プロローグ
《冥界の森の中》
冥界、そこは人間界とは違い、自然環境に恵まれ豊かな大地が広がる場所である。
多くの森が存在するが手入れされていない森もいくつかあり、森の中に迷い混んだ者をエサとする危険な魔物が住み着いていたりもする。
危険な魔物なら討伐すべきなのだがそういう訳にもいかないのだ。
この地では、数十年前に悪魔、天使、堕天使の3すくみの戦争があったのだ。
その時に多くの犠牲者が出た。
悪魔では、魔王と多くの上級悪魔を失い。
天使では、神と多くの上級天使を失い。
堕天使では、幹部と多くの上級堕天使を失った。
つまり、現在危険な魔物を討伐できる実力者がほとんどいないということなのだ。
そんな理由もあり、危険な魔物は討伐されず、森の中に放置されている。
そんな危険な森の中を歩く一人の人物がいた。
綺麗な蒼色の瞳と、白いリボンでまとめた美しい黒髪、コートの上からでも分かる滑らかな身体のラインで、女性だということが分かる。
何の迷いもなく歩いていることから、森の中に迷い混んだという訳では、無さそうだ。
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私は目的を果たし、仲間と決めた待ち合わせ場所に向かっている最中だ。
目的というのは、亡くなった両親の遺品の回収だ。
私の両親は、悪魔とシスターだった。
つまり、私は悪魔とシスターのハーフである。
母様が普通の人間だったなら大したことには、ならなかったのだが、神に使えるシスターだったのが問題になったのだ。
結果的に私達家族は、冥界から追放された。私の父様は、悪魔の中でも屈指の実力者だったため殺されることは無かったのだ。
人間界に追放されたが、私は幸せだった。優しい父様と母様がいてくれたからだろう。
そんな幸せな日々は、長く続かなかった。
父様が病になったのだ。
その病は、冥界にある薬を使えば治ったが私達は、冥界から追放されていたので、薬を貰えなかったのだ。
それからしばらくして、父様は亡くなった。
その後、父様だけでなく母様も何者かに殺された。
私は、ほんの数日で全てを失ったのた。
いや、得たものもあった父様が亡くなる前にくれた悪魔の駒という道具だ。
この道具は、戦争で数を減らした悪魔が、個体の数を増やすために造った、人間などの別の種族を悪魔に転生させる道具である。
この道具がなかったら私はずっと一人ぼっちだっただろう。
ん?私は違和感を感じ止まる。
ーーーーーーーーガサガサッ
遠くから何もなければ聞こえるはずのない音が聞こえる。今は風も吹いていないので、考えられるのはおそらく魔物だろう。
でも妙だ、この森の中に住む魔物は凶暴で人を見つけたら直ぐに襲い掛かって来るのだ。私にも何度か襲い掛かってきたことがあった。
どの魔物も何の迷いもなく襲い掛かってきたのだ。なのに今聞こえている音は誰かを襲っているという感じでも無さそうだ。
ん?何か別の音が聞こえる。
音というよりこれは、泣き声?
それも随分幼い気がする。
子ども?
この森は、小さな子どもが迷いこんだら、入り口の辺りで魔物に食べられているはずだ。
なのにどうして?
いや、迷っている暇はないか。
私は泣き声の聞こえる方に走っていった。
***
魔物には、様々な種類がある。
肉食や草食。
大きいものや小さいもの。
知性の高いものや低いもの。
豪胆なものや臆病なもの。
どれも生きるために進化してきたのだろう。
今私の目の前にいる狼のような魔物は、この魔物だらけで弱肉強食の森の中でも、かなり強い部類に入るだろう。
この魔物は、たいした力を持っているという、訳ではない。この魔物の強みは、知性の高さである。
戦う相手の何処を攻めればいいか。
もしくは、どうすれば逃げ切れるか。
など、自分が生き残ることを第一に考える。ただ、相手に勝つだけがいいという訳ではないのだ。
さて、話を戻そう。
その狼は、私を見ている訳ではない狼が見ているのは、二人の赤ちゃんである。
おかしい・・・・
何がおかしいのかというと、 この狼の力は、中級悪魔ぐらいではあるのだ。
つまり、この狼ならこの二人の赤ちゃんを簡単に襲うことが出来るのだ。
なのに、この狼は、二人の赤ちゃんを見つめているだけ。
私は気になり、狼をよく見てみる。
狼の身体が震えている?
まさかっ!
この狼は、二人の赤ちゃんに脅えているとでもいうのだろうか?
そんな馬鹿なことがあるだろうか?
自分よりも力が弱い者に脅えることなんて・・・
ーーーーーーーー突如震えていた狼が覚悟を決めたかのように二人の赤ちゃんに襲い掛かった。
バキバキバキッ
その時、不思議な音と共に、私の目の前の大気にヒビが入る。
狼の牙は、二人の赤ちゃんに届くことは無かった。
私の能力を受けて狼は、ものすごい奇声を上げて吹き飛ばされたからだ。
力を入れすぎたのか、この辺りの木々も一緒に吹き飛ばしてしまい、日の光が差し込んでいる。
まあそんなことはどうでもいい。
今、気にすべきことは・・・・・
泣き叫ぶ二人の赤ちゃんだ。
「どうしよう・・・・・・・」
森の中では、赤ちゃんが泣き叫ぶ声だけが聴こえる。
本当にこの子逹をどうしたらいいだろうか?
