ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――ついに来た』 作:鍵のすけ
今回、またまた鍵のすけ様の企画に参加させて頂く次第となりました。
難題なテーマと私的には感じまして、四苦八苦しながら書いた感じです。
おそらく、他の参加者の方々と一風違ったモノになっているかと思いますが読んで頂ければ幸いです。
それでは紅葉久の綴った努力・友情・勝利を見て頂ければと思います。
私、津島善子……じゃなかった。
私――堕天使ヨハネは、目の前の状況が理解することが出来なかった。
気付いたら、私は地元の沼津にある公園に居た。子供の頃、よく遊んでいた場所だったわ。
『
『
千歌ちゃんと曜が公園の広場で向かい合いながら、二人はそう唱えた。
あの……千歌ちゃんに、曜。なに二人ともそんな凄いカッコ良い呪文唱えてるの?
なんて羨ま……じゃない、いつからあなた達は魔力を使えるようになったのかしら?
子供のお遊び。きっと私の真似をしているのね。
あなた達では魔法なんて使えないわ。それが自分達が一番よく知っているのでしょう?
『――
『――
二人が続けて詠唱を唱えた瞬間、二人から何かオーラのようなモノが噴き出した。
千歌ちゃんの身体が弾けるようにその場から飛び出す。あの……千歌ちゃん、それどう見ても普通の人の動きじゃないんだけど……
それと曜、手から水の弾丸みたいなの出てるんだけど……
あっ、私……夢見てるんだ。あの子達が魔法なんて使えるはずないもん。
頬を思い切り掴み、そして捻る。
え、待って……すっごい痛いのだけど。
アレ? 夢じゃない? 私、遂にパラレルワールドとか並列世界に行けたの?
「くっ……流石、曜ちゃん! 勝たせてくれないね!」
「まだまだ! 半人前の千歌ちゃんに負けないよ!」
激しく拳を打つ千歌ちゃんに、それを躱して身体から水を飛ばす曜が楽しげに話をする。
えっ……すっっっごく羨ま……じゃない。楽しそうなのだけど。
何故か離れた場所でベンチに座って、二人を私が眺めている。なんでここに私がいるのかすごい不思議なのだけど、私はとりあえず目の前で戦っている二人を眺めることにした。
別に考えるのをやめたわけじゃないわ。目の前で起きてることに、頭が追いつかないからでもなくて。
そう! 私は二人の魔法を見てあげてるのよ!
まだ一人前じゃない二人を私が見てあげてる。きっとそうに違いないわ!
『
曜が千歌に水の弾丸を飛ばしながら、呟いた。
そして曜が右手を強く握りしめると、彼女はそれを自分の顔の前で掲げた。
『――
曜……ヤバイよ。なにそんなペラペラと呪文唱えてるの?
私、そんなカッコ良い呪文知らないわ。ねぇ……曜、どこからそんな呪文覚えてきたの?
「準備オッケー! 千歌ちゃん! 行くよーッ!」
「かかってこーい!」
曜が呪文を唱えて、顔の前に掲げていた手を大きく振り払う。
そして曜が手を振り払うと、彼女の周りに青い光が吹き荒れたわ。
青い光が曜の周りを回る。そして光は気がつくと水のようなモノになって、曜の背後へと集まっていった。
集まっていく水。それが全てを集まると、次の瞬間――それは違うものとなっていた。
「ウンディーネ、行くよ!」
曜の背後に現れたのは、青い肌の青い髪を持った女の人でした。まるで水で出来てるみたいなそんな人に見てたわ。
と言うか、その人……曜の背後で浮いてるのだけど。
うん、やっぱり夢なのね。これ。
とりあえず起きないと。私は頬を掴むと、思い切り捻った。
「痛い……」
駄目よ、ヨハネ。そんなことじゃ立派な堕天使になれないわ。
私はそう何度も自分に言い聞かせると、深〜く深呼吸をした。
二人がなんで戦ってるか正直不思議でならないけど、私はとりあえず見守ることにした。
別に二人の間に入ったら、自分の身が危ないとかそんなことを思ってるわけじゃないの。
ただ二人の実力がどんなものか見極めてるだけよ!
