聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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二話

「ここが、……泊地、ですか。

 なかなか、立派なところですね」

 泊地にあった服を借りて着替え、まずは彼女たちの拠点、泊地を一通り案内してもらう。そして、ルーラーの感想。

「そうだな。あまり、魔術とは縁がなさそうだが」

 魔術、というよりは科学の印象が強い。もっとも、彼女たちの装備を見れば案の定だが。

「魔術、デスカ?」

 そして、俺たちを案内してくれた金剛が不思議そうに問い返す。

「二人は、魔術でも使うのデスカ? 確かに。物凄い跳躍してましたケド」

 表情は不信。魔術は秘めたるもの。知られていないのが当然か。

「というか、二人とも、ほんと、何者デス?

 旅人というのは解りましたケド、素性、ちゃんと話してほしいデス。……暁が助けを求めた手前、黙ってましたケド、ワタシはあんまり二人の事、信頼してない、デス」

「それはそうでしょう」

 信頼していない、と言われてルーラーは当たり前のように頷く。……ただ、そうか、信頼されていないのも、驚く事ではない、か。

 ………………まあ、それもそうか。

 とはいえ、さて、どう話せばいいか。

 魔術は秘すべきもの。……が、これは魔術師としてのルールだ。あまり気にするつもりはない。

 いや、彼女たちを助けると決めたんだ。明かせることはすべて明かして、信頼されないまでも不信は拭いたい。

 問題なのは、どう話すべきか、か。

 おそらく、ルーラーも似たようなことを考えているのか、難しい表情で黙り込む、と。

「むぎゅっ」

「まあ、信頼していないのは事実デスケド。

 とはいえ。大和を助けてくれたことには感謝シテマス。実際、助けてくれるのは嬉しいデスカラネっ、仲良くやっていきまショウっ!」

 ルーラーを抱きしめて、金剛は笑う。おそらくは、これが彼女の素なのだろう。

 得体のしれない俺たちに警戒していたのか、あるいは、警戒を促していたのか。おそらくは後者で、

「金剛は、面倒見がいいな」

「なぜそんな言葉が出てくるか不思議デス」

「そうか? 暁たち、まだ警戒心の薄い、幼い少女に、得体のしれない俺たちを不用意に信用するな、と。態度で示していたのだろう?

 幼子を態度で導く者は、面倒見がいいと思うが?」

「……むぅ、そう言われるとそんな気がシマス。

 あんまり気にしてないデスケドネー」

 金剛は、苦笑。

「ここではワタシが一番のお姉さんデス。

 大和は、……まあ、何かと緩いのでワタシがちゃんと締めないとイケマセンネー」

 だから、と金剛はウィンク一つ。

「油断大敵、デス」

 俺たちへの警戒は続ける、か。……まあ、それでいい。

「…………それより、そろそろルーラーを離した方がいいと思う」

 ぺちぺちと、力なく金剛の手を叩くルーラー。

「ルーラー? そういえば、変わった名前デス。

 ジークならまだしも、……ルーラー? 裁定者? …………ううん、どこ出身デス?」

「フランス、だったな」

 ぺちぺちと力なく金剛の手を叩くルーラーを見ながら応じる。「フランス?」と、首を傾げて、

「Ohっ! ワタシがいた国の同盟国デスっ!」

「国? 金剛は日本の出身ではないのか?」

 口調が少し怪しかったが。名前からして日本の出身者だと思っていた。

 対して、金剛はルーラーを開放して胸を張り、

「イギリス帰りの帰国子女、金剛、デスっ!」

「おのれイングランドっ!」

「落ち着けルーラーっ」

「な、何デスっ! なんで睨まれるデスっ?

 フランスとイギリスは仲良しデス? 同盟を結んで枢軸国と戦った仲デスっ!」

「敵ですっ! 放してくださいジーク君っ!」

「時代が違う」

 暴れだすルーラーを見て慄く金剛。……仕方ない。

「金剛、彼女はジャンヌ・ダルクだ。……その、百年戦争の事を引きずっているんだ」

「ジャンヌ・ダルク? ……あの、変な田舎の小娘? デス?

