聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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十七話

//.泊地・浴場

 

「恋人、かあ」

 暁は湯に浸かりながら、ぽつり、呟く。

 もちろん、暁に恋人がいた経験はない。それに、そもそもどういうものかわからない。

 だから、

「それがどういうのか解れば、大人のレディーになれるのかなあ?」

「どうだろうね。……まあ、確かに大人っぽいよね」

 隣で湯に浸かる時雨は微笑。……ふと、

「ねえ、暁」

「ん?」

「暁が目指す大人のレディーって、どんな人?」

 不意に、気になった事。

 よく暁は大人のレディーといっていた。それに具体像があるのか。

 問いに、暁は頷く。

「ジャンヌねっ」

「へ? なんですか?」

 甘えてくっついてくる金剛をため息交じりに撫でていたジャンヌが首を傾げる。時雨は微笑。

「暁が憧れている大人のレディーが、ジャンヌだって」

「だって、ジャンヌ格好いいものっ! それに、すっごい綺麗だし、可愛いのよっ」

「え、……えーとお」

 意外な高評価に、少し困るジャンヌ。

「あ、うん、それは僕も同感。

 僕もジャンヌみたいに格好いい女性になりたいな。あ、もちろん、綺麗な女性にもね」

「……あ、あははは」

 年少組二人から向けられるきらきらとした視線。ジャンヌは困ったように微笑む。

 微笑んだまま、暁と時雨を抱き寄せて、

「そう言ってもらえて、悪い気はしませんけどね。

 けど、外見を気にする必要はありません。二人とも、とても可愛いと思います」

「え? そ、そうっ?」「そういってくれると、嬉しいな」

 抱き寄せられて、優しく微笑んでもらって、

 可愛い、そう言ってもらえて暁と時雨は嬉しそうに微笑む。

「けど、泊地で暮らしていたのなら、まだこの世界の事を知らないでしょう。

 だから、まだ多くの事を学ばなければなりません。…………もっとも、このことは私やジーク君にも言える事ですが」

「そうなんだ。……ううん、ジャンヌは大人なレディーなのに、それでも、まだまだなのね」

 難しいわ、と。暁。

「学ぶことに終わりはありません。……けど、学んでいけば、いつか私よりも立派な大人のレディーになれますよ」

「えへへ、うん、暁、頑張るわ」

 撫でられて心地よさそうに目を細める。時雨はそんな暁を羨ましそうに見ている。

「学ぶ、か。……ジャンヌさんとジーク君は、……ええと、旅をして学ぼうとしているんだね?」

「そうです。自らの足で歩き、目で見て、耳で聞いて、……そうして得た事こそが自らの糧になります。

 もっとも、私達にとっての旅の目的は、もう一つありますが」

「もう一つ?」

「ジーク君の語った通り、私達は聖人の人類救済を否定しました。

 それは、人が自ら歩み、幸いを掴むことを否定する。私はそれが許せなかった。

 だから、人類救済を否定したものとして、人は自ら、幸いに向かって歩むところを見ていきたい。彼の語った人類救済は不要なのだと、確かめたいのです。だから、」

 だから、ジャンヌは暁と時雨を抱き寄せる。

「歩みを止めないでください。貴女たちは、自ら歩いていけます。

 私に、そんな姿を見せて欲しいのです」

 柔らかい温もりと、優しい声、心地よさに、暁と時雨は頷いて、

「ずるいデースっ! ワタシもギュってしてナデナデして欲しいデースっ! イチャイチャしたいデースっ!」

 いろいろ我慢できなくなった金剛の吶喊に、四人は仲良く湯船に沈んだ。

 

//.泊地・浴場

 

//.泊地・寝室

 

