聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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十二話

「ええと、……それで、ジャンヌ」

「ひゃいっ?」

 あの後、俺の寝室に来たジャンヌ。枕を抱えているが、追及は避けるべきだろう。なんとなく。

「何か、話したい事があるか?」

「え、……え、えっと、……ですね」

 枕に顔を埋めてしまった。

 少し悩んで、彼女の隣に腰を下ろす。

「なかなか、こうして話をする機会もなかったな」

「そう、……ですね」

 一息。

「あの、ジーク君」

「ん?」

「本当に、後悔とかしていません、か?

 あの、戦争を駆け抜けた事を」

「ああ、当たり前だ」

 何をいまさら、と思うが。

 ジャンヌは、枕に顔を埋める。

「私と、出会ったこと、……も?」

「うん?」

「…………怖く、なるんです」

 ぽつり、ジャンヌは呟いた。

「もしかしたら、私は、ずっと、貴方を利用するために、手を引いていた、のではないかと」

「君についていこうとしたのは、あくまでも俺の意志だ」

 解り切った事。対してジャンヌはふるふると首を横に振る。

「私には、啓示のスキルがあります。

 それは、目標達成のために最適な手順を踏んでいく事、……そして、私はその行動に根拠が持てない。

 だから、」

 怖くなる。と、ジャンヌは呟く。

「何らかの、目標。……私自身でさえ意識できない、誰か、あるいは何かにとっての目的達成のために、私は啓示を受け。そして、そのために、ジーク君、貴方を利用してしまうのではないか、と」

 聖杯の意志により召喚され、その意思という啓示を受けて、俺を聖杯戦争に巻き込んだように、

 また、何かの意志を啓示として受け取り、俺を死地に招き入れてしまうのではないか。

「もしかしたら、……私は、貴方にとって、不幸を呼び込むかもしれません」

 不安そうに、心細そうに、

 毅然と立つ聖女ではなくて、……怖い夢を見るから不安で眠れない、ただの村娘のように、

 ジャンヌは、そう言った。

 だから、

「それでも、……たとえ、ジャンヌに手を引かれて、また、死地に赴くことになっても、俺は、ジャンヌと生きていたい。

 貴女と別離するくらいなら、どんな死地でも、踏破して見せる」

 ジャンヌは、暫く、きょとん、と俺を見て、

「り、理由を」

「ん?」

「理由を言ってくれないと、だめ、です」

「うん?」

 理由?

 不安そうな様子から、何となく、……拗ねた? ようなジャンヌの表情に首を傾げる。……理由、か?

「わ、私、そんなに面白い性格じゃありませんし、……金剛みたいに、明るくありません、し。足柄みたいに積極的でもありませんし。

 時雨みたいに気が利くこともないですし、暁みたいにちんまくもありませんし、ええと、……や。大和よりスタイルよくないですしっ!」

「うん、落ち着こうなジャンヌ」

「…………うう、自分でも何言ってるのかよくわからなくなってきました」

「暁の件は、……どうかと思う」

「世の中にはちんまい女の子が好きな人もいるかもしれないじゃないですかっ! じ、ジーク君も、そう、かもしれない、ってっ!」

「そんな事はないのだが」

「と、ともかく、……り、理由、は?」

「ジャンヌが好きだからだ」

「ひうっ?」

 率直に言ったら変な声が返ってきた。……けど、

「面白い性格かどうかはわからない。俺が知っている人は英霊も含めて極少数だ。ジャンヌの方が多くの人を知っていて、それと比較して面白味がないといっているのだろう。

 それに、確かに金剛のような明るさはないかもしれない。時雨は気遣い出来る娘というのは同感だ。

 性格に優劣をつけるのなら、確かにジャンヌより優れた人は大勢いるかもしれない」

 そもそも、性格に優劣をつけられるものとは思えないが。

 ただ、

「ジャンヌと話をしているのは楽しいし、傍にいてくれると嬉しい。たとえ、貴女より優しく、明るい人がいるとしても、それでも、俺は君と一緒にいたい。

 こう思うのは、好きだから、だと思う。それに、」

 

 咲き誇る花のような笑顔で、口にしてくれた思い。

 

「貴女に、恋していると言われて、嬉しかった。

 たぶん、それは俺も同じだと思う。それが、理由ではだめか?」

 ジャンヌは、枕に顔を埋めてしまったが、小さく首を横に振った。なら、大丈夫か。

「………………が。欲しい、です」

「ん?」

 枕に顔を埋めたままではほとんど聞こえないのだが。

 問い返した俺に、ジャンヌはおずおずと顔を上げて、

「ジーク君、の言葉に、嘘がないのなら。……その、証が欲しい、です」

「嘘をついたことはないのだが。………………それは、どうすればいい?」

 聞いたらなぜか枕で叩かれた。ぼすぼすと、痛くはないが。

「……そ、それを、女の子に言わせようとするから、ジーク君は、とーへんぼく、なんです。

 い、一度しか言わないから、いい、ですね?」

「う、……ん」

 枕を手放して、そっと、軽く、俺の浴衣を掴み、微かに潤んだ瞳で、見上げる。

 

「………………キス、……して、ください」

 

//.???

