聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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十九話

//.泊地・近海

 

「どうして、……長門が、え? 深海凄艦、デス?」

 周囲にいる、他の深海凄艦は動きを停止している。その中、唖然とした表情で金剛が問う。

 深海凄艦、それは間違いない。……けど、

 それと同様に確信している、彼女は、長門である、と。

「ああ、そうだ。金剛。

 私は長門だ。深海凄艦であるが、な」

「どういう事だい?」

 大破した暁を背負い、時雨は問う。「知らないのか?」と、長門は淡々と応じる。

「深海凄艦は、艦娘が造り替えられた存在だ。全部かどうかは知らないがな」

「じゃあ、この周りにいる深海凄艦、も?」

 妙に、人の形をとる深海凄艦を示し、長門は否定する。

「私の、深海凄艦としての、艤装だ。あるいは、未練の形か」

「は?」

 自嘲、そんな表情で語る長門に時雨は首を傾げる。けど、

「どうして、……よ」

 時雨に支えられ、暁は長門を睨む。問い。

「どうして、長門さんが、深海凄艦、なの?」

 どうして、深海凄艦になったのか?

 どうして、深海凄艦として、襲い掛かるのか?

 暁の問いに、長門は目を細める。応じる。

「戦争を、終わらせないためだ」

「どうしてよっ!」

 意味が解らない。戦争は、目的達成の手段でしかない。

 それを終わらせない。目的達成の手段であるはずの戦争が、そのまま目的となっている。そんな事、あり得ない。

 それは勝利さえ放棄して、永延と戦い続ける、という事か?

 問いに、深海凄艦は、告げた。

 

「声が聞こえたんだ」

 

//.泊地・近海

 

「…………驚愕の事実ですね。

 暁たちの戦意が喪失していなければいいのですが」

 パソコンから、声を聞いてジャンヌが呟く。呼び出された俺も頷く。

 長門、と。その深海凄艦は呼びかけられた。

 もともと艦娘だったらしい。「存在が変質したのか? そういう事は、あり得るのか?」

「…………艦娘が、一種の英霊である、という前提なら、あり得ます。

 元より霊体は肉体よりもずっと変質しやすいですから」

「そうか」

 けど、声が聞こえた、か。

『夢を見たんだ。クロスロード作戦のだ』

「クロスロード作戦?」

「ああ、確か核実験だ」

 だが、知っているのはそれだけだ。どうしてその名がそこに出てくるのか。

『長門さんも、いたんだよね?

 参加させられた、恨み?』

『まさか、あの時私たちは敗戦した。

 敗戦国の艦が引き渡されて実験に使われるのは、おかしい事はない。だが、あの場には、戦勝国、……いや、米国の軍船もいた。

 夢を見たよ。国のために戦い続け、戦勝に導いた軍船が、……その末路が、敗戦国から受け取った軍船と同じ、実験の標的で沈んで逝くことを嘆く声のな』

「軍船の嘆く声、ですか」

「あり得ない、と思うが。……いや、夢か」

「そう、夢なのでしょう」

 そういう夢を見た、という事なのだろう。

 魂を引き継ぐなら、その艦の経験を夢見るというのは、おかしい事ではない。サーヴァントでもマスターとの間に同様の現象が発生するらしい。

 けど、

「たとえ、ただの夢であっても、彼女は、その声を無視できなかった」

 どこか、寂しそうにジャンヌは呟く。

 そして、

『それが、お前たちの、艦娘の、末路だ』

 鋭く、突き刺さるような言葉。

 そして、息をのむ音。

『提督はそうだった。海域の鎮圧、泊地の移動。戦力の調整として、多くの艦娘が解体された。

 望まれて建造されて、けど、戦う事さえ許されず、不要だからと解体されたっ! それが、戦争が終わった後の、艦娘の末路だっ! 民のために戦い、勝利を捧げ、不要になったら民に解体される、それがお前たちの末路だっ!』

 はは、と笑う声。

『声が聞こえたよ。

 解体で得られた資材を運ぶときにな、資材から声が聞こえたよ。どうして、と、どうして、と、どうして、とっ! どうして望まれて建造されたのに、どうして何をすることもなく解体されるのかとっ! どうして必死に戦ったのに、どうして解体されてしまったのかとっ! 私が輸送する資材から、ずっと、ずっと声が聞こえたっ! ああ、だから、』

 声は告げる。

 だから、私は狂った。と、

 だから、私は深海凄艦になった。と、

 だから、…………戦争を続けるのだ、と。

『それが艦娘の幸いだ。

 戦争が続く限り必要とされる。民のために戦い、平穏を守るために死んだ。せめて、その誇りをもって沈め』

 戦勝を捧げても、もう不要だからと、解体される無念を負って死ぬくらいなら。

 民のために戦い、その過程で死んだと、その方が幸せだろうと、深海凄艦は告げた。

 告げて、彼女は砲を向ける。

 その砲はこちら、つまり、

「暁っ!」「大和っ! 牽制しなさいっ!」

『了解、撃ちますっ!』

 砲撃の音。けど、

 彼女が艤装と称した、少女の形をした深海凄艦が飛び出し、砲弾を受ける。

 代わりに消し飛び、それを皮切りに砲撃戦が展開される。

「まずいですね」

 ジャンヌが小さく呟く。長門の砲撃力や装甲は最大戦力である大和に並ぶ。そして、長門たちの方が数は多い。

 このままでは、押されて、削られるだろう。

 撤退を命じるべきか、と。

 そうなれば戦場はこちらに近づいてくる。暁たちはそれを忌避するかもしれないが。

 ふと、声。

『それで、・・は・・ないのっ?

