TASさんがキリトくんに憑依したようです。 作:ラビ@その他大勢
キリトは登る。
世界樹の幹を。自分の愛する女性を助けるために。
「うおおお!」
キリトは跳ぶ。
ハイジャンプを異常な速度で繰り返し、変なポーズで世界樹を上へ上へと滑らかに進んでいく。
なお、ALOの醍醐味である筈の妖精の羽は使っていない。
その動きを見たリーファは後に彼のことをこう名付けたと言う。
“上に落ちる変態”と。
だが、上に落ちていくキリトの快進撃を止めたのは侵入不可区域という壁だった。ある程度まで登ったところで光の波紋が広がり、キリトの体を弾き飛ばしたのである。
「くそっ!」
キリトは思わず毒づいた。一応こんな彼でもプレイヤーだ。ゲーム上で不可能な事はすることが出来ない。今までの奇怪な行動や恐ろしい移動速度などもそのゲーム内で実現可能なものだけである。……ただ、そう簡単なものではない上、気持ち悪すぎて誰もそれをやろうとしないだけで。
「キ、キリトくん! 幾らキミでも無理だよ!」
リーファの制止の声が聞こえる。
――だが、キリトはまだ諦めようとしなかった。彼のアスナに対する愛は、リーファやシステム如きが遮れるものではないのである。
「ぬおおお!」
幹を強く蹴り、宙へと躍り出ると、ALOにログインしてから今まで一度も使っていなかった羽を初めて出し、強く震わせる。
そして――キリトはそびえ立つ世界樹の幹へと人智を越えた速度で突撃した。リーファは思わず目を瞑る。
幹に跳ね返されるかと思ったキリトの体は、しかし幹にめり込んだ。
そう、これこそキリトが得意とする1つの技……昔から長い間多種多様なゲームで親しまれているバグ技“壁抜け”別名“ワープマン”である。
システムの限界に近い高速で壁にめり込む事により、システムに位置情報を誤認させるという恐ろしい裏技。良い子は真似しちゃいけません。と言うか良い子には真似できません。バグ技はシステムを越える。これ常識。
「はぁ!?」
これには今までキリトとここまで旅をして来て、彼の奇行にも若干慣れ始めていたリーファも思わず驚きの声をあげる。
そのままキリトが壁を通り抜けて世界樹の中へと消えていくのを見て、リーファは口をあんぐりと開けたまま固まった。
その暫く後、漸く正気を取り戻したリーファの悲鳴がアルンの街に響き渡る。
「そういうゲームじゃないからこれぇ!」
世界樹の中に入ったキリトは「ドゥエドゥエドゥエドゥエ」と聞き慣れた奇声を上げながらケツワープをし、アスナの閉じ込められている鳥籠へと数秒で辿り着いた。
「キリトくん……!」
「アスナ……ッ!」
アスナと感動の再会をした後、いざログアウトするために鳥籠を出ようとすると不意に。体をぬめりとした液体が体を包み込むような嫌な感覚がキリトへと襲い掛かってきた。
だが、流石英雄キリトと言うべきか。いつもと変わらぬように平然と立っている。耐えかねて倒れかけたアスナの体を支え、一瞬顔をしかめると、不意にウインドウを高速で開閉し始める。
「これで良し」
その行為をやめ、キリトは軽く頷いた。それと同時に、オベイロンが現れ――
「やあ。どうかな、この魔法は? 次のアップデートで導入される予定なんだけどね、ちょっと効果が強すぎ――……何故立っているッ!?」
驚きに目を見開いた。……それもそのはず、GM権限で通常の最大威力の数倍もの重力魔法を部屋中に常時働かせているにも関わらず、キリトは顔色1つ変えずに屹立しているのだ。
だが、アスナが苦しそうに倒れているのを見ると、重力魔法が効いていないと言うわけでも無さそうだ。
オベイロンが驚きから思わずウインドウを開けてキリトの状態を確認しようとしたその時、キリトが動いた。満面の笑みを絶やさないまま、
「死にたいらしいな」
その言葉がオベイロンの耳に届いた数十秒後――
悠々と鳥籠を出ていく少年少女の姿と、鳥籠内にさめざめと泣きながら倒れ伏す一人の王者(笑)の姿があったのは、言うまでもないことだろう。
ヒースクリフ「世界の種子を君に託す」
エギル「アッハイ」
新生アインクラッドの元はキリトではなくエギルに託されたそうです。