 

 ――――こんな、夢を見た。

 

 最大戦果を最適効率であげる。

 それが、私がいた泊地の、提督の方針だった。

 それに対して何一つ問題はない。

 最大戦果をあげるための艦隊運用と作戦立案。

 最適効率を実現するための十分な補給、休憩、入渠。

 それらを十全にこなしていた。提督との個人的な付き合いはなかったが、あまり気にしていなかった。運用ができていれば、言葉を交わす必要もないと思っていた。

 提督は作戦を立案し、艦娘を指揮し、艦娘は任務をこなして戦果をあげる。……ただ、それだけだった。

 

 だから、これは必然だった。

 

『管理海域の変更に伴い、艦娘の再編成をする。

 秘書艦は下記一覧に記載された艦娘を解体し、資材の運搬準備を行うように』

 

 ――――そんな、夢を見た。

 

//.???

 

 雲を漂う夢を見る。

 

「ここは、……夢、か?」

 この感覚には、覚えがある。

 ジークフリートの心臓を譲り受けたのちに見た夢。邪悪なる竜との、戦いの夢。

 けど、違う。

 心を折る様な圧迫感も、敵意も、ない。

 窮屈さもない。ただ、雲海の中に浮かんでいるからか。

 そう、浮いている。浮遊している。前に進もうと、そう思えば風に押されるように前に出て、後ろへ行こうと思えばゆるりと落下する。

 止まろうと思えば、ふわりと、停止する。何も考えず気ままに飛びまわれれば、気持ちがいいだろうなと、そんな事を考えてしまう。

 ただ、雲海を漂う。俺と、

 

『誰?』

 

 ――――声が、聞こえた。

 

 目を、開けた。

「あ、…………お、おはようございますっ、ジーク君っ」

「ああ、おはよう。……祈りか」

「はい、いろいろ賑やかな場所ですから。

 まだ静かなこの時間が一番です」

「そうかもしれないな」

 さて、と。

「ジーク君は?」

「ああ、……ええと、朝食の準備でも、手伝おうと思う」

「大和の手伝いですか。

 そうですね。当人が負担に思っていないようなのでいいのですが、彼女にはやるべき事がありますし、お手伝いはいいことだと思います。

 ジーク君も、いろいろ経験になるでしょう」

「そうだな、では、」

「はい、朝食、楽しみにしていますね」

 ジャンヌは笑顔で軽く手を振った。

 

「あ、お、おお、おはようございますっ! ジーク君っ!」

「おはようっ! ジーク君っ!」

「……ああ、おはよう。…………で、どうしたんだ?」

 大和と、蒼龍がいた。二人で食事の準備をしているらしい。

 それはいいのだが、なぜか、俺を見たら大声をあげた。

「い、いいいえええええっ! な、なな、なんでもないですよっ!」

「そうですっ! 何でもありませんっ!

 ええと、ジーク君こそどうしたのですかっ?」

 どう見たらなんでもなさそうに見えるのか疑問だが。

「いや、朝食の手伝いを、と思ったのだが。

 蒼龍もいるなら不要か」

「いえいえ、よろしくお願いしますっ!」

 ぺこりと頭を下げられた。

「いや、大した事は出来ていないし、こういう事も経験をしたい。

 むしろ大和にいろいろと教えてもらえてありがたいと思う」

「そ、そうですか」

「あ、私もお手伝いいいですか?」

 ひょい、と蒼龍が顔を出す。俺は構わない、頷く。

「んー、ちょっと狭いけど、大丈夫です。

 じゃあ、三人でやりましょうっ」

「おーっ」

 笑顔の大和に蒼龍も楽しそうに応じる。

「っと、……そういえば、ジャンヌちゃんは?」

「ああ、ジャンヌなら祈りを捧げている」

「祈り?」

「…………まあ、宗教柄」

「あ、……ええと、キリスト教、でしたっけ?

 あんまりよく知らないですけど」

 首を傾げる蒼龍。確かに、ここではあまり聞かないだろう。

 けど、

「祈る事に宗教は関係ない。……そうだな、俺も、皆で無事本土に戻れることを、祈ってみようか」

 俺の言葉に、……不意に、蒼龍と大和が動きを止める。

「ん?」

「え、……と。

 本土に戻ったら、………………その、ジーク君、は?」

「俺はジャンヌと旅を続けるつもりだ」

「あ、そ、そうですよね」

「蒼龍?」

「あ、……あはは、ううん、何でもないです。

 さ、朝食作りましょうっ! 大和、どうすればいいですかっ?」

「そうですね」

 静かに微笑む大和。なにか、と問う前に大和にエプロンを押し付けられた。

 おかれる食材。それを見て包丁を握った。

 