「やっぱり曜ちゃん出してきたね! なら私も!」
千歌ちゃんが曜の背後にいる人を見て、どこか気合いを入れていたわ。
『
千歌ちゃんが両手を握りしめて、身構えると――今度は彼女の身体から激しく赤い光が噴き出していた。
『
「お、千歌ちゃん。それ出してくる?」
「やっぱり私と言ったらこれだから!」
ニッコリと笑う千歌ちゃんと曜。
そんな二人を私は気がつくと、無心になって見ていた。
うん……考えるのやめた。なんだか色々ついていけないの。
「あっ、善子ちゃん」
そんな時、ふと誰かが私のことを呼んだ。
声のする方に私が振り向くと、私はその人の名前を思わず言っていた。
「ルビィ?」
「こんなところで一人でなにしてるの?」
ルビィの質問に私が千歌ちゃんと曜がいる方へ指を向けると、ルビィは納得したように頷いたわ。
「千歌さんと曜さん、またやってるんだね」
「いつも?」
私が思わずルビィに訊く。それにルビィは少し不思議そんな表情を作った。
「あれ? 確か善子ちゃんが二人の魔法の練習見てるって自分で言ってなかった?」
「へっ⁉︎」
え⁉︎ 私ってそういうポジションだったの⁉︎
曜とか“あんなの”出してるんだよ!
千歌ちゃんとかなんかカッコ良い呪文唱えて戦ってるんだよ!
私ってあの二人よりすごい立ち位置じゃない!
「あ、そうだったわ! ちょっとボーッとしてたから!」
「大丈夫? 体調悪いなら帰った方が良いんじゃ?」
「大丈夫よ! このヨハネが体調が悪くなるなんてないわ!」
ルビィが苦笑いする。しかし私はそんなことを気にも止めず、ただその場を誤魔化すので精一杯だった。
なんか私って……すごいポジションらしい。
嬉しいのか悲しいのかわからないけど、なんとなくこの状況は良くないことは分かった。
『
なんか千歌ちゃんが唱えてるし……ねぇ、あなたの手から当然のように炎出てるけど、あなたそれどうやってるの?
そんなことを思うのもつかの間、気がつくと千歌ちゃんと曜の背後に居た青い人がぶつかり合っていた。
小さな爆発が起きる。それと同時に、私とルビィに思い切り風が吹いた。
「わっ……!」
思わず、私は顔を覆っていた。だって目が開けられないんだもの。
そして爆風が止まると、千歌ちゃんが仰向けに倒れていた。
「むー! 負けたぁー!」
「いぇい! 私の勝ちー!」
大の字で倒れる千歌ちゃんと嬉しそうに飛び跳ねる曜。心なしか曜の後ろにいる青い人も喜んでいるような気がした。
ダメ……やっぱりついていけない。ごめんなさい、私ってそんなに適応力高くなかったみたいだわ。
「善子ちゃん! 今日の私達はどうだった?」
私がそんなことを思いながら黄昏ていると、千歌ちゃんが私の元に走ってきた。
「えっ……そ、そうね! 良い感じだったわよ!」
「おぉ、久々に高評価を貰ったよ〜!」
その場凌ぎで私が千歌ちゃんに返す。
そんな私の言葉に、千歌ちゃんは嬉しそうに笑顔を作った。
久々に、って……私ってどれだけ厳しい人だったの?
