邪ンヌちゃんと一緒!!   作:Marydoll

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邪ンヌのスキレベがあと一つで全部9までいくのに……
ていうかうちのカルデアQP足りなさすぎっ?


飴色の嘘つき聖女

「私は、コーヒーに砂糖が必要だなんて一言も言っていないでしょう?」

 

ここは人理継続保障機関フィニス・カルデア。多くの場合は、カルデアと、そう短縮されて呼ばれる、人類史の資料館である。

その施設の中にある、比較的広い食堂の真ん中の辺りに向かい合って座る、二人の影があった。それ以外に人影は見られない。

一人はくせのある黒い髪の男。先からころころと表情が変遷し、人懐っこさがところどころに垣間見える好青年である。

もう一人は少し(くす)んだような色合いの金髪を肩口で切り揃えた女。皮肉げな笑みが変に似合う、すこし愉快で好色な女性である。

不機嫌そうに男を睨む女は、唇を尖らせて、男をさらに追及していく。

 

「そもそも、どうして私がアンタと向かい合ってお茶してるわけぇ? いつもみたいにあの盾女と、人目も憚らずいちゃいちゃしてればいいでしょうに、それに私に構っている暇があったらあの『たねび』とかいう素材を集めにでも行けばいいでしょう? マスターの好き者さも、大概にしないと焼き尽くしますよ、この愚か者め」

 

驚くべきは、その驚異的な口の悪さではなく、まさかのノンブレスであるということ。というか、照れ隠しをするときに思わず口に出るのが罵倒であるとか、ぶっちゃけツンデレ極まれりである。キャラクター性盛りすぎである。マスターと呼ばれた男も、頬を右手で掻いて苦笑する。

そもそも、どうしてその女性の機嫌が悪いのかというと、それはつまりーー

 

「邪ンヌ、いっつもピーマンとか残すから、そういうの苦手なのかなって思ってたよ」

「べ、別に苦いのが食べられないからとか、そういう理由ではありません。本当はピーマンくらい食べられますし、コーヒーだって砂糖なしでもちゃんと飲み干せます」

 

ジャンヌ・オルタは視線を左右にふらふらとさせながら、必死に弁明を試みる。弁明とか言われる時点でバレバレであるが、そこはもはやご愛嬌といったところである。飲んで味わうことではなく、そも飲み干すことそのものを念頭に置く姿勢も、彼女の言葉の真偽をそれとなく示唆していた。

こほん、と小さく咳払いして邪ンヌは息を整える。

 

「ともかく、私のコーヒーに砂糖は必要ありません。…………角砂糖三つも入れるとか子供扱いし過ぎです」

「? 最後なんて言ったの?」

「なんにも言っていません、気のせいです」

「えぇ…………」

 

事の発端は、十数分ほど他愛もない話に花を咲かせた後(邪ンヌは間違いなく否定するだろうけれど)、少し喉を潤したいという邪ンヌのために、青年がコーヒーを淹れてあげたことである。

青年としても、特別コーヒーを淹れることに拘った訳ではなかった。ただ、料理を作ったり紅茶を淹れたりする技能に優れた何かがある訳ではない青年の目に、ふと映ったのがインスタントコーヒーだったというだけのことであったのだ。

けれど、自分と彼女の分で二杯準備したところで思い出したのだ、彼女が苦い物をあまり好まないということを。

幸い、食堂のテーブルには調味料や甘味料、もちろん砂糖も常備されていた。ならば邪ンヌでもコーヒーを飲めるだろうと考えて、その結果がこれである。

何が彼女の琴線(きんせん)に触れたのかは定かではないが、彼女が青年に苦言を呈したのは、彼が角砂糖を三つ落としたカップを邪ンヌに差し出したと同時のことであった。

 

「じゃあ、僕のと替える? こっちにはまだ砂糖入れてないし」

「……ええ、是非そうしましょう。ええ、ええ」

 

ぴくりと眉を動かして、その後自分自身を納得させるように二度三度頷いてから、邪ンヌは青年の問いに是と答える。懲りない女である。

わざわざそうやって取り替えてもらったコーヒーに、しかし邪ンヌは口をつけたりはしなかった。当然である。

 

「えっと……飲まないの?」

「私がいつこのコーヒーを飲もうとも、アンタには関係のないことよ。少し黙っていなさい」

「いや、だけどせっかくなんだから温かいうちにーー」

 

「ーーマスター!」

 

途方にくれたような青年と、むすっと表情を翳らせる邪ンヌの方へと、食堂の入口付近から声が掛けられる。ほぼ二人同時にそちらを見やると、そこには一人の少女と、それに追従する女性の姿があった。

