聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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十話

 今後の話し合い、というわけで執務室に集まる。

 そこにあるソファに座り、まずは報告。

「鋼材だが、一応。兵器を解体して得る事が出来た」

 俺の言葉に皆は拍手。

「頑張ったわね。えらいわー」

 足柄に撫でられた。……まあ、確かに悪い気はしないか。

「といっても、どうしても時間がかかってしまう。

 長期戦も視野に入れなければいけないのなら、別の補給路は必要だ」

「ンー、じゃあ、ある程度たまるまではジークに頑張ってもらうのと、あと、資材確保、デスネ?」

 金剛の言葉に頷く。

「では、近場を片っ端から掻っ攫いまショウ。

 それで、ある程度たまったと判断出来たら、抗戦、安全と判断出来たら、本土突撃、デスっ!」

「突撃は、ちょっと違うような」

 拳を握る金剛に大和が苦笑。同感だ。

 が、

「それで、私たちは?」

「ジークは足柄がお姫様抱っこしていけばいいデス。

 ジャンヌは、ワタシがお姫様抱っこしていきマス」

「わかったわっ」

「いや、ちょっと待て」

 真面目に頷く足柄。だが、それはだめだと思う。

「ジーク、……私じゃあ、不満?」

「不満以前にダメだろう」

「そ、そうですっ! 戦艦の私の方が足柄さんより力もありますし、わ、私がお姫様だっこをしますっ!」

 ずい、と前に出る大和。だから、それ以前だと思うのだが?

「なんで私までお姫様抱っこ?」

 で、首を傾げるジャンヌ。そして、金剛がジャンヌの手を取った。

「答えは簡単デスっ! ワタシ、ジャンヌに惚れちゃいまシタっ!」

「…………は?」

 きらきらと瞳を輝かせる金剛と、脳が理解を拒んだような表情で首を傾げるジャンヌ。

「あの時、泊地を護って戦うジャンヌは、とても、とてもステキデシタ。

 その姿を見て、ワタシ、貴女の事を好きになりまシタ」

「………………よ、よかった、な?」

 ジャンヌの、助けを求める視線にとりあえず応じた。間違えているとは思わない。好意を向けられるのは、悪い事ではない、と思う。

「いや、いやいや、ちょっと待ってくださいっ!

 金剛っ、あ、貴女は女性ですよっ?」

「no Problemっ! 愛に性別は関係ありまセンっ!」

「ありますよっ?」

 抱き着く金剛に右往左往するジャンヌ。……そうか。

「女性間でも愛が成立するのか。

 これは、俺の知識にもなかったな」

「私の常識にもありませんっ!

 ど、どど、同性で、あ、ああ、愛し合うなど、罪深いにもほどがありますっ!」

「そうなの?」

 足柄の問い。確か、

「ジャンヌはキリスト教の聖女、キリスト教は、基本的に、同性愛については否定的、だったと思う。

 いや、ジャンヌの主義は、わからないが」

 とりあえず、ジャンヌの口から同性愛を否定する言葉は聞いたことがない。

「あら、そうなの? じゃあ、以外とジャンヌは同性愛肯定派?」

「否定ですっ!」

「ジャンヌ、ワタシの思いを、聞いてクダサイ」

「神の嘆きを聞いたのなら、金剛の愛の告白も聞ける、と思う」

「きーこーえーまーせーんっ!」

「ええと、ジーク君。

 一応、艦艇、……まあ、人が移動するための船はあるから、それに乗っていけばいいんじゃないかな? 僕たちじゃあ、頼りないと思うけど、足柄とか、大和に曳航してもらってさ」

「それが妥当だろう」

「えー」「え?」

「…………いや、何を期待してたんだ?」

 金剛に抱きしめられて彼女の腕をぺちぺち叩くジャンヌを横目に、不満そうな大和と足柄に聞いてみる。

「え? お姫様抱っこよ。したいもの」

「…………先に言っておくが、俺は男だ」

「そ、そうだよ足柄っ! ジーク君は男の子だよっ!