と言うか、さっきの二人の練習見てあげてるってどれだけ私は強かったのよ……
「ねぇねぇ! 善子ちゃん! 次は私と勝負しようよ!」
「おお、挑戦するんだね。千歌ちゃん」
「今度こそ善子ちゃんに勝ってみせる!」
千歌ちゃんの話に曜が驚いた表情を見せる。
私へ向かって燃えるような視線で見つめる千歌ちゃんに、私は背筋に変な汗が出てくるのを感じた。
「い、いや……今日は遠慮しておこうかしら?」
咄嗟に出た言葉だったわ。
不思議と私の声が震えているのが自分でもわかった。そんな私に千歌ちゃんは「えー!」と口を尖らせていた。
「善子ちゃん! 良いでしょー⁉︎ さっき今日は調子良いって言ってたし、今日は魔力の流れが良いから二人相手で組手するって言ってたでしょ⁉︎」
何を余計なことを言っているの⁉︎ 少し前の私っ⁉︎
私の顔が引き攣る。なんとかしてこの場から逃げる方法はないかと、頭の中をフルで動かす。
「あれ? そう言えばさっきからリトが居ないけど、どこ行ったの?」
そんな時、曜が周りを見渡しながらそう私に訊いてきた。
「……リトって誰?」
聞き覚えのない名前に私は曜に訊き返す。
私の質問に、曜はコトリと首を傾げていた。
「誰も何も、善子ちゃんの守護精霊じゃん。リトルデーモンのリト、いつも喜子ちゃんの周りに居るでしょ?」
「あ、そうだったわね! ボーッとしてたわ! リトなら散歩してるんじゃないかしら?」
私が適当なことを言って誤魔化す。
リトルデーモン? そんなのが私の周りにいるの⁉︎
え、めっちゃ見たいんだけど……なんて羨ましいことしてたのよ、私⁉︎
そんな会話もつかの間、千歌ちゃんがしつこく試合をしようと言い続け、周りが勝負してあげなよっていう雰囲気になってしまい。
「よぉーし! 喜子ちゃん! いっくよー!」
そして私と千歌ちゃんは、勝負をすることになった。
公園の広場で私と千歌ちゃんが少し離れて向かい合う。
やる気満々な千歌ちゃんだったが、私は顔から汗が出るのが止まらなかった。
「……ヤバイ」
どうしよう……私、魔法なんて使えない。
もう認めます。私は厨二病です。あなた達みたいに魔法は使えません。
堕天使ヨハネとか言っててごめんなさい。神様、許してくれるなら今すぐ夢から覚めてください。
何か心の中で崩れ落ちるのを感じながら、私は目を閉じて願ったわ。
でも、それも虚しく……私は夢から覚めることはなかった。
あ、やっぱり私って並行世界にでも行ったんだ。これから異世界にでも行ってくれた方が良かったのに……
『
私が目を閉じた後すぐに、千歌ちゃんの声が聞こえた。
私が目を閉じたのが何かの準備と思ったのかもしれない。全然違うのに……
「ん? 善子ちゃんから魔力の流れが見えない?」
曜の声が聞こえる。
いや、流れも何も私は魔力なんて持ってません。だって使えないもの!
『
そして千歌ちゃんがそう唱えた。
あれ? それってさっき手から炎出してたやつじゃないかしら⁉︎
もしかしてソレで私に殴りかかってくるの⁉︎
私が慌てて目を開けると、千歌ちゃんはもう既に私に向かって全力疾走していた。
直に見るとめっちゃ千歌ちゃん走るの速くないかしら⁉︎
って、もう私の目の前にいるし!
「先手必勝ー!」
千歌ちゃんが私に拳を振りかざす。
その瞬間、私には千歌ちゃんの動きが遅く見えた。
そして私が生きてきた今までの数々の思い出が、脳裏を駆け巡った。
あ、これ……よく漫画とかにあるやつだわ。
完全にこれって、死ぬ前に出てくる走馬灯じゃないかしら?
「ごめんなさい! 私にはむりぃー!」
このままだとほぼ確実に私は文字通り炭になる。それを自覚すると、私は両膝を地面に付いて頭を力一杯下げていた。
「……へ?」
千歌ちゃんが素っ頓狂な声をあげた。
私の頭上で激しい風と共に何かが止まる音が聞こえる。
これ千歌ちゃんの拳に間違いないわ。人の拳ってこんな風が出るのね……きっと当たってたら死んでた。
「よ、善子ちゃん? どうしたの?」
千歌ちゃんの声が聞こえる。
もう誤魔化すのなんて無理。多分これ以上誤魔化すと私の命がない。それだけは確かにわかったわ。
「じ、実は――」
だから私は頭を上げると、目の前にいる千歌ちゃんに声を震わせながら正直に話すことにした。
◆
「「「魔法が使えない⁉︎」」」
私の話を聞いて、三人が声を揃えた。
私は三人に見られながら、ただ頷くしか出来なかった。
「はい……そうです」
「……魔法に関する記憶が無くなってる? いや、どっちかっていうと改竄されたってのが正しいかも?」
「いや、私からすればみんなが変にしか見えない」