少女は脇が眩しくも覗く白い鎧に身を包んで、絹のような金の髪を、少し高めのポニーテールに纏めていた。

女性の方も同様に白っぽい基調の服を身にまとい、赤い髪がちらりちらりと揺れて麗しい花のよう。

駆け寄ってくる少女に対して、女性の方は優しげに笑いながら歩いて近づいてきた。隣で聞こえた小さな舌打ちの音は、取り敢えず聞かなかったことにしておいた。

少女、セイバー・リリィは青年のすぐ側までくると、彼の手を掴んで両の手で包み込み、強く握りしめた。まるで飼い主に数日ぶりに再開した犬のようなリリィに、青年はくすりと笑ってその手を握り返した。隣から聞こえる鼻で笑う声は、取り敢えず聞こえなかったことにしておいた。

 

「どうしたんだい、リリィ?」

「はいっ、ブーディカさんがお菓子を作ってくれるというので、食堂まで足を運んだ次第ですっ」

 

いつか誘拐されそうだなこの娘、不覚にも青年はそう思ってしまった。そんな青年と心境を機敏に察したらしいリリィが、可愛らしく首を傾げて問いかける。

 

「どうかしたんですか、マスター?」

「いやっ、なんでもないよ。それよりも、ブーディカさんがお菓子を作ってくれるって?」

「そうなんです、クッキーを焼いてくれると、そう言っていました。マスターもご一緒に、どうですか?」

「是非。ありがとうリリィ」

「いえいえ、マスターの事を第一に考えるのは、サーヴァントとして当然のことですから!」

 

リリィのサーヴァントとして、という台詞を聞いて、邪ンヌの肩が少し震えた。そっぽを向いていた顔はそのままに、眼だけを動かして青年の方を何度もなんども見ては逸らし、見ては逸らしを繰り返していた。

 

「そんなに気にしなくてもいいのに……だけどありがとう、リリィ」

「はいっ!!」

 

手に持つコーヒーが、どろどろの甘ったるい液体早変わりしそうな雰囲気に、邪ンヌははあと溜息を吐くいた。

リリィとの話が一段落すれば、次に赤髪の女が青年に話しかける。

 

「君も食べるなら、少し多めに作るかな? そっちはどうするの?」

 

女、ブーディカの言う『そっち』というのはもちろん邪ンヌのこと。日頃の邪険な態度を気にした素振りもなく、自身のマスターである青年とそれほど変わりない口調で問いかけた。

先からコーヒーカップを凝視していた邪ンヌは、突然話を振られたことに驚いたのかびくりと身体を震わせて顔を上げる。途中から話を聞いていなかったらしい。というか、聞いた上で別のことを考えていたようだった。

 

「な、なに? 何か言った?」

「うん、言った。君はクッキー食べるかい?」

 

クッキー、と口元でぽつりと漏らす。それからふんと鼻を鳴らして、邪ンヌは嗤った。

 

「別に? 作るというなら食べないこともないわ。まあ、わざわざこの程度のことに労力をかける貴女に免じて食べてあげないこともありません。お好きなように」

「そか。じゃあ多めに作るかな……どうせまた増えるだろうし」

 

そう言って厨房に向かうブーディカと、それに付き従うリリィ。リリィは最後に青年に深くお辞儀して去っていったーーと、その時。

ブーディカがくるりと振り返って手招きした。思わずと邪ンヌと目を合わせるが、邪ンヌが首でそちらに差し向けるので、青年は不思議そうにブーディカの方へと歩いて行った。

 

ーーぽちゃん。

 

彼女の近くまで辿り着くと、ブーディカは青年に顔を近づけて、小さな声音で言う。

 

「あの娘、やっぱり甘い感じの方がいいのかな?」

「あぁ……うん、まあそうかなあ?」

「そっか。そうだよね。分かった、じゃあチョコとかそんな感じで作ることにするよ」

「うん。よろしくね、ブーディカ」

「お安い御用さ」

 

話は終わったと、今度こそブーディカは厨房へと入っていった。不思議そうに見ていたリリィも、それに続いて見えなくなった。

また邪ンヌの前の椅子に座ると、彼女はちらりと、何かを気にするように青年を見て、コーヒーに少しだけ口をつけた。

 

「あ、コーヒー飲めたんだね、良かったよかった」

「……当然でしょう。さっきからずっとそう言っているはずです」

「ごめんごめん」

 