「はぁい、ジャンヌ」

「来ましたか」

 寝室で、浴衣に着替えたジャンヌは来客に、……正確には、来客の持ってきたボトルに苦笑を向ける。

「ワイン。大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

 頷き、足柄は寝室に備え付けられた小さなテーブルにグラスとボトルを置く。

「よかったあ。……ほら、ええと、キリスト教、だっけ? そういうの私、よく知らなくてね」

「まあ、そうでしょうね」

 この国ではあまりメジャーではない事は知っている。お国柄、と思えば苦笑するしかない。

「けど、……まあ、少し意外ね。

 金剛から聞いた時、名前は知ってたから、お固そうな聖女様を予想してたんだけど」

「聖女、なんて呼ばれるような者ではありませんよ」

「そ、……まあ、いいわ」

 足柄はワインを注ぐ。先のジャンヌの言葉に暗い色を感じたから。

 けど、

「二人が来てくれたおかげで、楽しくやっていられるわ。

 それは感謝させて」

「…………はい、どういたしまして」

 聖女、という言葉。自分にふさわしいとは思っていない。

 むしろ、過ぎた呼び名と思っている。そう認識されているという事は、正直、重い。

 足柄はそんなジャンヌの思いを察してくれたらしい。軽く微笑んで告げられた感謝の言葉に、ジャンヌも微笑を返してグラスを手に取る。

「貴女がいい娘でよかったわ」

「……あんまり、子供扱いして欲しくないのですが」

 素直な感想を告げた足柄に、軽く頬を膨らませるジャンヌ。……そんな姿を見ていると、本当に、彼女が何歳なのかわからなくなる。

「ねえ、ジャンヌ。

 貴女って、何歳なの? ……あ、ええと、英霊、だっけ? そういうんじゃなくて、人としての年齢だけど」

「十九歳ですよ」

「…………ええ」

「なんですかっ?」

 驚いた表情の足柄にジャンヌは思わず声を上げる。足柄は制する様に手を上げて、

「いやあ、…………ああ、うん、まあ、納得。

 いや、可愛いときは時雨くらいの年齢にも見えたからね」

「そうですか」

 幼く見られるのが面白くないらしい、少し頬を膨らませて、唇を尖らせるジャンヌ。……そして、そんなジャンヌには悪いが、その表情は暁と同年代にさえ見える。

 ともかく、グラスを重ねて、一口。

「ふぅ、……ん、美味し。

 ジークを誘うのもよかったかなあ?」

「…………たぶん、飲めないんじゃないですか?」

 ほう、とジャンヌも一口飲み、一息ついて呟く。

「うーん、……なんか、飲んだところ想像できないわ。……酔ったところなんて特に」

「そーですね」

 ジークが酔っぱらったらどうなるか。想像できない。思わず足柄と首を傾げる。

「饒舌になるとか」

「すっごく陽気にですね。物凄く笑ったり」

「寝ちゃうかもしれないわ」

「かもしれませんね。……あれ、ジーク君の寝顔って、あんまり素と変わらないんですけど。

 緩むかも」

「え? ちょっとその話詳しく」

 ずい、と迫る足柄。ジャンヌはワインを一口。

「興味あります?」

「そりゃあもう、……わからないかなあ? 可愛いのって、見たくない?」

「それはもちろん」

 足柄の言葉にジャンヌは頷いた。

 そして、それからは、酒に任せて意味のない言葉を交わしていく。

 犬派か猫派で意気投合し、ジークは犬系か猫系かで意見が分かれて対立し、

 大艦巨砲主義こそ浪漫、と拳を握る足柄は、合理的戦術と口にしたジャンヌに襲い掛かったり、

 ジークは金髪派か黒髪派かで丁々発止とした掛け合いを演じて、ジャンヌが銀髪に憧れてみたらそれって白髪じゃん、と足柄に返されて突っ伏したり、

 アルコールに任せて二人は言葉を交わし。「…………ああ、楽し」

 結局はそれに尽きる。ある程度アルコールが入ったからか、ジャンヌも微かに火照った顔で「私もです」

 応じる、それを聞いて足柄は嬉しそうに目を細めた。

「ううん、貴女に出会えてほんとよかったわあ。

 格好良くて可愛いし、楽しいし、……ああもうっ、私もジャンヌの恋人候補になろうかしら?」

「いえ、遠慮しましょう」

 ジャンヌも足柄の人格には好感が持てる。とはいえ、恋人となるのなら、

「解ってるわよ。ジャンヌの恋人はジークよね。

 割り込んだりはしないわ。……金剛も、そのあたり、解ってるはずなんだけどねえ。ま、大目に見てあげてちょうだいな」

「解ってますよ。……彼女は、ああいう娘なのですか?」

「甘えたがりなのよ。金剛は、その一点だけなら暁より子供っぽいわね」

「そうですね」

 いつかの、金剛と交わした言葉を思い出す。かつての戦艦、金剛から引き継いだ人に対する好意、確かに甘えたがりなのだろう。

「まあ、ふっても大丈夫だけど適度に構ってあげてね」

「解ってますよ」

 金剛にはジャンヌも好感を持っている。……恋人になるつもりはないが。

 だから、彼女を無視する事はしない。頷く。

「ふふ、それならよかったわ」

 足柄は、嬉しそうに微笑んだ。

 