 朝食を終え、一息。

 今日は一日、午前と午後に資材を確保しに出るらしい。

 一息ついたら、俺は資材庫にある兵器類の解体。ジャンヌはまた、執務室にこもる事になるだろう。

 そんな、一息ついた時間で、足柄は立ち上がる。

「それで、ジャンヌちゃん」

「なんですか?」

 資材確保の相談だろうか? 足柄の重い口調にジャンヌも応じる。

「昨夜、何かした?」

 まず、ジャンヌの動きが止まった。

 次に、何か口を開こうとしたのか、口が開き、閉じた。

 そして、じわじわと顔が赤くなった。

 最後に、ふるふると震え始めた。

「ここまで解りやすいと、なんか、可愛く思えてきます」

 蒼龍が柔らかく微笑む。金剛が親指を立てて「さすが、MyHoneyデス」

「ジークと愛を育んだのかにゃあ?」

「は、はぐ、育んだって」

「それ「ジーク君は黙っていてください」……わかった」

 睨まれてしまった。

「う、うう、…………はぅぅう」

 なぜかジャンヌの隣で真っ赤になっている暁。小さな声で「じゃ、ジャンヌは、レディーだから、そういう大人な事も、……うう、けどぉ。ジーク、子供だし」と一人呟いている。

 …………そうか、俺は子供か。

「で、で、ど、どうしたの? 何かしたのっ?」

「ちょ、なんで足柄、そんな喰らいついてくるんですか?」

 ずいずい迫る足柄、ジャンヌは何か危機でも感じているのか、傍らにいる暁を抱きしめながら慄いている。

「いいじゃないっ! 男女のコイバナに興味津々でもっ! 私達だって、女の子なのよっ!」

「の、子?」

 なんとなく呟いたら足柄に物凄い目で睨まれた。両手を上げて沈黙。

「ジーク君、今のはだめだよ」

「…………女性は子供扱いされると嫌がると思っていたが。その認識は間違いなのだろうか?」

 時雨に聞いたら曖昧な苦笑。

「そのあたりの機微を読み取れたら、とーへんぼく扱いはされないだろうね」

「…………難しいものだな」

「そういう事に興味あるのは足柄だけですよ? そんな事より、今は英気を養うべきです」

「あ、あの、私も、聞きたいです」

「大和っ? 貴女もですかっ?」

「だ、だって、…………そういうの、憧れます」

「男女の付き合いなんてほとんどないしねー

 私も憧れるなー」

「敵情視察デス」

 最後はどうかと思う。

「ジーク」

 なぜか暁を抱きしめて徹底抗戦の構えを見せるジャンヌと、彼女を包囲する足柄、大和、金剛、蒼龍。

 どうしたものだろうか、と思っていると多摩があくび。

「多摩は出立の準備をするにゃ。

 ジークも、こんなところでとーへんぼくなところを見せて火に油を注ぐくらいなら、仕事の準備を始めた方がいいにゃ」

「それもそうだな」

 口を開いたら睨まれてしまう事だし。

「出るときは多摩から声をかけるにゃ。

 見送りに来るにゃ」

「もちろんだ。時雨はどうする?」

 ジャンヌの助太刀をお願いしたいが。

「あ、……ええと、僕も手伝うよ」

「そうか」

 

「あの、ジーク君」

「ん?」

 資材庫に向かう途中。傍らを歩く時雨がぽつり、口を開く。

「ええと、ジーク君も、ジャンヌさんの事、好き、なのかな?」

「そうだな。ジャンヌの在り方は美しいと思う。好感を持っている」

「あ、……え、ええと、そ、そういう事、じゃなくて、…………いや、そうかもしれないけど」

「時雨?」

「そ、そういう事じゃなくて、……え、ええと、…………その、じょ、女性と、して、だけど」

 前に似たようなことを聞かれたような。

 ただ、……「好意の種類か」

「ジーク君?」

「いや、俺は、感情に疎いなと思った。

 時雨にも好感は持っている。手伝ってくれるといってもらえて嬉しい。……けど、確かにジャンヌへの好感とは、少し違う気がする。……すまない。俺もこういう事は初めてなんだ」

「あ、あはは、……そうなんだ。

 うん、……僕もよくわからないや」

「そうか、難しいな」

「難しい、ね。……あ、けど、ジーク君」

「ん?」

「好きな女の子がいるジーク君にこんなこと頼むのも、だめ、かもしれないけど。

 僕、頑張って戻って来たら、また、なでなでして欲しい、な」

「ん、ああ、わかった」

 頷くと、時雨は苦笑。

「ジャンヌさんにもお願いしたからいいけどね。

 けど、ジーク君。ジャンヌさんの事も考えてあげないと、だめだからね」

「む、……そうか?」

 そんなものか、と首を傾げると、時雨はくすくすと笑う。

「そんなものだよ。少しは女の子の気持ちも考えてあげてね。ジーク君」

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