真が飾られている。その写真はとある少年の部屋にあるものと全く同じものだが、写真には二つの人影があった。
――全国大会優勝の優勝旗を掲げているユニフォーム姿の少年――
――その少年の空いている腕に抱き着くアイドル衣装の少女――
恰好は違うものの胸に抱く気持ちは寸分の違いなく同じだ。少年は少女に、少女は少年に惜しみない労いを送る。少年には優勝したこと、少女には成功したことへの称賛を。
二人の顔には翳りなど微塵もない、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべていた。
どうも皆さん。最近小説書いてない真姫神です。
今回もヨハネを書かせてもらいました。ヨハネ可愛い。再現率が気になるところですが、ちゃんと書き上げられてよかった。あ、浦の星は思いっきり女子高ですがその辺は気にしないでください。
バドミントンは私もやってまして、テーマに丁度いいかなと思い題材にしました。流石にヨハネみたいに技名とかは叫びませんが。やったら痛い子確定じゃないですか(笑)
結構いい歳ですからね、恥ずかしいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
私の後にもたくさんの素晴らしい作家さんがいらっしゃるのでお楽しみに!