曜の話に私が即答する。
私が知るみんなはさっきみたいに魔法なんて使えないわ。
私が変、ではなく私にしたらみんながおかしいとしか思えない。
「だからリトが居なくなったんだ……善子ちゃんに魔力を扱うことが出来なくなってるなら、魔力の塊であるリトルデーモンは召喚出来ないから」
「でも私と曜ちゃんが練習する前は普通に魔法使ってなかった? 私と曜ちゃんの勝負は五分も掛からなかったよ? その間に善子ちゃんに魔法の干渉があったら流石の私達でも気付くよ?」
曜の推察に千歌ちゃんが答える。
それに曜が悩む素振りを見せると、彼女は私をチラリと見た。
「善子ちゃん、いつから私達を見たの……と言うより、いつからベンチに座っていたと自覚したの?」
「そのこと自体、私は知らないの。いつの間にか気付いたらベンチに座ってたから」
私が素直に返事をする。曜はそれに「まいったな〜」と言うと、顔を顰めていたわ。
そして曜は頭を雑に掻くと、私……と言うより千歌ちゃんとルビィを見て言った。
「うーん。ダイヤさんに相談しよう。流石にこれは私達の手に負えない」
千歌ちゃんとルビィが頷く。しかし私は思わず曜に聞き返した。
「待って、なんでそこでダイヤが出てくるの?」
私の質問に、曜は一瞬目を大きくするがすぐに納得したように苦笑いしていた。
「ダイヤさんは私達のリーダーだから、スクールアイドル部改め――野外活動部の」
そう言って、曜は歩き出した。
千歌ちゃんとルビィがそれについて行く。
「え、え? どういうことなの⁉︎」
ついていけない私だったが三人が先を歩いて行くのに、私は慌てて彼女達を追い掛けしかなかった。
◆
「参ったわ……善子さんが、魔法を使えないなんて……」
ダイヤが私を見て、眉を寄せながら口を引き攣らせた。
先程、私と曜達の四人が居た公園とは場所が変わり、今は学校のスクールアイドル部の部室に私達は居た。
「果南さん、次の満月まで後何日だったかしら?」
「あと二週間だよ」
ダイヤが隣にいる果南に訊くと、彼女は即答した。
「二週間……間に合うかしら?」
「え、ダイヤさん。もしかして……?」
ダイヤの呟きに、梨子が顔を強張らせる。
そんな梨子にダイヤは「やるしかないでしょう」と答えていた。
「え、え? どういうこと?」
意味のわからない会話に、私はダイヤに質問する。
それにダイヤは頭を抱えると、渋々説明してくれた。
ダイヤ曰く、私達の街に七月から毎月の満月の深夜一二時に魔物が襲ってくると言っていた。
それに対抗するため、ダイヤさんをはじめとするスクールアイドル部のメンバーが戦うことになっているんだって。
魔法を使えるのは、ごく少数の人達だけ。その中で力のあるメンバーが集まったのが、私達のスクールアイドルAqoursのメンバーだったらしい。
なにそれ……一体なんでそうなったの?
頭が追いつかない私が内心でそう思う。
いや、魔法使えるのはまだ良いわ。でもね、力のあるメンバーが私達の九人って変だと思わないの⁉︎
そんな私の考えも、ダイヤの前では関係なかった。
ダイヤはこの場にいる全員を見渡すと、私をキリッと見つめながら――こう告げた。
「次の満月までに善子さんが戦えるようにしましょう」
「えぇっ⁉︎ 本気⁉︎」
ダイヤの話に、私は思わず叫んだ。
しかしダイヤはそんな私を真剣な眼差しで見つめると、彼女は「本気よ」と答えていた。
「善子さんは……前のあなたは私達の大切な戦力でしたの。それと同じ、またはある程度の実力を付けてもらいますわ!」
「……冗談?」
声が震えているのが、自分でもわかった。
え……私に千歌ちゃんや曜みたいなこと出来るようにさせるの?
いや、魔法が使えるなんて正直飛び跳ねそうなくらい嬉しいわよ。でもね、さっきの話を聞いてる限り、もしかしたら死ぬかもしれないってことでしょ?
「無理無理! 二週間でなんとかなるわけないじゃない!」
私は叫んだ。しかしダイヤはただジッと私を見つめているだけ。
そんな時、千歌ちゃんが私の跪く私の隣に近づいてきた。
「大丈夫だよ! 善子ちゃん!」
千歌ちゃんが私に優しく微笑む。
私はその表情を見ると、胸が落ち着くような、そんな気がした。
千歌ちゃん……やっぱりあなたは分かってくれるのね。
唯一の救いと言える千歌ちゃんに、私は心から感謝した。
ダイヤに何か言ってくれる。私はそう思っていたからだ。
「今日から特訓だよ! 善子ちゃん!」
「…………え?」
しかし千歌ちゃんの口から出た言葉は、私の予想とは違っていた。
えっと……この子、なに言ってるの?