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昼間だというのに日の光が差し込まず、薄暗い森の中を歩く二人の人物がいた。
一人は、腰まで伸ばした銀髪と朱色の瞳が印象的な女性で、分厚い本を大事そうに抱えている。ちなみに青いワンピースを着ている。
もう一人は、背中の辺りまで伸ばした金髪をリボンでまとめている。金髪よりも目立つのは、右目が緑、左目が赤のオッドアイである。ちなみに彼女も女性で甲冑のついた戦闘服のようなものを着ている。
「そろそろ待ち合わせ場所ですね」
金髪の女性が、歩きながら言う。
「そ、そうだな」
銀髪の女性も答えるが、何か落ち着かない、そんな様子だ。
***
やれやれ、リインは戦闘の時は頼もしいがテレサのことになるとダメダメだな。
私はため息をはきながらリインをみる。
「これさえ、これさえ渡せばテレサにあんなことや、こんなことができる。」
・・・恐ろしいことを呟いているが聞かなかったことにしよう。
テレサもかわいそうに、持ってきてくれれば何でもする、なんて言わなければよかったのに。私達は彼女のお願いなら聞いてあげるというのに。
ちなみに彼女のお願いは、亡くなった両親の遺品の一つ、聖書を冥界の屋敷から取って来てほしい、というものである。
見張りなどもいなかったので簡単に持ってくることができた。
まあ、見張りがいたとしても私達の敵ではないがな。
そんなことを考えながら森の中を進んでいると・・・・
ものすごい奇声と轟音が聴こえた。
「こんな音をだせるのは・・・・」
私の頭の中で浮かんだのは、たった一人だった。
「テレサだっ」
「あっ、リイン待ってください」
リインは、私をおいて音の聴こえた場所に走って行ってしまった。
・・・速い
もう見えなくなってしまった。
まったくこの前、飛ぶのは好きだが、走るのは苦手なんて言っていたのは、誰ですか!
私は、心の中でリインの愚痴を言いながらも走っていった。
走っている最中、ボロボロになった狼が地面に転がっていた。
私は、思わず足を止めた。
きっとさっきの奇声は、この狼からだろう。傷の具合からしてテレサがやったと思われる。彼女の能力は地震やら衝撃やらを発生させるので、こんな傷になったような気がします。
でも妙ですね・・・・
この狼は、知性が高かったはずです。勝てない相手には、襲い掛かったりはしなかったはずです。
テレサに勝てないことなんて、分かったはずなのに。
まあそんなことよりもリインですね。
私は、再び走り出すのだった。
***
「やっと見つけましたよリイン」
私は、ようやくリインを見つけて声をかける。
しかし、返事がない。
「リイン、聞いているのですか?」
やはり返事がない。
いったい、どうしたというのだろうか?
・・・何かを、見ている?
どえやらリインは、何かを見ているようですね。
それもリインの顔は、あり得ないものでも見たのか呆然としています。
まったく、何がったと言うのでしょうか?
「んっ、眩しいですね」
私は、あまりの眩しさに目を閉じる。
どうやら、この周辺の木々が折れて日の光が差し込んでいるようですね。
さっきまで薄暗い所を走っていたから、余計に眩しく感じます。
この光が、リインを呆然とさせているのでしょうか?
いや、そんなことはないはずです。
ずっと目を閉じていても、何も解らないので私は、ゆっくりと目を開け光が差し込んでいる方を見た。
「なっ!」
私は思わず声をあげてしまった。
そういうことですか。
リインが呆然としていた理由が分かりました。
それは、日の光が差し込むその場所に、微笑みながら二人の赤子を抱えるテレサが居たからです。
彼女が、あんなに優しく微笑みを浮かべているのを見るのは、いつ以来だろう。
彼女は、元々感情を表にだすタイプではない。
なので、私も彼女の笑顔を見るのは、数える程しかないのだ。
そんことを考えていると・・・・
「オリヴィエ、リインどうしたの?」
どうやら私達に気がついたようだ。
「そ、その赤子はどうしたのですか?」
私もまだ動揺が隠しきれない。
「さっき拾った。」
「その子逹は、どうしますか?」
「捨て子みたいだし私が育てようと思う。」
「そうですか、分かりました。」
「反対、しないの?」
私は、迷うことなく言った。
「反対なんてしませんよ」
私は、
いや私達は、
テレサの優しさに救われたのだ。そんな彼女の提案に反対する理由などない。
「・・・・ありがとう」
テレサは、小さな声で恥ずかしそうに言った。
「では、帰りますか。」
「そうだね」
テレサは二人の赤子を抱え立ち上がった。
私は、今何となく思ったことを聞いてみた。
「この子逹は、テレサの眷属にするんですか?」
「解らない、それは私じゃなくてこの子逹が決めることだから。」
「そうですか。あっ、名前はどうしますか?」
「もう決まってる、この子逹にはこれしかない」
「ほう、それはどんな名前なんですか?」
私も気になる。
「イッセーとヴァーリ」
「それはいい名前ですね、ちなみに由来は?」
「ない、なんかこうビビッときてこの名前にした。」
勘ですか・・・・
でも、どちらも合っている気がするのでいいと思いまよ。
「リイン、来ないとおいてきますよ。」
未だに呆然としているリインに声をかける。
「まっ、まってくれ。」
「二人ともどんな子に育つかな。」
テレサは、静かに呟くのだった。
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