聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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十八話

「…………ええと、ジーク君」

「ん」

 目を覚ました。僅かに視線をあげればそこには真っ赤になっているジャンヌがいた。

「朝、か。……おはよう、ジャンヌ」

「え、……ええ、おはようございます。……あの、これはどういう?」

「どうもなにも、ジャンヌからの希望だが?

 それより、腕は痺れていないか?」

 ジャンヌからの強い希望で彼女の腕を枕に抱きしめられたが。血流が妨げられれば腕が痺れるかもしれない。……が、ジャンヌの様子を見るに、大丈夫なようだ。

「わ、私のっ?」

「覚えていないのか? ああ、アルコール入っていたか」

「え、……ええっ? い、いえ、あんまり、覚えていないような。

 わ、私、何か私やりましたか?」

「頭を撫でて欲しいとか、膝枕の次は抱き枕だとか」

「……………………ちょっと、着底してきます」

「君は艦娘ではない」

「じ、ジーク君は、な、なにも言わなかったのですか?」

「いや、さすがに男女でそれはどうかと思ったが。指摘したらダメだと言われた。

 腕を回されて圧し掛かられて押し倒されてな。……まあ、あとはそのまま」

「お、おお、お、おお、おおおおっ?」

「お?」

 顔を真っ赤にしてぱくぱくしているジャンヌ。ちなみに腕は解いていないので抱きしめられたまま動けない。

「お、押し倒した。……わ、たしが、…………です、か?」

「ああ」

「あ、あの、な、なにもやっていません、よね?

 え、えっちな事とか、してません、よね? 大丈夫、ですよね?」

「ん、ああ、そういう事はしていない。

 ただ、ジャンヌは猫っぽいところがあったな。暫くくっついて頬擦りしたり、抱きしめたまま撫でたりしてた」

「あ、……あ、ああ、」

 ジャンヌが顔を真っ赤にして震えている。……まあ、それはいいのだが、そろそろ開放してもらえないだろうか?