//.泊地・寝室

 

「はぁい、ジーク」

「ん、ああ、足柄か」

 戸が叩かれる。足柄がいた。ジャンヌとの話は終わったか。

「話は終わったのか?」

「ええ、一応。……けどまあ、ねえ」

 歯切れ悪い足柄の言葉に首を傾げる。「何かあったか?」

「ちょっとしたことよ。

 けどまあ、行ってあげなさい」

「ああ」

 足柄に促されてジャンヌにあてがわれた寝室の前へ、戸を叩こうとしたが、足柄に止められる。

「足柄?」

「開けるわよ」

 小さな声で足柄は戸を開ける。と、

「…………寝てしまっていたか」

「ええ、まあ、浅そうだけどね」

 テーブルに突っ伏して眠るジャンヌ。さて、「じゃ、ジーク君、膝枕してあげなさい」

「そうだな。足柄、手伝ってもらっていいか?」

「ええ、もちろん、さ、ジークは座ってなさい」

「ああ」

 ベッドに腰を下ろす。足柄は丁寧にジャンヌを抱えて、寝かせる。

 ちょうど、俺の太ももの上にジャンヌの頭が来るように、

「ん、…………んん」

「あらら」

 足柄は微笑。俺も、それは同じ。

 寝相なのか何なのか、ジャンヌは手を伸ばし、俺の腰に手を回す。

「可愛い寝顔ねえ。……蒼龍と金剛が見たら、大変な事になりそう」

「そうだな」

 頷く。足柄は静かにジャンヌを撫でて、ウィンク一つ。「それじゃあね、ジーク。おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 戸が閉じる。

 膝には心地よさそうに眠るジャンヌ。その、金色の髪に触れる。

 金色の髪、その向こうには穏かな寝顔。ジャンヌの可憐な顔立ちも相まって、見惚れてしまうほど美しい。

「恋人、か」

 ふと、交わした会話を思い出す。幸いな言葉。

 祈る姿が、楽しそうな笑顔が、子供っぽく膨れた表情も、凛々しい旗を振る姿も、とても、魅力的な女性。

「不相応だな」

 呟いて苦笑。不相応か、当たり前だ。誰もが同じ事を言うだろう。

 けど、ジャンヌの頬に触れる。小さく、言葉が零れる。

 誰に聞かせるわけでもない、ただの独り言。……自分に、聞かせるための言葉。

「けど、…………たとえ、誰に否定されても、間違えているのだとしても。

 俺は、君を離したくないんだ」

「ええ、もちろんですよ」

 不意に、声。

「すまない、起こしてしまったか」

「いえ、眠りそのものが浅かったのでしょう。

 少しアルコールが入っていましたから」

「そうか」

「ふふ、けどこのままですよ。ジーク君」

 目を細めて、腰に回した手に力を籠める。

「ああ、構わない。ゆっくりするといい」

「はい、では言葉に甘えます。

 あ、サービスで撫でてください」

「こういうのは子供が好きと思うのだが」

「それは偏見ですよ。ジーク君」

「そんなものか」

 言われるままにジャンヌを撫でる。金糸の髪を丁寧に、

「ん、……やっぱり、撫でられるのはいいですね。

 ちゃんと優しくしてくれて、偉いですよ。ジーク君」

「まあ、暁に怒られたことだしな」

「そう、女性の髪は繊細なのです。絶対に乱暴に扱わないように」

「肝に銘じておく」

 頷く、と。ジャンヌは嬉しそうに目を細める。

「ね、ジーク君」

「ん?」

「私は、……ジーク君、貴方に恋しています。

 たとえ万人に不相応な思いだと言われても、変えるつもりはありません。だから、」

 ジャンヌは手を伸ばす。俺の頬に触れる。

「私の傍にいてください。ジーク君。

 たとえ何があっても、貴方となら大丈夫です。……私も、恋した貴方を離したくないです。ずっと、ずっと一緒にいてください」

 撫でられて、心地よさそうに微笑むジャンヌに、俺は頷いた。

「ああ、……もちろんだ」

「ふふ、よろしい。……ええ、ジーク君からもそういってもらえると、すごく嬉しいです」

 そう言ってジャンヌは身を起こす。「寝るか?」

「はい、明日もありますから」

「そうか、では、…………ジャンヌ?」

 立ち上がる俺の手を掴むジャンヌ。

「もうっ、ジーク君。どこに行くつもりですか?」

「寝室だが、寝るのではないのか?」

 問いにジャンヌは唇を尖らせて「寝ますよ」と。

「なら、俺がこの部屋にいる必要はないだろう?」

「ありますっ! もうっ、どこまでとーへんぼくなんですかっ!