 お、お姫様抱っこを、する方、だよ」

「そうだな。そういう話だったのか?」

 そもそも、時雨は艦艇に乗ることを提案してくれた。俺はそれを了承した時点でお姫様抱っこの話は流れたと思ったのだが。

「いい。ジーク。

 そういうのはいいの、単にしたいだけだから」

 こくこくと頷く大和、ジャンヌをホールドして親指を立てる金剛。……ジャンヌが苦しそうなのだが。

「まあ、それだけなら構わないが」

 別に大した事でもない。「ふはっ!」と、ジャンヌが金剛の胸から脱出した。

「な、なにを言い出すんですかっ! ジーク君っ!」

「抱えあげられるだけだし、特に問題はないと思うが?」

「そういう問題ではありませんっ!

 男の子はそういうのをやってはいけません」

「そうか?」

 そういうものなのか。……ああ、時雨が、する方、といっていたな。

 そういうものなのかもしれない。

「まあ、俺とジャンヌは、その艦艇で脱出になる。

 抱えると両手が塞がるわけだし、これが妥当だと思う」

「……まあ、そうよね」

「でー、日程はどうするにゃ? 暁」

「ふぇっ? …………れ、レディーはお姫様抱っこを、される方なんだからねっ!」

「……にゃあ」

 多摩が俯いた。

「そうじゃないにゃ、ジークにお姫様抱っこをしてほしい暁はこの際放置にゃ。

 金剛も、少し現実に戻るにゃ」

「了解デース。ジャンヌと愛を育むのは夜にシマス」

「育みませんっ!」

「あ、暁は別にお姫様抱っこして欲しいなんて思ってないんだからっ!

 けど、一人前のレディーになるためには、そういう経験も、必要だって思っただけよっ!」

「…………でー、暁」

「はっ? ……そ。そうねっ」

「まずは資材確保だね。先の資材確保で、泊地に奇襲されたからね。

 ええと、誰か残った方がいいと思う」

「私が残ります」

 時雨の言葉に、大和は頷く。

「元々、燃料の消費が激しい私は資材確保には向きませんし、射程には自信があります。

 ここに構えて、敵艦隊が来たら速やかに撃破します。泊地には、近寄らせません」

 力強く宣言する大和。皆が頷き、

「あとは、対潜警戒で多摩が残ってくれるといいかな?

 蒼龍と金剛で哨戒と、索敵、僕と暁と、足柄で資材確保がいいと思う。どうかな?」

「そうですね。蒼龍と金剛はどちらでも動ける方がいいでしょう」

「とすれば、資材確保は昼か?」

 問いに、時雨は頷く。

「それがいいと思うよ。その方が索敵もしやすいし。

 それに、泊地に近寄らせないことが大切だから、大和の最大射程を生かすためにも、日中でいいと思う」

 時雨の言葉に頷く。……「と、すると、今日はもう遅いか」

「1600、……そうだね。これから資材確保に行くと、暗くなっちゃうね」

 だから、と、時雨は俺に視線を向けて、

「ジーク君とジャンヌさんの話、もっと聞きたいな」

「話、か?」

「う、うん、……その、いやじゃなければ、だけど」

 俺の事は話した。だから、少し気まずそうに問いかける時雨。

 けど、

「構わない。……そうだな。

 もう少し、話をするか」

「どういう話にゃ? 長いにゃ? 短いにゃ?」

「短くすることもできるが」

「じゃあ、長い方がいいにゃ。

 多摩はジークのお膝で丸くなって聞くにゃ」

「うん?」

 どういう意味だ?