「あの、……ジーク、君」

「ん?」

「さ、昨夜の事は、ですね。

 私、アルコールが入っていた、ので、その、……忘れていただけると、あ、ありがたい、と」

「そう、か」

「ジーク君?」

「いや、ジャンヌが昨夜の事が嫌なら、忘れるように努力しよう。

 だが、ずっと一緒にいて欲しいといってくれて、嬉しかった。……その、ジャンヌを困らせるようで申し訳ないのだが、昨夜の言葉を、忘れるのは惜しい」

「ふ、あ。……あ、」

 それはともかく、そこまで強く抱きしめられると少し苦しいのだが。

 まあ、いいか。

「はっ?」

 不意に、ジャンヌは俺の顔を見て焦点を合わす。

「ジーク、君、……どうしてそこにいるのですか?」

 抱きしめられたまま眠り、そのまま動いていないのだから、必然なのだが。

「難しい問いだな」

「じゃなくて、ですね。……ええと、あの、…………し、失礼、しま、した」

 おずおずとジャンヌが離れた。

「失礼という事はない。特に不快という事は、…………いや、」

 違うか。こんな言い方ではジャンヌに悪いと思われるかもしれない。それは、申し訳ない。

「多摩がジャンヌの膝枕をよかったといっていた気持ちもわかる。

 まあ、…………その、こんな風に言うのも、よくないのかもしれないが、………………その、抱きしめられたのは、心地よかった」

 さすがに照れくさいな。ジャンヌの顔を直視するのに躊躇い、視線を背けて小さく告げる。

「あ、の、…………ええと、どう、いたしまし、て」

「う、……ん」

 なんといっていいものか、解らずに座り込む。

 と、

「Heyっ! ジャンヌっ! おはようございマースっ! 可愛い寝起き顔拝見デ……ス?」

「おはようっ! レディーはちゃんと早起きしないと、…………ね?」

「む?」

 声のした方を見ると、金剛と暁がいた。

「あ、……お、おはようございますっ!」

「ああ、おはよう」

 金剛は、ふらふらと室内に入って、崩れ落ちた。

「う、…………うう、じゃ、ジャンヌぅ、わ、ワタシ、ワタシぃ」

「いきなり泣かないでくださいっ! っていうか、何で泣くんですかっ?」

 床に手をついてはらはらと涙を落とす金剛。ジャンヌはおろおろしながら金剛のところへ。

「じ、じじ、ジークっ! なんで、なんでジャンヌの部屋にいるのっ!」

「いや、なぜ、と言われても、」

 何と答えるべきだろうか? まあ、あったことを言えばいいか。

 口八丁は苦手だ。だから、そのまま話せばいい。

「いや、昨夜ジャンヌに、…………聞いてほしい」

 金剛を宥めながら壮絶な目で睨むジャンヌ。

「な、なな、なに言ってるのよジークっ!

 い、一人前のレディーは、自分のやったことに責任を取らなくちゃだめなのよっ! 自分でやっちゃったことは、ちゃんと白状しなさいっ!」

「む、……確かにそうか、昨夜、ジャンヌに押し倒された」

「ふかっ?」

 ジャンヌが不思議な悲鳴を上げた。

「え、……ええっ? え、け、けけ、けど、あ、あの、そ、そういうのは、大人のレディーが、ジャンヌは大人のレディーで、でも、ジークは子供で、こ、子供はそういう事やっちゃだめで? あ、けど、やったのは大人のレディーで、あ、あれ?」

「暁、まずは落ち着くといい」

 暁が錯乱した。で、

「うう、……わ、ワタシ、」

 金剛は涙を流して立ち上がった。

「ジャンヌっ、ワタシはいつでも愛してマスっ! 幸せになってくだサーイっ!」

「昼ドラですかっ?」

 金剛は泣きながらどこぞに走り去った。

 

//.泊地・近海

 

「暁、何があったの?」

 顔を真っ赤にしている暁に、時雨は首を傾げて問う。なんとなく想像ができる足柄は苦笑。

「ま、何でもないわよ。

 きっと、大人なレディーとの格差を見せつけられて沈んでいるのよ」

「ふぅん?」

 時雨は首を傾げた。大人なレディー、おそらくはジャンヌの事だが。

 と、

「みんな、止まってください」

「蒼龍?」

 偵察機からの報告を聞いているのだろう。耳に手を当てて鋭く言葉を飛ばす蒼龍。その様子を見て金剛は小さく笑う。

「敵艦確認、デス?」

「あの、大型の戦艦を旗艦とした。二艦隊です」

「先に、向こうの準備が整ったってわけね」

 足柄は一息つく。暁に視線を向ける。

 暁は頷いて「全艦、停止。大和さんと多摩さんは合流をお願い」

「艦隊決戦だね。もうちょっと資材が集まってからの方がよかったけど」

「仕方ないデス。向こうの方が速かったって事、デス」

 砲を構えて金剛が呟く。……ただ、安全圏には届かないというだけで、艦隊決戦に不足があるわけではない。

 一息。

「ジャンヌ、敵艦隊を確認したわ」

『解りました。ご武運を』

 短い言葉、暁は微笑。

「ええ、暁たちに、任せなさいっ!」

 