そんなやる気に満ちた目で見つめられても困るのだけど……
「大丈夫! きっとなるとかなる!」
千歌ちゃんが私に追い打ちを掛ける。
やめてください。千歌ちゃん、そんな目で私を見ないで。
「……諦めなよ、善子ちゃん。やるしかない」
そんな私に、曜が諭すような声色で言った。
私が周りを見渡すと、全員が私に頑張れと言っているような目を向けていた。
「そんなぁ……」
逃げ場がない。それを私が理解すると、私は思い切り肩の力を抜いていた。
二週間。今日から始まる特訓の日々が来ると知った瞬間、私は泣きたくなった。
◆
そしてあっという間に、二週間が経った。
学校の授業以外を全て魔法の習得に注ぎ、周りのみんなからは鬼のように指導される日々が脳裏をよぎる。
思い出したくもない。唯一嬉しかった瞬間は、今の私が初めて魔法を使えた瞬間くらいだ。
それからというもの、ダイヤからは鬼教官みたいな訓練させられるわ。曜の精霊を倒すまで戦えとか、高速で動く千歌ちゃんに一撃入れろなどの無理難題を強制された。
……全部やったわよ。何回か死にそうになったけど。
言い出したらキリがないからこれ以上は言わないけど、もうあんな日々は懲り懲りだと心の底から思ったんだから。
そうして、今日がダイヤの言っていた満月の夜だった。
「あれから結局、本当に魔法が使えるとは思ってなかったわ……」
夜の公園で私が肩を落とす。
そんな時、私の横でパタパタと何かが飛びながら、私の肩に乗った。
「リト……慰めてくれるの?」
私の肩に乗っていたのは、私の召喚した悪魔のリトルデーモンことリトだった。
何故か私の魔法はこの子が居ないと活用されないらしい。それを私はダイヤから聞いていた。
小さなデフォルメされた悪魔みたいな姿のリトが私の頭を小さな手で撫でてくれる。
「ありがとう、リト」
本当、可愛いわね……その優しさで涙が出てきそうだわ。
そんな時、私の隣に千歌ちゃんが近づいて来た。
私とリトを交互に見ながら、千歌ちゃんは心配そうな表情を見せた。
「善子ちゃん? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ……」
これからのことを考えると気が重い。それが私の本心だったから。
しかし私の答えを聞くと、千歌ちゃんはサムズアップして笑顔を作った。
「私達が居るから大丈夫だよ!」
「千歌ちゃんは呑気ね……」
これから魔物と戦うっていうのに、なんで千歌ちゃんはこんなに気楽なのかしら?
私がそれを聞くと、千歌ちゃんは「みんなと一緒だから!」と即答してたわ。
千歌ちゃんらしいわね……本当に。
「そろそろ、十二時よ……みんな、準備おっけー?」
私がそう思っていると、曜がそう切り出した。
私が返事をする前に、みんなは揃って「おっけー!」と返していた。
そして時計が深夜の十二時になった瞬間、それは起きた。
――その瞬間、空気が震えた
次に何かのうめき声が響く。みんなが周りを見渡すが、声の主は何処にもいない。
ふと、私が上を見た瞬間――背筋が凍った。
「う、うえ……」
たどたどしく、私は空に指を向けた。
みんなが揃って上を向く。そしてみんなが空にいるソレを見た途端、顔を強張らせた。
「……一番不味いのが来たわ」
そう、ダイヤが呟いた。私がその言葉の意図に気づくこともなく、私はただ空にいるソレを見ているだけだった。
鷹と牛が合わさったような化物が、空にいた。
頭部が牛、そして胴体が鳥と漫画の中でしか見ないようなその姿に私は目を大きくして見つめていた。
そしてソレから放たれる威圧感に、私は身体が竦んでいた。
『
誰よりも先に動いたのは、曜だった。
曜が唱えた瞬間、彼女の手から激しく水の弾丸が数え切れないくらい放たれる。
それを化物は大きく飛んで躱すと、今度は私達に向かって飛んでいた。
思い切りぶつかる勢いで飛ぶ化物に、私は腰が抜けそうになる。