 イギリスの偉大な作家、シェイクスピアがそんな風に書いてマシタ」

「キャスターっ!」

「ルーラー、あれは時代背景がそうさせたんだ。…………たぶん」

 とりあえず、暴れるルーラーを宥め、慄く金剛を宥め、一息。

「で、ジャンヌ・ダルクデス? なんていうか、………………まあ、いいデス」

「いいのか?」

「あとで、で、いいデス。

 すぐに終わる話とも思えませんからネ」

 確かに、そうだ。そもそも、どこから説明したらいいのかさえ、わからない。

 ともかく、泊地の案内が終わり、司令官の執務室へ。

「あ、ジーク、……それと、ルーラー、よね」

「暁か」

「え、ええ」

 少し、気まずそうな表情。けど、暁は視線を合わせて、

「ええと、巻き込んで、ごめんなさい。

 ほんとなら、暁たちがちゃんとやらなくちゃいけないのに」

 深く、頭を下げた。ふがいない、と思っているのかもしれない。

 だから、俺は腰を落として、彼女の髪に触れる。

「あ、」

「戦力を考え、仲間を守るために自ら責を負ってでも助けを請う事は、勇気ある決断だと思う。

 だから、謝る事はない。暁、君の勇敢な行動を裏切らないよう、俺は、俺にできる事に全力を尽くそう」

 頭を撫でる。暁は、意外そうに顔を上げ、嬉しそうに目を細めて、

「な、撫でないでよっ! 暁は一人前のレディーなのっ! 子供じゃないのよっ!」

「……あ、っと。そうか。すまない。

 年下にこんな扱いをされたら不愉快か」

「「へ?」」

「何か変な事を言ったか?」

「…………ジーク君、君は、暁よりも年下ですか?」

 首を傾げた。

「ルーラーなら知っているはずだが? 俺の活動期間は、まだ一月に満たない」

 世界の裏側で彼女を待っていた時間は、活動期間に含まれないだろう。そうなれば、俺が活動していたのは鋳造されてから、聖杯戦争が終わるまでの間だけだ。

「いや、そうです。知ってます。知ってますけど」

 頭を抱えるルーラーは、ぽかんとしている暁と金剛を示した。…………そうか。

「年上だし、暁さんと呼ぶべきか」

「そこなのっ?」

「あ、……暁、さん? …………暁さんっ、デス。……ぷふふ、暁さん」

「やめてっ、なんかそれやめてっ!

 ジークも変なこと言わないのっ! 暁でいいわよっ! 一人前のレディーはそんな細かい事を気にしないんだからっ!」

「そうか、それはすまなかった」

 些事にこだわりすぎていたか。レディー、というつもりはないが、一人前には遠いな。

「うう、……なんか、調子狂うわ。

 と、ともかくっ! ジーク、ルーラー、二人の部屋は用意したわっ! 客室二つよっ、お、同じ部屋なんて絶対にダメなんだからねっ!」

 なぜか顔を真っ赤にして怒鳴られた。

「いや、俺は構わない。同じベッドで寝た経験もある。一部屋で十分だ」

 セルジュ殿に部屋を借りたことを思い出して言う。……いや、少し窮屈だった。先にベッドは確認した方がいいかもしれない。

 やはり先に部屋を見せてもらおう。そう思って顔を上げる、と。

「ど、どうした?」

 顔を真っ赤にして俯くルーラーと、目がきらきらしている金剛。そして、

「じ、じじ、ジークっ!」

「な、なんだ?」

 暁は顔を真っ赤にして、なぜか手を振り回す。

「そ、そんな事をしたらだめなのよっ! だめっ! だめだめっ! ぜーったいだめなんだからっ!

 そういう事は、い、一人前のレディーにならなくちゃだめなのっ!」

「いや、俺は、レディーになる事はない、と思う」

「揚げ足取らないのっ! ちっちゃい事ばっかり気にしてるからジークはだめなのよっ!」

「そうか?」

 気をつけなければならないな。

「ともかくっ! 客室用意したから、さっさと準備しなさいっ!」

「じゃあ、このままワタシが案内するデス、同じ部屋、デス?」

「違う部屋っ! 金剛さんもからかわないでよっ! ぷんすかっ!」

「……その、ぷんすか、とは怒りの表現か?」

「さっさと出てけーっ!」

 暁に追い出されてしまった。

 

「広い部屋だな」

 金剛に案内された部屋、広いベッドと文机がある。……さて、

 特にやる事も思い浮かばない。一通り、部屋の中を見て回り、内装を確認する。

 さて、どうするか。

 彼女たちに、協力すると決めた。だから、そのためにやる事は、……と、戸を叩く音。

「ジーク君、いいですか?」

「ルーラーか、構わない」

 戸が開く。ルーラーと、あの時、暁の傍らにいた、黒髪の少女。

「こんにちわ、ええと、改めて、はじめまして、かな。

 僕は時雨だよ。……ええと、ジーク君、でいいかな?」

「ああ、それでいい」

 時雨は手に抱えた書類を文机に置く。

「これ、僕たち艦娘と、あと、あの時敵対した、深海凄艦についての資料だよ。

 僕たちの事を手伝ってくれるなら、まずは、僕たちや敵の事を知ってほしい。それと、今の日本についてもね」

「助かる」

 そう、ちょうど聞こうと思っていたことだ。資料を受け取り、時雨は、そのまま椅子を持ち出して座った。

「時雨?」

「二人に、話しておきたい事があるんだ」

「何ですか?」

「うん、……率直に言おう。僕は、君たちに助力してもらう事は反対なんだ」

「…………理由を聞いても、いいですか?」

 ルーラーの問いに、時雨は苦笑。

「気を悪くしたらごめん。大和を助けてくれた二人には感謝をしているし、……その、会って間もないのにこんな風に言うのもどうかと思うけど、僕には二人が悪人には見えない。