 多摩は俺の隣に座り、そのまま、こてんと、俺の太ももの上に頭をのせて、丸くなった。

「…………多摩?」

「たーまはお膝で丸くなるー、にゃ」

「まあいいか」

「いいのですかっ?」

 寝心地がいいとは思えないが、ともかく多摩は上機嫌そうだ。さて話を、と思ったところで、ジャンヌが驚いた。

「いや、多摩も上機嫌そうだし、話をするのに支障はない」

「そ、そういう問題、ですか?」

「何か不都合が? …………ああ、ジャンヌが太ももに乗せたいか?」

「じゃあ、遠慮なく、抜錨デースっ!」

 座るジャンヌの腰に金剛が飛びつく。ジャンヌは反射的に膝を立てて、金剛は頭を打撃されて崩れ落ちた。

「お、ぐぐぐ」

「いた、……脛、痛いです。なんて突撃するんですか?」

 双方涙目だが。

「膝枕でお昼寝はいいにゃー」

「そうか?」

 そんなものだろうか?

「ジークもジャンヌにしてもらうといいにゃ。これはクセになるにゃ」

「いや、ジャンヌはそういうのは嫌がるだろう。

 金剛がそれをしてもらうのを拒否したわけだし」

 のっそりと復活して、なぜか俺に親指を立てる金剛。そして、

「こーんーごーうーっ!」

「な、何デスカっ?」

 のんびりと暴れ始めるジャンヌと金剛。

「なんにゃ、そのジークの微笑ましい表情は?」

「いや、金剛とジャンヌが仲いいなと思って」

「目指すはそれ以上の関係デスっ!」「それまでですっ!」

「さて、話を戻すか」

「あ、あっちはいいのね」

 足柄が示す先、のんびりと暴れるジャンヌと金剛。

「ああ、……足柄、俺の知識は、鋳造されたときに埋め込まれるのだが。

 その知識の中に、喧嘩するほど仲がいいというものがある。だからあれはあれで友情を確かめ合っているのだろう」

「あとでゴルドに目潰しします」

「それで、俺の話しか。……そうだな。

 聖杯戦争、の事は話したな」

「ええと、願いをかなえる聖杯を、魔術師、って人たちと、ジャンヌさんみたいな英雄が奪い合う、だっけ?」

 時雨の言葉に俺は頷く。

「そうだな。もう少し細かく言えば、”赤”と、”黒”で、それぞれ七騎ずつ召喚し、陣営での決着をつけてからになるが。

 それで、俺は”黒”の側の魔術師、後にジャンヌに目潰しされるゴルドによって鋳造された」

「電池、って扱いよね。

 そんなの、ひどいわよ、ほんとに」

 ぎゅっと、暁が拳を握って呟く。そして、そんな姿を見て、嬉しい、と思った。

 確かに、そんな扱いはひどいかもしれない。

 けど、

「それでも、俺は生を受けてよかったと思っている。

 あの聖杯戦争で、多くの英雄と出会えた。ジャンヌに出会えたことも、幸いな事だったと思う」

 いろいろな事があった。死にかけた事も何度もあった。生きていることは、奇跡のようなものだろう。

 それでも、俺は、生まれた事に、感謝をしたい。

「凄いなあ」

「蒼龍?」

 ぽつり、呟く蒼龍。……ふと、気付けば、皆、俺の方に視線を向けている。

 感じる注目。その中で、

「ううん、……ええと、そんな風に扱われて、それでも、生を受けてよかったって、そんな風に言えるのが凄いなあ、って」

「そうか? ……まあ、確かに、そうかもしれない。けど、」

 生まれは、不幸なのかもしれない。

 けど、

「幸いな出会いがあった。それだけで、十分だ」

「…………も」

 ぽつり、蒼龍が小さく呟く。よく聞こえず、首を傾げる。

 蒼龍は顔を上げる。

「わ、私達も、です、か?」

「ん? ああ、当たり前だ。

 これから、永い旅になるが、その最初に皆に出会えたこと、本当に幸運だと思っている」

「そ、……そっかあ。

 え、えへへ、嬉しいです」

 はにかみ微笑む蒼龍。

「そうですね。その聖杯戦争は、私も見てきましたが。

 本当に、…………様々な英雄がいました」

「いい人たち?」

 足柄の問いに、ジャンヌは、首を横に振る。

「善人も、悪人も、……いえ、善悪のくくりで考える事が愚かしくなる。そんな者たちです。

 英雄なんてそんなものかもしれませんが」

 ジャンヌはそういって苦笑。ぽんぽん、としがみつく金剛を軽く撫でて、

「いい人、悪い人というくくりで人を見ない方がいいですよ?

