聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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十一話

//.泊地・浴場

 

 夕食が終わり、ジャンヌと艦娘たちは浴場へ。

 浴場は広い。資材確保のための泊地だが、確保できる資材が想定より多ければさらなる派遣も想定されていた。

 十二人までなら一度に入れる。今は八人。この人数でも余裕を感じる事にジャンヌは感心。

 早速体を洗い始める。時雨と暁が背中の洗いっこをしているのを見て微笑ましく思っていると。

「それにしても、ジャンヌちゃん。綺麗ですよねー」

 不意に、隣に座る蒼龍が覗き込む。

「そうですか?」

「はい、スタイルもよくて、羨ましいです」

「…………そんなものですか」

「というわけで、抜錨、デースっ」

「ひゃああっ?」

 後ろから抱き着いてきた金剛に悲鳴。そして、

「やっ、ちょ、ちょっとっ? ど、どこ触ってるんですかっ?」

「…………これは、触りごたえが。

 この戦力、大和に匹敵シマス」

「ほんとですかっ?」

「やっ? ん、……ちょ、金剛っ?」

「ヨイデハナイカー、ヨイデナハナイカー」

「よくありませんっ!」

 必死にセクハラを敢行する金剛を見て、ジャンヌは一息。

「ルーラーのサーヴァントを、甘く見るなっ!」

 乳揉む金剛の腕を確保、そのまま、一息で後ろに跳躍。

「Ohっ?」

 がんっ、と音。

「きゅう」

「ふふ、やりました」

 目を回す金剛を横目に勝利。ほとんど衝撃を感じなかった辺り、金剛のスタイルの良さを実感するが。気にしない。

「賑やかねー」

 一足先に湯船につかる足柄が楽しそうに笑う。ジャンヌもさっさと体を洗って、湯船へ。

「まったく、賑やかというよりは気が抜けすぎてます」

「ま。許してちょうだいな。前の提督さんの時は結構息詰まってたし」

「…………わかりました。けど、締めるときは締めてもらいますよ」

「それはもちろん、……じゃあ、気が抜けついでに」

 にやぁあ、と。足柄は笑う。不吉な笑みにジャンヌは後退。

「それで、ジャンヌちゃん。

 ジーク君の事、どう思ってるの?」

「ど、どど、どう、ですか?」

 眼が泳ぐ。あたりだ、と確信したが表には出さない。

「ほら、付き合ってたり、とか?」

「え、ええ、えええ、と。

 じ、じじ、ジーク君とは、旅の同行者でありまして」

 挙動不審なジャンヌは後退。……できなかった。

「えーと、蒼龍?」

 後退するジャンヌを受け止めたのは蒼龍。気が付けば横に大和が控えてる。つまり、

「逃げ場なしにゃあ」

 轟沈した金剛を湯船に放り投げた多摩がまったりと呟いた。

「いやあ、ほら、…………ジーク君欲しいなって、提督でも弟でも恋人でも旦那さんでも」

「なんですかその選択肢の多さ?

 っていうか、そういうのはダメですっ! ジーク君は、わ、私と、私と旅を続けるのですっ!」

「私だって、男の子と素敵な出会いが欲しいのよっ!

 いいじゃないっ! 格好いい男の子に憧れたってっ! 女所帯ばっかりなんだからっ!」

「餓えた狼、魂の叫びにゃ」

「あ、足柄さん、そこまで追い詰められてたんだ」

「だ、だめよ暁。レディーは、もっと、お淑やかじゃないとだめなんだからあ」

「あのー、足柄。

 ちっちゃい子たちがどん引きしてますよ?」

 大和の言葉に足柄は、暁に荒んだ視線を向ける。

「ふ、ふふ、……いい、暁。

 お淑やかなんて気にしてたら、……逃すわよ」

「ひゃうっ? う、餓えた飢狼が怖いっ?」

「落ち着いて暁、餓えた飢狼って響きがおかしいよ」

「うーん。……けど、ジーク君が提督さんかあ。

 それはそれでいいかな、楽しそうだなあ~」

「わ、私はっ!」

 不意に大和が声を上げる。じ、と向けられる視線。

「じゃ、ジャンヌさんと、ジーク君の夫婦で、提督さんとしてくれていても、いいと思う、です」

「夫婦っ?」

「わ、…………私と、ジーク君が、……ですか」

「あ、それはいいにゃ。

 実戦経験豊富そうなジャンヌが艦隊指揮で、魔術とか使えるジークが資材管理にゃ。夫婦提督、ありにゃ」

「うーん、……あ、でもそれもいいかもね。

 で、でも、……ええと、ジャンヌさん。…………その、夫婦でも、ジーク君に、頭なでなでしてもらうのは、許してほしい、な」

「あの、時雨。夫婦前提ですか?」

 照れたように顔を赤くしての懇願にジャンヌは恐る恐る声をかける。

「お、お料理はお任せくださいっ!

