聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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十三話

 なぜかぐったりしているジャンヌ。

 ともかく、

「それじゃあ、行ってくるわねっ!

 ジーク、ちゃんとお留守番してなくちゃだめよっ」

「ああ、わかってる。

 ここで皆の帰りを待ってる」

「え、ええ、そうよ。暁たちの活躍、ちゃんと見届けてよねっ!」

「それじゃあ行ってくるわね。

 お土産期待しててねー、あ、ご褒美、期待してるわ」

 足柄と暁、そして、時雨と蒼龍が出撃準備を整える。それと、

「金剛?」

「えーと、ジャンヌ。

 お願い、いいデスカ?」

「なんですか?」

「ええと、デスネ。

 ワタシ達が見えたら、でいいのデスガ。また、あの旗を振っててもらって、いいデスカ?」

「聖旗をですか?」

 問いに、金剛は頷く。

「待っててくれる人がいるって、嬉しいデス。…………ええと、それだけ、デス」

 金剛、だけではない。

 ほかの皆も、ジャンヌに視線を向けている。

 その視線を一身に受け、ジャンヌは口を開いた。

「私を誰だと思っているのですか?

 百年戦争で、最前線で旗を振り続けたのですよ」

 微笑。だから、旗を振る意味は解る、と。彼女は頷く。

「私の振るう旗の下に、帰ってきてください。

 貴女たちの帰る場所、貴方たちの帰りを待つ人は、ここにいます。だから、」

 一息、ジャンヌは鎧をまとい、聖旗を振るう。

「自らに課した役割を存分に果たし、成果をあげなさいっ!」

 その言葉を聞いて、金剛は、……そして、皆は視線を鋭くし、声。

「抜錨っ!」

 そして、海に駆けだした。

 

//.資材集積地

 

「そういえば、一昨日のあれ、深海凄艦なのよね?」

 資材をドラム缶に詰め込みながら、ぽつり、暁が呟く。

 一昨日のあれ、資材をのせた船を襲い。泊地にまで攻め込んできた深海凄艦。

 深海凄艦、のはずだ。

「人型、だったよね。……あれが、姫種とか、なのかな」

 同じ作業をしていた時雨が、少し、不安そうに呟く。

 よく見かける深海凄艦にはいろは歌の等級がつけられているが、まれに、それから外れた存在もある。

 姫種、鬼種と呼ばれる深海凄艦。その能力はいろは型の深海凄艦とは一線を画すと聞く。

 あった事は、ないけど。

「たぶん、そうだと思うわ。……他にも、深海凄艦っぽいの、引き連れてたし」

「…………なんなだろうね。あれも、……」

 時雨は言いかけた言葉を噤む。暁も追及しない。避けるように視線を資材に移し、作業を続ける。

 いやな、予感がする。

 