 ・・で・・続けて、・・・ないのっ?』

『多くの・・を・・・にした私に、今更そんな事を・・・・はないっ』

 砲撃音に紛れてよく聞こえない会話。けど、言葉を交わして、長門は時雨と暁に砲を向ける。

『させないっ!』

 爆撃の音。そして、『後が、がら隙にゃっ!』

『足柄、合わせてっ!』

 多摩が魚雷を撃ちこみ、大和と足柄が砲撃をばらまく。その隙に、

『暁っ!』

 飛び出した金剛が暁と時雨を掻っ攫う。長門は彼女に砲撃。直撃したが。

『あーもうっ! 痛いネっ!』

『戦艦か』

『高速戦艦だけど、一撃なら耐えられるヨ。で、それで、十分ネっ!』

 金剛は時雨を放り投げるように落とす。時雨は着水して、多摩と視線を交わし、

『行くよっ!』『撃つにゃっ!』

 牽制の砲撃。長門は数歩後ずさる、が。

『ぬる『いーんだよねえ、戦艦様相手じゃさ』』

 え?

 不意に、割り込んだ声。そして、光。

『はいはい撤収ーっ! あ、護衛艦、あとよろしくー』

 さらに聞こえた声に、俺とジャンヌは顔を見合わせた。

 

 泊地から飛び出すと、大きな船があった。

 船、と。

「暁、大丈夫か?」

「ん、…………ん、大丈夫。

 じゃないけど、平気。レディーは弱音なんて、言わないん、だから」

 金剛に背負われて戻った暁は気丈に笑みを浮かべる。そして、

「この、バカマスターっ!」

 思わず、笑みが浮かぶ懐かしい声。……けど、蹴られてはそれも出来ない。

 代わりに零れるのは苦笑。「いきなりはひどいな」

「ひどいじゃないっ! このバカマスターっ!

 戻ってきたなら、まずは君のサーヴァントを探すのが筋ってものだろっ! なんでこんなところにいるんだっ!」

「い、いや、出た場所がここだった、わけだ」

「…………あーもうっ」

 しばらく、何か言いたそうな表情をして、けど、

 そのまま、俺に抱き着いてきた。

「……ん、また会えて嬉しいよ。マスター」

「ああ、俺もだ。ライダー」

 抱き着くライダーを撫でる。ライダーは心地よさそうに目を細めた。

 で、

「…………ジーク君、彼女は、誰?」

 じと、と。そんな目で俺を見る時雨、……と、他のみんな。

「ああ、ライダー、俺のサーヴァントだ」

「やっほ、艦娘だね。……んん、サーヴァントとか説明、……面倒だなあ。

 ま、マスターの、……なんていうの?」

「友達でいいだろ。あまりマスターとサーヴァントとか気にしていない」

「うわ、ひどーっ! ボクみたいなデキるサーヴァントのマスターになっておきながら、それはあんまりじゃないっ?」

「デキる、のか?」

「本気で驚かれたっ?」

「じゃなくてっ! ジークっ!」

「……暁、無理はしない方がいいと思うが」

「思うが、じゃないわよっ! な、なな、お、女の子に抱きしめられてっ!

 ジークの恋人じゃジャンヌでしょっ! なのに、別の女の子に抱きしめられるなんて、そんなの絶対にダメなんだからっ!」

 皆もこくこくと頷き、ジャンヌが頭を抱えた。

「暁、致命的な誤解がある」

「誤解って何よっ! 浮気は絶対にだめなのよっ!」

「ライダーは男だ」

 傍らのライダーを示す。ライダーは笑顔でピース。たぶん、意味はない。

「ほえ?」

「彼は男だ。……まあ、少しスキンシップは多い方だが」

「むーっ、なにそれ、それじゃあまるでボクは誰にでも抱き付くみたいな言い方じゃん?

 ボクはマスター以外を抱くつもりはないぜ」

「なに格好良く変なこと言ってるんですか、ライダー」

「やっ、ルーラーも、久しぶり」

「お久しぶりです。ライダー、相変わらず何よりです。

 それと、彼は確かに男性です。女装は、……………………趣味でしょう」

「ちがーうっ! ……ってまあ、ボクは後でいいや。

 ボクがここに来た理由の九割がマスターに会いに来た。で、残り一割は、あっちの護衛」

 あっち、船と。そこから転がり落ちるように来る、壮年の男性。

 彼を見て、暁たちは目を見開いた。

「しれーかん?」

 司令官、つまり、彼女たちの、提督か。

 唖然とする暁たちの前で、彼は滑るように土下座をした。

 思わぬ行動に固まる暁たち、きょとんとするジャンヌ。「おお、潔い」と、呟くライダー。

「なるほど、これがDOGEZAか」

「…………なんですかそれ?」

「ああ、日本における謝罪だ。後頭部を踏まれて顔を地面に叩きつけられることも辞さない、その覚悟で行われる」

「そ、それは、……凄いですね」

「さらに上にSEPPUKUがある。

 腹を割いて謝罪とするらしい。応用として、腹を裂いて臓物を謝罪対象に贈与する、というのがある」

「それ、謝罪なんですか? 臓物を贈られた方は喜ぶんですかそれ? なんか。自殺は罪とかそのレベルを突き抜けませんか?

