ヴァーリの神器
《オルスレン(シュバリナ)領立入禁止区域》
木々に囲まれて見つかりにくいこの場所に避難して正解だったな。案の定、空に逃げたイングヴァルトはリインに捕まっている。
「かれこれ五時間か・・・・」
僕は冥界の時計屋で買った懐中時計を見ながらため息まじりに呟く。
ーーーバサバサッ
戻ってきたか。
僕の目の前に1羽の鳥が飛んできた。
幻鳥フェニックス、この領地にしか生息しないと言われている鳥だ。
噂だが、太古の昔はフェニックス家の領地にも生息していたとか。
まあそんなことはいいとして、
「もう終わりそうかい?」
僕は鳥に問い掛ける。
普通の鳥なら僕が何を言っても無駄だろうがこの鳥は違う。言葉を理解することができる。
・・・・鳥は首を横に振った。
まだあの列が続いているのか。
*************************************
五時間前
《エリクシール城》
頭がクラクラするな。
「・・・・ヴァーリ、おいヴァーリ!」
「・・・・リイン・・・か?」
僕は周囲を見渡す。
よく見たことのある部屋だ。
どうやら成功した様だな。
俺は、いや俺達はテレサがライザーフェニックスと結婚したということが真実だと思い込んでいた。普通だったらまず信じないだろう。だが何故かそう思い込んでいた。
イッセーにテレサとライザーが結婚したのかと聞かれた時、僕はそうだと言った。
その時はイッセーがおかしなことを言っている様にしか思えなかった。
だが暫くしてから自分の頭の中から何かが抜けたかと思うと、おかしいのは自分だと気がついた。
僕は何らかの幻術にでも掛けられていたのだろう。テレサとライザーが結婚しているという幻術に・・・・
自分が幻術にかかる前に戻りたい、そう思ったのが失敗だった。
「全員戻ってこれたぞ。」
まさか過去に行くことになるとは・・・・
「そうか。」
僕はそっと胸を撫で下ろす。
失敗しなくて良かった・・・・
「他の皆はどうしたんだ?」
「巻き込まれなかったテレサとイッセーを探しに行っている。」
「それじゃあ僕も・・・」
僕は身体を起こした。
「大丈夫なのか?」
リインが心配そうに言うが、僕の身体は特に問題ない。身体は、ね。
「ああ、それよりも二人を探そう。」
「ならいいんだが・・・・皆はあっちに向かって歩いていったぞ。」
「それなら僕達は反対側を探してみよう。」
「そうだな。」
僕とリインはアーシア、オリヴィエ、イングヴァルトが向かった方向とは逆の方向に向かって行くのだった。
*************************************
「おいオリヴィエ、早く声を掛けろ。」
と、オリヴィエの背中を押すイングヴァルト。
「嫌ですよ、アーシア自然な感じで声を掛けらてくれませんか?」
イングヴァルトの押しに堪えつつ、アーシアに問題をパスしようとするオリヴィエ。
「えっ!あんなテレサちゃん初めて見ますし私もどんな感じに声を掛けたらいいのか分かりませんよぉ。」
結局自分が話し掛けに行くことになるんだろうと思いつつ、なんとか回避しようとするアーシア。
三人はドアを少しだけ開け、ある部屋の中を覗き込んでいた。
そこはテレサの部屋。
そしてそこにいたのは・・・・
「お城に誰も居ないし今日もイッセーと二人っきり~♪」
ベッドの毛布にくるまりながら、嬉しそうにはしゃいでいるテレサだった。
「「「・・・・・」」」
自分達が居なかった間に何があったというのだろうか。
この三人の中に今のテレサに声を掛けられるような者はいない。いや、この三人でなかったとしても大半は声を掛けるのに戸惑うだろう。
だが、誰かがやらなくてはならない。
なら・・・・
オリヴィエとイングヴァルトの目が合う。
ーーートンッ、バタン
無言の連携。
イングヴァルトがアーシアの背中を押して、オリヴィエが部屋のドアを閉めたのだ。
「イッセーを探しましょう。」
「そうだな、毎日テレサと一緒に寝ているアーシアなら大丈夫だろう。」
二人は何事も無かったかの様にイッセーを探すため、テレサの部屋から離れていくのだった。
***
「ようやく戻ってきましたか。」
イッセーを探す私とオリヴィエの前に執事服を着た一人の男が現れた。
この城、エリクシール城唯一の執事ベスだ。
「なんとかな。」
「ええ、皆無事ですよ。」
無事!?