 この大和っ! 家事全般は問題ありませんっ! ひ、必要なら、め、メイド服もっ?」

「ちょっと大和落ち着きなさい。何よメイド服って?」

「ジーク君とジャンヌさんの暮らす一軒家でメイドさんとして雇ってもらうのも、いいかなあ、って」

「大和っ、暁たちは艦娘よっ?」

「戦うだけが艦娘じゃありませんっ!」

 驚く暁に大和は拳を握って立ち上がる。

「ジーク君とジャンヌさんに教えてもらいました。

 私たちは戦うだけじゃありません。もっと、他にもできる事があります。好きな生き方を選んでいいんですっ!」

 蒼龍と多摩と時雨と暁と足柄が拍手をする。

「……いえ、その選択肢がメイドさんは、どうなのでしょうか?

 というか、一軒家って何ですか? あの、私達、旅を続ける予定なのですが。なんでそんな所帯になってるんですか?」

 一人置いて行かれたような気分で言葉を投げかけるジャンヌ。特に誰も聞いていないようなので項垂れた。

「ぼ、僕もっ、家事とか頑張るよっ! め、メイドさんの格好も、ジーク君がしてほしいっていうなら、……してもいい、かな」

「だから、ちょっと待ってくださいっ!」

「多摩はお膝で丸くなるにゃ。

 テラスで日向ぼっこしながらジークかジャンヌのお膝の上でまったりする役にゃ」

「じゃあ、暁は二人の娘役ね」

「へえっ? あ、暁は子供じゃないわよっ! じ、ジークのお姉さん役よっ!」

「わ、私もお姉さん役がいいですっ!」

 暁と蒼龍はお姉さん役で睨みあい。ジャンヌは頭を抱えて、とりあえず言ってみた。

「役って、なんですか?」

 

「で、話を戻すわ」

「……どこに戻すんですか?」

「ジャンヌちゃんがジーク君をどう思ってるかって事よ」

「…………そ、それは、……その、」

 見る見るうちに顔を真っ赤にするジャンヌ。

 膝を抱えて、小さくなって、ぽつり、と。

「好き、…………だと思います。

 私、ジーク君に、恋してる、……と、思います。けど、」

 少し困ったような表情、胸に手を当てて、

「よく、……わからなくも、あります。こんな気持ちは、初めてで、私自身、持て余しています。

 ジーク君に、傍にいて欲しくて、見守りたくて、支えてあげたくて、けど、支えて欲しくもあって、……ジーク君が、これから歩いていく道を、ずっと、ずっと一緒に歩いていきたいって、……そんな風に、思ってます。

 きっと、恋しているって、そんな風に思ってます」

 頬を紅潮させて、少し、戸惑ったような微笑。

「むぎゅっ」

「もうっ、すっごく可愛いデースっ!」

 復活していた金剛が辛抱できないとジャンヌを抱きしめた。

「これはもう、ジークに宣戦布告しかありませんネっ」

「ふはっ? ……っていうか、なんでそうなるんですかっ!」

「仕方ないじゃないデスカっ! ジャンヌが可愛すぎるからいけないんデスっ!」

「知りませんよそんな事っ?」

 必死に抱き着く金剛と、彼女を引きはがそうと奮闘するジャンヌ。

 一転賑やかな二人を見て蒼龍は一息。……本気で金剛の気持ちがわかってしまった。

「ね、ねえ、ジャンヌ?」

「な。ん、です、か?」

 キスしようと突貫する金剛の額を必死に抑えるジャンヌ。意外と真面目な表情に軽く気おされながら、暁は口を開く。

「その事、ジークに、話したの?」

「そ、……れは、」

 金剛も動きを止める。じ、と。ジャンヌを見る。

「…………こ、恋している、事は、伝えました。…………けど、そのまま手を引いて、どこに行こうか、……って、話をして、まだ、返事は、聞いてないです」

「もうっ、そんなんじゃだめっ!」

 ぴっ、と暁は指を立てて、

「ジークは全然鈍いんだから、ちゃんと気持ち確認しないと、うやむやになっちゃうわよっ!

 ジャンヌだって、ちゃんとジークの気持ち、聞きたいでしょ?」

「…………はい」

 暁に諭されて、ジャンヌは、こくん、と頷いた。

 

//.泊地・浴場

 

「やあ、ジーク君。

 いいお湯だった?」

「ひょうすべか」

 軽く手を振るひょうすべ。

「どう? やっていけそうかい?」

「そう、……だな」

 問われて、ため息一つ。

「いや、やはり難しいな。せめて、自衛の手段があればいいのだが」

 現状、自分にできる事は魔術と、《磔刑の雷樹》、それも、オリジナルに比べて相当ランクは落ちている。

 戦力としては心もとない。

「…………強くなりたいの?」

 問われて、俺は首を横に振る。

「いや、生き残るための術が欲しい。…………生き残り、せめて、隣にいる人を護れるようになりたい」

 思い出すのは、胸に焼き付いた憤怒。

 傍にいてくれた。俺を導いてくれた彼女の死。

 零れ落ちる涙。胸に刻まれた無念。……そして、魂を焼き尽くすような、憤怒。

 もう、あんな思いはしたくない。

「そ、…………じゃあ、一つ頼みを聞いてくれる?」

「ん? ああ、聞けることなら」

 頷く、と。ひょうすべは目を細めて、

「君に会ってほしい人がいるんだ。――――――」

 