 途中で足柄も資材の詰込みに加わり、想定の八割を確保。

 と、

『暁、聞こえますか?』

「あ、ジャンヌ。ええ、聞こえるわ」

『蒼龍から、深海凄艦を確認したとの連絡が入りました。

 北から、真っ直ぐに向かってきています。数は、五』

「む」

 撤退かな、と考えていた暁は方角を聞いて動きを止める。

 真っ直ぐに、という事は、

「捕捉された可能性、あり?」

『おそらくは』

 つまり、そのまま引き連れていくと泊地にまで届きかねない。

『ええと、……駆逐、級の速度だそうです。

 これからすぐに離脱、資材を引いたまま航行すると、泊地近海で接敵する可能性は高いと蒼龍は言っていました』

「んー」

 それは、避けたい。泊地に砲撃が届けば、それはジャンヌたちに害が及ぶ。

 けど、

「とりあえず、海に出ようか。

 急がないと選択肢がなくなっちゃうよ」

 時雨の言葉に暁は頷く。

「ジャンヌ、達成率は八割だけど、切り上げて海に出るわ」

『了解しました。金剛たちと、大和たちに連絡しておきます』

「ええ、お願い」

「それじゃあ、行きましょうか。……けど、資材引っ張った駆逐艦とか、的だしね」

「金剛さんたちが来てくれるなら、先に合流は出来ると思うよ。

 そこで、金剛さんたちと迎撃したいけど、……資材を引っ張るの、ちょっと苦しそうだね」

 んー、……と、暁は少し考えて、

「大和さんたちも、出てもらって合流しましょう。

 二人いれば全部持って行けるし、大和さんと多摩さんが加わってくれれば、遅れはとらない、と思うわ。

 合流するまでは、金剛さんと蒼龍さんに支援してもらいながら、撤退戦ね」

「「了解」」

 暁の言葉に足柄と時雨は頷く。ジャンヌから『では、伝えておきます』と、通信を聞き、一息。

「それじゃあ、行きましょうっ」

 足柄と時雨で資材を引っ張る。暁は索敵に集中する。

 潜水艦や、艦載機はない。

「金剛さんたちと合流する前に、追いつかれたら怖いわね」

「その時は私が防衛するから、暁、資材頼むわよ」

 そうなればさらに遅くなるが、駆逐艦の暁に護衛を任せるよりは安全だろう。

 暁は頷く。

「金剛さんと蒼龍さんも向かって「敵艦、電探に感ありっ!」」

 時雨の言葉にかぶせて暁が告げる。つまり、電探の索敵範囲内にまで迫っている、という事。

「反応は小型ね。駆逐艦、数は五。確定したわ」

「僕たちの事を見ているとしたら、増援もあり得るよ」

 重巡洋艦である足柄もいるのだ。資材を置いて時雨と暁も迎撃に加われば、駆逐艦が五では荷が重いだろう。

 言葉を交わしながら航行を続け、……ふと、暁が口を開く。

「時雨、予想あたってるかもしれないわ。

 電探の反応だと、距離に変化がないの。追跡している、あるいは、援軍の到着まで監視かもしれない」

「そうね。……蒼龍に偵察をお願いしようかしら?

 援軍によっては資材を置いて、金剛たちと合流しましょう」

「うん、そう、……あ」

 時雨の声、彼女の視線の先には蒼龍と金剛が駆け寄ってくる。……思ったより、速かった。

「Heyっ! 敵艦が来たらしいネっ?」

「うん、資材を引っ張ってだと、泊地の近海で接敵になるね」

「もう、電探の範囲内にまで来てるわ。

 このまま、撤退戦で、大和さんの射程距離内にまで引っ張って、そこで落とそうと思うの」

「それがいいと思います。

 大和さんの射程距離に届く砲撃も少ないと思いますし」

「合流を許すのかい?」

 時雨の問いに、応じたのは暁で、

「みんなでやった方が安全性は高いとも思うわ。

 駆逐艦だって、回避に撤されたらすぐに落とせるとは限らないし、その間に援軍と合流されたら困るしね」

「なるほど、……そうだね。ちゃんと資材も届けて、成功したいしね」

「ジャンヌにたくさん褒めてもらいマースっ!

 ねーっ、ジャンヌっ!」

『……まあ、褒めるのは構いませんよ』

「やったネっ!」

 拳を握る金剛と、仕方なさそうな声のジャンヌ。そんな二人のやり取りを聞いて、笑顔を交わす。

「それじゃあ、暁と時雨で資材を引っ張るから、お願いね」

「二人は泊地に戻ったら資材を置いて、そのまま周辺海域の索敵をして、また、泊地に攻め込まれても困るわ」

「「了解」」

 資材を引く暁と時雨を前へ。そして、蒼龍を中心に、左右を金剛と足柄が固める。

「偵察機、発艦っ」

「ん、……まだ近づいてくる感じはしないデス。

 このまま、泊地まで来るん、デスカ?」

「その場合は、大和たちと合流したら暁と時雨を泊地に向かわせて、私たちはその場で、迎撃ね」

「そうデスネ」

 頷きあう。方針を固めた、辺りで、

「敵艦、増援を確認。…………この感じだと、空母が一と、軽巡洋艦が二、です。……ん、こちらに速度を上げて向かってきているみたいです」

「Oh、とすると、大和との合流は無理っぽいデスネー

 多摩だけなら間に合いそうですケド、まあ、砲撃支援だけ期待ネ」

 暁と時雨を先行させ、金剛たちは泊地に向かい前進。

 金剛たちの前進もあってか、接敵する前に多摩と合流。

「多摩、大和は?」

「大和なら泊地の近くにゃ、泊地への直接襲撃を警戒しているにゃ。

 もう少し引っ張れば砲撃範囲に届くにゃ?」

「あんまり近づけすぎるのもねえ」

「敵艦隊には空母もいます。泊地を直接空爆されかねないです」

 蒼龍の言葉に金剛は頷き、

「大和、聞こえますカ?