しかしそれよりも先に、私達の前に飛び出したのは――ルビィだった。
『
ルビィが唱える。そしてそれと同時に、彼女の前から白い花が咲き乱れた。
化物とルビィが出した花びらが衝突する。
「きゃぁぁぁ!」
そして次の瞬間、ルビィの身体が弾き飛ばされた。
『
ルビィの身体が吹き飛ばされた時、そう唱える声が聞こえた。
私の目が追いつかない速度で千歌ちゃんが吹き飛ぶルビィを抱えると、地面に足を引きずらせながら急停止していた。
「ルビィちゃん⁉︎ 大丈夫⁉︎」
「大丈夫です……でも私の絶対防御の盾――
ルビィに声を掛ける千歌ちゃんに、ルビィが辛そうな表情で答えた。
ルビィは確か、防御の魔法を使うと言っていたわ。
白い八枚の大きな花びらが攻撃を自動的に守ってくれる彼女だけの魔法――
一枚砕くのに、千歌ちゃんが全力で力を込めないと壊せないほどの強度って曜が言ってたからかなり強い筈なのに……あの化物は突進するだけでそれを四枚も砕いていた。
「千歌さんはルビィを連れて一度退避! 私と梨子は応戦! 他のみんなは隙があれば攻撃!」
『了解ッ!』
ダイヤが叫ぶと、みんなはそれぞれの行動をしていた。
千歌ちゃんがルビィを抱えて後方に下がり、曜は私の前に来ると私を守るように前に立っていた。
「善子ちゃん! 大丈夫⁉︎」
「だ、大丈夫よ!」
真剣な声で確認する曜に、私は反射的にすぐに返事をしていた。
『
梨子が唱えると、彼女の周りから桜色の光を纏った木の枝が化物に向かっていった。
『
続けて、ダイヤが唱える。そうすると今度はダイヤの手から黒い竜巻が化物に向かっていた。
「□■□■□――――‼︎」
しかし梨子とダイヤの放った魔法が化物に向かうなか、化物が叫んだ。
そして二人の魔法が化物にぶつかると、その瞬間――大きな爆発が起きた。
激しく吹き荒れる風のなか、みんなが化物に目を向ける。
そして風が止み、化物が姿を現すと――みんなが息を飲んだ。
「……効いてない⁉︎」
私の前にいた曜が声を震わせていた。
姿を現した化物は、無傷だった。強いて言うなら、羽に少し傷がある程度の些細なもの程度。
「止まらないで! 全員で攻撃するわよ!」
みんなの時が止まるなか、ダイヤだけがそう叫んだ。
それを機に、みんながハッと意識を取り戻していた。
ダイヤが化物に向かって走る。それに続いて、残りのみんながそれぞれ呪文を唱えながらダイヤに続いた。
「善子ちゃん……私も行くから」
私の前にいた曜がそう言った。
「え……」
思わず、私は声が出ていた。
しかしそんな私を曜が一瞥すると、彼女は首を横に振っていた。
「私も行かないといけない。多分、全員で行かないとみんな危ないから」
「で、でも……」
「ごめん。善子ちゃんは逃げて良いよ。あとは私達でなんとかする。あんなのが来るなんて思わなかった……善子ちゃんには無理だよ。だから……逃げて」
そう言って、曜が走り出した。
私が「待って!」と叫んでも、曜は前を向いて走り出していた。
そんな曜の背中を、私はただ見ているだけしか出来なかった。
そして、その場から逃げることも出来ずに……私は、みんなが戦う姿を見ているだけしか出来なかった。
「み、みんな……」
そして数分にも満たない間に、みんなが傷ついていくのを私は直に見ていた。
吹き飛ばされて倒れる果南。肩に深い傷を負った花丸。頭に傷が出来て目が見えない梨子が悔しそうに顔を歪めていた。
このままだと……みんなが……
しかしそれでもダイヤと曜、そして千歌ちゃんが化物と戦っていた。
あんなに傷だらけになって、それでも必死にみんな戦っていた。
「私……なんでここに居るのかしら?」
そんな時、私の口からそんな言葉が出ていた。
なんのために、あんなに練習したのかしら?
みんなと協力して魔物を倒すって話だったのに、なんで私は何もしてないの?