 ジーク君の話してくれたことは、信頼に値すると思ってるよ。素性が怪しいのはマイナスだけど、それについては後で話してくれると嬉しい。

 けど、」

 時雨は、軽く自分の髪に触れて、

「ねえ、ジーク君。僕の事、どう思う?」

 問われて、時雨を見る。問いに答えるためだ、少し、不躾だが、あとで謝罪しよう。

「可愛らしいと思う」

「…………いや、ジーク君、たぶん、それ違います」

「……そうか?」

 胡散臭そうに睨まれてしまった。

「あ、あはは、……さすがに、面と向かって言われると照れるな。

 ええと、だね。ジーク君。……その、それで、見ての通り、女の子の姿をした僕たちが戦う事を、君は容認できるのかな?」

 ふと、思い出したのは「兵器? と、金剛は言っていたが」

「ああ、そう、それだよ。

 君たちが来る前にいた、僕たちの司令官は、僕たちをそう扱っていたんだ。……まあ、心情的に思う事はいろいろあるけど、僕には理解できなくもないんだ」

「なにが、理解できるのですか?

 時雨、私には、貴女たちは普通の少女に見えます。それを、感情のない兵器などという言い方は、容認できません」

「容認しないと、辛いんだよ。司令官はね。

 自分の命令で戦場に送り出した女の子が、その命令のために死んでしまう。……それは、とてもつらい事だと思うんだ」

「部下の死を背負えないのなら、そもそも、司令官を名乗る資格はありません。

 時雨、それは仕えるべき人を間違えた、ただそれだけです」

 きっぱりと言ってのけるルーラーに、時雨は鼻白む。……苦笑。

「それは、ジャンヌ・ダルクとしての経験からかい?」

「いえ、戦場に立つのなら、誰しも覚悟しなければならない事です。

 兵士として立つなら、自分が守る国を、帰りを待つ人を、そして、奪う命を、そのすべてを背負う覚悟が必要です。ましてや司令官なら、部下の命、その部下の帰りを待つ人の思い、さえも、です。

 その覚悟がないのなら、そもそも、戦場に立つ資格はありません」

「そう、だね」

 困ったように言いよどむ時雨。……そして、微笑。

「ジーク君、君も、ジャンヌと同じかな?」

「俺に君たちを采配できるかはわからない。……その、偉そうなことを言ってしまったが、具体的にどういう形で助けになるか、俺自身、考えているところだ。

 けど、」

 一息。俺は真っ直ぐに時雨を見て、

「必要があれば、学び、指揮をとろう。

 それが悲劇につながったのなら、俺は、その命も、思いも、すべて、刻み付けていく」

「僕たちが轟沈したら、その責も君自身が負うつもりかい?」

「当然だ。その結果、君たちが俺を憎んでも構わない」

 そうだ。……この身は、聖人が作り上げようとした《この世すべての善》を奪い去った邪悪なる竜。

 責も、咎も、背負い続ける事に、異存はない。

「…………敵わないな」

「時雨?」

 困ったように微笑む時雨。問えば「なんでもないよ」と、応じられ、

「お互い、どんな事が出来るかわからないからね。

 本音を言ってしまえば、ここで誰かが待っていてくれる、って思えるだけでも嬉しいんだけど。まあ、それはいいかな。それについては君たちの素性を改めて、聞いてから話し合いをさせて欲しい。

 それと、もう一つ、二人にお願いしたい事があるんだ」

「なんだ?」

「あの時、暁は、民間人、……ああ、いや、軍属でない君たちを巻き込んだ責は自分が負う、と言っていた。

 けど、あれは僕たちの総意だ、という事にしてほしい」

「彼女一人に背負わせられない、という事ですか?」

 ルーラーの問いに、時雨は頷く。

「暁は強い娘だ。仮に、君たちの采配でこの島を脱出した後、その責を一人で背負い、厳罰を受け入れかねないほどね。

 ただ、……僕は、そんな事を許さない。…………彼女一人に背負わせるなんて、そんな事、絶対に、僕は、僕自身に許したりしない」

 強く、強い視線で時雨は俺たちを見据える。

「…………元より、彼女のような幼子にすべてを背負わせるつもりはありません。

 かかわった以上、一蓮托生です」

 その言葉を聞いて、時雨は、ほう、と一息。

「うん、それが聞けてよかったよ」

 彼女は、安心したように微笑んだ。

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