//.泊地・近海
「どうして、……長門が、え? 深海凄艦、デス?」
周囲にいる、他の深海凄艦は動きを停止している。その中、唖然とした表情で金剛が問う。
深海凄艦、それは間違いない。……けど、
それと同様に確信している、彼女は、長門である、と。
「ああ、そうだ。金剛。
私は長門だ。深海凄艦であるが、な」
「どういう事だい?」
大破した暁を背負い、時雨は問う。「知らないのか?」と、長門は淡々と応じる。
「深海凄艦は、艦娘が造り替えられた存在だ。全部かどうかは知らないがな」
「じゃあ、この周りにいる深海凄艦、も?」
妙に、人の形をとる深海凄艦を示し、長門は否定する。
「私の、深海凄艦としての、艤装だ。あるいは、未練の形か」
「は?」
自嘲、そんな表情で語る長門に時雨は首を傾げる。けど、
「どうして、……よ」
時雨に支えられ、暁は長門を睨む。問い。
「どうして、長門さんが、深海凄艦、なの?」
どうして、深海凄艦になったのか?
どうして、深海凄艦として、襲い掛かるのか?
暁の問いに、長門は目を細める。応じる。
「戦争を、終わらせないためだ」
「どうしてよっ!」
意味が解らない。戦争は、目的達成の手段でしかない。
それを終わらせない。目的達成の手段であるはずの戦争が、そのまま目的となっている。そんな事、あり得ない。
それは勝利さえ放棄して、永延と戦い続ける、という事か?
問いに、深海凄艦は、告げた。
「声が聞こえたんだ」
//.泊地・近海
「…………驚愕の事実ですね。
暁たちの戦意が喪失していなければいいのですが」
パソコンから、声を聞いてジャンヌが呟く。呼び出された俺も頷く。
長門、と。その深海凄艦は呼びかけられた。
もともと艦娘だったらしい。「存在が変質したのか? そういう事は、あり得るのか?」
「…………艦娘が、一種の英霊である、という前提なら、あり得ます。
元より霊体は肉体よりもずっと変質しやすいですから」
「そうか」
けど、声が聞こえた、か。
『夢を見たんだ。クロスロード作戦のだ』
「クロスロード作戦?」
「ああ、確か核実験だ」
だが、知っているのはそれだけだ。どうしてその名がそこに出てくるのか。
『長門さんも、いたんだよね?
参加させられた、恨み?』
『まさか、あの時私たちは敗戦した。
敗戦国の艦が引き渡されて実験に使われるのは、おかしい事はない。だが、あの場には、戦勝国、……いや、米国の軍船もいた。
夢を見たよ。国のために戦い続け、戦勝に導いた軍船が、……その末路が、敗戦国から受け取った軍船と同じ、実験の標的で沈んで逝くことを嘆く声のな』
「軍船の嘆く声、ですか」
「あり得ない、と思うが。……いや、夢か」
「そう、夢なのでしょう」
そういう夢を見た、という事なのだろう。
魂を引き継ぐなら、その艦の経験を夢見るというのは、おかしい事ではない。サーヴァントでもマスターとの間に同様の現象が発生するらしい。
けど、
「たとえ、ただの夢であっても、彼女は、その声を無視できなかった」
どこか、寂しそうにジャンヌは呟く。
そして、
『それが、お前たちの、艦娘の、末路だ』
鋭く、突き刺さるような言葉。
そして、息をのむ音。
『提督はそうだった。海域の鎮圧、泊地の移動。戦力の調整として、多くの艦娘が解体された。
望まれて建造されて、けど、戦う事さえ許されず、不要だからと解体されたっ! それが、戦争が終わった後の、艦娘の末路だっ! 民のために戦い、勝利を捧げ、不要になったら民に解体される、それがお前たちの末路だっ!』
はは、と笑う声。
『声が聞こえたよ。
解体で得られた資材を運ぶときにな、資材から声が聞こえたよ。どうして、と、どうして、と、どうして、とっ! どうして望まれて建造されたのに、どうして何をすることもなく解体されるのかとっ! どうして必死に戦ったのに、どうして解体されてしまったのかとっ! 私が輸送する資材から、ずっと、ずっと声が聞こえたっ! ああ、だから、』
声は告げる。
だから、私は狂った。と、
だから、私は深海凄艦になった。と、
だから、…………戦争を続けるのだ、と。
『それが艦娘の幸いだ。
戦争が続く限り必要とされる。民のために戦い、平穏を守るために死んだ。せめて、その誇りをもって沈め』
戦勝を捧げても、もう不要だからと、解体される無念を負って死ぬくらいなら。
民のために戦い、その過程で死んだと、その方が幸せだろうと、深海凄艦は告げた。
告げて、彼女は砲を向ける。
その砲はこちら、つまり、
「暁っ!」「大和っ! 牽制しなさいっ!」
『了解、撃ちますっ!』
砲撃の音。けど、
彼女が艤装と称した、少女の形をした深海凄艦が飛び出し、砲弾を受ける。
代わりに消し飛び、それを皮切りに砲撃戦が展開される。
「まずいですね」
ジャンヌが小さく呟く。長門の砲撃力や装甲は最大戦力である大和に並ぶ。そして、長門たちの方が数は多い。
このままでは、押されて、削られるだろう。
撤退を命じるべきか、と。
そうなれば戦場はこちらに近づいてくる。暁たちはそれを忌避するかもしれないが。
ふと、声。
『それで、・・は・・ないのっ?