私は両手の骨が粉々になったんだぞ!
『アーシアに治療してもらったから結果的に無事でしょうが。』
くっ、顔に出ていたか。私が文句を言う前に・・・・
しかし、信じられない事が起こったものだ、まさかヴァーリの神器で過去に行くことになるとは。
ヴァーリの神器の能力は封印。自分に有るものを封印する事で、相手が持つ自分が封印したものと同じものを封印する事が出来る。自分に掛けた封印を解除すると相手に掛けた封印は解除されるが、自分が解かない限り封印は解除される事はない。さらに自分の封印したものが相手より大きかった場合、相手の封印したものを破壊する事が出来る。
ヴァーリが魔力を封印してから剣で相手を斬れば、相手の魔力も封印される。
ただしヴァーリは魔力が膨大なため自分の魔力を少し封印するだけで相手の魔力を封印することが出来る。
そして禁手は自分が封印するものを選択出来る。例えば相手の神器を封印するのに、自分の神器を封印するのではなく魔力を封印する事で相手の神器を封印する事ができる。禁手の状態の時のみ自分が封印したものは一定時間を過ぎると消滅する。消滅した時は相手に掛けた封印も解除される。
だが自分の封印したものが相手の封印したものよりも大きなものだった場合、自分の封印したものが消滅しても 相手の封印したものは解除されない。
この神器の禁手では封印の対象に限りがない。
神であろうと龍であろうと封印することができる。だが相当な対価が必要になる。
過去の使い手にも神や龍を封印した者がいた様でヴァーリの神器には何体か封印されている。
だが封印されている神や龍は長い年月の経過が原因なのか、どれも精神と言える様なものが消滅しているらしい。
つまり赤龍帝の神器の様に封印されているものの力を借りる事が出来ないということだ。
だが今回は何故か封印されているものの力が使えたらしい。《時間操作の能力》封印されている神か龍の能力だ。
まあ使えたといっても使いこなせていなかったのでかなり昔に行くことになったがな。それにヴァーリだけでなく私達まで巻き込まれてしまった。
・・・・ん?
オリヴィエがベスと話をしながらチラチラとこっちを見ている。
なんだろう・・・・凄く嫌な予感がする。
「イングヴァルト、頼みがーーー」
「ーーーそうだ、用事を思い出した!」
オリヴィエの言葉を最後まで聞く前に私は逃げ出した。
なんとなく分かる、これは面倒な事を押し付けられる。
私は全力で城から出て、翼を広げ空に逃げた・・・・
*************************************
イングヴァルトを見つけたかと思えば物凄い勢いで走っていってしまった。
何かから逃げていたのかと思い、イングヴァルトが逃げてきた方に行ってみればオリヴィエがいた。
「まったく、イングヴァルトがいなくなったら誰が接待をするんですか・・・」
ヤレヤレと言った様子で執事のベスとイングヴァルトを追い始めた。
僕は咄嗟に隠れたからまだ見つかってない筈だ。
普通に何があったのかを聞いても良かったが、僕の本能がそれを拒んでいた様な気がしたので、とりあえず二人にバレない程度に近づき、聞き耳を立ててみる。
「イングヴァルトが見つからなかったらヴァーリ辺りにでも客人達の接待をしてもらいましょうか。」
「それがいいですね。」
客人?
しかも達と言っていたから複数いるのか!?
そういうのはイッセーとかの担当だ。
ーーーなんだか外が騒がしいな。
僕は城の窓から外の様子を眺める。
騒がしいのは城の門か・・・・
!?
何だあの悪魔の数は!
少なく見積もっても百人はいるだろう。
あれを僕が接待?
・・・・よし、逃げよう。
*************************************
そして現在
神器に封印された神か龍の力を使ったら神器に亀裂が出来てしまった。
あの金髪の女神の攻撃を受けたのが原因な気もするがな。
あの女神が使っていた武器、確かエクスカリバーだったかな?
確か現在は地上にあったはずだ。
神器が自然に修復するのにはかなりの時間がかかる。
武器はなくてもいいが、もしもの為にもあった方がいいかもしれない。
「エクスカリバー、盗ってくるかな。」
イッセーにレプリカでも創ってもらい、それと交換しておけば問題ないな。
ーーーバサバサッ
「お前も来るか?」
黄金の幻鳥フェニックスは首を縦に振った。
僕はフェニックスと共に地上に向かって歩きだした。
城に来ていた悪魔達は貴族です。
次の話でそのことについても書こうと思います。
それからテレサとアーシアのやりとりはまた後に書きます。