 暁と時雨を先行で向かわせてマス。二人が戻ったら援護をお願いデス。万一の事を考えて、暁たちへの砲撃支援も視野に入れてクダサイ」

『了解しました』

 だから、

「交戦開始ネっ!

 Follow meっ!」

 

 妙な敵よね、と足柄は眉根を寄せる。

 嫌な予感。嫌な感覚。

 いろは型の深海凄艦は、駆逐艦ならは人の姿はとらない。人というよりは魚に近い形をしている。とはいえ、眼前の深海凄艦は姫級とは思えず、性能面ではいろは型の深海凄艦と大差ない。

 自分の知識とかみ合わない、それが、いやな予感の理由と、ひとまず思う。

 もちろん、知識とは過去に深海凄艦と接敵した際に得たデータに過ぎず、元より正体不明な深海凄艦だ。データ通りの存在ばかりとは限らない。

 こういうのもある、と。無理矢理納得して深海凄艦を見据える。

 空を艦載機が飛び交う。金剛が空母を砲撃。まずは空母を狙う。

 集中砲火、現状。泊地へ攻撃が届くとすれば、空母による空爆だ。けど、

 それは許さない。足柄は泊地で待つジークとジャンヌの事を思う。

 二人は、自分たちが帰ってくるのを待っていてくれる。だから、絶対に二人を害させない。

 ふと、……苦笑。

「ムキになってる、かも」

「何か言ったにゃ?」

「何でもないわ」

 ともかく、集中砲火の甲斐あってか程なく空母が轟沈。多摩と視線を交わして、軽巡洋艦に狙いを定める。

「金剛、軽巡洋艦を叩くわ」

「OKネっ! 遅れをとりそうなら援護してあげマース」

「大丈夫にゃっ! 今度はジャンヌのお膝で丸くなるためにも、多摩は頑張るにゃっ!」

「ワタシもやりたいデスっ!」

『…………あの、交戦中ですよね?』

「甘いわね、ジャンヌっ!

 ご褒美のためならやる気が出せるっ! これがっ! 女の子なのよっ!」

『どちらかといえば、飢狼じゃないですか? それ』

 軽巡洋艦に砲弾を叩き込み、砲撃戦を制する。雷撃距離には近づかせない。

「おち、なさいっ!」

 砲弾を叩き込む。旗艦をかばうためか、駆逐艦が飛び出し、砲撃を受けて轟沈。

 けど、軽巡洋艦は無事。足柄に砲を向ける、が。

 横から砲撃。砲を向ける金剛が笑みを浮かべる。

 そして、程なく、

「完勝にゃ」

 最後の駆逐艦を沈めた多摩が呟く。けど、その言葉に高揚は薄い。

「なんなんでしょうね。…………まるで、」

 蒼龍も肩を落として呟く。途中で言葉を止める。

 確かに、交戦したのは深海凄艦だ。それは感覚でわかる。黒を基調とした体と、意志を持たない瞳。言葉を交わしたようには見えない連携、なにより、自分たちに明確な敵意を向けていた。

 そう、敵対していた。それなら迎撃をしなければいけない。だから、戦い勝利し、敵を沈めた事に後悔はない。

 けど、後味の悪さは残る。どうしても、思ってしまう。

 

 まるで、艦娘みたいだった、と。

 

//.資材集積地

 