 当たり前だが。

 多摩と大和が合流した直後、最初に飛んできたのは敵艦載機。暁と時雨は蒼龍と視線を交わし、対空射撃を開始。

 そして、それと同時に、

「来たわね」

 正面から突撃してくる駆逐艦の深海凄艦、足柄と多摩は砲を向ける。

「蒼龍さん、対空は暁と時雨で何とかなりそう、敵本体への爆撃をお願いっ」

「了解っ!」

 時雨も同意して頷いたのを横目で見て、蒼龍は艦載機を飛ばす。そして、

「そろそろ、敵本隊も来たネ。

 大和、援護砲撃、よろしく、デス」

「突撃するのなら、ついていくわよ?」

 足柄の問いに、金剛は少し、考えて、

「No、足柄は蒼龍と大和の護衛をお願いデス。

 多摩、時雨、暁、OK?」

「わかったよ」「了解っ」「任せるにゃっ」

 三人の声を聞いて、金剛は笑う。

「では、目標は旗艦ネっ! Follow meっ!」

 金剛の声とともに、疾走開始。

 金剛を中心に、前を多摩、左右に暁と時雨を配置し、狙うは敵旗艦。仮面をつけた長身の、深海凄艦。

 旗艦狙いは深海凄艦も察したらしい。中型、おそらく、軽巡洋艦。旗艦を庇うように移動し、けど、

「させませんっ!」

 大和の砲撃が軽巡洋艦に突き刺さる。爆発。「さすがネっ」

 高速で航行しながら時雨と暁が砲撃して轟沈。多摩と金剛がその間を駆け抜ける。

「撃ちますっ! Fireっ!」

 走りながら金剛は砲撃。けど、それは敵旗艦も同様。

 砲撃する。砲弾は金剛の放った砲弾を迎撃し、撃ち落とす。

「砲弾を迎撃とか、笑えないにゃあ」

 口元を引きつらせる多摩。そんな事、聞いたことがない。

「多摩っ! 牽制ネっ! 暁と時雨は雷撃準備っ!」

「「了解っ!」」

「行くにゃあっ!」

 多摩は左右へ移動しながら砲撃する。軽巡洋艦である多摩の砲撃では戦艦を撃ち砕くには足らないが。

「Fireっ!」

 右肩に突き刺さった砲撃。わずかに姿勢が傾いだその隙に、金剛は砲撃を叩き込む。

 通った。

「Yesっ!」「油断大敵にゃっ!」

 拳を握る金剛に向けられる砲。そこに多摩の砲撃が突き刺さる。

「よくやったネっ」

「真面目にやるにゃっ!」

 言葉を交わし、金剛と多摩は駆け回りながら砲撃を叩き込む。そして、

「行くわよっ! 時雨っ!」

「うんっ」

 砲撃に紛れて雷撃距離に近寄った暁と時雨は魚雷を構える。

「「発射っ!」」

 隣接距離から魚雷が叩き込まれ、爆発。

 ハイタッチして離脱。高速で海を駆けて振り返る。敵旗艦は巨大な砲を向けるが「させないにゃっ!」

 多摩が砲撃を叩き込む。一つ、二つ、連続で叩き込まれた砲弾は射線を狂わせ、砲弾はあらぬ方向へ。

「Fireっ!」

 その隙に金剛は砲撃、頭部に直撃。

「暁、もう、…………え?」

『時雨っ!』

 目を見開いて、動きを止めた時雨に、ジャンヌが声を上げる。

 動きを止めた。ならば当然、狙われる。砲口を向けられ、砲撃、直前に、

「だめぇえっ!」

 暁が飛び出す。そして、砲撃の音。

「暁っ!」

 至近距離からの、戦艦の砲撃。直撃すれば駆逐艦である暁には十分、轟沈する一撃。

 けど、

「あ、……つ」

 直撃はしなかったらしい、けど、砲撃により大破し呆然とする暁。彼女の視線は、時雨を通り越して、

 

「馬鹿者が」

 

「……う、そ」

 深海凄艦が喋った。それも意外だが、鬼や姫と呼ばれる深海凄艦は喋ったことが確認されている。それはいい。

 問題は、

 顔を覆っていた仮面が砲撃で砕かれ、その向こう。

 海を荒らす凶暴な深海凄艦。その印象を覆す、高潔な、武人のような顔。

 その顔は、知っている。あった事が無くても、わかる。

 金剛と多摩も動きを止める。目を見開く。深海凄艦、けど、その姿に間違いはない。それは、日本を代表する戦艦の魂を持つ、艦娘。

「…………長、……門?」

 

//.泊地・近海

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