 日本、凄いですね」

 ジャンヌは慄いている。

「すまない、みんな。……皆を置いて行ってしまって、本当に、すまなかった」

 いきなりの土下座におろおろする暁たち、で、ぱんっ、と手が叩かれた。

「はいはい、おっちゃん。みんなきょとんとしてるよ。

 こんなところで話し込むのもなんだし、それに艦娘の方も大破している娘もいるみたいだし、まずは入渠してきなよ。

 話はそれからね」

 

「護衛艦隊戻りましたっ! 資材の搬入も終了しましたっ!」

 敬礼するのは、金剛と似た様な服を着た女性と、白い、ワンピースのような服を着た短い栗色の髪の少女。セーラー服の少女。

 そのうち、セーラー服の少女が、

「ご主人様っ、漣頑張りましたっ、褒めて褒めて」

「偉い偉いっ」

 わしわしと乱暴に頭を撫でるライダー。……女性だから嫌がるかと思ったが、そうでもないらしい。

「ライダー、彼女は?」

「ああ、彼女は漣。ちょっと前に拾ってね」

「運命の出会いですヨっ! ご主人様を一目見て、キュピーンっ! ってきましたねっ!」

「ま、っていうわけ。

 ルーラー、マスターも、仲良くしてあげてね」

「マスター、……ええと、こっちの、銀髪の女の子がですか? むむむ、これは、恋のライバルってやつですねっ! 絶対に負けねーっ!」

「俺は男だ」

「禁断の関係、キタコレっ!」

「よっし、いっちょやりますかっ!」

 両手を上げる漣と、親指を立てるライダー。とりあえず二人を叩いた。

「あのー、盛り上がっているところ申し訳ないのですが」

 不意に、声。振り返ると、金剛と似た様な服を着た女性。

「ああ、ええと、」

「自己紹介が遅れました。護衛艦隊の、…………えーと、旗艦、比叡です」

 旗艦、という時に目が泳いだが。ともかく、

「ジークだ」

「はい、アストルフォ君から聞いています。

 あ、一応、後でお話しさせてください。形式的な事になるかもしれませんが、こちらの軍として必要な事なので」

「解った」

 比叡は苦笑気味に言う。形式的なやり取り、それでも、国軍としては必要なのだろう。後に禍根を残さないためだ。出来る限り付き合おう。

「ここの提督、春原健也さんが艦娘たちと話がしたいといっているので、その時に一緒に。

 ここの艦娘からのお話も聞きたいので」

 頷く。…………「先に襲撃してきた深海凄艦は?」

「はい、私達護衛艦隊が撤退させました。

 入渠に必要な資材などは持ち込んだ分で十分賄えるので、問題はありません」

「そうか」

 よかった。

「そ、それと、ですね。

 お、お姉さまが、いらっしゃいました、よね?」

「姉? ……ああ、親族か? いや、いないと思うが」

「あ、…………ちょっと違うかもしれませんけど。

 金剛お姉さま、金剛型一番艦で、私の、姉にあたる人です」

「ああ、金剛か。いるな。入渠中だ」

「そう、……ですかあ」

 ぱああっ、と笑顔。

「姉に会えて、嬉しいか?」

「はいっ! 私にとって金剛お姉さまは憧れの人ですっ! ずっと、ずっとお会いできる日を楽しみに、…………ジークさん」

 不意に、声のトーンが下がった。

「ん?」

「お姉さまに、手を出していません、よね?」

「いない」

「あっ、そうだ。マスターっ! 艦娘に手ぇ出してないよね?

 もし出してたら、」

「ら?」

 言葉を止めるライダー。…………頷き、「ボクというものがありながらっ!」

「…………安心するといいライダー。君に手を出すつもりはない」

「なにぃっ?」「ええっ、そ、そんなあっ?」

 仲良く崩れ落ちるライダーと漣。……「なぜ漣まで?」

「禁断の関係、キタコレ、……と思ってたのにぃ」

 期待させていたらしい。俺は膝をついて、彼女の肩に手をのせる。

「漣、ライダーは男性だ。そして、俺は彼の友達だ。

 そっち方面は任せた」

「Yesっ! 流石大旦那様っ! 話が分かるっ!」

「大旦那? …………ああ、俺か。とすると、ライダーが旦那様か」

「ご主人様が旦那様なんて、……ぽっ」

「ボクの旦那様はマスターだっ!」

「俺はどっちなんだ?」

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