しかし、ほんの少し飲んだだけで邪ンヌはカップをテーブルに置いてしまった。無理しすぎである。

あははと笑う青年をじとりと睨んで、けれど邪ンヌはなにも言わない。

 

「それより、マスター。貴方はーー」

「ーーセイバーは何処だあっ!!」

 

邪ンヌが何かを言おうとしたと同時に、再び乱入者の声が食堂に響き渡った。とても大きな声量に、青年はびっくりして入口の方に目を向けた。

 

ーーぽちゃん。

 

胡乱気な邪ンヌの視線を意に返すこともなく、乱入者は一直線に二人の方へとやってきた。

 

「どうしたの? X」

「ノンノン、マスター。私の名前は謎のヒロインX。ヒロインでもXでも、アルトリアでもありません。そこんところよろしくっ」

「またうるさいのが……」

 

苦虫を噛み潰したような表情の邪ンヌに、謎のヒロインXは、今気づいたとでも言うように話しかける。

 

「おや、そこにいらっしゃるのは最新型アルトリア顏の邪ンヌさんではないですか。またアルトリア顏が増えたことには遺憾の意を示したいところですが、生憎あなたは『復讐者』。セイバーでないあなたを討つのは私の方針に反します。ここは穏便に行きましょう」

「穏便もなにも、アンタと私の顏、全然似てないじゃない。それに、セイバーを滅ぼすのが目的なら、さっさとあの真っ黒くろすけ殺してくれないかしら?」

「ーー誰が真っ黒くろすけだと?」

 

振り返れば奴がいた。

黒い装いは邪ンヌのそれにそっくりであった。彼女は三人のところにゆっくりと近づいてきながら、殺気まがいの視線で邪ンヌを舐るように睨め付ける。が、まさかそれに屈するような女でもあるまい邪ンヌは、その視線に同様の憎悪に近い穿つような視線で返した。

突然の乱入に次ぐ乱入に、青年はうわぁ、と声を上げた。溜息を吐かなかったところは褒めてあげたいほどである。

黒々しい乱入者は、そのまま自然な流れで青年の隣の席に座った。ふと気付けば、謎のヒロインXも邪ンヌの隣に、普段とは懸け離れた大人しさで椅子に座っていた。青年と目が会うと不思議そうに首を傾げた。先のリリィとそっくりの仕草に、思わず笑ってしまいそうになる。

そんな青年の心情とは正反対に、邪ンヌと、乱入者アルトリアの雰囲気はある意味絶頂を迎えていた。

 

「誰もアンタのことだなんて言ってないけど? いやねぇ、居るのよ。自意識だけは無駄に高い女」

「ああ、私のことではなかったのか。いや、まさか聖女様に自殺願望があったなどとは思わなくてな、真っ黒くろすけ。実際そこのところどうなんだ真っ黒くろすけ。ええ? 真っ黒くろすけ?」

「何回言ってんのよ! しつこいわね。大体なんでアンタがここにいるわけ?」

 

アルトリアはふんと鼻を鳴らしてから、大層人を小馬鹿にした表情で言い放った。

 

「今から、何かしらの食物が現れる予感がしただけだ」

「直感っ!?」

「……それって、闘う時にしか使えないんじゃなかったっけ?」

「なにを、マスター。馬鹿なことを言う。食卓は戦場だとも」

「ありえない……頭沸いてんじゃないの? なによこいつ」

「いやあ、さすがはアルトリア顏の一人。素晴らしきかなギャグ時空。誰でも彼でも叫びまくりです」

 

場が混沌としても、青年は嬉しそうにその中に混ざっていた。

そんな青年の顔をちらりと盗み見てから、邪ンヌはまた不機嫌そうに眉根を寄せた。

 

「………………私と二人きりの時より楽しそうじゃない、なによそれ」

「なにを可愛いこと言ってるんですか邪ンヌさん。小さ過ぎて私にしか聞こえてませんよ?」

「別にマスターに聞かせたいわけじゃないですっ。というか独り言を勝手に聴かないでくれませんかっ?」

「失敬。ぶっちゃけ隣に座ってたら大体聞こえちゃうので、どうぞよしなに」

「ぐっ」

 

青年のどうかしたの? という不思議そうな声に、なんでもないと首を振る。ちょっとだけ顏が赤らんでいた。熱だろうか。

 

「初心が。所詮田舎臭い村娘だな」

「万年処女の男装王には言われたくないんですけど? 女を捨てたアンタの方が大概初心でしょうが」

「否。残念だったな黒い聖女。もとい真っ黒くろすけ。わたしは既に大人の階段を二段ほど歩んだところだ」

「はあ? ていうか真っ黒くろすけっていうな」

 