「戻ったか」

「そのようですね」

 泊地の外に出る。そこで、旗を振るうジャンヌ。

 純白の旗。帰る場所を示す白。

「こういうのも、いいですね」

 ジャンヌは嬉しそうに旗を振るう。……そうだな。

「ジャンヌ、これが旗の使い方だと思う。

 たぶん、旗は殴ったりするものじゃない」

「………………………………ほ、ほらっ! 穂先に槍がついています、つまりこの旗で殴れよという啓示でしょうっ」

「………………まあ、ジャンヌがそれでいいなら、それでいいと思う」

「ですねっ!」

 ともかく、ジャンヌはぶんぶんと旗を振るう。

「誰かを殺すためでなく、誰かを出迎えるために、旗を振る、ですか」

「…………殺した、わけではない。……とは思ってないのだな」

 旗を振り回すジャンヌの後姿に問いかける。

「確かに、私が剣を抜くことはありませんでした。

 けど、戦場で旗を振るい、戦いに参加した。……すでに、私の手は血に濡れています」

「後悔は、ないのか?」

「…………ない、といえばうそになります。

 あのまま、ただの田舎の村娘として暮らしていたのなら、そんな事はなかった、と。……けど、」

 振り返り、微笑む。

「私のやってきたことは、確かに愚かなことかもしれない、大罪、大悪、かもしれません。

 けど、それが、いま、この世界に続いているのなら、大罪も、大悪も、背負っていけそうです」

「そうだな」

 旗を振るうジャンヌ、その向こう、応じるように大きく手を振る金剛たちがいた。

 

「艦隊が帰投したヨー

 さあっ! ご褒美の時間ネっ!」

「まずは資材の格納です」

 抱き着く金剛を引きはがそうと悪戦苦闘するジャンヌ。

「入渠の必要は?」

「この程度なら問題ないわ」足柄はひらひらと手を振って「三時間程度休憩すれば十分ね」

「たーまはお膝で丸くなるー、にゃ。

 というわけで、ジャンヌ、多摩は膝枕をお願いするにゃ。ジャンヌのお膝でお昼寝にゃ」

「は、い、いいです、よ」

 ぎりぎりと金剛の額を押さえつけながらジャンヌ。

「ジャンヌは膝枕が嫌ではなかったのか? 金剛がやろうとしたときは撃墜していたが?」

「あれは別の、意味で、ですっ!

 っていうか、はーなーれーなーさーいっ!」

「せめてっ! せめてハグが欲しいデースっ!」

「だからっ! 資材を格納した後ですっ!」

「あとっ、バーニングなキスをっ!」

「しませんよっ!」

「あ、あの、……じ。ジーク君」

 悪戦苦闘するジャンヌと金剛を見ていた俺にかけられる声。振り返ると、

「大和、何かあるのか?」

「は、はいっ! い、いいでしょうかっ?」

「ああ、構わない。俺にできる事ならやろう」

 足柄が血走った眼でこっちを見ているが、気にしない方がいいだろう。

「で、ではっ! お、お昼を一緒に作ってくださいっ!」

「ん、ああ。手伝いなら構わない。

 いや、ジャンヌ」

「なんですか?」

「料理は出来るか? よければ、昼食を作ろうと思う。

 戻ってきたばかりの大和には大変だろう」

「………………い、いえ、……いえ、出来ません。

 美味しい昼食を期待していますよ。資材の方は私も確認しますからジーク君と大和は昼食の準備をお願いします」

 曖昧な苦笑でジャンヌ。

「そうだったか。わかった。

 大和、戻ってきた後で大変だと思うが、俺も出来る限り助力しよう」

「はい、お願いします」

 大和は笑顔で応じる。疲労はなさそうだ。大丈夫か。

 それと、

「暁は、何かあるか?」

「え? ……え、っとお。……あの、暁たち、お昼出来るまでは休憩なの」

「ああ、それがいいな。

 昼食は出来たら呼ぶから、仮眠をとっておいた方がいいかもしれない」

「あ、……うん、そ、それでね。

 部屋に行くまでの間、……手、つないで、いい?」

 おずおずと、手を差し出す暁。そんな事でいいのか?

 意外だが、大した事ではない。

「ああ、構わない」

 肯定の証として、俺は彼女の小さな手を握った。

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