「あ、ジーク君」

「ん、……ああ、」

「って、それは?」

 入浴を終えたらしい。ジャンヌたちが見ているのは、俺が持っている黒い木刀。

「いや、執務室に転がっていた。

 何か使えればいいと思って」

 実際はひょうすべからもらったものだが。

 ともかく、かんかん、と軽く壁を叩く。頼りないくらい軽いが、硬度はありそうだ。

「……ジーク、まさか、それで深海凄艦に立ち向かうとか、そんなこと考えてないでしょうね?」

 呆れた表情の足柄。

「いや、さすがにそこまで身の程知らずじゃない」

 第一、海をかけ、空を舞う深海凄艦やその艦載機相手に、木刀一本でどうこうなるものとは思えない。

「旅も永いのだし、杖代わりと、護身用にあればと思った。

 これなら携行しても問題ない、と思う」

「まあ、そうでしょうけど」

 かんかん、と木刀で軽く壁を叩く。ジャンヌが手を出したので渡す。

「ただの、…………木刀ですね」

「真っ黒デスネ。……炭?」

「木炭? 木炭の木刀なんて、僕初めて聞いたよ」

「そうなのか?」

「まあ、確かに、旅にはこういうのもあった方が便利かもしれませんね。

 木刀というよりは、棒がですが、杖としても使えますし。はい」

「ん」

「ジーク君は、剣とか使えるんですか?」

 受け取る、と、興味津々と覗き込む蒼龍の問いに、一応。頷く。

 ホムンクルスとしての知識にある。扱う事も、出来る。もっとも、達人の域には届かないが。

「まあ、自衛くらいは出来る、と思う」

「そうですか。けど、ジーク君。

 間違えてもそれで戦闘とか考えてはいけませんよ?」

 ジャンヌの言葉に頷く。

「自衛と、あとは、隣にいる人を護れれば、それで十分だ」

「ジーク君?」

 ずい、と詰め寄るジャンヌ。と、

「ジークっ、言っておくけどね、暁たちはジークに守ってもらわなくちゃいけないほど、弱くないんだからっ!」

 指を突きつける暁。頷く。

「確かに、そうだろう。

 間違いなく、この場にいる誰よりも、俺は弱い。けど、」

 一息。

「足手まといかもしれない。俺の出る幕なんてないかもしれない。

 けど、できる事は、やらせてほしい。俺が後悔したくない。そんな我が侭を、聞いてほしいんだ」

「…………むー」

 暁は、納得できなさそうに頬を膨らませる。けど、

「暁、仕方ナイネ」

 肩をすくめる金剛。ほかの皆も、仕方なさそうな表情。

「わかったわよっ!

 けど、いい、ジークっ! 勝手なことしたらだめなんだからねっ! ジークは一番年下なんだから、年長さんの意見をちゃんと聞かないとだめっ!」

「ああ、わかってる」

 そんな事は百も承知だ。少なくとも、彼女たちを悲しませるような選択は、しない。

「…………そ、それでね。ジーク」

「ん?」

「ちょっと、それ貸して」

「ん、ああ、」

 木刀を渡す。

「チャンバラでもするのか?」

「しないわよっ! 暁はレディーなんだから、そんな子供っぽい遊びはしないわよっ!」

「そうか」

「で、ジーク」

 びしっ、と木刀を俺に突き付ける暁。

「そうか、やはりチャンバラがやりたいのか、もう一本あったか、探してみよう」

「違うわよっ!」

 違ったか。

「じゃなくて、ジャンヌの事、どう思ってるの?」

「む?」

 ジャンヌの事? と、彼女に視線を向けると顔を赤くして俯いている。

「そうデース」

「むぎゅっ」

 金剛がそんなジャンヌを抱きしめる。ジャンヌは、……抱きしめられたまま、少し、不思議そうに金剛を見る。

 金剛は、いつも通りの明るい、朗らかな笑顔。

 けど、

「ジャンヌに一目ぼれしちゃいましたからネー

 ジークがいらないなら、もらっちゃいますネー」

「…………そうか」

 いらないとか、もらっちゃうとか、あまり金剛らしくない言葉だな。

 悲しそうに、自分の事を兵器だといったのだから尚更。だから、

「いや、だめだ」

 朗らかな笑顔。けど、強い視線を逸らさず、真っ向から見る。

「俺はジャンヌとともに旅をすると決めた。

 金剛には悪いと思う。ジャンヌにも、俺の我が侭を押し付ける事になるが、俺は、ジャンヌを、絶対に離さない」

「……むー」

 金剛は、頬を膨らませてジャンヌを開放。

「仕方ないデスネー、ジークはほーんと、我が侭デス。

 けど、ワタシも諦めませんヨ。油断したらもらっちゃいますからネー」

「む、……わかった。油断はしないようにしよう」

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