・・で・・続けて、・・・ないのっ?』
『多くの・・を・・・にした私に、今更そんな事を・・・・はないっ』
砲撃音に紛れてよく聞こえない会話。けど、言葉を交わして、長門は時雨と暁に砲を向ける。
『させないっ!』
爆撃の音。そして、『後が、がら隙にゃっ!』
『足柄、合わせてっ!』
多摩が魚雷を撃ちこみ、大和と足柄が砲撃をばらまく。その隙に、
『暁っ!』
飛び出した金剛が暁と時雨を掻っ攫う。長門は彼女に砲撃。直撃したが。
『あーもうっ! 痛いネっ!』
『戦艦か』
『高速戦艦だけど、一撃なら耐えられるヨ。で、それで、十分ネっ!』
金剛は時雨を放り投げるように落とす。時雨は着水して、多摩と視線を交わし、
『行くよっ!』『撃つにゃっ!』
牽制の砲撃。長門は数歩後ずさる、が。
『ぬる『いーんだよねえ、戦艦様相手じゃさ』』
え?
不意に、割り込んだ声。そして、光。
『はいはい撤収ーっ! あ、護衛艦、あとよろしくー』
さらに聞こえた声に、俺とジャンヌは顔を見合わせた。
泊地から飛び出すと、大きな船があった。
船、と。
「暁、大丈夫か?」
「ん、…………ん、大丈夫。
じゃないけど、平気。レディーは弱音なんて、言わないん、だから」
金剛に背負われて戻った暁は気丈に笑みを浮かべる。そして、
「この、バカマスターっ!」
思わず、笑みが浮かぶ懐かしい声。……けど、蹴られてはそれも出来ない。
代わりに零れるのは苦笑。「いきなりはひどいな」
「ひどいじゃないっ! このバカマスターっ!
戻ってきたなら、まずは君のサーヴァントを探すのが筋ってものだろっ! なんでこんなところにいるんだっ!」
「い、いや、出た場所がここだった、わけだ」
「…………あーもうっ」
しばらく、何か言いたそうな表情をして、けど、
そのまま、俺に抱き着いてきた。
「……ん、また会えて嬉しいよ。マスター」
「ああ、俺もだ。ライダー」
抱き着くライダーを撫でる。ライダーは心地よさそうに目を細めた。
で、
「…………ジーク君、彼女は、誰?」
じと、と。そんな目で俺を見る時雨、……と、他のみんな。
「ああ、ライダー、俺のサーヴァントだ」
「やっほ、艦娘だね。……んん、サーヴァントとか説明、……面倒だなあ。
ま、マスターの、……なんていうの?」
「友達でいいだろ。あまりマスターとサーヴァントとか気にしていない」
「うわ、ひどーっ! ボクみたいなデキるサーヴァントのマスターになっておきながら、それはあんまりじゃないっ?」
「デキる、のか?」
「本気で驚かれたっ?」
「じゃなくてっ! ジークっ!」
「……暁、無理はしない方がいいと思うが」
「思うが、じゃないわよっ! な、なな、お、女の子に抱きしめられてっ!
ジークの恋人じゃジャンヌでしょっ! なのに、別の女の子に抱きしめられるなんて、そんなの絶対にダメなんだからっ!」
皆もこくこくと頷き、ジャンヌが頭を抱えた。
「暁、致命的な誤解がある」
「誤解って何よっ! 浮気は絶対にだめなのよっ!」
「ライダーは男だ」
傍らのライダーを示す。ライダーは笑顔でピース。たぶん、意味はない。
「ほえ?」
「彼は男だ。……まあ、少しスキンシップは多い方だが」
「むーっ、なにそれ、それじゃあまるでボクは誰にでも抱き付くみたいな言い方じゃん?
ボクはマスター以外を抱くつもりはないぜ」
「なに格好良く変なこと言ってるんですか、ライダー」
「やっ、ルーラーも、久しぶり」
「お久しぶりです。ライダー、相変わらず何よりです。
それと、彼は確かに男性です。女装は、……………………趣味でしょう」
「ちがーうっ! ……ってまあ、ボクは後でいいや。
ボクがここに来た理由の九割がマスターに会いに来た。で、残り一割は、あっちの護衛」
あっち、船と。そこから転がり落ちるように来る、壮年の男性。
彼を見て、暁たちは目を見開いた。
「しれーかん?」
司令官、つまり、彼女たちの、提督か。
唖然とする暁たちの前で、彼は滑るように土下座をした。
思わぬ行動に固まる暁たち、きょとんとするジャンヌ。「おお、潔い」と、呟くライダー。
「なるほど、これがDOGEZAか」
「…………なんですかそれ?」
「ああ、日本における謝罪だ。後頭部を踏まれて顔を地面に叩きつけられることも辞さない、その覚悟で行われる」
「そ、それは、……凄いですね」
「さらに上にSEPPUKUがある。
腹を割いて謝罪とするらしい。応用として、腹を裂いて臓物を謝罪対象に贈与する、というのがある」
「それ、謝罪なんですか? 臓物を贈られた方は喜ぶんですかそれ? なんか。自殺は罪とかそのレベルを突き抜けませんか?