 いいですか、ジーク君。私と、ジーク君は、恋人同士ですっ!」

「う、む」

 力強い断言、……いや、ジャンヌからもそう思ってくれるのは、嬉しいのだが。

「なら、ずっと一緒、です」

「ね、寝る時も、か?」

「ええ、もちろんです。

 昨夜だって、ジーク君が一緒じゃなくて、寂しかった、ですよ?」

「い、……いや、さすがにそれは」

 どうかと思うのだが? と、何か言う前に、ジャンヌの腕が俺の首に回される。

「だめ、です。逃がしません」

 そのまま、抱き寄せられる。抱きしめられる。

「ん、……ふふ、このまま、膝枕の次は、抱き枕です。今夜は、ずーっとジーク君と一緒です」

 そして、押し倒された。ジャンヌは嬉しそうに目を細めて、俺の胸に頬を寄せて満足そうに微笑む。

「迷いますね。こうして、ジーク君に抱きしめられて眠りましょうか? それとも、ジーク君を抱きしめましょうか?

 どっちも魅力的です」

「はあ、……まあ、好きにするといい」

 鼻先をくすぐる、繊細な金糸の髪を見て問う。ジャンヌは顔を上げて、

「一緒に寝てくれますか?」

「…………まあ、……その、ジャンヌが嫌ではないのなら、構わない」

「む、いやなわけないじゃないですか。

 ジーク君と、ずっと一緒にいたい、触れ合っていたいんです。……もう、そんなとーへんぼくなジーク君は、こうです」

 こうです、と言って、俺の頭を抱え込むように抱きしめる。

「ん、……決めました。これがいいですね。

 ふふ、では、撫でてあげますね」

 言うが否や抱え込んだまま手を動かし、頭を撫でる。

「ふふ、可愛い」

「男に対してその評価はどうなのだろうか?」

 撫でられるのは、確かに心地よいのだが、可愛いという評価は、男性として素直に喜んでいいのかわからない。

「仕方ないじゃないですか、可愛いんですから」

「……そうか」

 まあ、いいか。

 撫でられる心地よさ。恋した彼女の温かさと、柔らかな声に、力を抜いて俺は目を閉じる。

「おやすみ、ジャンヌ」

「ん、……はい、おやすみなさい。ジーク君」

 不意に、額に柔らかい感触を感じたが、目を開ける気にもなれず、そのまま眠りについた。

 

//.???

 

 ――――こんな、夢を見た。

 

 燃料・1、弾薬・1、鋼材・5(い××ま)から声が聞こえた。

 どうしてなのです? と、

 燃料・1、弾薬・1、鋼材・5(×さ×お)から声が聞こえた。

 どうしてですか? と、

 燃料・1、弾薬・1、鋼材・6(かげ××)から声が聞こえた。

 どうしてなのよ? と、

 燃料・1、弾薬・2、鋼材・2、ボーキサイト・1(×5×)から声が聞こえた。

 どうしてでち? と、

 燃料・1、弾薬・1、鋼材・4(う×き)から声が聞こえた。

 どうしてぴょん? と、

 燃料・1、弾薬・2、鋼材・2、ボーキサイト・1(×19)から声が聞こえた。

 どうしてなの? と、

 燃料・2、弾薬・2、鋼材・10(×ま)から声が聞こえた。

 どうしてだクマ? と、

 燃料・2、弾薬・2、鋼材・13、ボーキサイト・5(しょ×ほ×)から声が聞こえた。

 どうしてです? と、

 

 どうして? かい××したの?

 どうして? し×ぶ×したの?

 どうして? ×わしたの?

 どうして? こ×したの?

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

 

 どうして? ××がそんなに××××なの?

 

 ――――そんな、夢を見た。

 

//.???




ジャンヌの酒癖について

 イメージは甘えてくっついてくるお姉さん。脱いだりキス魔になったりは、一応、止めておきました。
 年齢制限をつけるつもりはなかったのでこのくらいがいいかと、それ以上は脳内補完でお願いします。
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