 大切な事を見逃してしまいます」

「そうデスカ? ……フーム? 難しいデスネ」

「だからこそ学んでいきなさい。

 ……もっとも、私達もその最中なので、偉そうなことは言えませんが」

「たくさんの人に関わっていく、ですね」

 不意に、大和は意地悪く笑って、

「じゃあ、ジーク君も、悪いところとかあったりするんですか?」

「どういうところなんだいそれは?」

 時雨が苦笑。……悪いところか。

「そうだな、俺は大悪を犯した。

 善人や悪人で言えば、悪人だ」

「う、……そ、そうなんですか?」

「そうだな。

 聖杯戦争の最後、とある聖人の願いを、俺は否定した。その選択に後悔はない。けど、人から見ればそれは大悪といえるだろう」

「ジーク君、それは、私も、」

 困ったように口を開くジャンヌ。けど、俺は首を横に振る。

 最終的にあれを、奪ったのは、この俺だ。

「その聖人は、聖杯を使って、全人類の不老不死を実現しようとした。それによる、恒久的な世界平和をだ。

 けど、俺はその聖杯を奪い取った。これが俺の犯した大悪だ」

「そ、……そんな事も、できたん、だ」

 唖然と呟く時雨。……まあ、当然だろうな。

 ジャンヌは何か言いたそうにしていたが、もし、それが擁護の言葉なら、不要だ。

 後悔はない。けど、それを罪というのなら、それを背負うのはこの俺だから。

「質問にゃ」

 ころん、と俺の膝の上で寝転がっていた多摩が手を上げる。

「なんでそれを奪ったにゃ?

 恒久的世界平和、……字面はいい感じにゃ」

 ずい、と皆がさらに近寄る。皆、興味があるのだろう。

「それが嫌だった。不老不死、何も変わる必要も、なにもなす必要もなくなる。

 生きるために足掻く事もなく、平和に向けて歩く必要もなくなる。……そんな世界は、いやだった。

 無様に足掻いて、踏み出すことに怯えて、泣きながら誰かに縋って、懸命に、戦って、……そうして、人は少しずつでも、歩いていく。……俺は、そんな世界の方がいいと思った」

 だから、

「一人前もいいと思うが、一人前を目指して必死なっている半人前も、いいと思う」

「あう、…………う、うぅ」

 前に暁と話したこと、それを思い出して伝えてみた。

 暁は、帽子で顔を隠してしまった。……あまりうまく伝わらなかったか。

「それは、ジャンヌもかにゃ?」

「もちろんです。確かにそれで恒久的な世界平和が実現するかもしれません。

 けど、それは人が人として歩んだ末に手に入れるものであり、聖杯という道具を使って得るべきものではありません」

 そして、ジャンヌは俺に視線を向ける。

「…………と、言うのが私の結論です。ね? ジーク君」

「いや、俺はそこまで考えていたわけじゃないが」

「あ、あれ?」

「ジャンヌや、ライダーが尊重した人の意志を蔑ろにするような事が、気に入らなかっただけだ」

 まあ、つまり、

「ただの我が侭だな。これが俺の犯した大悪だ。

 気に入らないから恒久的世界平和を踏みにじった、とな」

「…………なんていうか、……凄い、わね。スケールが違うというか」

 ぽつりとつぶやく足柄。けど、そうだろうか?

「そうか? 気に入らないから奪い取った。……ずいぶんと子供っぽいと思うが」

 凄い、なんて思っていない。ジャンヌが言うほどの事も考えていない。

 ただ、気に入らなかった。そんな理由だ。だから、

「凄い、というのはよくわからないが、民のために戦うという君たちの方が凄いと思う」

 俺の言葉に、多摩は膝に寝転がりながら、笑った。

「子供の我が侭と、多摩たちの崇高な運命を比べるにゃー」

 のんびりとした言葉に、俺も笑みを返す。

「そう、そういう事だな」

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