日本、凄いですね」
ジャンヌは慄いている。
「すまない、みんな。……皆を置いて行ってしまって、本当に、すまなかった」
いきなりの土下座におろおろする暁たち、で、ぱんっ、と手が叩かれた。
「はいはい、おっちゃん。みんなきょとんとしてるよ。
こんなところで話し込むのもなんだし、それに艦娘の方も大破している娘もいるみたいだし、まずは入渠してきなよ。
話はそれからね」
「護衛艦隊戻りましたっ! 資材の搬入も終了しましたっ!」
敬礼するのは、金剛と似た様な服を着た女性と、白い、ワンピースのような服を着た短い栗色の髪の少女。セーラー服の少女。
そのうち、セーラー服の少女が、
「ご主人様っ、漣頑張りましたっ、褒めて褒めて」
「偉い偉いっ」
わしわしと乱暴に頭を撫でるライダー。……女性だから嫌がるかと思ったが、そうでもないらしい。
「ライダー、彼女は?」
「ああ、彼女は漣。ちょっと前に拾ってね」
「運命の出会いですヨっ! ご主人様を一目見て、キュピーンっ! ってきましたねっ!」
「ま、っていうわけ。
ルーラー、マスターも、仲良くしてあげてね」
「マスター、……ええと、こっちの、銀髪の女の子がですか? むむむ、これは、恋のライバルってやつですねっ! 絶対に負けねーっ!」
「俺は男だ」
「禁断の関係、キタコレっ!」
「よっし、いっちょやりますかっ!」
両手を上げる漣と、親指を立てるライダー。とりあえず二人を叩いた。
「あのー、盛り上がっているところ申し訳ないのですが」
不意に、声。振り返ると、金剛と似た様な服を着た女性。
「ああ、ええと、」
「自己紹介が遅れました。護衛艦隊の、…………えーと、旗艦、比叡です」
旗艦、という時に目が泳いだが。ともかく、
「ジークだ」
「はい、アストルフォ君から聞いています。
あ、一応、後でお話しさせてください。形式的な事になるかもしれませんが、こちらの軍として必要な事なので」
「解った」
比叡は苦笑気味に言う。形式的なやり取り、それでも、国軍としては必要なのだろう。後に禍根を残さないためだ。出来る限り付き合おう。
「ここの提督、春原健也さんが艦娘たちと話がしたいといっているので、その時に一緒に。
ここの艦娘からのお話も聞きたいので」
頷く。…………「先に襲撃してきた深海凄艦は?」
「はい、私達護衛艦隊が撤退させました。
入渠に必要な資材などは持ち込んだ分で十分賄えるので、問題はありません」
「そうか」
よかった。
「そ、それと、ですね。
お、お姉さまが、いらっしゃいました、よね?」
「姉? ……ああ、親族か? いや、いないと思うが」
「あ、…………ちょっと違うかもしれませんけど。
金剛お姉さま、金剛型一番艦で、私の、姉にあたる人です」
「ああ、金剛か。いるな。入渠中だ」
「そう、……ですかあ」
ぱああっ、と笑顔。
「姉に会えて、嬉しいか?」
「はいっ! 私にとって金剛お姉さまは憧れの人ですっ! ずっと、ずっとお会いできる日を楽しみに、…………ジークさん」
不意に、声のトーンが下がった。
「ん?」
「お姉さまに、手を出していません、よね?」
「いない」
「あっ、そうだ。マスターっ! 艦娘に手ぇ出してないよね?
もし出してたら、」
「ら?」
言葉を止めるライダー。…………頷き、「ボクというものがありながらっ!」
「…………安心するといいライダー。君に手を出すつもりはない」
「なにぃっ?」「ええっ、そ、そんなあっ?」
仲良く崩れ落ちるライダーと漣。……「なぜ漣まで?」
「禁断の関係、キタコレ、……と思ってたのにぃ」
期待させていたらしい。俺は膝をついて、彼女の肩に手をのせる。
「漣、ライダーは男性だ。そして、俺は彼の友達だ。
そっち方面は任せた」
「Yesっ! 流石大旦那様っ! 話が分かるっ!」
「大旦那? …………ああ、俺か。とすると、ライダーが旦那様か」
「ご主人様が旦那様なんて、……ぽっ」
「ボクの旦那様はマスターだっ!」
「俺はどっちなんだ?」