アルトリア渾身のドヤ顔に、邪ンヌは胡散臭い詐欺師でも眺めているようであった。

しかし、そんな邪ンヌも、アルトリアの言葉に驚いてしまう。

 

「ーーマスターと二人きりでな」

「はあっ!?」

「おやおや、これは……」

 

思わずと立ち上がる邪ンヌを下から睨め付けて、はっ、と嘲笑う。

 

「生き遅れは最早貴様のみ。精々マスターの枕の匂いでも嗅いで悦に浸っていろ、万年真っ黒くろすけ」

「アンタも大概しつこいわねっ! いやそれよりもどういうことよマスター!? こいつとおお、大人の階段って!?」

 

だが、その言葉に一番驚いていたのはその大人の階段とやらを上ったらしい青年自身であった。

 

「ええっと……僕、君と何かしたっけ?」

「ああ。一昨日の昼間、二人で一緒のソファで寝たではないか」

「初心かっ!!」

 

確かに階段二段くらいである。

邪ンヌは疲れ切った様子で椅子に深く座り込んでしまった。

 

「まったく。なによそれ……アホみたい」

「性意識が低い連中の多いこのカルデア。プラトニックな女の子は私にしか務まらないだろうという判断だ」

「プラトニックな女の子は計画立ててマスターを籠絡しようとはしませんけどね、普通」

 

謎のヒロインXは楽しそうに言った。これぞまさに、といったところである。素晴らしきかな。

するとーー

 

「あの、さっきから叫び声が外まで……どうかしたのですか?」

「叫んでるのはそこの聖女様だけだろう? 全く、貴様といるとろくなことにならないな」

「殴りたいっ……あの顏、すっごくムカつく……」

「こんにちは、君もお腹が空いたの?

マシュ」

「いえ、そういうわけでは。偶然通りかかったところ、中から声が聞こえたものですから。ですが、先輩に会えたのは嬉しい誤算でした。私もご一緒しても?」

 

もちろん、という青年の言葉に嬉しそうに頷いて、マシュは青年の隣ーーつまりアルトリアの反対側に座った。

 

「それで、なんの話を?」

「ううん、特に何かを話してたわけでもないんだ……なんの話だったっけ?」

「すごいですね。本当になんの話をしている最中だったのか全然思い出せません。お二人の口論が愉快であった記憶以外、全然残っていませんよ」

 

マシュの問いかけに、青年と謎のヒロインXは首をひねった。

 

「まあ、それほど重要な問題ではないでしょう」

「それもそうかな? そう言えば、マシュはどうしてここを通りかかったの?」

「清姫さんがマスターのことを探していたので、えっと、そのことを先に先輩に伝えておこうと思った次第です」

「ああ、あの蛇女ね。またお得意の病気かしら?」

「いやあ、さすがの私もあれは受け止めきれません。マスターのすごさをしみじみと感じられます」

 

さすがのあれな清姫は、今頃マイルームに向かっているようである。青年は、じゃあ後で会いに行こうかなと言った。

 

「それより、クッキーはまだなのか?」

「なんでクッキーって分かるのよ……アンタその話の時いなかったじゃない……」

「げに恐ろしきかな、直感A。なんでもお見通しですね」

「先輩、クッキーとは?」

「ブーディカとリリィが今作ってくれてるんだ。多めに作るって言ってたから、マシュも食べていくといいよ」

「それは楽しみですね」

まさか、ここで話が終わるわけなく。一応の団欒らしき雰囲気の中、また食堂の入り口から一人のサーヴァントが入ってきた。

噂をすれば影。

清姫は青年のところに駆け足で向かっていった。

 

「ますたぁ、こんな所にいらっしゃったのですね。 何をなさっているのですか?」

「クッキーが出来るのを待っているんだ。清姫もどうかな?」

「こんにちわ清姫さん」

「はい、私もご一緒しましょう、旦那様。それとマシュさんこんにちわ」

青年にしなだれ掛かって、その背中越しに話す清姫をおかしいと指摘する存在はこの場にはいなかった。触らぬ神に祟りなしの精神に関しては、全員揃って一致していた。

しかし、その当事者である青年は違うらしく、そんな清姫に少し慌てながらも席に座るように勧めた。背中に当たる感触にどぎまぎしているようである。

 

ーーぽちゃん。

 

それで、結局折れたのは清姫の方。本人的には夫を立てただけらしいが。

マシュが席を一つずらして、彼女が座っていた場所に清姫が、着物を揺らしながらお淑やかに座った。

 

「それで、いったい何の話を?」

 