震える身体が、化物が怖いと言っている。だけど、私も戦わないといけないのに、なんで?
気がつくと、私は唇を噛んでいた。悔しい、ただそれしか私の頭になかった。
何かしないと、じゃないとみんなが――
「え……?」
その時――私の横を小さな影が飛んでいた。
小さなデフォルメされた可愛い悪魔。それは私の召喚したリトルデーモンのリトだった。
「リト?」
リトが私の周りを飛び回る。そしてリトは自分の持っていた槍を化物に向けていた。
「戦うの……? あんなに強いのに?」
私の問いに、リトは胸を張っていた。
任せろ、そう言っているのが不思議と私には分かった。
そしてリトが持っている槍を私に一度向けると、今度はソレを化物と向けていた。
「……一緒に戦う?」
リトの言いたいことを言葉にすると、リトは満足そうに頷いていた。
「で、出来ないわ……私なんかに……」
私が拒否するが、リトは首を横に振っていた。
そしてリトが私の手元に近づくと、リトは私の手にそっと触れた。
――その瞬間、私の脳裏に色々なことが蘇った。
この二週間、頑張ってきたこと。みんなと一緒に特訓していたこと。
そしてこの世界の私のことをこの瞬間――私は理解した。
「……うん。リト、一緒に頑張ろ」
不思議と、力が湧いてくるような錯覚がした。
さっきまで怖かったのに、どうしてか今は誇らしいた思えたから。
リトが嬉しそうに悪魔の翼を羽ばたかせた。そして私の周りを飛び回ると、リトは私の前に背を向けて止まった。
さぁ、命令してくれ。そう言っているのが、何故か私には分かってしまった。
「……わかったわ」
私は頷く。そして座り込んでいた状態から起き上がると、私は深く深呼吸をした。
そして目の前にいるリトと先にいる化物を目で見つめながら――私は、唱えた。
『
自然と言葉が出てきた。誰にも教わっていないすごく長い呪文なのに、何故がスラスラと唱えていた。
そして私の身体から黒い光が吹き出ると、それがリトへと流れ込んで行った。
私の黒い光を浴びたリトが、構える。そして次の瞬間――リトの姿が変化した。
先程まで小さかったリトが、いつの間にか黒い騎士に変わっていた。
そしてリトが化物の方を見ると、リトが手に持つ槍を構えていた。
さっきまでの可愛い槍とは違い、今持っている槍は赤黒く光る鋭い槍だった。
リトが構え、そうして槍を振りかぶると――リトはその槍を化物に向かって投げていた。
――瞬間、リトの投げた槍を中心に竜巻が起きた
激しく吹き荒れる暴風。そう言うのが正しかった。
それ以外に言葉がないくらい、空気を切り裂いてリトの投げた槍が化物に向かっていた。
そして数秒もしない時間で、その槍は化物に突き刺さっていた。
多分、化物は避けるなんて出来なかったに違いないわ。
あまりに速くて、反応すら出来なかったと思う。
「■■■■■――――‼︎‼︎」
化物が咆哮した。それは痛いからだと、直感で私には分かった。
突き刺さった槍から黒い光が化物の身体を駆け巡る。
そうして黒い光が化物の身体を隅々まで駆け巡った瞬間、リトが指を鳴らしていた。
そしてリトの指が鳴った後、化物の身体が弾け飛んだ。
おぞましい色の光を撒き散らして、化物の身体が弾け飛ぶ。
それは間違いなく、私たちの目の前にいた化物を倒したっていう証明だった。
「……すごい」
誰かがそう言ったのが聞こえた。
しかし私には誰がそう言ったのか、わからなかった。
騎士の姿になったリトが私の方を向くと、リトが一度だけ頷いた。
リトの身体から黒い光が吹き出る。そして吹き出た黒い光が止まると、いつの間にかリトが元の可愛い悪魔の姿に戻っていた。
「……お疲れ様、ありがとう」
小さくなったリトに、私が小さく感謝する。
そんな私の言葉が聞こえていたらしく、リトは嬉しそうに私の周りを飛び回っていた。
「善子ちゃん、お疲れ様」
そんな時、曜がそう私に言った。
私は首を横に振ると、リトを見ながら答えた。
「全部、リトのお陰。私は何もしてないわ」
「リトの手柄は主人の手柄。そうでしょ? リト?」
いつの間にか曜の隣にいた千歌ちゃんがそう言うと、リトが何度も頷いていた。
「そっか、なら良いかな。それで」
「うんうん。それで良い」
「なんて千歌ちゃんが誇らしげ?」
満足そうに頷く千歌ちゃんに、曜が苦笑いする。
そんな二人に私が思わず笑うが、私はすぐに周りを見渡した。
「あ! みんなは⁉︎」
さっきの戦いで怪我をしたみんなを思い出した私が声を大きくする。
それに曜が頷くと、ある場所を指差した。
私がその方を向くと、そのでは怪我をしたみんなを手当てするルビィの姿があった。
「ルビィは治療の魔法使えるんだよ。だから大丈夫」
「良かった……」
私が安心して、肩の力を落とす。
そしてその瞬間、私は足の力が抜けて地面に崩れ落ちた。
あれ……力が抜けて、立てない?