言外に感じる、私抜きでなにを? というような威圧に、青年は臆すことなく笑った。

 

「あはは。なんの話だったっけ? マシュ」

「なるほど。先輩とヒロインXさんの言っていたことがなんとなく理解できました。本当になんの話をしていたのか思い出せませんね。不思議です」

「そうでしょう? それと、私はヒロインXではなく謎の(・・)ヒロインXです」

「すみません、謎のヒロインXさん」

 

三人の話に置いてけぼりにされたような気がした清姫は、むすっと青年に腕を絡めた。

 

「それでは……今からは、なんの話をいたしましょう?」

「そうだなあーー」

 

そうやって青年が言ったのと同時に立ちあがったのは邪ンヌであった。

 

「どうしたの?」

「……部屋に戻ります」

「ええ? どうして?」

「あまり騒がしいのは好みではありません」

 

邪ンヌはコーヒーを一気に飲み干して、そのまま食堂を去ってしまった。

 

「どうしたのかな? 邪ンヌ」

「ふん、気にするなよマスター。小娘の癇癪だろうよ」

「あはは、可愛いですね邪ンヌさん」

「気にすることはありませんよ、旦那様。彼女のことは一旦置いておきましょう」

「先輩……」

 

邪ンヌの去っていった出入り口をしばらく眺めてから、青年はまた会話を再開した。

彼は、その後ブーディカとリリィが持ってきたクッキーを皆で食べるときに、クッキーを幾つか包むことにした。

青年は、邪ンヌの飲んでいたコーヒーカップの底が、何故か飴色に見えたのを、しっかりと目にしていた。

 

 

 

 

「失敗したかしら。普通に食べていけばよかった……かもしれないわね」

 

邪ンヌは自分に割り当てられた部屋のベットに寝転がって、呻いていた。

自己嫌悪の念に襲われながら、心の中でたくさんの言い訳をしていた。

こんな性格をしていることを、自分自身で問題視し始めたのは、このカルデアに召喚される前、青年と贋作達の主人として対立してからであった。素直になれない性格も、口について出る毒舌も、早く直してしまった方が良いということは、彼女にもわかっていることであった。

けれど、それが思ったよりもむずかしいのだ。

何度目かの溜息をはくと、扉がノックされる音が聞こえた。

 

「誰よ、面倒くさいわね」

 

のったりと起き上がって、扉に向かい、覗き穴から外を見て、来訪者が何者か分かった時、邪ンヌは今までにないほどの俊敏さで扉の鍵を開けて、扉を開いた。

 

「な、なんで来たの?」

「邪ンヌ、入っても良い?」

「……えぇ、どうぞ」

 

青年の手には、クッキーの入った木の籠と少し大きめなティーポットにカップが二つ乗ったトレーがあった。邪ンヌはそれを確認すると、青年のために扉を押さえた。

 

「それで、どうして来たわけ?」

「邪ンヌ、折角なのにクッキー食べなかったから。出来立てじゃないけど」

 

備え付けの丸テーブルにトレーを置いて、二人は向かい合って座った。少なくとも、昼間二人で座って食堂のテーブルよりは、近い距離。

クッキーを渡す為。そんなことのために、わざわざ邪ンヌのところを訪ねたのだろうか。

とんだお人好しだと、彼女は心の内で嘆息する。

 

「……今日は悪かったわね」

 

そんな青年の空気に当てられたのか、気付けば邪ンヌはそんな風に口にしていた。

青年は邪ンヌを優しくみつめる。

 

「空気を、壊してしまったでしょう?

私が。だから、一応謝っておくわ」

だからといって調子には乗らないことね焼き尽くすわよ。らしくないことを言った自覚はあった。だから、早口でそうまくし立てる。頬が少しだけ熱い。

 

「良いんだ。僕の方もごめんね」

「直ぐに謝るのね、貴方」

「そうかな?」

「そうよ」

 

青年は笑って、ティーポットからコーヒーを注ぐ。

邪ンヌは、その様子を何を思うでもなく眺める。

 

「邪ンヌは、砂糖三個で良いよね?」

「ーーーー」

 

かあっと、また別の意味で熱の篭る身体のまま青年を怒鳴りつけようとした邪ンヌであったが、深いふかい溜息をついてから、こめかみに手を当てて言った。

それは観念した囚人のようで、親に悪戯を叱られる子供のようで。

邪ンヌは、くすり笑ってこう言ったのだーー

 

「砂糖、五個にしなさい」




邪ンヌはかわいい。
ついでにリリィも可愛い。
全然使ってないけど。
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