「「善子ちゃん⁉︎」」
倒れた私を千歌ちゃんと曜が抱き抱えてくれる。
二人に抱えられていることに不思議と安堵した私は、思わず笑っていた。
「なんか安心しちゃって、力抜けちゃったわ」
「なんだ……心配したよ、もう!」
私の言葉に、二人が顔を見合わせると揃って笑っていた。
これで戦いはおしまい。そう思うと、私はなんだか眠くなっていた。
「千歌ちゃん、曜。なんだか眠くなってきたわ」
私がそう言うと、曜は嬉しそうに頷いた。
「お疲れ様、ゆっくり休んで」
「うん。おやすみ」
曜の言葉に安心した私は目を閉じると、そのまま深い眠りについた。
『まぁ、初めてにしては上出来ね。あとは私に任せなさい』
眠る時、そんな声が私の頭に響いた。
なんのことか分からない。だけどどこかで聞いた声だと思いながら、私は薄れる意識を、そっと手放した。
◆
外が騒がしい。そう思うと、私は目を開けた。
「ん……?」
目を開けると、私は身体を起き上がらせながら目を擦った。
そして私を見渡すと、私が今居るのは誰も居ない教室だった。
あれ……? なんで私、自分の机で寝てたんだっけ?
なんだか急に眠たくなって、それで机で寝ちゃったんだったかしら?
でも、なんだか変な夢を見ていた気がするわ。
魔法とかの漫画みたいな夢を見ていた気が……って。
「あ……夢だったの?」
寝惚けた意識が覚めると、私はそう呟いていた。
え……今までの夢だったの?
さっきまでの出来事が脳裏に蘇る。そして今までのことを思い出して、私は今までのことが夢なんだと理解するのに少しだけ時間が掛かった。
「妙に現実味が溢れてたわ……」
しみじみと、私が呟く。
「善子ちゃ〜ん! 練習するよ〜!」
そんな時、教室の外から千歌ちゃんが顔を出していた。
練習着に着替えている千歌ちゃんが私に向かって叫ぶ。
それを見て私が時計を確認すると、時間はもう練習が始まってる時間だった。
「ごめんなさい! わかったわ、すぐ行く!」
「早くねー!」
私の返事を聞いた千歌ちゃんが走り去っていった。
私が慌てて荷物を片付ける。そして教室からみんなが待つ練習場に向かう時――ふと、妙な言葉が頭を過ぎった。
私は立ち止まると、人指し指を立て――小さく呟いた。
『
夢で覚えた。一番最初の呪文。
なんとなく私がそう呟くと、私は自分で自分の言葉に笑っていた。
「やっぱり……夢よね」
笑いながら、私は教室から出て行く。
変な夢を見て、少し変な気分になったみたい。
「今日も堕天使ヨハネは頑張るわよー!」
思わず、私はそう叫んだ。
うん。これがいつもの私だ。
そう思いながら、私はみんなが待つ練習場に向かって走って行った。
そして、私が立ち去った後――私は知ることもなかった。
誰も居ない教室の一角にに、黒い光が仄かに灯ったことを。
読了ありがとうございます。
はい、今回紅葉が書いた内容でした。
私の頭ではこんな内容しか書けなかったんですよね……思いつかなくて。
しかし今回、読んでいただいた方々に面白いと思って頂ければ感謝感激です。
それでは次の方へバトンを渡したいと思います。
機会があれば、またどこかでお会いしましょう!それでは!